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二人の出会い
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近嗣の父親はろくでなしだった。仕事を辞めてからまともに働かず、浮気をしては問い詰められると母親に暴力を振るう人だった。
近嗣は、子供心に母親を守ろうと父親に掴みかかった。すると、近嗣も殴られた。
それを見て我慢の限界が来た母親は、父親と離婚する。近嗣が小学生の時に別のアパートに引っ越して、母子家庭になった。
近嗣は、そんな幼少期を過ごしていて、引っ越しと同時に転校した事も重なって友達は皆無だった。
それだけではなく、口数も少ない上に成長が早く、怯えられてしまい誤解されやすかった。
中学生になってそれがひどくなり、容姿が良い事も重なって妬まれる事は多く、誰かの彼女を奪っただとか、因縁をつけられやすかった。
喧嘩をしたいわけではないのに、周りは勝手に近嗣を巻き込んで目の敵にする。悪循環だった。
近嗣は、いくら因縁をつけられても、夜遅くまで働く母親に迷惑を掛けまいと何も言わなかった。それが裏目に出てしまい、中三の時の面談で母親はその事を初めて知って、ショックを受けたようだった。
『チカ……あんたはもっと私に甘えなさい』
そんな風に言われても、甘え方なんてわからなかった。
友達が居ないのではと心配した母親は、幼馴染の看護師に相談する。すると、医者と結婚していたその友達は、自分の息子が一歳違いで歳が近く、丁度いい話し相手になるとして紹介したのが美羽だった。
『明日は美羽くんが来るから、近嗣は早く帰って来るのよ』
母親にそう言われても、近嗣はその日は家に帰らずに時間を潰していた。
自分に友達が必要だとは思えなかったし、関わるのも嫌だった。
もういないであろうと夜になって家に帰れば、予想とは裏腹に美羽は近嗣を出迎えた。
美羽に初めて会った時の感想は、自分とは違う人種の綺麗な男だった。
高校のブレザーの制服がやけに大人に見えた。
『おかえり』
誰かにそう言われたのは久しぶりで、近嗣はすぐに返事ができなかった。
『挨拶は人として基本だろう?』
眼鏡の奥の目を細めてそう言った美羽に、近嗣はどうしてなのか素直に答えてしまう。
『た……ただいま……』
『よし』
ニヤッと笑った美羽は、その日から毎日家にいた。
いくら遅くなろうと、美羽は近嗣をずっと待っていた。
そして必ず『おかえり』と言ってくれた。
『チカ、こっちは夕飯を食べないで待っているんだ。早く帰って来ないとお前の家で餓死してしまう』
近嗣からしたら、勝手に待っているのにそんな事は関係ないだろうと思う。
でも、思うだけで言わなかった。
チカと呼ばれた事も、待ってくれている事も嬉しかったからだ。
こうなると、近嗣は美羽が家で待っていてくれる事が楽しみになっていく。
いつの間にか早く帰るようになった近嗣は、すっかり美羽に懐いていた。
料理は自然と覚えていたし、美羽の為に作る料理は楽しかった。いつも一人で食べる夕食を美味しいと思った事はないのに、美羽と一緒に食べるだけで美味しいと思えた。
美羽が宿題を見てやると言えば大人しく従った。近嗣が宿題をやったのは何年振りで、提出した時の先生の間抜けな顔を近嗣は心の中で笑っていた。
美羽といると毎日が楽しい。
そんな毎日に慣れていたある日、近嗣が家に帰ったら美羽は居なかった。
誰も居ない家で『ただいま……』と呟いた瞬間に、近嗣の中で何かがキレた。
急いで家を飛び出して美羽を探そうとしても、連絡先も知らなければ、美羽の住所も行きそうな場所も知らなかった。
それでも走り出そうとした瞬間に腕をガシッと掴まれた。
近嗣が驚いて振り返れば、そこに居たの美羽だった。
『悪い。今日はちょっと学校で色々あって遅くなった』
近嗣は、微笑む美羽を見た瞬間に、ギュッと抱き着いた。
『みぃちゃぁぁん』
この時初めて近嗣は美羽の名前を呼んだ。年上である美羽を呼び捨てに出来なくて、かと言って先輩とも違う。そんな中で近嗣が絞り出した名前だった。
『なんだその呼び方は……』
苦笑いしながら、ポンポンと背中を叩く美羽に近嗣はどんなに安心した事か……。
『俺、みぃちゃんがいないと生きてけない……』
近嗣が絞り出すようにそう呟けば、美羽はため息をつきながらも笑った。
『急にぶっ飛んだ事を言うな……僕がいなくても生きてもらわなきゃ困る』
近嗣は美羽にぎゅうぎゅうと抱きついたまま離れようとしなかった。
『生きてけないくらい好き……』
『──それなら、僕と付き合うか?』
近嗣は、美羽の顔を覗き込んだ。
自信満々に微笑む美羽に近嗣の胸がキュンと鳴る。
『ほ、本当……!?』
『ああ。ほら、こんな所では人目につく。家の中に入るぞ』
手を繋がれて引っ張られれば、これは現実なんだと美羽の体温が教えてくれた。
こうして二人の交際は始まった。
近嗣は、子供心に母親を守ろうと父親に掴みかかった。すると、近嗣も殴られた。
それを見て我慢の限界が来た母親は、父親と離婚する。近嗣が小学生の時に別のアパートに引っ越して、母子家庭になった。
近嗣は、そんな幼少期を過ごしていて、引っ越しと同時に転校した事も重なって友達は皆無だった。
それだけではなく、口数も少ない上に成長が早く、怯えられてしまい誤解されやすかった。
中学生になってそれがひどくなり、容姿が良い事も重なって妬まれる事は多く、誰かの彼女を奪っただとか、因縁をつけられやすかった。
喧嘩をしたいわけではないのに、周りは勝手に近嗣を巻き込んで目の敵にする。悪循環だった。
近嗣は、いくら因縁をつけられても、夜遅くまで働く母親に迷惑を掛けまいと何も言わなかった。それが裏目に出てしまい、中三の時の面談で母親はその事を初めて知って、ショックを受けたようだった。
『チカ……あんたはもっと私に甘えなさい』
そんな風に言われても、甘え方なんてわからなかった。
友達が居ないのではと心配した母親は、幼馴染の看護師に相談する。すると、医者と結婚していたその友達は、自分の息子が一歳違いで歳が近く、丁度いい話し相手になるとして紹介したのが美羽だった。
『明日は美羽くんが来るから、近嗣は早く帰って来るのよ』
母親にそう言われても、近嗣はその日は家に帰らずに時間を潰していた。
自分に友達が必要だとは思えなかったし、関わるのも嫌だった。
もういないであろうと夜になって家に帰れば、予想とは裏腹に美羽は近嗣を出迎えた。
美羽に初めて会った時の感想は、自分とは違う人種の綺麗な男だった。
高校のブレザーの制服がやけに大人に見えた。
『おかえり』
誰かにそう言われたのは久しぶりで、近嗣はすぐに返事ができなかった。
『挨拶は人として基本だろう?』
眼鏡の奥の目を細めてそう言った美羽に、近嗣はどうしてなのか素直に答えてしまう。
『た……ただいま……』
『よし』
ニヤッと笑った美羽は、その日から毎日家にいた。
いくら遅くなろうと、美羽は近嗣をずっと待っていた。
そして必ず『おかえり』と言ってくれた。
『チカ、こっちは夕飯を食べないで待っているんだ。早く帰って来ないとお前の家で餓死してしまう』
近嗣からしたら、勝手に待っているのにそんな事は関係ないだろうと思う。
でも、思うだけで言わなかった。
チカと呼ばれた事も、待ってくれている事も嬉しかったからだ。
こうなると、近嗣は美羽が家で待っていてくれる事が楽しみになっていく。
いつの間にか早く帰るようになった近嗣は、すっかり美羽に懐いていた。
料理は自然と覚えていたし、美羽の為に作る料理は楽しかった。いつも一人で食べる夕食を美味しいと思った事はないのに、美羽と一緒に食べるだけで美味しいと思えた。
美羽が宿題を見てやると言えば大人しく従った。近嗣が宿題をやったのは何年振りで、提出した時の先生の間抜けな顔を近嗣は心の中で笑っていた。
美羽といると毎日が楽しい。
そんな毎日に慣れていたある日、近嗣が家に帰ったら美羽は居なかった。
誰も居ない家で『ただいま……』と呟いた瞬間に、近嗣の中で何かがキレた。
急いで家を飛び出して美羽を探そうとしても、連絡先も知らなければ、美羽の住所も行きそうな場所も知らなかった。
それでも走り出そうとした瞬間に腕をガシッと掴まれた。
近嗣が驚いて振り返れば、そこに居たの美羽だった。
『悪い。今日はちょっと学校で色々あって遅くなった』
近嗣は、微笑む美羽を見た瞬間に、ギュッと抱き着いた。
『みぃちゃぁぁん』
この時初めて近嗣は美羽の名前を呼んだ。年上である美羽を呼び捨てに出来なくて、かと言って先輩とも違う。そんな中で近嗣が絞り出した名前だった。
『なんだその呼び方は……』
苦笑いしながら、ポンポンと背中を叩く美羽に近嗣はどんなに安心した事か……。
『俺、みぃちゃんがいないと生きてけない……』
近嗣が絞り出すようにそう呟けば、美羽はため息をつきながらも笑った。
『急にぶっ飛んだ事を言うな……僕がいなくても生きてもらわなきゃ困る』
近嗣は美羽にぎゅうぎゅうと抱きついたまま離れようとしなかった。
『生きてけないくらい好き……』
『──それなら、僕と付き合うか?』
近嗣は、美羽の顔を覗き込んだ。
自信満々に微笑む美羽に近嗣の胸がキュンと鳴る。
『ほ、本当……!?』
『ああ。ほら、こんな所では人目につく。家の中に入るぞ』
手を繋がれて引っ張られれば、これは現実なんだと美羽の体温が教えてくれた。
こうして二人の交際は始まった。
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