身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第四章

デリルの悩み

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 俺は、シェリー達と仕立て部屋の方にいた。

「こんな部屋があるのね。素敵だわぁ」

 シェリーは、色とりどりの生地を前にしてうっとりとする。

「これ……グラデーションというやつよね? 確かミリアンナが着ていたドレスにあったわ」

 フェリシャは、目敏めざとく俺の染めた生地を発見してしまう。

「そ、それはフロルがデリルに教えてあげたのよね!」

 慌ててフロルに話を合わせろと視線を向ける。

「はい。デリルさんは、とても腕の良い仕立て屋です。ミリリンさんは、もっと腕が良いそうですよ」
「まぁ。すごいのね」

 余計な事まで言われてヒヤリとする。

 俺がミリリンだなんて勿論言っていないので、バレそうな物は全部フロルに片付けてもらっていた。いつも作業をする真ん中の大きなテーブルは、綺麗に片付いている。イリーナが椅子に座ってフロルの淹れた紅茶を優雅に飲んでいる。

 そのうちに、部屋にノックの音が響いた。
 入室の許可を出せば、フロルがドアを開けてくれる。
 入ってきたデリルは、緊張で顔を固くしていた。恭しく頭を下げて全員に向かって挨拶をする。

「こ、この度は、お呼びいた、頂き、こ、光栄に、おも、思います──」

 予想以上に緊張していて心配になる。

「いつもレイジェル殿下やロレーナ王妃を相手にしているのに、そんなに緊張しなくてもいいわ」
「め、めっしょうもっ……!」

 思いっきり噛んだ。舌は無事だろうか。

滅相めっそうもございません……」

 何事もなかったかのように言い直した。笑ってしまいそうなのは俺だけなのか。

「テ、テレフベニアの王族の方々は、幼い頃からお会いしていますので、た、耐性があるのですが、他国の王女様がこのように集まる場所は、は、初めてでして……」

 汗ダラダラで喋るデリルが微笑ましい。
 みんなは顔を見合わせてクスクスと笑う。

「デリル、気にしないで。わたくし達は、ミリアンナの友人としてここにいます。畏まった場でもありませんわ。わたくしもこうやって寛がせてもらっていますわ」

 イリーナが紅茶をスッと上げてニコッと笑う。
 友人と言ってくれたイリーナに改めて感動している事は内緒にしよう。

「今日は、個人で買い物がしたいのです。いつも通りにして下さいね」

 フェリシャも優しく諭す。

「挨拶より、持ってきたものを見せてくれないかしらぁ? とても楽しみにしていたのよ」
「あ、はい!」

 シェリーは相変わらずのマイペースで話を進めていく。

 デリルが持ってきた品々をテーブルの上に広げれば、みんなは「わぁ」と声を揃えた。
 グラデーションのリボン、小物入れにも刺繍を入れてあったり、令嬢が使う手袋にもワンポイントの刺繍が入っている。

「可愛いわねぇ」
「こっちの髪留めは、花みたいに見えて素敵だわ」
「そちらは、ドレスに縫い付けても使えますよ」
「まぁ、素敵」

 デリルの緊張も品物を前にすれば無くなるようで、自然に話ができていた。

「それにしても──」

 シェリーが品物を見ながら目を細めた。

「これしかないのかしら?」

 フロルに手伝ってもらっても、リボンや刺繍など、数点しかできずに納品したのを覚えている。ここにあるのは、それらのほんの一部だった。

「ミリリンさんは、お忙しい方なので……数がそれほど作れません」

 俺の方をチラリと見るな。

「直接依頼を出せないかしら?」

 みんなの背後から首を振る。
 できるわけがない。

「き、気難しい方でして、私を通すのが条件なんです」
「そう。人嫌いかしら。仕方ないわね」

 シェリーが諦めたようで胸を撫で下ろす。

「ドレスは作れないのかしら?」

 今度はイリーナだ。
 一着に時間がかかり過ぎて一人では難しい。

「それも難しいかと……」
「残念ね。素敵なドレスを作れそうなのに」
「私も見てみたいですよ」
「そうよね」

 デリルは、そこで乗っかるな。

「やっぱり数が少ないわね」

 シェリーはもっと欲しいらしい。

「だからこそ、貴重だというものよ」

 フェリシャがそう言ってくれて、ホッと息を吐いた。

「そうね。国に帰っても、定期的に買いに行かせるわね」
「はい」

 シェリーはすごく気に入ってくれたらしい。結局、持ってきていたリボンなどは、シェリー達が全て買い取った。
 品物は、一緒に来ていた従者が部屋に運ぶそうだ。
 みんな嬉しそうにしながら、俺の方に向き直る。

「ミリアンナ、会わないで帰る事になるかもしれないから、ここで挨拶させてね」

 フェリシャの言葉に頷く。

「とても楽しかったわ。こうやって他国の王女との交流なんてほとんどないの」
「あの招待状をもらった時、絶対行かなきゃと思ったのよぉ」
「今度は、わたくしの国へ招待してあげてもいいわよ」

 イリーナだけ上から目線だけれど、それもまた彼女の照れ隠しなのだと思うと嬉しい。

「皆さん、来て頂いて本当にありがとうございました」

 丁寧に挨拶すれば、みんな微笑んでくれて、胸の奥が温かかった。
 きっとまた会えるような気がする。

 それぞれが満足して部屋に戻れば、デリルが俺の方を真剣に見て訴えてくる。

「ミリアンナ様! 取り置きしていた分も全部売れてしまいました! 店頭にも商品がありません! 次から次へ買いに来るお客様がいっぱいなんです! 誰か助手を雇って下さい!」

 そんな事言われても……。
 あのお茶会で、アルネとロレーナ王妃がつけていたリボンは、貴族の間でとても話題になり、デリルの店は毎日のように令嬢が訪れているという。
 目当ての品物が無くても、デリルの店の商品も売れて大忙しらしい。

「お願いしますぅぅ」

 デリルに泣き付かれてしまう。フロルが代わりに話してくれる。

「手伝ってもらうにも、ミリアンナ様の事情をわかっていて、信用できる方でないと難しいのです。それに、仕立てが下手な助手ではいけません。ミリリンブランドの品質を落とす事になりかねません」

 フロルが言えば、デリルもそれはそうだと納得する。けれど、そんな事を言っていたら、助手なんてほとんど見つからないかもしれない……。

「いっその事、ミリリンブランドなんてやめちゃ──」
「「何をおっしゃいます!」」

 デリルとフロルが、俺の方に怒った顔を向けて力強く言う。やめるという選択肢はないらしい。最後まで言わせてもらえなかった。

「ど、どうにかします……」

 デリルとフロルに押し負けて、レイジェルに相談するべきかと悩む事になってしまった。
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