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夕焼けの中、二人で帰路を歩いていると、すぐ横のドアが開いた。
店先に吊るすランプを手に、年配の穏やかそうな人がランドルフに微笑みかける。
「やあ、久しぶりだね。食べていくかい?」
半分開いたドアの隙間から美味しそうな匂いが漂ってくる。
斡旋所の人達から、メイン通り側に大きな窓がない店には入るなと厳命されており、小窓しかないこの店には入ったことがなかった。
ジェシカと一緒に食べて帰る時も、三店舗の中から相談して決める。
三店舗とも帰り道にあるし、安くておいしいが、新たな店にも入ってみたいとずっと思っていた。
ランドルフが一緒ならいいよね。
それに、町の人とも顔見知りになり、私が職業斡旋所に勤務していることも知られてきた。何かあれば、すぐに斡旋所の関係者に連絡が行くだろう。
もう二十歳になったし、少しずつ過保護から脱出していきたい。
ランドルフの袖をクイッと引っ張って、ここに入りたいとアピールしてみる。
見上げたランドルフの顔が夕日に照らされ朱に染まっている。瞬時に手が伸びてきて私の両眼を塞いだ。
――えっ、意味が分からないんですけど?
なんだかわからないけど、お店の人にも私にも感じ悪いよね?外してもらおうと、腕を引っ張るがびくともしない。爪を立てても良いだろうか?
「あーーーー、マスター。今日は無理だ。また寄る」
「ランドルフがそんな顔してるってことは、隣にいるのが噂のアリーちゃんかい?いやいや、睨むなって。挨拶もさせてくれないのかい?」
噂ってなに。良い噂?悪い噂?
「あのっ、はじめまして。アリーと申し――もうっ!手を外してよ。ランドルフ!!」
「じゃあな、マスター」
「ちょっと、目隠ししたまま引っ張らないでよぉ。こけちゃうぅぅーー」
「はははっ、またなっ」
しばらくして、手は外してもらえたが――
ここは家と反対方向では?職場も通り過ぎてるし、日も暮れてしまった。
目の前には、白い漆喰壁に赤レンガがアクセントになっている料理店があった。
「ん、今日はここで食べて帰るぞ」
「ほんと!?いいの?」
自炊するつもりだった事をすっかり忘れて、初めて入る店に心が躍る。
「目が輝いているぞ。そんなに腹が減ってたのか」
失礼な奴だな。
文句を言ってやろうと見上げたのに、あまりにも優しく微笑んでいて、言葉を失う。
――やめて、そんな風に見ないで
「たまには、いつもと違う店に行きたかったよな」
微笑んだまま、とろりと溶けた瞳から目が離せない。
――私を女として見てくれないくせに
「入ろう。うまいぞ。でも一人では来るなよ」
ランドルフが扉の方に顔を向けて、やっと魔法が解けた。
お店の中は暖炉に軽く火が入っていて、レインコート代わりに着て来た薄いロングコートを脱いだ。
いつもは、家族連れの多い庶民的なお店に入るので、手荷物は自席に置くのだが、ここは、簡易クロークがあり、入り口でコートを預かってもらう。
ランドルフはジャケットを脱がなかった。その理由は私にも分かった。
ジャケットの下のホルスターに銃が入っているのだろう。
職業斡旋所は名前の通り、仕事を求めてやって来る人に仕事を紹介する。
依頼人は、国や商会だったり、今日の子猫のように個人の場合もある。基本的に犯罪以外は依頼を受ける。
数時間で終わるような依頼から、一か月以上かかる依頼もある。危険を伴う事も多いので、武器はいつも携帯している。
受けた依頼書は、斡旋所の壁に貼られ、求人者が希望する依頼書を受付に持って来て、契約を結ぶ。
もちろん、この人では無理だと受付で判断されれば、却下されることもあるが、討伐や商団の護衛など、多人数が必要な場合、斡旋所に専属で雇われている調査員を参加させ、トータルの力量を上げて遂行されることも多い。
他にも、誰もやりたがらなかった依頼も調査員が行う。
だから調査員達は、なんでも屋とよばれることもあるが、なんでもこなせるプロのなんでも屋なのだ。
店先に吊るすランプを手に、年配の穏やかそうな人がランドルフに微笑みかける。
「やあ、久しぶりだね。食べていくかい?」
半分開いたドアの隙間から美味しそうな匂いが漂ってくる。
斡旋所の人達から、メイン通り側に大きな窓がない店には入るなと厳命されており、小窓しかないこの店には入ったことがなかった。
ジェシカと一緒に食べて帰る時も、三店舗の中から相談して決める。
三店舗とも帰り道にあるし、安くておいしいが、新たな店にも入ってみたいとずっと思っていた。
ランドルフが一緒ならいいよね。
それに、町の人とも顔見知りになり、私が職業斡旋所に勤務していることも知られてきた。何かあれば、すぐに斡旋所の関係者に連絡が行くだろう。
もう二十歳になったし、少しずつ過保護から脱出していきたい。
ランドルフの袖をクイッと引っ張って、ここに入りたいとアピールしてみる。
見上げたランドルフの顔が夕日に照らされ朱に染まっている。瞬時に手が伸びてきて私の両眼を塞いだ。
――えっ、意味が分からないんですけど?
なんだかわからないけど、お店の人にも私にも感じ悪いよね?外してもらおうと、腕を引っ張るがびくともしない。爪を立てても良いだろうか?
「あーーーー、マスター。今日は無理だ。また寄る」
「ランドルフがそんな顔してるってことは、隣にいるのが噂のアリーちゃんかい?いやいや、睨むなって。挨拶もさせてくれないのかい?」
噂ってなに。良い噂?悪い噂?
「あのっ、はじめまして。アリーと申し――もうっ!手を外してよ。ランドルフ!!」
「じゃあな、マスター」
「ちょっと、目隠ししたまま引っ張らないでよぉ。こけちゃうぅぅーー」
「はははっ、またなっ」
しばらくして、手は外してもらえたが――
ここは家と反対方向では?職場も通り過ぎてるし、日も暮れてしまった。
目の前には、白い漆喰壁に赤レンガがアクセントになっている料理店があった。
「ん、今日はここで食べて帰るぞ」
「ほんと!?いいの?」
自炊するつもりだった事をすっかり忘れて、初めて入る店に心が躍る。
「目が輝いているぞ。そんなに腹が減ってたのか」
失礼な奴だな。
文句を言ってやろうと見上げたのに、あまりにも優しく微笑んでいて、言葉を失う。
――やめて、そんな風に見ないで
「たまには、いつもと違う店に行きたかったよな」
微笑んだまま、とろりと溶けた瞳から目が離せない。
――私を女として見てくれないくせに
「入ろう。うまいぞ。でも一人では来るなよ」
ランドルフが扉の方に顔を向けて、やっと魔法が解けた。
お店の中は暖炉に軽く火が入っていて、レインコート代わりに着て来た薄いロングコートを脱いだ。
いつもは、家族連れの多い庶民的なお店に入るので、手荷物は自席に置くのだが、ここは、簡易クロークがあり、入り口でコートを預かってもらう。
ランドルフはジャケットを脱がなかった。その理由は私にも分かった。
ジャケットの下のホルスターに銃が入っているのだろう。
職業斡旋所は名前の通り、仕事を求めてやって来る人に仕事を紹介する。
依頼人は、国や商会だったり、今日の子猫のように個人の場合もある。基本的に犯罪以外は依頼を受ける。
数時間で終わるような依頼から、一か月以上かかる依頼もある。危険を伴う事も多いので、武器はいつも携帯している。
受けた依頼書は、斡旋所の壁に貼られ、求人者が希望する依頼書を受付に持って来て、契約を結ぶ。
もちろん、この人では無理だと受付で判断されれば、却下されることもあるが、討伐や商団の護衛など、多人数が必要な場合、斡旋所に専属で雇われている調査員を参加させ、トータルの力量を上げて遂行されることも多い。
他にも、誰もやりたがらなかった依頼も調査員が行う。
だから調査員達は、なんでも屋とよばれることもあるが、なんでもこなせるプロのなんでも屋なのだ。
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