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第14話 令嬢たちに囲まれる
しおりを挟む翌日から、クララベルはいくつもの嫌がらせを受け始めた。
登校するとクララベルの机の上に、生ごみがぶちまけられている。
「ひどい!だれがクララベル様にこんなことを!」
心優しいポーリンが憤ってくれたが、クララベルは静かにほほ笑み、黙々とゴミを片付ける。
生ごみの処理が妙に手馴れていて、ポーリンは感心してクララベルを見つめた。
まさか伯爵家で床にはつくばって掃除をさせられていたとは気付かなかったが。
手を洗いに行けば、廊下ですれ違った令嬢が強く肩にぶつかって来る。
これまたアガタに鍛えられ、衝撃をうまく逃す受け身が功を奏し、ケガもせずやり過ごせた。
持ってきていたはずの教科書が見つからず困っていると、隣の席のポーリンがそっと教科書を開いて見せてくれる。
クララベルはポーリンにほほ笑みお辞儀して、一緒に教科書を見せてもらった。
こんなことが何日も続いたが、クララベルは静かにやり過ごし、弱音も吐かない。
侯爵令嬢マノンは、顔色を変えないクララベルに苛つき、ついに直接手を出した。
「シモン侯爵令嬢様、少しお話したいことがあるの。ついて来てくださる?」
マリアベルなら、お断り!と啖呵を切ったかもしれない。
大人しいクララベルは、困惑した表情ではっきりと返事もせず俯いた。
すると、マノンの取り巻きの二人が左右からクララベルの腕を取り、抵抗できないように引っ張って歩いた。
そして中庭の人目につきにくい木陰で、数名の令嬢たちに囲まれることとなった。
「ねえ、田舎者さん。もういい加減に思い知ったのではなくて?あなたにはここに居場所がないってこと。なにもできないあなたは、シモン侯爵家のお荷物になっているのよ。お兄様のアルフレッド様にも、シャール様にも迷惑をかけているの。わかる?血縁関係があるというだけで、あなたが侯爵令嬢を名乗るなんて、本当に腹立たしいわ。あら、何?文句があるという顔をして。私はあなたと違って、本物の侯爵令嬢なのよ。あなたより身分が高いの。そのような態度が無礼だと言っているのよ」
「‥‥」
マノンは自分の言葉にどんどん感情が高ぶってしまったらしく、クララベルが黙っていることにも腹が立って来た。
「本当に頭にくること!エマ、やっておしまいなさい」
エマは深く頷くと、ぐっと一歩クララベルに近づいて、その左頬を強くビンタしようと手を振り上げた。
その時だった。
「待て!一人を取り囲んで何をしているのだ!」
大きく鋭い声がエマの動きを止めさせた。
声のした方を皆が振り向くと、そこには最上級生のバッジを付けた男子生徒が数名、厳しい視線を向けて立っていた。
真ん中にひときわ存在感を放つ生徒がいる。
燃えるような情熱的な短い赤い髪をしており、たくましく鍛えられた体は服を着ていてもそうとわかる。
ただ立っているだけで、威圧感を放つ。
クララベルを囲んでいた女子生徒たちは、彼の姿を見るとぎょっとし、慌てて礼を取った。
クララベルだけが放心したように、立ち尽くした。
「王太子殿下、ごきげんよう」
「なにがごきげんようだ。まったく機嫌を損ねられた。全員顔をあげろ」
女子生徒たちは青ざめながらも、面を上げた。
王太子エルネスト・オベールは、厳しい視線を緩めることなく追求した。
「ジラール侯爵令嬢、これはなにごとか」
名指しされたマノンは、やや声を震わせながらも答えた。
「こちらのご令嬢があまりにも目に余る行動をとられるものですから、同じ侯爵令嬢として注意を申し上げていただけですわ。ねえ、みなさま」
「え、ええ…」
取り巻き達は視線をさまよわせて、挙動不審となっている。
まさか目上の侯爵令嬢をいじめている現場を王太子に目撃されるなど想定外だったのだろう。
「目に余る行動とはなにか」
「それは…。この方はクラスメイトの皆様に挨拶もしないのですわ。爵位が下と侮っているのです。授業中も教科書すら開かず、隣の席の令嬢とおしゃべりばかり。皆の迷惑ですわ。そういう態度はよくないと、忠告して差し上げたのです」
「なるほど。しかし、私の目にはそこのローラン伯爵令嬢が手を挙げているように見えたのだが。まさか忠告のために、頬まで打とうとしたのではあるまいな」
「まさか、そのようなことはしておりませんわ。ね、エマさん」
「は、はい。しておりません」
エルネストは瞳を嫌悪に染めて、エマを見た。
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