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第3章 アーリアのダンジョンに挑もう
第78話 ウィンドウショッピングをしよう
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商業施設のほとんどのフロアはファッションのお店が占めている。右を見ても、左を見ても、衣料品ばかりだ。
「すごい! すごい! すごい! すっごーい! お姫様みたい!」
メルは僕の手を握ったまま、マネキンに釘付けになる。フリルやリボンが付いていて、こういうのガーリーって言うのかな? 大人の女性というより女の子っぽいデザインの服だ。その店はどちらかというとそう言う衣類をメインに扱っているようだった。
僕の考えるお姫様はクラシックなドレスを着ているが、メルの思うお姫様像は違うようだ。まあ、本物のお姫様だって通年ドレスということもないだろう。
「いらっしゃいませ。お連れの方、こちらのディスプレイがお気に召したようですか?」
すすすと近寄ってきた店員さんが僕に向かってそう声をかける。メルは見た目が欧米人だし、さっきの感嘆もアーリアの言葉でだった。日本語が分からないと思ったのかも知れない。それでも目をキラキラさせてマネキンの服を見ているメルの姿を見れば、彼女がどう考えているかは簡単に想像が付くだろう。
「えっと、まあ、はい。こういう服に憧れていたみたいですね。ね、メル」
「うん! すっごく可愛い! こんなの見たことない!」
メルは日本語に切り替えてそう言う。流暢な日本語が出てきたことで店員さんは一瞬びっくりしたようだが、すぐに笑顔になった。
「とても良くお似合いになると思いますよ。どうですか? 1度袖を通されてみては?」
「えっ!? いいんですか?」
「ちゃんとお客様のサイズに合わせてご用意します。もちろん着てみるだけで構いません」
流れるようなセールストークだ。このままでは買わされてしまう。そう判断した僕は必死の抵抗を試みる。
「でもまだこのディスプレイしか見てませんし、お店の商品を見て彼女がもっと気に入るものがあるかも知れませんし」
「ではまずこちらをご試着頂いて、そのまま店内をご案内致します。お気に召した商品があればそちらもご試着いただいて構いません」
なんだこの至れり尽くせりは。アパレルショップってこんな感じなの?
基本的に母さんの買ってきた服か、ファストファッションのお店にしか行かない僕は、こんなに積極的に接客してくる店員さんと遭遇したことがない。
「ひーくん、着てみていい?」
上目遣いで聞いてくるメルが、試着をしてみたいと思っているのは明らかだ。女の子ってずるい。ずるくない?
「じゃあ、お願いします」
「はい。喜んで。まずはサイズを測らせていただきますね」
店員さんはさっとメジャーを取り出すと、メルの体に当てていく。
なんか既視感があるなと思ったら、さっき僕が防具屋でサイズを測られていたんだった。
サイズの測り方は全然違うけど、もし男性の店員がサイズを測るからと言ってメルにベタベタ触れていたら僕もイラッとしただろう。なんとなくメルがへそを曲げたのが分かった気がした。
「それではこちらとこちら、あとこちらになりますね」
店員さんは手際よく店内からマネキンが着ているのと同じ服のセットを持ってくる。
「試着室はこちらになります。もし分からないことがあったらお声がけください」
そう言って店員さんはメルを試着室に押し込んだ。
「凄く可愛い彼女さんですね」
かと思うと、店員さんは少し声を抑えて僕に喋りかけてくる。
「いえ、彼女ではないんですけど……、友だちで」
「そうなんですか? お手を繋いでいらっしゃったのでてっきり。今時はお友だちでも手を繋いだりするんですね」
店員さんもすごく若く見えるが、眩しいものを見るかのような目つきで言った。
「すみません。ちょっと強引でしたよね。ただ余りにも可愛らしい方なので、どうしても当店の服を着てみていただきたくって」
「セールストークじゃなかったんですか?」
「もちろんそれもありますけど、彼女さん、じゃなかった、お友だちの方が当店の服を着て店内を歩いてもらうだけで宣伝になるかなって」
てへっと店員さんは本音をぶちまけてくる。
「ちなみに今のでおいくらですか?」
「ブラウスが6,820円、カーディガンが11,880円、スカートが7,480円ですので、合計26,180円になります」
店員さんが素早く電卓を叩く。僕は財布を確かめた。帰りの電車賃とビュッフェの費用を差し引いて、ギリギリ買えてしまう。
「無理に買っていただかなくとも構いません。当店の服を着たお友だちの方と店内を見て回ってもらえれば、それだけで」
僕が考え込んでいるのをどう捉えたのか、店員さんはそう言ってくる。宣伝になると言ったのは本気のようだ。まあ、確かにメルくらい可愛い子が店内と同系統の服を着ていたら、それだけで目を引くだろう。
「えっと、ひーくん、いる? 着方これでいいのかなあ?」
シャッと試着室のカーテンが一部だけ開いてメルが顔を覗かせる。服を着るためだろう。トレードマークのサイドテールが解けている。
「ちょっと失礼しますね」
店員さんが試着室を覗いた。
「大丈夫です。とてもよくお似合いですよ!」
「えへへ、そうかなあ」
そう言いながらメルが試着室から出てくる。いつものショートパンツとは違い、スカート姿だし、髪はストレートのロングだし、なんか服にひらひらついているし、見違えた僕は声が出ない。
「ひーくん、どう? 似合ってる?」
不安げな声に僕は再起動した。
「すごくよく似合ってる。か、可愛いよ」
声が震えたのはそんな言葉を言い慣れていないからだ。メルが女の子だってことはちゃんと分かっていたけれど、こんな風に女の子だって強く主張されると僕はどうしていいか分からない。酷く狼狽する僕を見てメルは笑う。
「あはは、ひーくん、変なの」
その笑顔はいつものメルで、少しだけ僕は安心した。
「すごい! すごい! すごい! すっごーい! お姫様みたい!」
メルは僕の手を握ったまま、マネキンに釘付けになる。フリルやリボンが付いていて、こういうのガーリーって言うのかな? 大人の女性というより女の子っぽいデザインの服だ。その店はどちらかというとそう言う衣類をメインに扱っているようだった。
僕の考えるお姫様はクラシックなドレスを着ているが、メルの思うお姫様像は違うようだ。まあ、本物のお姫様だって通年ドレスということもないだろう。
「いらっしゃいませ。お連れの方、こちらのディスプレイがお気に召したようですか?」
すすすと近寄ってきた店員さんが僕に向かってそう声をかける。メルは見た目が欧米人だし、さっきの感嘆もアーリアの言葉でだった。日本語が分からないと思ったのかも知れない。それでも目をキラキラさせてマネキンの服を見ているメルの姿を見れば、彼女がどう考えているかは簡単に想像が付くだろう。
「えっと、まあ、はい。こういう服に憧れていたみたいですね。ね、メル」
「うん! すっごく可愛い! こんなの見たことない!」
メルは日本語に切り替えてそう言う。流暢な日本語が出てきたことで店員さんは一瞬びっくりしたようだが、すぐに笑顔になった。
「とても良くお似合いになると思いますよ。どうですか? 1度袖を通されてみては?」
「えっ!? いいんですか?」
「ちゃんとお客様のサイズに合わせてご用意します。もちろん着てみるだけで構いません」
流れるようなセールストークだ。このままでは買わされてしまう。そう判断した僕は必死の抵抗を試みる。
「でもまだこのディスプレイしか見てませんし、お店の商品を見て彼女がもっと気に入るものがあるかも知れませんし」
「ではまずこちらをご試着頂いて、そのまま店内をご案内致します。お気に召した商品があればそちらもご試着いただいて構いません」
なんだこの至れり尽くせりは。アパレルショップってこんな感じなの?
基本的に母さんの買ってきた服か、ファストファッションのお店にしか行かない僕は、こんなに積極的に接客してくる店員さんと遭遇したことがない。
「ひーくん、着てみていい?」
上目遣いで聞いてくるメルが、試着をしてみたいと思っているのは明らかだ。女の子ってずるい。ずるくない?
「じゃあ、お願いします」
「はい。喜んで。まずはサイズを測らせていただきますね」
店員さんはさっとメジャーを取り出すと、メルの体に当てていく。
なんか既視感があるなと思ったら、さっき僕が防具屋でサイズを測られていたんだった。
サイズの測り方は全然違うけど、もし男性の店員がサイズを測るからと言ってメルにベタベタ触れていたら僕もイラッとしただろう。なんとなくメルがへそを曲げたのが分かった気がした。
「それではこちらとこちら、あとこちらになりますね」
店員さんは手際よく店内からマネキンが着ているのと同じ服のセットを持ってくる。
「試着室はこちらになります。もし分からないことがあったらお声がけください」
そう言って店員さんはメルを試着室に押し込んだ。
「凄く可愛い彼女さんですね」
かと思うと、店員さんは少し声を抑えて僕に喋りかけてくる。
「いえ、彼女ではないんですけど……、友だちで」
「そうなんですか? お手を繋いでいらっしゃったのでてっきり。今時はお友だちでも手を繋いだりするんですね」
店員さんもすごく若く見えるが、眩しいものを見るかのような目つきで言った。
「すみません。ちょっと強引でしたよね。ただ余りにも可愛らしい方なので、どうしても当店の服を着てみていただきたくって」
「セールストークじゃなかったんですか?」
「もちろんそれもありますけど、彼女さん、じゃなかった、お友だちの方が当店の服を着て店内を歩いてもらうだけで宣伝になるかなって」
てへっと店員さんは本音をぶちまけてくる。
「ちなみに今のでおいくらですか?」
「ブラウスが6,820円、カーディガンが11,880円、スカートが7,480円ですので、合計26,180円になります」
店員さんが素早く電卓を叩く。僕は財布を確かめた。帰りの電車賃とビュッフェの費用を差し引いて、ギリギリ買えてしまう。
「無理に買っていただかなくとも構いません。当店の服を着たお友だちの方と店内を見て回ってもらえれば、それだけで」
僕が考え込んでいるのをどう捉えたのか、店員さんはそう言ってくる。宣伝になると言ったのは本気のようだ。まあ、確かにメルくらい可愛い子が店内と同系統の服を着ていたら、それだけで目を引くだろう。
「えっと、ひーくん、いる? 着方これでいいのかなあ?」
シャッと試着室のカーテンが一部だけ開いてメルが顔を覗かせる。服を着るためだろう。トレードマークのサイドテールが解けている。
「ちょっと失礼しますね」
店員さんが試着室を覗いた。
「大丈夫です。とてもよくお似合いですよ!」
「えへへ、そうかなあ」
そう言いながらメルが試着室から出てくる。いつものショートパンツとは違い、スカート姿だし、髪はストレートのロングだし、なんか服にひらひらついているし、見違えた僕は声が出ない。
「ひーくん、どう? 似合ってる?」
不安げな声に僕は再起動した。
「すごくよく似合ってる。か、可愛いよ」
声が震えたのはそんな言葉を言い慣れていないからだ。メルが女の子だってことはちゃんと分かっていたけれど、こんな風に女の子だって強く主張されると僕はどうしていいか分からない。酷く狼狽する僕を見てメルは笑う。
「あはは、ひーくん、変なの」
その笑顔はいつものメルで、少しだけ僕は安心した。
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