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入学後
ちょっとおかしい同級生 エーベルト視点
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僕の同級生であるディノ・バスカルディはちょっとおかしい。
髪乾燥機の話し合いの最中におかしい発言をした。
「えっと……僕は、魔法陣を作るのが得意で、その……魔法陣を書き換えながら、試行錯誤して作ります」
魔法陣を作るのが得意って……普通じゃない。
そんな難しい事ができるのは、魔法陣の知識が沢山ないと無理だと思う。
僕もケフィンもメルフィスも、同じように思っていたようで『ここはディノの言う通りにしてやろう』と三人で頷き合う。
ディノがお風呂に入っている間に三人で話し合う。
「ディノって普通と違うよね……」
思っている事がそのまま口に出た。
僕の言葉にケフィンが頷いた。
「だよな! 召喚魔法陣が描ける事もすげーもんな」
「魔獣も半分だけど呼べたもの。もしかしたら、ディノって僕たちよりもずっとすごい人なんじゃない?」
本人は隠したがっている雰囲気があるのでみんな黙っている。
「そうかもな。いたずらさえしなきゃ尊敬できたかも!」
ケフィンはいたずらされるのを根に持ってるらしい。
「ただ……魔法が壊滅的に下手くそだよな」
メルフィスの言った事にみんなで苦笑いする。そこもまた愛嬌だと思う。
「天才だけど、完璧じゃないって事だろ? 俺らでフォローしてやればいいさ」
ケフィンがニカッと笑う。
ケフィンのこういう前向きな考え方は好きだ。
「そうだね。でも、髪乾燥機はディノが材料用意して、魔法陣も作るんでしょ? 僕たちする事ないのに一緒に作った事にしていいのかな……」
特にする事もないのに、連名で学院に提出するのは如何なものかと思う。
「それなら、俺たちで作った物じゃなくて、ディノの名前で提出すればいいんじゃないか?」
メルフィスの提案にケフィンと共に頷いた。
◆◇◆
しばらくして、ディノは髪乾燥機の試作品だと言って魔道具を僕たちに見せてくれた。
テーブルの上に置かれた髪乾燥機をみんなで取り囲む。
僕が書いた物と同じ物が、真っ白な陶器で再現されていてすごいと思った。
手に持ってみると持ちづらい。
「これ、少し大きいかな? もう少し小さい方が軽くもなるし、持ちやすいと思う」
「わかりました。次はもう少し小さくします」
僕たちの感想をディノがメモしていく。
「なぁ、これ、デザインはどうすんだ? このままじゃつまんないだろ?」
「それなら、ケフィンがデザインを考えますか?」
「いいのか!? 赤とかさ、かっこいいやつにしようぜ!」
ケフィンも楽しそうだ。赤が好きなのは見た目でわかる。
「メルフィス、ちょっと魔力を通してみて下さい」
メルフィスが手に持って魔力を通せば、筒状の先っぽから風が出てきた。
「「おおっ!」」
ケフィンと一緒に感動したけど、なんかちょっと──。
「ディノ……これ、風が弱すぎるよ……」
そよ風みたいにそよそよと出ているだけで、全然髪が乾く気がしない。
「ありゃりゃ。そうみたいですね。風が出た事で満足しちゃってました。次はもっと強くします」
みんなで苦笑いする。
「あとさ、もう少しこの風が温かくならないか? そしたらもっと早く乾くよな?」
ケフィンが言う。
「それなら、火魔法の魔法陣も端っこに描いておきますか」
「それ……髪燃えない?」
風と火は相性がいい。火の勢いの方が強くなったら髪が燃えちゃう。それで頭がチリチリになったら笑えない。確実に泣く。
「だったら、アルコールランプで水を温める要領で風と火の間を遮ったらどうだ? それでも風は温まるんじゃないか?」
メルフィスの言葉になるほどとみんなで頷く。
「風が発動する部屋と火を発動する部屋を分ければ、チリチ──コホンッ。髪が燃えるのは防げるね」
チリチリって言うところだった。
「あっ! 火魔法の発動場所は持ち手の所にするなよ! 熱くて持てなくなるからな!」
ケフィンの言葉にディノが頷く。
「それなら、ちょうどこのくの字の折れ曲がっているところに火魔法が発動する部屋を作れば問題なさそうですね」
こうやってみんなで意見を出し合うのってすごく楽しい。
ディノも楽しそうにメモをしていた。
◆◇◆
そうして、一年が終わる頃に、みんなの意見をまとめた髪乾燥機は完成した。
試作品よりも一回り小さくなってそれほど重くもない。
赤を基調にしたデザインは、髪を早く乾かしてくれそうで見た目はいい。
持ち手のところにちゃんと魔石を嵌める場所もあった。
メルフィスが魔力を通せば、温かい風がブォォォッと出てきていい感じ。
持ち手も熱くならない。うまく遮られているようだ。
火魔法の発動には酸素が必要だったようで、くの字のところに小さな穴が空いていた。
そこまで頭が回らなかった。やっぱりディノは凄い。
その場所を触っても温かくなるだけで、それほど熱くもなくて安心だ。
今は、ディノがお風呂上がりに使っている。
自分では魔力を通すのに時間がかかると言って、僕が乾かしてあげている。
ディノの髪、サラサラ~。
子供の頃から猫や犬など触り心地が良いものが大好きな僕にはご褒美だ。
「はぁ……気持ちいいですねぇ」
ディノの顔がフニャリとする。
「俺みたいに髪が長くなくても使えるからいいよな。使い心地も最高」
ディノの前に髪乾燥機を試したケフィンも満足そうだ。
ディノの髪が綺麗に乾いた。髪乾燥機を止めてディノに手渡した。
「明日はみんなでこれを提出に行きましょう」
ウキウキしているディノに、遠慮がちに声をかけた。
「それなんだけど……それ、作ったのディノでしょう? ディノが一人で提出していいよ」
ディノにキョトンとされる。
「何を言っているんですか? みんなの意見があったからできたんです。君たちと僕で作った魔道具です」
三人で顔を見合わせる。
「でも……」
やっぱりディノの功績だと思う。
僕たちが、それ以上何も言わないでいると、ディノは髪をガシガシと掻いてから僕たちを見据えてきた。
普段では見れない表情にみんなで驚いていた。
「あのなぁ、一人でできるならお前らに言わないで作ってるって。何もしてないなんて言うな。これは、俺たち四人の作品なんだ。俺はお前らとこれを作ってて楽しかった。お前らはそうじゃなかったのか?」
ディノの口調が乱暴なのに、違和感がなかった。むしろ今の方がディノっぽい。
だからこそ、僕は嬉しかった。これが本音って事だもん。思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ。もちろん、楽しかったよ」
ディノに笑顔を向けたら少し照れた。
ディノは意外と照れ屋だ。一緒に過ごしていてわかってきた。
「それじゃあ、明日は四人で行く──行きます。いいですね?」
今更わざわざ言い直したディノにクスクスと笑う。
ケフィンもメルフィスも笑った。
「ああ! 俺らの作品ね! へへっ。これなら絶対《優良》もらえるぜ!」
ケフィンが言えば、メルフィスも頷く。
「だな。俺も満足している」
最後に僕に注目が集まった。
「うん。僕らの初めての共同作業だもんね。みんなで作ったものだもの。一緒に提出しに行こう」
完成した髪乾燥機を見つめてみんなで嬉しくなる。
その中でも、ディノが一番嬉しそうだった。
髪乾燥機の話し合いの最中におかしい発言をした。
「えっと……僕は、魔法陣を作るのが得意で、その……魔法陣を書き換えながら、試行錯誤して作ります」
魔法陣を作るのが得意って……普通じゃない。
そんな難しい事ができるのは、魔法陣の知識が沢山ないと無理だと思う。
僕もケフィンもメルフィスも、同じように思っていたようで『ここはディノの言う通りにしてやろう』と三人で頷き合う。
ディノがお風呂に入っている間に三人で話し合う。
「ディノって普通と違うよね……」
思っている事がそのまま口に出た。
僕の言葉にケフィンが頷いた。
「だよな! 召喚魔法陣が描ける事もすげーもんな」
「魔獣も半分だけど呼べたもの。もしかしたら、ディノって僕たちよりもずっとすごい人なんじゃない?」
本人は隠したがっている雰囲気があるのでみんな黙っている。
「そうかもな。いたずらさえしなきゃ尊敬できたかも!」
ケフィンはいたずらされるのを根に持ってるらしい。
「ただ……魔法が壊滅的に下手くそだよな」
メルフィスの言った事にみんなで苦笑いする。そこもまた愛嬌だと思う。
「天才だけど、完璧じゃないって事だろ? 俺らでフォローしてやればいいさ」
ケフィンがニカッと笑う。
ケフィンのこういう前向きな考え方は好きだ。
「そうだね。でも、髪乾燥機はディノが材料用意して、魔法陣も作るんでしょ? 僕たちする事ないのに一緒に作った事にしていいのかな……」
特にする事もないのに、連名で学院に提出するのは如何なものかと思う。
「それなら、俺たちで作った物じゃなくて、ディノの名前で提出すればいいんじゃないか?」
メルフィスの提案にケフィンと共に頷いた。
◆◇◆
しばらくして、ディノは髪乾燥機の試作品だと言って魔道具を僕たちに見せてくれた。
テーブルの上に置かれた髪乾燥機をみんなで取り囲む。
僕が書いた物と同じ物が、真っ白な陶器で再現されていてすごいと思った。
手に持ってみると持ちづらい。
「これ、少し大きいかな? もう少し小さい方が軽くもなるし、持ちやすいと思う」
「わかりました。次はもう少し小さくします」
僕たちの感想をディノがメモしていく。
「なぁ、これ、デザインはどうすんだ? このままじゃつまんないだろ?」
「それなら、ケフィンがデザインを考えますか?」
「いいのか!? 赤とかさ、かっこいいやつにしようぜ!」
ケフィンも楽しそうだ。赤が好きなのは見た目でわかる。
「メルフィス、ちょっと魔力を通してみて下さい」
メルフィスが手に持って魔力を通せば、筒状の先っぽから風が出てきた。
「「おおっ!」」
ケフィンと一緒に感動したけど、なんかちょっと──。
「ディノ……これ、風が弱すぎるよ……」
そよ風みたいにそよそよと出ているだけで、全然髪が乾く気がしない。
「ありゃりゃ。そうみたいですね。風が出た事で満足しちゃってました。次はもっと強くします」
みんなで苦笑いする。
「あとさ、もう少しこの風が温かくならないか? そしたらもっと早く乾くよな?」
ケフィンが言う。
「それなら、火魔法の魔法陣も端っこに描いておきますか」
「それ……髪燃えない?」
風と火は相性がいい。火の勢いの方が強くなったら髪が燃えちゃう。それで頭がチリチリになったら笑えない。確実に泣く。
「だったら、アルコールランプで水を温める要領で風と火の間を遮ったらどうだ? それでも風は温まるんじゃないか?」
メルフィスの言葉になるほどとみんなで頷く。
「風が発動する部屋と火を発動する部屋を分ければ、チリチ──コホンッ。髪が燃えるのは防げるね」
チリチリって言うところだった。
「あっ! 火魔法の発動場所は持ち手の所にするなよ! 熱くて持てなくなるからな!」
ケフィンの言葉にディノが頷く。
「それなら、ちょうどこのくの字の折れ曲がっているところに火魔法が発動する部屋を作れば問題なさそうですね」
こうやってみんなで意見を出し合うのってすごく楽しい。
ディノも楽しそうにメモをしていた。
◆◇◆
そうして、一年が終わる頃に、みんなの意見をまとめた髪乾燥機は完成した。
試作品よりも一回り小さくなってそれほど重くもない。
赤を基調にしたデザインは、髪を早く乾かしてくれそうで見た目はいい。
持ち手のところにちゃんと魔石を嵌める場所もあった。
メルフィスが魔力を通せば、温かい風がブォォォッと出てきていい感じ。
持ち手も熱くならない。うまく遮られているようだ。
火魔法の発動には酸素が必要だったようで、くの字のところに小さな穴が空いていた。
そこまで頭が回らなかった。やっぱりディノは凄い。
その場所を触っても温かくなるだけで、それほど熱くもなくて安心だ。
今は、ディノがお風呂上がりに使っている。
自分では魔力を通すのに時間がかかると言って、僕が乾かしてあげている。
ディノの髪、サラサラ~。
子供の頃から猫や犬など触り心地が良いものが大好きな僕にはご褒美だ。
「はぁ……気持ちいいですねぇ」
ディノの顔がフニャリとする。
「俺みたいに髪が長くなくても使えるからいいよな。使い心地も最高」
ディノの前に髪乾燥機を試したケフィンも満足そうだ。
ディノの髪が綺麗に乾いた。髪乾燥機を止めてディノに手渡した。
「明日はみんなでこれを提出に行きましょう」
ウキウキしているディノに、遠慮がちに声をかけた。
「それなんだけど……それ、作ったのディノでしょう? ディノが一人で提出していいよ」
ディノにキョトンとされる。
「何を言っているんですか? みんなの意見があったからできたんです。君たちと僕で作った魔道具です」
三人で顔を見合わせる。
「でも……」
やっぱりディノの功績だと思う。
僕たちが、それ以上何も言わないでいると、ディノは髪をガシガシと掻いてから僕たちを見据えてきた。
普段では見れない表情にみんなで驚いていた。
「あのなぁ、一人でできるならお前らに言わないで作ってるって。何もしてないなんて言うな。これは、俺たち四人の作品なんだ。俺はお前らとこれを作ってて楽しかった。お前らはそうじゃなかったのか?」
ディノの口調が乱暴なのに、違和感がなかった。むしろ今の方がディノっぽい。
だからこそ、僕は嬉しかった。これが本音って事だもん。思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ。もちろん、楽しかったよ」
ディノに笑顔を向けたら少し照れた。
ディノは意外と照れ屋だ。一緒に過ごしていてわかってきた。
「それじゃあ、明日は四人で行く──行きます。いいですね?」
今更わざわざ言い直したディノにクスクスと笑う。
ケフィンもメルフィスも笑った。
「ああ! 俺らの作品ね! へへっ。これなら絶対《優良》もらえるぜ!」
ケフィンが言えば、メルフィスも頷く。
「だな。俺も満足している」
最後に僕に注目が集まった。
「うん。僕らの初めての共同作業だもんね。みんなで作ったものだもの。一緒に提出しに行こう」
完成した髪乾燥機を見つめてみんなで嬉しくなる。
その中でも、ディノが一番嬉しそうだった。
応援ありがとうございます!
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