転生王女は初恋の平民魔術師と結婚したい!

Y子

文字の大きさ
38 / 67
三章

37.案内

しおりを挟む


 食事が終わり皇子に王宮内を案内することになった。
 イヴォンは相変わらずかなり後方を歩かされている。この距離では私達の会話を聞くことはできないだろう。

「シャーリィは普段はどこで訓練をしているんだい?」
「王宮の端に訓練場が二箇所あるの。今から向かう第一訓練場でいつも訓練をしているわ。最近はそこで騎士団と魔術師団の合同訓練をしていたの」
「ナフィタリアは騎士と魔術師の仲がいいんだね。羨ましいな」
「そうなの……と言いたいところだけど、本当は仲は良くないのよ。今回のことがなければきっと会話すら満足にできなかったわ」

 それでも協力して国のために努力してくれている。
 今はそれで充分だと思う。

 全てが終わったら改めて両者の関係改善に尽力しなければならない。

「そういえば私の動きを見ると言っていたけれど、どうするつもりなの? 騎士団長との模擬戦を見せればいいのかしら」
「僕と手合わせしてもらうつもりだよ。それが最も君の力を知ることができるからね」
「アルと……? でも貴方は魔術師なのでしょう?」
「ああ。でも僕は剣も使える。ノルウィークでは魔術より剣の方が価値があるんだ。剣の祝福を持った騎士たちと毎日訓練しているから君とも対等に渡り合えるはずだよ」
「そうなのね……」

 彼のその言葉に落胆してしまった。

 剣と魔術の両立。それは私が目指していたものだ。
 既にノルウィークにそれを実現している人がいるなんて。
 しかも彼は剣の祝福を持ったものと対等に渡り合えると言った。一方、私の魔術はアシルの足元にも及ばない。
 比べるまでもない。
 皇子は私の……そう、確か上位互換というやつだ。
 杏奈の時に覚えた言葉がこんなにピッタリな人に出会うとは。

 彼は私に似ている。
 しかしその能力は私よりも数段優れているようだ。
 どうしたって落ち込んでしまう。私に価値がないのではないかと不安になる。
 これ以上努力しても意味が無いのではないか……。
 



 駄目だ。落ち込んでいても何も変わらない。

 彼は私と同じ発想で結果を出したのだ。
 だから私も頑張ったら彼のように周囲に認められる王女になれるかもしれない。

 まずは彼に認めてもらえるような動きをしよう。

「ここを抜ければ訓練場へ着くわ」

 いつもの訓練場へ向かう道を進んでいく。
 気は重いけれどきっと大丈夫。私はこれまでずっと頑張ってきたのだから。

 程なくして訓練場の入口に辿り着いた。



 ノルウィークの援軍が来たから今日は騎士団の訓練はお休みのはずだ。そこには誰もいないはずだった。
 けれど中央に人影がある。
 モーリスかと思ってよく見ると、その人影は宮廷魔術師のローブを身につけていた。そして黒い長い髪をひとつに括っている。
 アシルだ。



 心臓が跳ねる。
 皇子は私の事を好きだと言った。けれど私はアシルの事が好きだ。そしてそれを隠したままここにいる。
 嘘をつき続けるための心の準備がまだ出来ていない。

「あれは……魔術師だね。彼はここで何を?」
「えっと、訓練……かしら」
「ただ立っているだけに見えるけれど……」

 アシルは私達に背中を向けているから何をしているのかはわからない。そして彼は私達に気が付かない。

 ここで鉢合わせしてしまったのだからアシルを皇子に紹介するべきだろう。
 彼が平民だと伝えて、皇子に失礼がないように私が間に入って……。

 そんなことを悩んでいるとアシルの身体からなんとなくぞわぞわとするものが発せられていることに気がついた。
 それの正体はわからない。
 けれどなんだかすごく嫌な感じがする。

「確かに訓練をしているようだね。……魔力の量が多いようだけれど、彼がナフィタリアの祝福持ちの魔術師かな」
「え、ええ」

 私が頷いた直後、アシルの頭上にバチバチと音を立てて青白い光の球が出現した。よく見るとそれは電気の塊のようだ。

 昨日私が使った雷の魔術、もう使えるようになってる!!!
 あれだけ凄いって言ってくれたのに、半日程度で使えるようになるんだ……。
 もしかして雷の魔術って誰も使わなかっただけで、案外簡単に使えるものなのかも。

 胃のあたりがずーんと重くなる。
 やっぱり私駄目かもしれない。

「あれは……! シャーリィ、ちょっと彼に話を聞きたいんだけどいいかい?」

 声を上げたのは私の隣に立っていた皇子だった。
 視線をあげると嬉しさを堪えきれないというように頬を紅潮させ目を輝かせている。
 私が首を縦に振ると皇子は更に嬉しそうに笑った。そして私の手をとる。

「早く行こう。ゆっくりしている時間が勿体ないよ」

 皇子は私の手をひいて足早に進んでいく。
 まさかこんなことになるなんて。心の準備が全然できていない。

 ああ、もうどうにもならない。

 アシルの立っているところまであと5メートルの位置まで近付いて皇子はようやく足を止めた。

「アシル」

 私が名前を呼ぶと彼はゆっくりと振り返った。
 濃い蜂蜜色の瞳が私と皇子を捉える。

「シャルロット様、どうしてここに……?」
「ノルウィークのアルフレッド皇子に王宮を案内していたの。アル、紹介するわ。彼はアシル、ナフィタリアの祝福を授かった魔術師よ」
「はじめまして。僕のことはアルと呼んでくれ。さっそくだけど先程の魔術をもう一度見せてくれないかい?」

 皇子はいつぞやのアシルと同じようにキラキラした目で魔術を見せるよう要求した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。 だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

継母になった嫌われ令嬢です。お飾りの妻のはずが溺愛だなんて、どういうことですか?

石河 翠
恋愛
かつて日本人として暮らしていた記憶のある貴族令嬢アンナ。彼女は夫とも子どもともうまくいかず、散々な人生を送っていた。 生まれ変わった世界でも実母は亡くなり、実父と継母、異母妹に虐げられる日々。異母妹はアンナの名前で男漁りをし、アンナの評判は地に落ちている。そして成人を迎えたアンナは、最愛の妻を亡くした侯爵の元にお飾りの妻として嫁入りすることになる。 最初から期待なんてしなければいい。離れでひとり静かに過ごせれば満足だと思っていたはずが、問題児と評判の侯爵の息子エドワードと過ごすうちに家族としてどころか、すっかり溺愛されてしまい……。 幸せになることを諦めていたアンナが、侯爵とエドワードと一緒に幸せになるまでの物語。ハッピーエンドです。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:22495556)をお借りしております。 旧タイトル「政略結婚で継母になった嫌われ令嬢です。ビジネスライクで行こうと思っていたのに、溺愛だなんてどうなっているのでしょうか?」 この作品は他サイトにも投稿しております。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...