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エルド② リンゼイ視点
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それから二年──。
エルドは、時々魔法を教えてくれたけれど、魔法使いとして隣国との戦いにも参加していた。
そんな中で流れてきた噂に耳を疑う。
『なぁ、エルドの事、聞いたか? 敵国の兵士も魔法使いも究極魔法で一瞬で焼き尽くしたってさ』
『全部焼き尽くされて、何も残らなかったんだろ?』
『そう。見ていた魔法使いがさ、あんな事ができるのは【冷酷無慈悲な悪魔】にしか違いないって言ってた。敵じゃなくてよかったってさ』
『そのおかげで、こっちは勝利して凱旋なんだろ? エルドは大魔法使いの称号をもらえるってな。憧れるよな』
『でもさ……そんなやつ……怖いと思わないか?』
級友たちの会話を聞いていられなくて、森へと足を向けた。
ここの所、エルドは森に来ていない。それでも私はエルドを待っていた。
その日もいないのだろうと思っていたけれど、草むらの上で寝転んでいるエルドを発見して思わず駆け寄った。
エルドの隣に座り込めば、目が開いて私を見上げた。
『リンゼイ……』
いつものエルドからは想像できない弱々しい声だった。
『帰ってきていたのか? 寝ていたのか?』
『ああ……少し疲れてさ……』
『それなら部屋に戻れば良かったのに』
『リンゼイの顔を見たくてね……』
フッと笑いながらそんな事を言う。
人の気も知らないで……。
そんな事を言われたら嬉しい。
他意はないとわかっていても、エルドの言葉に惑わされる。
エルドはそれ以上喋らずに、寝転んだまま言った通りに私の顔を見つめていた。
『あまり見るなよ……』
耐えられなくなって視線を逸らす。
『ははっ……わかったよ……』
エルドは、微笑みながら目を閉じた。
今度は私がエルドをジッと見つめる番だ。
いつもより青白い顔をしているようだった。
そよ風がサワサワと流れてエルドの髪を揺らす。
しばらくの沈黙の後、気になっていた事を遠慮がちに聞いてみた。
『エルド……あのさ……あの噂は……本当なのか?』
『本当だよ』
やけにあっさりと返されて反応に困る。
『俺は人殺しだ』
静かに……でも、はっきりと伝えられた言葉に胸の奥がズキンと痛くなる。
そこに生えている木ですら、生きていて焼き尽くすのは可哀想だと言ったエルドが、心を痛めていない訳はない。
『なんで……エルドがそんな事を? 嫌ならしなきゃ良かった』
パッと目を開けたエルドは、上半身を起こして私を見て微笑んだ。
『嫌じゃない。この国にはリンゼイがいる。あいつらを殺さないとリンゼイが殺されるなら、迷いなんかなかった』
それは……私の為って事なのか?
私の為に大勢の人を殺したって事なのか?
戦場に来る人達は、死ぬ覚悟がある人達だけれど、いくらなんでもそんな事……エルドがしなくて良かったんだ。
とても……とても……胸が痛い……。
『それに長引く分だけ死人も増える。一瞬で終わりにする方がいいと思った。戦いもこれで終結した。リンゼイが魔法使いになる前に──お前が戦場に出る前に全部終わりにしたかったんだ──』
感激しているのか悲しいのか、泣いてしまいそうなのを我慢して『ばかだ……』と囁くのが精一杯だった。
『ばかかな?』
『大ばかだよ……』
『ふふっ、ひどい言いようだ』
エルドは、なんて事ないように笑う。それが余計に苦しくさせる。
私の為にエルドが傷付く事なんてなかったんだ……。
『リンゼイ……疲れたからさ……膝だけ貸して』
笑顔でいても、私だけはエルドの心が泣いているのを知っている。
『ほら……』
『ありがと……』
エルドは、胡座をかいた私の足に頭を乗せて目を閉じた。
余程疲れていたんだろう。魔力の消耗も激しかったはずだ。何よりも心がすり減って疲弊しているようだった。
いつもより青白い顔色がこのまま目を覚まさないのではないかと思わせる。
それなのに、私に会いにきてくれた……胸がいっぱいだ。
『エルド……魔力の譲渡の方法は知ってるね?』
エルドの目がパッと開いた。
『お前──っ』
エルドの唇に自分の唇を重ねた。そよ風がサワリと吹いて心地良かった。
魔力の譲渡は口からだ。けれど、魔力を譲渡する際に優先されるのは、魔法使いとしての資質。
私とエルドなら明らかにエルドが優先される。私がエルドに魔力を渡そうとしても、エルドが拒否すれば渡せない。
逆にエルドが私の全ての魔力を吸い尽くす事もできる。だから、魔法使いは信頼できる相手としか唇を触れ合わせない。
エルドは、私の頭に手を添えて固定すると、遠慮なく口を開けて私の魔力を奪ってきた。舌を絡める必要はないのに、エルドの舌は私の舌を優しく撫でた。おかげで緊張していた体の力が抜けた。
私の魔力を半分以上奪われた頃に唇を離された。
エルドの顔を見れば、青白かった顔がほんのりと赤みが差していてホッと安心する。
この時のキスとは言えないキスは、私達の最初で最後のキスだった。
『リンゼイ……ありがとな』
私の頭にあった手は、頬に移動していた。見つめ合うのは照れくさいのに視線を逸らせなかった。
エルドの髪をゆっくり撫でる。
『全部搾り取られるかと思った……』
魔力が減った脱力感にはぁっと息を吐く。
『お前の魔力なら一滴残らず欲しいけどな』
それなら私の魔力を全部奪ってくれても良かった……私はそんな事しかしてやれない。
エルドはクスクスと笑う。
良かった……笑顔が見れた。
『体は大丈夫?』
『ああ。少し楽になった』
少しか……わかってはいたけれど、私の魔力量じゃエルドが回復するには全然足りないらしい。
『このままでいるからゆっくり寝るといいよ』
『そうするよ』
何度も何度もエルドのサラサラの金髪を撫でた。
少しして、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
エルド──私に君と同じ力があって、君の為に人を殺せと言われたなら、私も同じ事をしただろう。
私の為に何千という命を奪ったと言うのなら私も同罪だ。できる事ならエルドの罪を私も一緒に背負ってやりたかった。
エルドの顔が微笑んだ気がした。
その顔を見て、痛いくらい胸が締め付けられる。
エルドが苦しくないように、私は何をしてあげたらいいんだろう……。
エルドの為にしてあげられる事はないんだろうか……。
私はこの頃にはもう、エルドを心の底から愛してしまっていた。
エルドは、時々魔法を教えてくれたけれど、魔法使いとして隣国との戦いにも参加していた。
そんな中で流れてきた噂に耳を疑う。
『なぁ、エルドの事、聞いたか? 敵国の兵士も魔法使いも究極魔法で一瞬で焼き尽くしたってさ』
『全部焼き尽くされて、何も残らなかったんだろ?』
『そう。見ていた魔法使いがさ、あんな事ができるのは【冷酷無慈悲な悪魔】にしか違いないって言ってた。敵じゃなくてよかったってさ』
『そのおかげで、こっちは勝利して凱旋なんだろ? エルドは大魔法使いの称号をもらえるってな。憧れるよな』
『でもさ……そんなやつ……怖いと思わないか?』
級友たちの会話を聞いていられなくて、森へと足を向けた。
ここの所、エルドは森に来ていない。それでも私はエルドを待っていた。
その日もいないのだろうと思っていたけれど、草むらの上で寝転んでいるエルドを発見して思わず駆け寄った。
エルドの隣に座り込めば、目が開いて私を見上げた。
『リンゼイ……』
いつものエルドからは想像できない弱々しい声だった。
『帰ってきていたのか? 寝ていたのか?』
『ああ……少し疲れてさ……』
『それなら部屋に戻れば良かったのに』
『リンゼイの顔を見たくてね……』
フッと笑いながらそんな事を言う。
人の気も知らないで……。
そんな事を言われたら嬉しい。
他意はないとわかっていても、エルドの言葉に惑わされる。
エルドはそれ以上喋らずに、寝転んだまま言った通りに私の顔を見つめていた。
『あまり見るなよ……』
耐えられなくなって視線を逸らす。
『ははっ……わかったよ……』
エルドは、微笑みながら目を閉じた。
今度は私がエルドをジッと見つめる番だ。
いつもより青白い顔をしているようだった。
そよ風がサワサワと流れてエルドの髪を揺らす。
しばらくの沈黙の後、気になっていた事を遠慮がちに聞いてみた。
『エルド……あのさ……あの噂は……本当なのか?』
『本当だよ』
やけにあっさりと返されて反応に困る。
『俺は人殺しだ』
静かに……でも、はっきりと伝えられた言葉に胸の奥がズキンと痛くなる。
そこに生えている木ですら、生きていて焼き尽くすのは可哀想だと言ったエルドが、心を痛めていない訳はない。
『なんで……エルドがそんな事を? 嫌ならしなきゃ良かった』
パッと目を開けたエルドは、上半身を起こして私を見て微笑んだ。
『嫌じゃない。この国にはリンゼイがいる。あいつらを殺さないとリンゼイが殺されるなら、迷いなんかなかった』
それは……私の為って事なのか?
私の為に大勢の人を殺したって事なのか?
戦場に来る人達は、死ぬ覚悟がある人達だけれど、いくらなんでもそんな事……エルドがしなくて良かったんだ。
とても……とても……胸が痛い……。
『それに長引く分だけ死人も増える。一瞬で終わりにする方がいいと思った。戦いもこれで終結した。リンゼイが魔法使いになる前に──お前が戦場に出る前に全部終わりにしたかったんだ──』
感激しているのか悲しいのか、泣いてしまいそうなのを我慢して『ばかだ……』と囁くのが精一杯だった。
『ばかかな?』
『大ばかだよ……』
『ふふっ、ひどい言いようだ』
エルドは、なんて事ないように笑う。それが余計に苦しくさせる。
私の為にエルドが傷付く事なんてなかったんだ……。
『リンゼイ……疲れたからさ……膝だけ貸して』
笑顔でいても、私だけはエルドの心が泣いているのを知っている。
『ほら……』
『ありがと……』
エルドは、胡座をかいた私の足に頭を乗せて目を閉じた。
余程疲れていたんだろう。魔力の消耗も激しかったはずだ。何よりも心がすり減って疲弊しているようだった。
いつもより青白い顔色がこのまま目を覚まさないのではないかと思わせる。
それなのに、私に会いにきてくれた……胸がいっぱいだ。
『エルド……魔力の譲渡の方法は知ってるね?』
エルドの目がパッと開いた。
『お前──っ』
エルドの唇に自分の唇を重ねた。そよ風がサワリと吹いて心地良かった。
魔力の譲渡は口からだ。けれど、魔力を譲渡する際に優先されるのは、魔法使いとしての資質。
私とエルドなら明らかにエルドが優先される。私がエルドに魔力を渡そうとしても、エルドが拒否すれば渡せない。
逆にエルドが私の全ての魔力を吸い尽くす事もできる。だから、魔法使いは信頼できる相手としか唇を触れ合わせない。
エルドは、私の頭に手を添えて固定すると、遠慮なく口を開けて私の魔力を奪ってきた。舌を絡める必要はないのに、エルドの舌は私の舌を優しく撫でた。おかげで緊張していた体の力が抜けた。
私の魔力を半分以上奪われた頃に唇を離された。
エルドの顔を見れば、青白かった顔がほんのりと赤みが差していてホッと安心する。
この時のキスとは言えないキスは、私達の最初で最後のキスだった。
『リンゼイ……ありがとな』
私の頭にあった手は、頬に移動していた。見つめ合うのは照れくさいのに視線を逸らせなかった。
エルドの髪をゆっくり撫でる。
『全部搾り取られるかと思った……』
魔力が減った脱力感にはぁっと息を吐く。
『お前の魔力なら一滴残らず欲しいけどな』
それなら私の魔力を全部奪ってくれても良かった……私はそんな事しかしてやれない。
エルドはクスクスと笑う。
良かった……笑顔が見れた。
『体は大丈夫?』
『ああ。少し楽になった』
少しか……わかってはいたけれど、私の魔力量じゃエルドが回復するには全然足りないらしい。
『このままでいるからゆっくり寝るといいよ』
『そうするよ』
何度も何度もエルドのサラサラの金髪を撫でた。
少しして、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
エルド──私に君と同じ力があって、君の為に人を殺せと言われたなら、私も同じ事をしただろう。
私の為に何千という命を奪ったと言うのなら私も同罪だ。できる事ならエルドの罪を私も一緒に背負ってやりたかった。
エルドの顔が微笑んだ気がした。
その顔を見て、痛いくらい胸が締め付けられる。
エルドが苦しくないように、私は何をしてあげたらいいんだろう……。
エルドの為にしてあげられる事はないんだろうか……。
私はこの頃にはもう、エルドを心の底から愛してしまっていた。
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