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一章
14.理由5
しおりを挟むアシル達と別れて帰りの道をイヴォンと二人で歩く。
もっと冷静に周囲を見るべきだった。
私は自分の思い込みを肯定するために目の前で起きたこと全てを都合よく解釈していた。
魔術師達のことをよく知らないからと疑ってかかるなんて、王女としてあるまじき行いだ。
そしてイヴォンの言葉をもっと真摯に受け止めるべきだった。
軽視していたつもりはなかったのだけれど、でも結果として私は彼の忠言を無視してしまった。
謝らなければ。そう思うのだけれどなかなか切り出せない。
周囲に人のいない今しかないとわかっているのに。
王女は臣下に頭を下げてはならない。
でも誰も見ていない今なら幼馴染のシャルロットとして素直に謝ることができる。
謝るなら早い方がいい。
足を止め、意を決してイヴォンの方へ向き直る。
怒っていると思っていた彼は苦笑していた。
「シャルロット様、先程のように話しても?」
「…………嫌って言っても言うんでしょ。わかってるわよ。全て私の勘違いで大騒ぎして周囲を振り回してしまったことくらい。イヴの言ったこと、もっとちゃんと受け止めておけばよかった。ごめんなさい」
素直……ではないかもしれないけれど謝ることが出来た。
けれどイヴォンは少し困ったように小さく首を横に振る。
「別に気にしてない。シャーリィは王女なんだから思った通りに行動すればいい。それで問題が起こったらそれこそ俺達がどうにかする。その為に俺はシャーリィの傍にいるんだ」
「そんなことしたら王女失格じゃない。私はわがままなだけの王女になりたくないの」
そんな王女はすぐに見捨てられてしまう。
私がなりたいのはそんな王女ではない。
臣下から忠誠を誓って貰えるような、そして民を導けるような王女になりたいのだ。
「私はナフィタリアを強くしたいの。ノルウィークと同じくらい……ううん、ノルウィークよりもっと強く豊かな国にしたいの。そのために私は正しい王女にならないといけないのよ」
「シャーリィの言う正しい王女ってどんな王女なんだ? たった一人の平民魔術師のために王宮中を歩き回れる王女か?」
少しだけ揶揄うような物言いにムッとする。
反省してるんだから蒸し返すようなこと言わなくてもいいじゃない。
「もう、さっきの事は謝ったじゃない。私の言う正しい王女っていうのは、常に正しいことを選んで臣下に慕われて、国をよくできる王女のことよ」
「それは無理だな。正しいことっていうのは常にひとつじゃないし見方や立場によって変わるものだ。騎士団長もそう言ってただろ」
「でも間違う王女には誰もついてきてくれないわ。それじゃ困るの」
「シャーリィが間違ってても俺はついてくよ」
「イヴは私の護衛だからでしょ。私は臣下全員に認めてもらわないといけないの。そのためにもっと頑張らないといけないのよ」
今の私では目標に届かない。
もっと強くなって、もっと勉強して、もっと経験を積んで……。
そうすれば本当に私の望む理想の王女になれるだろうか。
アシルとの約束を果たせるだろうか。
……こんなことを悩んでても仕方がない。
私は神の祝福を授かった王女なのだ。
私が私を信じなければ何も成せない。
足を止めればその分だけ夢は遠のく。
「シャーリィは生まれた時から特別で、国中の誰もがシャーリィのことを認めている。これ以上無理する必要なんてない」
その優しい慰めの言葉に縋りたくなるけれど、歩みを止めた先には何も無いとわかっている。
人生はいつ何が起こるのかわからない。
杏奈のように突然死んでしまうかもしれない。
転機もいつ訪れるのか知ることはできない。
だから今全力を尽くすのだ。
後悔した時には全て手遅れなのだから。
それでもイヴォンの言葉はいつも私の心を軽くしてくれる。
「ありがとう。イヴと話しているとなんだか楽になるわ……。おかげで明日からも頑張れそうよ」
「…………そうか。元気が出たならよかった」
イヴォンはいつものように笑った。
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