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入学後
エルド③ リンゼイ視点
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21歳で【冷酷無慈悲な悪魔】と誰もが恐れる大魔法使いになってしまったエルドは孤独だった。
私が学院を卒業すると、エルドは森に自宅を作りそこに移り住んだ。
街に出ると、英雄だと憧れの目で見られたり、怖がられるかのどちらかだった。
そのうちに外にあまり出なくなって、魔道具の研究を熱心にしていた。
この頃からエルドは耳にはピアスが増えていき、腕輪も指輪も首飾りもジャラジャラと付けるようになる。
それらは魔石や魔道具の一種みたいだけれど『なんかチャラくなったな』と言ったらクスクスと笑われた。
誰も来ないからと家に鍵なんて掛けなくて何度も注意した。
せめて大事な研究を守るための結界を張れと言った私に、エルドは屈託のない笑顔を向ける。
『簡単に破られる結界なんて張っても無意味だ。かと言って、俺が本気で結界を張ったら、リンゼイまで入れなくなるだろう? 俺はリンゼイが自由に出入りできない家はつまらない』
エルドは、いつだってこうやって何事もないように私を惑わす。
真っ赤になった顔を見られたくなくて下に向けた。
『リンゼイ。俺にはお前だけなんだ。これからもよろしく頼むよ』
エルドにそんな事を言われて胸がいっぱいで、なんて答えたのかは覚えていない。ただ、私を見つめて少年のように笑うエルドの笑顔だけが私の胸に焼き付いている。
一緒に暮らさないか? そう言いたいのにその一言を言葉にする勇気がなかった。
エルドは大魔法使いで、俺はただの魔法使い。差がありすぎた。
それからニ年後にエルドから腕輪を受け取った。
『この腕輪、リンゼイにやる』
『何の腕輪?』
『お守りだな。お前を守ってくれるお守り』
エルドからの贈り物……私が大事にしないわけはなかった。
常に肌身離さず身につけていた。
私には、何の変哲もない魔石が付いただけの普通の腕輪に見えた。
内側に何か文字が書いてあったけれど、魔法陣の一種なのか、私にはわからなかった。
エルドはやはり天才で、私は凡人だと思い知る。
そしてさらに一年の歳月が流れた。
エルドと共に過ごしたこの三年間は穏やかな日々だった。
エルドの隣に居れればそれだけで良かった。
そんな日々がずっと続くと思い込んでいた。
──だから、何度も後悔している。
エルドが死んだあの時、私がもう少し早くエルドの家に着いていれば何か違ったかもしれない。
家のドアは開けっ放しで、ドアを開けてすぐに発動したであろう魔法陣の中にエルドはいた。
膝をついて眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で何かに耐えていた。
それを見た瞬間、体は勝手に駆け出して、お土産に持ってきた荷物も全部投げ出して、エルドに向かって手を伸ばしていた。
『エルドッ!』
『来るなっ……!』
エルドが叫んだ瞬間に、何かの爆風で吹き飛ばされた。
外の木に背をぶつけてそのまま倒れ込んだ。
エルドも反動で吹き飛んで自分の家の壁に背を打ち付けられたようだった。
『エルド……』
薄れ行く意識の中で、倒れていたエルドに手を伸ばしても、もう届かなかった。
◆◇◆
目を覚ました時、私は全身を覆う半円形の結界の中にいた。
周りには魔法使いや騎士がいたけれど、誰もその結界を破れず、私に触れられなかったらしい。
誰も侵入することのできない結界なんてそんなものを作れるのはエルドしかいない。
腕輪にある魔石が光っていた。感じるのはエルドの魔力だった。
エルドが私を守ってくれていた。
すぐにエルドの所に行きたいのに、エルドの結界から出られない。
「エルド……これじゃ私もここから出られないじゃないか……」
そう思うのに、私を守ろうと誰も寄せつけないエルドの結界が嬉しくて泣けた。
ボロボロと涙が止まらなかった。
結界の強度はそれだけ私を守りたいと魔石に魔力を込めた証だ。
それは、魔石の魔力が尽きて光らなくなるまで続いた。
結界がなくなってすぐに、近くにいた人達に問いかけた。
『エルドは!?』
その質問に誰もが答えなかった。
打ち付けた背中が痛んでも、急いで最後にエルドを見た場所に向かった。そこには壁に背を預けたまま動かないエルドがいた。
目の前にいるのに何も反応を返さないエルドを、信じられない思いで見つめていた。
『エルド! エルドッ……! 目を覚まして……っ!』
何度呼んでも返事はなく、握った手にも触れた頰にも体温を感じなかった。
抱き寄せても、こちらに倒れるだけだった。
手の震えが止まらなかった。
なぜエルドがこんな事になっているのか全く理解ができなかった。
最強で、最高で、最愛の人を、こんなに急に失う事になるだなんて思ってもいなかった。
『嘘だ……こんなの……嘘だ……っ』
毎日が穏やかで、いなくなるなんて事を考えてもいなかったんだ。
ずっとこんな日が続けばいいだなんて思っていた。
幸せだと思っていた日々が、こんなにもあっさりと無くなった。
エルド……どうして私だけ生きてるんだ……。
どうして私だけが守られて──っ。
『エルド……ねぇ、エルド……愛しているから……行かないで……』
彼から返事はなかった。
やるせなくて、自分が情けなくて、ぐちゃぐちゃの感情のままエルドをきつく抱きしめた。
どれくらいそうしていたのかわからない……。
騎士に引き離されるまで、私はエルドから離れられなかった。
私が学院を卒業すると、エルドは森に自宅を作りそこに移り住んだ。
街に出ると、英雄だと憧れの目で見られたり、怖がられるかのどちらかだった。
そのうちに外にあまり出なくなって、魔道具の研究を熱心にしていた。
この頃からエルドは耳にはピアスが増えていき、腕輪も指輪も首飾りもジャラジャラと付けるようになる。
それらは魔石や魔道具の一種みたいだけれど『なんかチャラくなったな』と言ったらクスクスと笑われた。
誰も来ないからと家に鍵なんて掛けなくて何度も注意した。
せめて大事な研究を守るための結界を張れと言った私に、エルドは屈託のない笑顔を向ける。
『簡単に破られる結界なんて張っても無意味だ。かと言って、俺が本気で結界を張ったら、リンゼイまで入れなくなるだろう? 俺はリンゼイが自由に出入りできない家はつまらない』
エルドは、いつだってこうやって何事もないように私を惑わす。
真っ赤になった顔を見られたくなくて下に向けた。
『リンゼイ。俺にはお前だけなんだ。これからもよろしく頼むよ』
エルドにそんな事を言われて胸がいっぱいで、なんて答えたのかは覚えていない。ただ、私を見つめて少年のように笑うエルドの笑顔だけが私の胸に焼き付いている。
一緒に暮らさないか? そう言いたいのにその一言を言葉にする勇気がなかった。
エルドは大魔法使いで、俺はただの魔法使い。差がありすぎた。
それからニ年後にエルドから腕輪を受け取った。
『この腕輪、リンゼイにやる』
『何の腕輪?』
『お守りだな。お前を守ってくれるお守り』
エルドからの贈り物……私が大事にしないわけはなかった。
常に肌身離さず身につけていた。
私には、何の変哲もない魔石が付いただけの普通の腕輪に見えた。
内側に何か文字が書いてあったけれど、魔法陣の一種なのか、私にはわからなかった。
エルドはやはり天才で、私は凡人だと思い知る。
そしてさらに一年の歳月が流れた。
エルドと共に過ごしたこの三年間は穏やかな日々だった。
エルドの隣に居れればそれだけで良かった。
そんな日々がずっと続くと思い込んでいた。
──だから、何度も後悔している。
エルドが死んだあの時、私がもう少し早くエルドの家に着いていれば何か違ったかもしれない。
家のドアは開けっ放しで、ドアを開けてすぐに発動したであろう魔法陣の中にエルドはいた。
膝をついて眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で何かに耐えていた。
それを見た瞬間、体は勝手に駆け出して、お土産に持ってきた荷物も全部投げ出して、エルドに向かって手を伸ばしていた。
『エルドッ!』
『来るなっ……!』
エルドが叫んだ瞬間に、何かの爆風で吹き飛ばされた。
外の木に背をぶつけてそのまま倒れ込んだ。
エルドも反動で吹き飛んで自分の家の壁に背を打ち付けられたようだった。
『エルド……』
薄れ行く意識の中で、倒れていたエルドに手を伸ばしても、もう届かなかった。
◆◇◆
目を覚ました時、私は全身を覆う半円形の結界の中にいた。
周りには魔法使いや騎士がいたけれど、誰もその結界を破れず、私に触れられなかったらしい。
誰も侵入することのできない結界なんてそんなものを作れるのはエルドしかいない。
腕輪にある魔石が光っていた。感じるのはエルドの魔力だった。
エルドが私を守ってくれていた。
すぐにエルドの所に行きたいのに、エルドの結界から出られない。
「エルド……これじゃ私もここから出られないじゃないか……」
そう思うのに、私を守ろうと誰も寄せつけないエルドの結界が嬉しくて泣けた。
ボロボロと涙が止まらなかった。
結界の強度はそれだけ私を守りたいと魔石に魔力を込めた証だ。
それは、魔石の魔力が尽きて光らなくなるまで続いた。
結界がなくなってすぐに、近くにいた人達に問いかけた。
『エルドは!?』
その質問に誰もが答えなかった。
打ち付けた背中が痛んでも、急いで最後にエルドを見た場所に向かった。そこには壁に背を預けたまま動かないエルドがいた。
目の前にいるのに何も反応を返さないエルドを、信じられない思いで見つめていた。
『エルド! エルドッ……! 目を覚まして……っ!』
何度呼んでも返事はなく、握った手にも触れた頰にも体温を感じなかった。
抱き寄せても、こちらに倒れるだけだった。
手の震えが止まらなかった。
なぜエルドがこんな事になっているのか全く理解ができなかった。
最強で、最高で、最愛の人を、こんなに急に失う事になるだなんて思ってもいなかった。
『嘘だ……こんなの……嘘だ……っ』
毎日が穏やかで、いなくなるなんて事を考えてもいなかったんだ。
ずっとこんな日が続けばいいだなんて思っていた。
幸せだと思っていた日々が、こんなにもあっさりと無くなった。
エルド……どうして私だけ生きてるんだ……。
どうして私だけが守られて──っ。
『エルド……ねぇ、エルド……愛しているから……行かないで……』
彼から返事はなかった。
やるせなくて、自分が情けなくて、ぐちゃぐちゃの感情のままエルドをきつく抱きしめた。
どれくらいそうしていたのかわからない……。
騎士に引き離されるまで、私はエルドから離れられなかった。
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