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番外 ※ 時間軸はランダムです。結婚後の話もあります。
ディーノ、“めろめろ”する 1
しおりを挟む「・・・で、神殿の使用許可は問題ないって。正装も盛装も、任せて。サイズとイメージさえ教えてくれれば、デザイン画を衣装部から出すし。あとね、儀式の後なんだけど、食事会しても良いかな?俺、サヴィンさんとゆっくり食事しながら話したいし」
王宮のイルファン殿下の執務室の手前の廊下の端で、妃殿下と密談しているが、これはやましい事は一片も無い、殿下も公認の密談だ。
・・・まあ、内容を聞けばすぐに分かってしまう婚姻の儀式に向けた相談を、執務室内でするわけにもいかないからだ。
実は、サヴィンと婚約を殿下とイオリに報告したすぐ後に、殿下より王宮の神殿にて婚姻の儀式を行うのはどうかと打診されたのだ。
イオリも私とサヴィンの婚姻を祝いたいと希望しているが、王宮外においそれと出せるわけではないし、殿下ご自身も私達を祝いたいと仰り、そのような破格の扱いを勧められた。
確かに、殿下の溺愛する最愛の人を王宮外にお連れする際は、それは大規模な警備が展開される。殿下のみならず、国王陛下までがイオリの安全を憂慮され警備を強化される為なのだが。
サヴィンには・・・実は内密で進めている。サプライズ、と云うか・・・まあ、サプライズだな。・・・これには、微妙なオトコゴコロが・・・いや、まあ・・・んんっ、これはまあ見て見ぬ振りをして欲しい処だ。
まあ、そういうわけでイオリと楽しくも待ち遠しい計画について、立ち話に興じていたのだが。不意に俺の視界に可愛い恋人が飛び込んで来た。
今日も今日とて、整った容姿にセンスの良いスーツを小綺麗に着こなし、その綺麗な顔に穏やかな表情を浮かべて颯爽と歩を進める、俺の恋人で婚約者は、執務室に戻る途中であるのか、書類を抱えている。
まだかなりの距離はあるが、俺がサヴィンの姿を見つけ、会話中のイオリに失礼に当たらない様に留意しつつ注視していると、その後方に彼を追う人間が視界に入る。
・・・む・・・っ・・その彼の後ろから近づくあれは・・・またヤツか・・・目障りな。
アレは最近、第四王子の侍従室に入った新参の侍従で、やけにサヴィンに絡む事が多い。業務の合間や王宮の回廊で、待ち伏せてでもいるかのようにサヴィンと鉢合わせ、馴れ馴れしく言葉を交わしたり、あろうことか食事や酒に誘うと云う不躾な振る舞いをする。今現在、俺が最も早急に処理すべく極秘で動いている排除対象だ。
声を掛けられたのか、後ろを振り向いたサヴィンは直ぐに前を向き、執務室の方へ歩きだした。そして、その後ろには、間抜け面で去って行くサヴィンを見るヤツが立っていた。
・・・いっその事、いま消してやろうか。
視線にバカでも気付く程度の殺気を込め、そちらを見れば、ビクリと躰を揺らし青ざめた顔をこちらに向けた。
第三王子妃に気付くと、ばっと頭を下げ・・・そのまま、その場に崩れ落ちた。
殺気を向けられただけで、腰を抜かすのか?!それで王族の侍従に登用されるなど、有り得んな。
あまりの惰弱さに驚愕しつつ、処理に然程の手間も掛からないと分かれば、もうそちらに意識を向ける必要もない。
イオリはアレに気付きもしていない様だが、執務室に向かって歩くサヴィンには気が付いた。
「あ、サヴィンさんが戻って来ましたね」
それに、サヴィンもこちらに気付いた・・・筈なのだが、何故か足早に執務室の方向へ去って行く。
「・・・ん?」
通常であれば、ぱっと顔を綻ばせてこちらへ向かって手を振るか、俺の傍に駆け寄るか・・・とにかく愛い行動で、その想いを伝えてくる恋人なのだが。
今日に限って、こちらを不思議そうに見たと思ったら、ふいっとその顔を俯けて何かを振り払う様に頭を振ると、そのまま行ってしまった。
「あれ・・・?ディーノさんに気が付かないハズないし、こっちを見ましたよね?いつもなら、何かリアクションが・・・あ!!」
イオリも不思議そうにしていたが、急に何かに気付いたのか声を上げて、焦った様に俺を見た。
・・・そんな顔を俺に向けないで下さい。殿下が御覧になったら、俺の職と存在自体が危機ですので。
殿下が執務室にいらっしゃるのは判っているが、あの方のイオリに対する能力は超常的だから、油断は出来ない。
俺の内心に気付かないイオリは、そのまま続けた。
「もしかしたら、やきもち・・・妬かせちゃったかもしれない」
「・・・は・・・?」
イオリと立ち話をしてるだけで、今更そんな事は無い筈だ。まして、イオリは殿下の伴侶で。お二人は所構わずいちゃつき・・・仲睦まじいご様子を日々見せつけ・・・お見せになっているのに。
そのイオリと会話をしているだけで、妬く・・・だと?サヴィンが・・・?・・・そうであったなら・・・なんとも・・・うん。
やきもち、か・・・正直鬱陶しいかと思っていたが。俺の嫉妬心と独占欲など、自分でも引く程のモノだ。
・・・何と云う事だ・・俺は嬉しいと、サヴィンなら・・・それですら可愛いと、愛おしいとすら思うとは、な。
「あー・・まずったかな・・・俺だって、イルファンが他の人と楽しそうに話してたら・・・ちょっと、面白くない・・・かも。まして、微笑んでいたりしたら・・・あ、考えただけでイヤだ。どうしよう・・・ディーノさん、すぐにフォローして下さいね」
「・・・はい。ですが、私は鉄面皮ですので・・・。楽しそうには見えませんが」
「えっと・・・さっき、楽しそうに表情が、えっと、目元が和らいでましたよ?俺に判るくらいの変化なら、サヴィンさんなら微笑んでるって思うハズです!」
・・・そうだったか・・・?まあ、楽しく待ち遠しい予定の、サヴィンとの事を口にしていたのだから、顔が多少緩んでいたかも知れないが、俺が微笑んでいたとは。
「・・・それに今は、幸せそうに緩んでますよ?サヴィンさんがやきもち焼いちゃったの、可愛いとか嬉しいとか・・・思ってますね?」
「・・・・」
イオリは、妙なところでスルドイのだ。
普段、表情の変わらない“鉄面皮”と揶揄される俺の表情を読むとは、本当に侮れない。
イオリは少し非難する様な目を向け・・・あ、それも早急にお止め頂きたい。殿下の勘違いで、俺が処される先が見えるから。
イオリを執務室に戻る様に促す最中、俺の背後に感じる気配に正直ギリギリであったと内心で冷や汗を拭いつつ、いつの間にかイオリの背後に立つ殿下に妃殿下を引き渡し、執務室へ戻った。
そして、その後の執務室でサヴィンのやきもちの件が正確に的を得ていると知ったのだった。
何かに追われるかの様に、仕事に集中するサヴィンは頑なに俺を見ない。ただただ書類とモニターに向かい、時に殿下やイオリと言葉を交わし、他の侍従と打ち合わせてはいつにない速度で仕事を進めている。
俺には必要最低限しか関わろうとしない、これまでに無い状況は、彼が通常とは違うと容易に知れる。
・・・これは、本当に・・・?
そのサヴィンを、心配そうに見るイオリと、心配で憂い顔の彼を悩ましげな視線で見つめる殿下・・・イオリ、そろそろ切り上げないと、今夜というか・・・この後が大変になるが、大丈夫だろうか。
まあ、あのお二人なら大した問題は無いだろうが、明日はイオリは、お出座しにならない可能性がある。とすれば、執務室は荒れるか・・・
俺は、明日の執務の運営方法を数通りシュミレートしながら、ちらりと隣のデスクへ視線を向ける。
そして、何を考えていようとも俺の頭と心を占めている、この可愛い婚約者を、どう宥めようかと考えながら、その横顔を見つめるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“じゅうじゅう”のディーノsideでした。
”めろ”もしていない・・・かも。
”めろめろ”は次話になってしまいました(多分・・・)
応援ありがとうございます!
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