山椒大夫なんか知らん。陸奥でスローライフ始めます。

希臘楽園

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パシりは御免だ

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 気がついたら、燕になっていた。

 前世の私はアラサーのOLで、ブラック企業に勤めていた。残業、休日出勤、上司からの無理難題。気がついたら過労死していた。そして次に気がついたら、翼が生えていた。

 空を飛べることより、あの地獄のような職場から解放されたことの方が嬉しかった。

 ただ一つ、気になることがあった。

 前世の世界で有名な物語がある。幸福の王子の話だ。黄金に輝く王子の像が、旅の燕をパシりとして使い、貧しい人々に金片を届けさせる。燕は南へ渡る時期を逃し、やがて力尽きて死んでしまう。

 前世でその話を聞いた時から、私はずっとそう思っていた。

 王子像のブラックぶりが、前世の会社と全く同じではないかと。

 もう少しだけ、もう一度だけと引き止め続けて、燕を過労死させる。感動的な美談として語られているが、燕の立場からすれば完全なブラック労働だ。前世で散々味わった手口と何も変わらない。

 絶対に断ってやる。そう心に決めた。


 本能に従って北へ飛んできた私は、ある町の広場に降り立った。

 広場の中央に、金色に輝く王子の像が立っていた。

 来た、と思った。身構えた。パシりの勧誘を断る言葉を頭の中で準備した。

 しかしよく見ると、何かがおかしい。

 金色の輝きが、妙にくすんでいる。あちこち塗装が剥げて、下地のくすんだ灰色が覗いている。私は像に近づいて、翼でそっと表面を触れてみた。

 ペンキだ。

 金製ではない。金色のペンキを塗っただけのハリボテだった。

 私は少し考えてから、納得した。

 そうだよね。前世の金相場を思い出せば、金製の像を屋外に設置するなど危険極まりない。設置した翌日には削り取られてしまう。金色に見えるのはペンキで十分だ。むしろそれが現実的というものだ。

 そしてハリボテの像は、当然ながら何も語り掛けてこなかった。

 ただ金色のペンキがぽろぽろと剥げながら、広場の中央に立っているだけだった。

 私は安心して、南へ飛び立った。


 翌年、燕の本能に従って同じ町に戻ってきた。

 広場に王子像はなかった。

 町の人の話によると、老朽化が激しくなったので取り壊したらしい。

 物語と同じく、取り壊される運命にあったのだな、と私は思った。
 結局、パシりに使われる機会すら来なかった。

 私は広場をひとまわりしてから、巣作りに適した場所を探しに飛び立った。今年も良い夏になりそうだった。
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