大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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入学後

エルド④ リンゼイ視点

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 エルドの家は爆風で所々壊れていたけれど、家の地下にあった魔道具は無事で、マベルが全て回収しようとした。

 それを阻止しようとすれば、何人もの兵士に取り押さえられる。
 床に倒されて、両手を背中に固定された。
 身動きが取れない状態でも、マベルを睨み付ける。

 マベルは私たちと同じ時期に学院で学んで魔法使いになった一人だ。
 私は三つ星の魔法使いだけれど、マベルは四つ星だ。
 王城で働くようなエリートだった。

『ふざけるなっ! エルドの魔道具を勝手に持ち出さないでくれ!』
『こんな素晴らしい研究をどうして世に出さないのです』
『そういう問題じゃないっ!』

 今まで腫れ物を扱うように、誰もエルドに見向きもしなかった。それなのに今更魔道具を寄越せだなんてふざけている。

『エルドは金とか名誉が欲しかったんじゃない! ただ純粋に魔法の研究をしていただけだ!』
『これは国の決定です。リンゼイは王命に逆らうのですか?』
『国王陛下でも、なぜそんな勝手な事ができるんだ!』
『リンゼイ……邪魔をしないで下さい。反逆罪になります。僕はあなたを捕らえたくない』

 そんな馬鹿な話があってたまるか!

『捕らえるなり好きにするといい! だから、エルドの研究をそのままにしておいてくれっ……!』

 彼が残したものを持っていかないでくれ!

『──エルドは、リンゼイが捕まることを望んでいるとは思えません』

 静かに伝えられた言葉に言い返せなかった。
 エルドはきっと魔道具なんかよりお前の方が大事だと言うんだ。
 私が無事ならそれでいいと……あの屈託のない笑顔で笑うんだ。
 やるせない気持ちが渦巻く。

『リンゼイはエルドの魔法陣に守られていたらしいですね。エルドが必死で守ったあなたを、僕は捕らえたくないんです』

 エルド……私は……どうすればいいんだ……。

 床に倒されたまま、魔法の一つも発動できない無力な自分が悔しくて、奥歯をギリギリと噛み締めた。

 結局、私はエルドの魔道具を持ち出させれるのを床に這いつくばって悲痛な想いで見ていることしかできなかった。

     ◆◇◆

 学院の教師として魔法を教えて欲しいと言われたのは一年前だった。
 学長は私の事を知っていて、エルドとの関係も知っていた。
 70歳くらいのはずなのに、全然歳をとっているように見えない。
 数少ない大魔法使いの称号を持っている人だった。
 国からも一目置かれる存在だ。

『エルドが亡くなって、もう二年も経つだろう? 教師は君に向いていると思うよ』
『ですが……』

 何もやる気が出なかった。エルドのいないこの世界が私には無意味でしかなかった。

『君の時間だけが止まっている……』

 優しい眼差しを向けられる。
 自分の腕につけたままの腕輪にそっと触れた。

『私の時間が止まっているのなら当たり前なんです。私の心はずっとエルドに奪われたまま、この先も何も変わりません』
『それでも、前に進むのが人であり、魔法使いさ。何もせずにいるな。考える事をやめるな。いいじゃないか、奪われたままの心で。人を愛せなければ、魔法使いではなくなるよ』

 厳しくも優しく諭される。

『エルドは、迷わなかった。人を殺す道具だと言われても、自分はたった一人の為に魔法を使うんだと言っていた。そのたった一人が誰だかわかるかい?』

 エルドのたった一人……。

『君は、エルドの特別な人だった──』

 学長の言葉が胸に刺さる。
 いつだってエルドは真っ直ぐに私を見ていた。
 最後の爆風も、エルドの代わりになろうとした私を遠ざけようとしたに違いない。
 私はずっとエルドに守られていた。

 私も守りたかった……。

 寂しがり屋で孤独な彼を──。

 自分の不甲斐なさに涙が出た。
 エルドの気持ちを何もわかっていなかった。
 不釣り合いだと言い訳ばかりして、エルドから逃げていた。
 もっと一緒にいてやれば良かった。もっと自分の気持ちに正直になれば良かった。
 どうして何も伝えられずにいられたのか……後悔しても、もうエルドはいない。

 私は、エルドを想いながら前に進むと決めた。
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