わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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切り札は魔王召喚

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「……あいつのせいですか」
話を聞いて思ったのは、結局悪いのは部長ではなくあいつ――――四乃森龍一だということだ。
とどのつまりは、私を自分の仕事に巻き込みたかったあの男が、例の男性二人(実はあの会社の社長と専務だったそうなのだが)に命じて、私の身元に探りを入れたことが原因らしい。
そうして、自分たちが助かりたかったら、何とかしてあの女高瀬を引き込めと脅した。
その結果、部長の顔に見覚えのあった社長がうちの社長につなぎをとり、発生したのが先ほどの一幕。
つまり、龍一にも高瀬の素性はほぼ完璧にバレていると見て間違いない。
「頼みって…もしかしなくても、あの肉塊の件ですよね。協力してやれってことですか?」
「――そこまでは言われていない。恋人を危険に晒すのは嫌だろうが、せめて顔を立てて話を聞くだけでもと…」
「それって、行ったらもうほぼほぼ内定状態っていう、さっきの見合いの話そっくりじゃないですか」
「見合い?」
「あ~~うん。まぁ図らずもね…」
「どっちにしろ断れないのがわかってて、行けと」
歯切れの悪い主任を、じろりと睨む。
「…お前たちが何の話をしていたかわからないが、もし君が会うというのなら、俺も必ず同席する。その上で、はっきりとした断りをいれて構わない」
「部長…!」
「…そもそも社長は、霊現象だのなんだの、そう言った事を胡散臭いとしか思わないタイプの人間だ。
顔を立てて、といったのは建前ではなく本音だろう。むしろ、適当に話を合わせ断って来いと言われたよ」
「おぉう…」
オカルト全否定派でしたか。
だが、それはこちらにとっては好都合。
「会うだけあって……断っちゃって、…いいんですよね…?」
「ああ。……だが、俺の予想ではその場に間違いなくあの男が同席する」
「――四乃森龍一か」
厄介だなとつぶやく主任に、顔をしかめながら頷く。
「でも部長、昨日は名前を聞かなかったのによく…」
知ってましたね、と続けようとすれば、言われたのは「調査書を見た」との一言。
「調査書……って」
いつの間に調べて?と言おうとして、じっとこちらを見つめる部長の視線に気づく。
あの男について、既に調査済みの報告書を所持しているのは二人。
竜児と―――――賢治だ。
「……まさか、ケンちゃん……!?」
「――――彼が24時間休みなしというのは本当らしいな。朝、君を送り出してから繋ぎをとったところ、あの男の調査書の一部を見せてくれた」
「一部……ですか」
「あぁ、流石に全てを見せることはできないと言われてな。だが、大体のことはわかった」
「ケンちゃん…」
賢治のところに行ったということは、既に竜児にもそれは筒抜けと考えていいだろう。
やつらはそれこそ以心伝心かという勢いでツーカーだ。
高瀬関係において、という一文が付けばの話だが。
「相当、面倒な男に目をつけられていたようだな、君は」
「すみません…」
「――――だが今回の場合、俺のせいで身元がバレたようなものだ」
謝るのは俺だと頭を下げる部長。
「君は、素性を知られたくなかったんだろう…?」
「まぁ…」
「自分で会うなと言っておいて、このザマだ。すまない――――」
「部長……」
誰のせいでもないというのは簡単だが、たとえそういった所で部長は納得しないだろう。
「…どうせあのねちっこい男のことですから、いずれバレてたとは思います。
むしろ部長という後ろ盾を得たと思えば――――」
断っていいんですよね?と確認する高瀬に、部長からは力強い確かな約束が。

「もう二度と、君を関わらせないする」

――――そう、できればいいけど。
気負う部長を前に、内心では「多分無理だろうな」と達観する高瀬。
何しろ相手は、あの幼馴染二人が認めるほどの面倒な人物だ。
竜児と龍一、同じ「りゅう」という名がついていても、ふたりのタイプは全く違う。
竜児がロープレなどに出てくるいわゆる西洋ドラゴンなら、龍一は胴体の長い東洋型の龍。
高瀬の勝手な感想で言わせてもらえば、蛇に似た外見だけあって東洋の龍の方がしつこいイメージがある。
蛇のように執念深い、というあれだ。
ついでに言えば西洋での竜は「悪魔」とも同一されていたりするので、これは竜児魔王ぴったり。
まぁ何が言いたいのかと言われれば、結局面倒くささはどっこいどっこいということだが…。
「いざとなったら、こっちもラスボスを召喚して返り討ちにしましょう」
弁護士と言う肩書きを持つ魔王を。
「それ名案かも」
「…でしょ?」
「とんでもない三つ巴が発生する可能性もあるけど、まぁ多少のリスクは仕方ない」
「……」
「敵の敵は味方っていうのも今回は当てはまらないだろうし、それでいこう。及川君、彼とはいつでも連絡つくんだろ?」
「まぁ、たぶん大丈夫だと」
まさか今朝会ったばかりですとも言いづらい。
「んで、いつ会うって話になりそうなんですか?」
肝心なのはそこだ。
竜児にも連絡をしなければならないことだし、はっきりさせたい。
「できれば明日にでも、と」
「明日!?」
「そりゃ、随分相手さんも必死だな…。一体あそこで何があったんだ?」
「詳しいことは聞いていないが…。既に数人の死者が出ているという話だ」
「死者…」
それは必死にもなる。
「それを聞いちゃうとなんか断りづらいんですけど…」
「なら受けるか?」
「いや、それは勘弁で」
だろうな、とあっさり認める部長。
「せめてあいつが関わってなければ考えたんですけどね…。うまく利用される未来しか思い浮かばないので」
「あぁ、そういや君あの男にプロポーズされたとか言ってたね」
「…何?」
「昨日お前が戻ってくるまでに車の中で聞いた話だよ。霊能力目当てに言い寄られてるんだとさ。
その話もお前に聞かせようと思ったのに、お前が妙なことを言い出すから…」
「――――あの時か」
そういえば、確かに部長には詳しい話を聞かせていなかったかもしれない。
「部長と違ってあっちは幽体離脱後の姿しか知らなかったんで、今まで適当に誤魔化してたんですよ。
これでも一応まっとうな社会人として生きていくつもりですし、霊能力者になる予定もなかったので…」
霊能力目当てに一生つきまとわれるのはゴメンだ。
幽体離脱はあくまで趣味。本職にするつもりなど欠片もない。
「顔で何もかも許されると思ったら大間違いですよ」
ストーカー、ダメ絶対。
「だから今回のことも正直結構腹が立ってるんですよね…。
依頼を受けといて、自分には無理だと投げ出した挙句、人を巻き込んで…。私のことだって、自分で見つけてみせるとか偉そうなこと言っておいて、結局人任せでしょ?」
それも、必死になっている人間を使うというずる賢さ。
どこをとっても褒められたものではない。
「素直に頼み込んでくるなら考えないでもなかったんですけど、今回ばかりはちょっと、譲れません」
何もかもが自分の思い通りに動くと思ったら大間違いだ。
「許すまじ!」
「うん、うん、その意気その意気。んじゃ、明日は直接対決ってわけだな」
「とりあえず竜児に連絡してきます!」
善は急げ。というか話をせずに後でバレた場合を考える方が怖い。
こういう時は素直に頼るのが得策だ。
そうして動き出そうとした高瀬だったが…。

「………ハムちゃん?」
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