彼女と突然別れて落ち込んでいたはずの俺が、次の日から色んな女の子と仲良くなっているのはなぜだ?

リン

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第十七話 朝の一幕・登校前

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「それじゃあ、行くわ。お前も出る時にはちゃんと戸締りしてから出て来いよ?この頃何かと物騒な世の中だからな……。あっ!あと、今日は知り合いのと一緒に帰る約束してるから、少し帰るのが遅くなってーー」

「あー、はいはい。分かったから、お兄ちゃん。そんなに心配しなくてもちゃんと戸締りするし、友達と一緒に登校するから……、私は別に大丈夫だよ?
 それよりもお兄ちゃん!今日はお弁当ちゃんと持った?流石に2日も連続で忘れられると私も悲しいし、お兄ちゃんのお小遣いも心配になるからね……?」


 老婆心ながらに心配をする俺を他所に、妹の雫は逆に今日も俺がお弁当を忘れていないのかを心配してくる始末だ。

 たかが朝の登校くらいで、このように心配するのも変な話だと思うが、こうして心配するのは俺の心境の変化によるものであった。


 これまでも雫の事はたった一人の兄妹として、大切にしてきたつもりであった。

 だが麗奈との別れで俺が本気で落ち込んでしまった時に、雫が俺に優しく声を掛け、慰めててくれた事があって……。

 これまでの俺の努力や行動が、麗奈との別れだけでは無駄になり、否定されるものではないと、そう言って俺に立ち直る力を与えてくれた雫の事を、俺はこれまで以上に大切にしていきたいとそう思ったのだ。


 だから、これまで以上に雫の事が心配で、こんな風に声を掛けたという訳なのだが、当の本人は俺の事を逆に心配する始末、これではどちらが歳上なのか分からない。

 そして、そんな俺のモヤモヤする内心を他所に、雫の俺に対する心配事は想像以上に多いようで、朝から詰問されてしまう。


「そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんが昨日言っていた人、その……三葉さん?その人の事についてもまだ詳しく聞けてないから、今日の夜にでも私に話してよね?お兄ちゃん?
 今日一緒に帰る予定だっていうその三葉について……ね?」


 なぜだか、少しだけ凄みのある表情で雫は俺にそう言ってくる。

 なぜ雫が凄んでいるのか、俺にはよく分からないが……、昨晩、俺が雫との会話の中で出した『三葉先輩』の名前はどうやら覚えていたようだ。

 ただ、麗奈との一件で励まして貰って、そこから仲良くなった人とだけ伝えていたのだが、雫は今日一緒に帰る先輩と『三葉先輩』が同一人物であると推測したようだ。

 別に誤魔化すつもりなどはなく、軽く人となりを説明するに留めただけなのだが、この様子だと『三葉先輩』について詳しく話すまでは、今晩眠らせて貰えなさそうだ。


 俺はそんな風に俺の身の回りを心配する雫に苦笑しつつ、ソロソロ行かなければならない時間である事を思い出して……。


「あー、そうだな。雫にはちゃんと『三葉先輩』についても話しておかないといけないかもな。家がかなり近所でバッタリ会う可能性があるし、あの人なら雫ともすぐ仲良くしてくれそうなだからな。……だから、うん。今日学校から帰って来たら、今日の下校時の事も含めて全部お前に話すよ。」


 俺はそう言い、雫の頭にポンと手を置く。

 昔から雫を安心させる時や宥める時には、いつもこうして頭の上に手を置いて、その頭を優しく撫でていた。 

 だから俺はそうしたいつもの癖で雫の頭を撫で、その柔らかい髪を綺麗に梳かす。


 サラ…サラ……サラ………。


 雫の髪はまるで絹のような触り心地の良い髪の毛で、俺はその感触が小さい頃からとても好きだった。

 そしてそんな俺は、雫が撫でられ始めてから特に何も言ってこない事を良い事に、気が済むまでずっとその髪を撫で続ける。


「(あー、なんかこうしてるとすごい安心する。昔からこうして雫の頭を撫でているけど、これって何気にすごい事だよな?
 思春期真っ只中のはずの妹の髪を、こうして怒られずに触らして貰えるって……。)」


 ふとそんな事を考えながら、黙ったまま何も言わない雫の様子を伺ってみた所……ん?


「えっ?……なんで、顔真っ赤……?」


 俺がふと覗き込んだ雫のその顔は……、まるで熟れたリンゴかのように真っ赤になっていたのだった。

 俺はそんな真っ赤な顔でポーッとしている雫の事が心配になり、その顔をもっとよく覗き込もうとするとーーバッ!


「はっ!な、何を言ってるのかな!?お兄ちゃんは!顔が真っ赤なんてそんな、そんなことって……、あるわけ無いじゃん!
 ほら!バカな事を言ってないでさっさと行く!帰ってからその『三葉さん』についての話をちゃんと聞く事にするから……、じゃあ、行ってらっしゃい!お兄ちゃん!」


 ハッと我に返った雫は、その赤い顔のままグイグイと俺の背中を押し続けて、「早く出て行け。」と言わんばかりの勢いで俺を家から追い出そうとする。

 その顔はとても恥ずかしくてたまらないといった表情で、その顔と焦る態度を確認した俺は素直に雫へと謝罪をする。


「……悪かった雫。少し調子乗ってやり過ぎた。お前を撫でてる時が一番落ち着く時間だから、それでやり過ぎて……。とにかくゴメン!雫!とりあえず、もうソロソロ時間がないし、俺はもう行くから……、さっきも言ったけど戸締りは気を付けてな!」


 やり過ぎた事を素直に雫に謝罪してから、サッサと登校するべく家の扉を開ける。

 そして俺は最後に雫の方を振り返って、片手をひらひら振りながら、「じゃあ、行ってきます!」と言ってそのまま家を出る。

 すると、後ろから「行ってらっしゃい!お兄ちゃん。気を付けてね!」という、いつも通りの温かい静恵の声が聞こえてきてーー

 ーー今日も1日頑張れるような気がした。


 そうして俺は、昨日よりも明るく、どこか眩しく見える青空を見上げながら、いつもと同じ道をいつも以上に軽い足取りで登校して行くのだった……。




ーーー登校前・玄関にてーーー

「もう……、お兄ちゃんってば……。朝の登校までの時間で全然ゆっくりしている暇なんてないのに、そんなタイミングで私の頭を撫でてくるなんて……。」


 私、相川 雫あいかわ しずくは先に登校した兄、相川 相太あいかわ そうたを見送ってから、誰もいなくなって静かになったドアの前でそう呟いた。


 先程、私はお兄ちゃんから頭を撫でられて夢心地だった。

 そしてその蕩けたような、気持ちよくてだらしなくなってしまった私の顔を、あろう事かお兄ちゃんに至近距離からズイっと覗き込まれてしまったのだ。

 当然、私は顔から火が出る程恥ずかしくなってしまい、半ば強引に……、家から無理やり追い出すような形でお兄ちゃんを学校に登校させてしまった。

 そんな風にお兄ちゃんを送り出してしまった事を、私は言ってしまった直後から後悔していたんだけど、優しいお兄ちゃんは、顔が真っ赤になったその理由については深くは触れずにいてくれて……。

 それどころか自ら私に謝罪し、時間がない事を理由に出て行くと言い、私がお兄ちゃんを追い出した形にならないようにと、そのフォローまでしてくれたのだ。


 私はそんないつも通りの優しいお兄ちゃんの気遣いに感謝し、の私で、お兄ちゃんをお見送りする事が出来たと思う。

 それがなんだか照れ臭くもあり、少し誇らしかったりもする。


 私はそんな想いを抱きながら、今日帰ってからお兄ちゃんが話してくれるお話……、お兄ちゃんを気にかけてくれたという『三葉さん』のお話を聴くまでの時間が、とても待ち遠しく感じられるのだった……。
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