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二章
18.報告2
しおりを挟む今日は少しだけ早く起きた。
やらなければならない事が沢山あるからだ。
いつものように公務を片付け国王陛下に昨日のことを報告しノルウィークへ援軍を要請する許可を得た。
昼食をとった後に急いで魔術師の塔へ向かう。
魔術師団長とアルベリク卿には事前に連絡しておいた。
「そんなに急いで向かうなんて、本当にあの平民魔術師のことが気に入ったのですね」
「そういうのではないと何度も言っているでしょう。成果を出したものに褒美を授けることは何もおかしいことではないわ」
「普通は呼び出すものです」
「今回は普通じゃないもの。公に出来ないのだから私が出向くしかないでしょう」
オーガの群れを討伐したのはアシルだった。
群れの中央に火球を打ち込んで一網打尽にしたらしい。
その火球は10メートルを超える大きさで、喰らったオーガ達は灰も残らなかったという。
イヴォン達が逃げ延びた残りのオーガを討ち取り、副団長が一頭捕獲し、討伐は完了した。
そのような功績をあげたのだから何か褒美を用意しなければならない。
けれど国境沿いに騎士と魔術師を遣わしたなんて外部に知られたら面倒なことになってしまう。
ノルウィーク側に被害はなかったとはいえ、痛くない腹を探られるのはナフィタリアにとって困るのだ。
だから今回の討伐はなかったことになる。
調査隊はベルタ川近くの森を調査していた際にノルウィークの装備を身につけたオーガを発見し捕獲した。
それが事実だ。
「それに例のオーガの事もあるでしょ。直接この目で確認して今わかっていることを全て聞かなければならないわ。決して遊びに行くわけじゃないんだから」
「そう言う割には口元が緩んでますよ。嘘をつくのでしたら表情にも気を使われてくださいね」
慌てて口元を隠す。
さすがに王女がにやにやしながら歩くのは良くない。
「……見なかったことにして」
「いくら王女殿下のご命令でも不可能なことは出来かねます」
「なら忘れなさい。なかったことには出来なくても忘れることは出来るでしょう」
「善処します」
これはきっと口先だけだ。
しばらくはぼーっとしてるとチクチク言われるに違いない。
まあしっかりしてれば何も問題ないんだけど。
「それはそうと、恩賞として何を用意したのですか?」
「私が持っているもので一番高価な宝石を持ってきたわ」
琥珀色のその宝石はアダマンテウスと言って希少なものだと聞いた。
3センチほどしかないけれど、これで王都に豪邸を建てられるほどの価値があるらしい。
「それは……もしかして去年手に入れたアダマンテウスですか?」
「そうよ。よくわかったわね」
「今回の恩賞として授けるには不適切です。それはシャルロット様でさえ二度と手に入れられないような希少なものですよ」
「ええ、だからアシルに相応しいと思わない?」
この国に二人しかいない神に愛された人間。
だからこそありふれたものを贈りたくなかった。
「相応しくありません。それはシャルロット様にしか似合わないものです。第一あいつは平民ですよ。宝石の価値すら理解できないでしょう」
「別に理解しなくていいのよ。宝石なんて所詮綺麗な石だもの。でも希少な宝石を授けることでアシルとその功績に価値があるとわかるでしょう?」
王女として功績に見合うものを授けることは大切だ。
けれどイヴォンは顰めっ面でため息をついた。
「……もうあいつに興味無いふりはやめたのですね」
「ええ。意味が無いようだから」
八日間魔術師達と関わってわかったことがある。彼らは爵位や身分を一切気にしない。
彼らの基準は魔術師として優秀かどうか、だけだという。
そして他人の邪魔をするより自分の研鑽に時間を使うことを考える。
だからアシルが神の祝福を授かっていることを羨むことはあっても平民だからといって虐げたりしない。
もちろん煽てることも媚びへつらうこともしない。
「では告白するおつもりですか?」
「えっ!? 気付いてたの?」
「ええ。シャルロット様があの平民魔術師に好意を抱いてることは一目瞭然でしたから」
そんなにわかりやすかった?
祖父ほど年齢の離れたアルベリク卿ならともかく、幼馴染で年齢の近いイヴォンに知られたのはかなり恥ずかしい。
イヴォンの前でアシルに会ったのは三度。いや、叙任式もあるから四度か。
でも都度神の祝福を授かっている特別な人間だからと言ったはずだ。
極力話しすぎないようにしていたし、好きだとバレるようなことはしてないはずなのに。
王女たるもの感情や内面を悟られるのはいいことではない。隠したい内容であるのならなおさら。
「べ、別に好きって言っても、……その、そ、そこまで好きってわけじゃ……」
「シャルロット様は王女です。神の祝福を受けたもう一人のことが気になるのは理解致しますが、王女と平民では立場が違いすぎます。二人が結ばれることはありません。夢を見るのは程々にしておかないとシャルロット様が苦しむことになりますよ」
「…………わかってるわよ。結婚したいなんて思ってないわ」
確かにアシルのことは好きだけど、一生を共にしたいと思えるような強い感情ではない。たぶん。
そもそも彼とそこまで深い関わりがあるわけではないのだ。
私は彼について何も知らない。
好きな物も嫌いな物も、どんな考え方をするのかもわからない。
アシルを好きだというこの気持ちも、私が勝手に作り上げた虚像に好意を寄せているだけ。
それをようやく自覚したばかりなのだ。
わかっているからこそ改めて指摘されるのは癪に障る。
「最近のイヴは意地悪ね。私の聞きたくない事ばかり言ってくるのはやめて」
「手遅れになって苦しむのはシャーリィだ。少しでも心の準備が出来た方がいいだろ」
「だからってもう少し優しい言い方はできないの?」
「優しく言ったら気付かないだろ」
そんなことない……はずだ。
心当たりがなくもないから反論出来ない。
「もう、お喋りはここまでよ。塔の中ではちゃんと王女を立ててよね」
「王女殿下の仰せのままに」
真面目な顔をしているけど本当に私のお願いを聞いてくれる気があるのか疑問だ。
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