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第13話 旅立ち①
しおりを挟む呪いを身に宿す蒼月は、子どもの頃から人生を諦めていた。一生、呪いに振り回されて生きていくのだと。壮絶な破壊衝動、痛み、苦しみ。それを抑え込めるだけの精神力を養うようにと父から課せられた過酷な修行。
地獄を生きて来たのだ。とうの昔に絶望していた。神からも見放されたと思っていたし、蒼月自身も神を見放した。それが今、サクによって生命の喜びの一端を感じ取れたのだ。
待っていた、そう蒼月が答える前に、悠遊が嬉しそうにサクの手を取った。
「姫ちゃん!もう来ないかと思ったよー!待ってたんだよ!よかった、決心してくれたんだね」
「姫ちゃん?」
「そう、君は僕らの舞姫さ!さあさあ、もう出発だよ。村のみんなにはお別れを言ったのかい?」
「え!まだお別れを言ってないです」
「じゃあほら、早く行っておいで」
「はい!」
サクは慌ててデグやミツを探しに駆けて行った。
「よかったですね、蒼月様!あれ?どうしたんですか、そんな顔して」
我知らず、悠遊をジトッと恨めし気に見てしまっていた。悠遊に手柄を取られたような、何とも言えない気持ちになっていたが、それを悠遊に言っても仕方ない。
「…なんでもない。そろそろ村長に出立の挨拶をしよう」
「そうですね。おや?あれ、姫ちゃんのお父さんじゃないですか?」
悠遊の視線の先には、たしかにサブロの姿があった。よく鍛えた体はしなやかそうで、ただの猟師とは思えない。訓練を受けた人間特有の隙の無さ。
蒼月と目が合うと、サブロは丁寧にお辞儀をした。
「お役人様、娘がお世話になります」
「サブロ殿、お嬢さんは預かった。約束通り、王都での安全は私が保証しよう」
「ありがとうございます。世間知らずの子ですので、なにとぞよろしくお願いします」
「しかしよく決心してくれた。一人娘を王都へやるのは心配であろう」
「娘の決めた道ですから」
「サブロ殿も王都へ行かぬか」
「娘からもそう提案されましたが、断りました。猟師しかできませんので王都では暮らせません」
「…そうでしたか」
「それでは、なにとぞ、娘をよろしくお願いいたします」
「ああ、承った」
一行を見送ろうと、村中の人々が広場に集まっていた。デグとミツは一緒にいた。
「デグ!ミツちゃん!」
サクが息を切らせて二人のもとへ駆けつける。
「サクちゃん、行くことに決めたんだね?」
「うん、私、行くよ」
「うん、それがいいよ。でもすごく寂しい」
「私も寂しい」
「また会えるよね?」
「もちろんよ。絶対帰って来るから」
「うん!元気でね」
「ミツちゃんも」
ミツはサクに抱き着いた。サクは涙をこらえてミツをぎゅっと抱きしめ返した。見ているデグも泣きそうになって、鼻水をすすっている。
「デグも元気でね。おばさんにもよろしく」
「ああ、母ちゃんもサクのこと応援してっから」
「うん、ありがとう」
「デグ、今まで本当にありがとう」
「よせやい」
二人に別れを告げ、蒼月の待つ馬車へと向かおうとしたとき、サクの前にチナが現れた。
「チナ!祈年の祭、見に来てくれたんでしょう?ありがとね」
「べ、別に。お祭だもの、見に行くわ。別にサクを見に行ったわけじゃないし」
「私、王都へ行って神楽を習うことにしたの」
「知ってるわよ。いつか絶対、私も王都へ行ってやるわ!先に行くからって、威張らないでよね!」
「威張らないわよ。チナも王都へ来るなら、心強いわ」
「…ふん。私が行くまでに、せいぜい頑張って舞姫になってなさいよね」
「チナ、ありがとう」
サクはミツにしたように、チナのこともぎゅっと抱きしめた。
「もう!離しなさいよ!」
口ではそんなことを言いながらも、チナは少しだけ顔を赤らめて、サクの好きなようにさせた。
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