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第四章

お茶会の行方

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 最初はどうなることかと思ったお茶会は、無事に形になった。
 後から来てくれた令嬢たちは、気にしないで欲しいと伝えて楽しんでもらった。

「ミリアンナ殿下は、レイジェル殿下にとても想われていますのね」
「あんなにも怖い人を手懐てなずけるなんて……すごいですわ」

 感心しながらそんな事を言う令嬢がいたけれど、訳がわからないので笑顔で受け流した。

 精一杯のおもてなしをしていれば、そこにマリエラがやってきた。
 少し気まずそうにしていた。それでも来てくれるとは思っていなくて笑顔で出迎えた。

「レイジェル殿下がこんなちんちくりんを選ぶなんて……ショックですわ」

 開口一番に、そんな事を言われてしまった。ちんちくりんって令嬢が言わないでね。俺の教育係だった人に注意されるよ。

 やはり誰もがどうして俺なのかと疑問に思うらしい。
 周りを見回せば可愛らしい令嬢はたくさんいる。結婚したいという令嬢もたくさんだ。
 そんな令嬢達の中でレイジェルが俺を選ぶ理由が思い当たらなかった。
 俺は、国も弱小国家で子供も産めない。レイジェルにとって得する事は何もない。

 ミリオンじゃなくてもいい。
 ミリオンが居なくてもいい。

 何度も何度も言われてきた言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。

 俺は、いてもいなくても同じ──……。

 長年染み付いていた考えは、そう簡単に消える事はなく、ふとした瞬間に蘇る。
 胸の奥がジクジクするような気持ちを誤魔化すように、マリエラに笑顔を向けた。マリエラの視線が彷徨う。

「何よ……謝らないわ」

 どの事についてなのか、ゆっくり話し合いたいところだけれど、悪いことをしたという自覚はあるようだ。
 席に案内しようとすると、マリエラの腕をガシッと掴んだ人がいた。

「これはこれはマリエラ嬢。ご機嫌いかがですか?」

 ネストだ。
 マリエラの腕を引っ張って手を出させるとその手を掴んで少し屈むと、手の甲に口付けた。

「っ!? 何するのよ!」

 素早く手を引っ込めたマリエラにネストがニコッと笑う。

「素敵な令嬢にする挨拶ですよ。そう照れないで下さい」

 チャラい……なのに、マリエラは口付けられた手を握りながら、真っ赤になって黙り込む。

「男はレイジェル殿下だけではありませんよ」
「なにを……言ってるのよ……」
「あなたの幸せを考えての事です」

 微笑むネストに、あのマリエラが顔を真っ赤にしっぱなしだ。
 誰にでも物怖じしないネストは、すごい人なのかもしれない……と少し思う。

「僕の隣の席に座りましょう」
「け、結構よ!」

 マリエラは、怒りながら歩き出した。
 ネストは、俺にコソッと耳打ちする。

「彼女の事は僕にお任せ下さい」

 再びニコッと笑ってマリエラの後を追いかけるネストに、一体彼は何者なんだろうと疑問に思う。

 ネストは、マリエラを席に案内すると本当に隣に座った。
 マリエラは、席に運ばれてきたケーキにキラキラと目を輝かせた。隣に座るネストがニコニコと見ている事に気付いて、澄ましてケーキを食べたのを見て笑った。
 そんな二人を微笑ましく見ていれば、フロルがそっと耳打ちしてきた。

「ミリアンナ様、最後の招待客です」

 フロルの視線の先を同じように追う。
 そこには、ロレーナ王妃の姿があった。それだけじゃない。ロレーナ王妃をエスコートしていたのはレイジェルだった。レイジェルを見た瞬間にドキンッと胸が鳴った。
 いつもの騎士服ではなく、お茶会用に仕立てた服を着ていた。ロレーナ王妃と共に並ぶ姿がとても眩しい。
 急いで出迎える。

「良いお茶会になったな」

 レイジェルにそんな風に言われて照れる。

「私はここまででいいわ。レイジェルは、ミリアンナ殿下をエスコートしてあげてね」

 ロレーナ王妃は、レイジェルの腕に捕まっていた手をパッと放して俺の手を取って、レイジェルの腕に捕まらせた。
 腕を組めば、嬉しそうに微笑んでくれるレイジェルに顔が熱くなる。

「ふふっ。お似合いよ」

 そう言って笑うロレーナ王妃の頭には、なぜかミリリンブランドのリボン……。
 
「見て、ロレーナ様の頭にあるリボン」
「まぁ可愛いわねぇ」
「私も欲しいわ」

 そんな会話が聞こえてくるし、顔が引きつりそうだ。
 俺が作ったリボンをテレフベニアの王妃が身につけている事実に遠い目をした。
 フロルなんて澄ました顔をしているけれど嬉しいのだと思う。目がお金になっている気がする……。

 ロレーナ王妃は、お茶会の参加者に向かってニコッと微笑んだ。

「皆さん、今後もこの二人をどうぞ、よろしくお願いします」

 周りから拍手やお祝いの言葉を受けるとお茶会は、上手くいったのだと実感が湧く。

 レイジェルと見つめ合えば、恥ずかしいのに嬉しい、そんな気持ちを味わっていた。すると、レイジェルの背後に控えていたラトがこっそりと耳打ちしてきた。

「ミリアンナ様は、レイジェル様に招待状をあげませんでしたよね?」
「え……?」
「貰えなかった事を気にして、いじけたので書いてあげて貰えますか?」

 苦笑いしながら言われた言葉に『マジか……』と思う。
 まさかレイジェルにも招待状をあげないといけないとは思わなかった。
 そもそも忙しくて来れないと思っていた。でも、俺が逆の立場だったなら、招待状を貰えないのは嫌かもしれない。そう思うと申し訳なくなる。そこまで気が回らなかった。

「必ず書きます」
「お願いします」

 レイジェルの招待状には、特別に花の絵でも添えようか──それから、渡す時は自分の手で直接あげよう。
 そんな事を考えながら、ラトと約束をした。

 それぞれがお茶会を楽しめば、終わりの時間が来た。
 お見送りが最後の仕事だった。
 シェリー達は、まだ国へ帰らないらしい。

「私達は、もう少しテレフベニアにいるから、みんなで例のお店に行きましょうよ」

 シェリーはデリルのお店に行きたいらしい。フェリシャもイリーナも行きたいと声を揃えた。
 了承しようとしたら、フロルがズイッと前に出た。

「それなら、デリルさんをこちらにお呼びします。王女様方でお出掛けになるのはやめて下さい」

 俺たちの会話を聞いていたフロルの至極真っ当な言葉にみんな唇を尖らせた。

「フロルは厳しいわ」

 シェリーが言えば、フロルはじっとりと俺たちを見つめてくる。

「皆様でお出掛けになったら護衛だらけで行く事になりますよ。あなた方は、国賓です。それぐらいの自覚はありますよね?」

 誰も何も言えなかった……。
 フロルにわかったと返事をして、みんなは部屋に戻って行った。
 王女を言い負かすなんてすごい侍女だと思った。
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