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第3章 アーリアのダンジョンに挑もう
第79話 広告塔になろう
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それから店員さんはお店の服を着たままのメルを丁寧に案内していった。
随分涼しくなってきたものの、まだ暑さを感じる日もあるというのに店内の商品はもう冬物だ。寒くなってから冬服を買おうと思っても、買いに行くための冬服が無いってなっちゃうからね。服飾関係は季節の先取りが基本になるんだろう。
店員さんの服装もブランドのイメージに沿っているので店で扱っている商品なのかも知れない。正直な話、ファストファッションに身を包んだ僕の場違い感が凄い。じゃあ何を着ていればいいのかってなるけど、そこが全然分からない辺りが、僕が僕足る所以だろう。
一品一品説明される度にメルは歓声を上げながら、体に当てて鏡を覗き込む。店員さんが見込んだ宣伝効果はバッチリだったようで、ただ店内にでは無く、店を遠巻きにするように人々が足を止めていく。
「あの子、めちゃ可愛いんだけど、モデルさん?」
「芸能人じゃない? テレビの取材とか」
足を止めている人がいるので足を止めて様子を見るというような連鎖反応が生まれ、辺りはちょっとした騒ぎだ。商品に夢中なメルはまだ気が付いていないようだが、僕は気が気でない。こちらにスマホを向ける人もいて、それはもう止めようが無い。さりげなくメルの周りをうろうろして撮影の邪魔をするくらいだ。
その間も店員さんの説明は淀みなく続く。
「こちらはアーリースタイルの――」
メルはよく分かっていないようだったけど、商品のラインナップには大満足のようだ。僕にもよく分からない。時期が早いからアーリーなのかな?
「ねぇねぇ、ひーくん、これはどう思う?」
「きっと似合うと思うよ」
「ひーくん、そればっかり」
メルはふくれっ面になるが、目が笑っている。満更でも無いようだ。
「どれが一番似合ってるか考えておいてよね」
そんな無理難題を僕に押しつけて、メルは店員さんとのお喋りに戻る。若い女の子が2人でキャッキャしている様は眼福だが、女性のコーディネートとか僕に分かるわけがないんだよなあ。
たっぷり1時間くらいはそうしていただろうか。何度かの衣装替えがあって、店内を一巡りしたメルと店員さんはどちらもやりきった満足そうな顔だ。いや、店の前凄いことになってますけどね。こんなに人を集めて大丈夫なの? 警備員さん来ない?
「ひーくんはどれが一番だった?」
「どれも良く似合ってたけど、最初のかなあ」
「へぇ、そうなんだ。ひーくんはそういうのが好みなんだね」
この反応は正解なの? 不正解なの?
僕には判断できない。この場合、なにをもって正解とするのかも分からないけど。
「ありがとうございました。でも私お金無くて買えません。ごめんなさい!」
メルは日本のお金を一銭も持っていない。必要な分は僕が支払っているけれど、メルが日本で自由にできるお金というのは無い。
「いいえ、いいんですよ。お客様みたいな可愛い方に着てもらって、服も喜んでいますよ」
そう言いながら店員さんがちらっと僕に目線を向ける。
「ねえ、メル、気に入った服はあった?」
「どれもお気に入りだよ! すごい可愛いのばっかり!」
アーリアで服を買うのは簡単だ。僕らは金貨を何十枚も持っている。きっと貴族向けの服だって手に入る。だけどそう言うことではない。メルを喜ばせているのは今ここにある服たちだ。
「最初のセットをいただけますか?」
僕は店員さんに向かって言う。
「ありがとうございます。着て行かれますか?」
疑問形だったが、是非そうしてくれと言う圧を感じる。
「勉強していただけるんでしょうね?」
こちらは思惑に乗って広告塔みたいになっているんだ。その分くらいは割り引いてもらいたいところである。
「これくらいでいかがですか?」
店員さんは周りに見えないように僕にだけ電卓の画面を見せる。そこには10,000と表示されている。え? 安すぎない?
「いいんですか?」
「これだけ人を集めてもらった宣伝費と思えば安いものです。商売上、お金はいただきますけど」
僕らのやりとりをきょとんと見つめていたメルは徐々にどういうことか理解が追いついてきたようだ。
「え? え? え? ひーくん、お金大丈夫なの?」
「今朝魔石を売りに行ったでしょ。あれの半分をメルの取り分だと考えるとお釣りが来るよ」
「そうなの!? いいの!? 本当!? やったー!!」
感情がぐるぐる回って最後に歓喜を爆発させたメルは両手を上げて喜ぶ。
まあ、僕の言ったことは間違いではない。ダンジョンで得た利益をちゃんと2人で分けるというのであれば、魔石を売った日本円も仕入れ代を引いて2人で分けるべきである。
だからこれは僕が買ってあげたんじゃなくて、メルが自分で手に入れたものなのだ。
随分涼しくなってきたものの、まだ暑さを感じる日もあるというのに店内の商品はもう冬物だ。寒くなってから冬服を買おうと思っても、買いに行くための冬服が無いってなっちゃうからね。服飾関係は季節の先取りが基本になるんだろう。
店員さんの服装もブランドのイメージに沿っているので店で扱っている商品なのかも知れない。正直な話、ファストファッションに身を包んだ僕の場違い感が凄い。じゃあ何を着ていればいいのかってなるけど、そこが全然分からない辺りが、僕が僕足る所以だろう。
一品一品説明される度にメルは歓声を上げながら、体に当てて鏡を覗き込む。店員さんが見込んだ宣伝効果はバッチリだったようで、ただ店内にでは無く、店を遠巻きにするように人々が足を止めていく。
「あの子、めちゃ可愛いんだけど、モデルさん?」
「芸能人じゃない? テレビの取材とか」
足を止めている人がいるので足を止めて様子を見るというような連鎖反応が生まれ、辺りはちょっとした騒ぎだ。商品に夢中なメルはまだ気が付いていないようだが、僕は気が気でない。こちらにスマホを向ける人もいて、それはもう止めようが無い。さりげなくメルの周りをうろうろして撮影の邪魔をするくらいだ。
その間も店員さんの説明は淀みなく続く。
「こちらはアーリースタイルの――」
メルはよく分かっていないようだったけど、商品のラインナップには大満足のようだ。僕にもよく分からない。時期が早いからアーリーなのかな?
「ねぇねぇ、ひーくん、これはどう思う?」
「きっと似合うと思うよ」
「ひーくん、そればっかり」
メルはふくれっ面になるが、目が笑っている。満更でも無いようだ。
「どれが一番似合ってるか考えておいてよね」
そんな無理難題を僕に押しつけて、メルは店員さんとのお喋りに戻る。若い女の子が2人でキャッキャしている様は眼福だが、女性のコーディネートとか僕に分かるわけがないんだよなあ。
たっぷり1時間くらいはそうしていただろうか。何度かの衣装替えがあって、店内を一巡りしたメルと店員さんはどちらもやりきった満足そうな顔だ。いや、店の前凄いことになってますけどね。こんなに人を集めて大丈夫なの? 警備員さん来ない?
「ひーくんはどれが一番だった?」
「どれも良く似合ってたけど、最初のかなあ」
「へぇ、そうなんだ。ひーくんはそういうのが好みなんだね」
この反応は正解なの? 不正解なの?
僕には判断できない。この場合、なにをもって正解とするのかも分からないけど。
「ありがとうございました。でも私お金無くて買えません。ごめんなさい!」
メルは日本のお金を一銭も持っていない。必要な分は僕が支払っているけれど、メルが日本で自由にできるお金というのは無い。
「いいえ、いいんですよ。お客様みたいな可愛い方に着てもらって、服も喜んでいますよ」
そう言いながら店員さんがちらっと僕に目線を向ける。
「ねえ、メル、気に入った服はあった?」
「どれもお気に入りだよ! すごい可愛いのばっかり!」
アーリアで服を買うのは簡単だ。僕らは金貨を何十枚も持っている。きっと貴族向けの服だって手に入る。だけどそう言うことではない。メルを喜ばせているのは今ここにある服たちだ。
「最初のセットをいただけますか?」
僕は店員さんに向かって言う。
「ありがとうございます。着て行かれますか?」
疑問形だったが、是非そうしてくれと言う圧を感じる。
「勉強していただけるんでしょうね?」
こちらは思惑に乗って広告塔みたいになっているんだ。その分くらいは割り引いてもらいたいところである。
「これくらいでいかがですか?」
店員さんは周りに見えないように僕にだけ電卓の画面を見せる。そこには10,000と表示されている。え? 安すぎない?
「いいんですか?」
「これだけ人を集めてもらった宣伝費と思えば安いものです。商売上、お金はいただきますけど」
僕らのやりとりをきょとんと見つめていたメルは徐々にどういうことか理解が追いついてきたようだ。
「え? え? え? ひーくん、お金大丈夫なの?」
「今朝魔石を売りに行ったでしょ。あれの半分をメルの取り分だと考えるとお釣りが来るよ」
「そうなの!? いいの!? 本当!? やったー!!」
感情がぐるぐる回って最後に歓喜を爆発させたメルは両手を上げて喜ぶ。
まあ、僕の言ったことは間違いではない。ダンジョンで得た利益をちゃんと2人で分けるというのであれば、魔石を売った日本円も仕入れ代を引いて2人で分けるべきである。
だからこれは僕が買ってあげたんじゃなくて、メルが自分で手に入れたものなのだ。
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