異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第1章 異世界転移とそれからの事

第3話 チート発動! そして少年は歓喜する!

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 ショックを受けたオレに対してオスリラは心配そうに声をかけてくる。

「どうなさいました? 本当に大丈夫ですか?」
「いえ……ご心配なく。ちょっと疲れが出ただけです」
「では案内しますので、落ち着くまでひとまずお泊まり下さい」
「ありがとうございます」
「ところでアタルさんのお国はどこでしょうか? 出入りする商人の方々に話をすれば、アタルさんの故国の商人もいるでしょう。教会の方でお願いすれば、その人が国に帰る時に同行させてもらえるかもしれませんよ」

 うう。親切が身にしみる。
 だが少なくともこの聖女教会に、元の世界の人間が商売に来ていることはあるまい。
 いかに貪欲なビジネスマンでも、異世界までは守備範囲外だろう。

「ありがたいお話ですが、少しばかりやるべき用事があるものですから、それはまた次の機会にお願いできますか?」
「分かりました。ただしここにお泊まりいただく人は、私たちの救貧活動をお手伝いいただく事になっています。もちろん可能な範囲で構いませんが、あなたのような若い男の人だと、力仕事をお願いするかもしれませんがよろしいでしょうか?」
「それは当然でしょうね」

 どこの馬の骨とも分からない相手をただで泊めた上で、質素だろうと食事まで出し、その上で仕事もなにもせずにずっと居座れるのなら、この救貧院は『怠け者の巣窟』になってしまうだろう。
 泊める以上は相応の労働をしろ、というのは当然の話である。
 そしてファンタジー世界なら、次にくるのはクエストだろう。
 もちろん最初なんだからそう大したものが来るとは思えないが、気分は引き締めておかねばなるまい。

 クエストがある場合、うまくいけば図書館の幽霊調査の話が来て、都合よく俺の望む本に目を通す機会にプラスして、美少女の幽霊とお友達になれたりするが、場合によっては『ネズミ退治』と言われて気軽に引き受けたら、身長二メートルのネズミと戦わされるとかあり得るからな。
 気をつけるに越したことは無いのだ。

「それではこちらにどうぞ」

 オレは先を行くオスリラの金髪の頭を眺めつつ、いろいろと頭を回していた。
 とりあえず寝床と食事を確保出来たのなら、次は事前の想定通り、情報の確保である。
 そのためやるべきことは、オスリラを落とす事だ。
 いや。少なくとも現時点ではハーレム要員にするのではなく、彼女の信頼を得て知っている事を聞き出すという意味だよ。
 そしてオレはその日の夜は、案内された大部屋の片隅で旅の疲れから、すぐに眠りについていた。

 翌日、オレはさっそく奉仕活動に出る事にした。
 ある程度、希望は通るのでオレは『聖女』様が回復魔法を使って怪我人や病人を治療するという、医療院における作業の手伝いを選択した。
 これはひょっとしたら二一世紀の知識が使えるのでは無いか、そしてそれによって聖女達の目にオレがとまれば、こっちの知識と引き替えに、この救貧院の秘蔵の書物を読ませてくれるのでは無いか、という希望があったからだ。
 決してオスリラの色香に惑ったわけでは無い。

 俺が医療院に入ると、そこには大勢の人間が出入りしていた。
 見たところ病室は個室と広間に別れているようだ。
 恐らく重傷・重病人、ないし金持ちが個室に入り、症状の軽い人間は広間で簡易な治療を受けるということなのだろう。
 働いている女性の半分程度は金髪に見える。
 金髪率の高さは恐らく女神が金髪なので、それに合わせているからだろう。
 この世界に髪染めがあるのかは知らないが、染めているのでないのなら何世代にもわたって金髪の女性を優先して信徒に選抜してきた結果、何てこともありうるな。
 そして俺の姿をめざとく見つけたらしいオスリラが近寄って声をかけてくる。

「おや。アタルさん……でしたね。もう奉仕活動ですか? 入ったばかりの人は二、三日休んでもいいのですけど」
「いえ。身体は疲れていません。何より困っている人を助けるのは当然ですから!」

 オレはあえてやる気をアピールする。
 もちろん彼女の信頼を勝ち取るためだ。

「しかし……見たところあなたは、そのような仕事に慣れている様子はありませんが、大丈夫ですか?」
「ご心配なく! これでも故郷では大勢の人たちを助けてきたんです!」

 もちろんゲームの中の話だけどね。
 これぐらいの誇張は勘弁してもらいたい。
 そしてしばしの後、俺はすぐにこの安請け合いを後悔する事になる。

 血まみれになって担ぎ込まれた男を見て、オレは思わず吐きそうになった。
 どこかの建築現場で崩落事故が起きて、重傷を負ったらしいが、すでにこっちの耳には詳しい説明など入っていなかった。
 そりゃまあドラマや漫画、アニメでは血まみれになった人間なんて何度見たか分からないし、ゲームの世界だったら回復役と言えど、やっぱり戦闘もするわけで、敵を何人殺したかなど覚えてもいない。
 だが現実に瀕死の重傷者といきなりご対面して、平静でいられる平和国家の高校生は滅多にいない。
 オレは胸の中で、何かがこみ上げるのを感じて思わず意識が遠のきかける。
 そんな俺の姿を見て、オスリラは『予想通り』と言わんばかりに声をかけてくる。

「やはり無理なようですね。ここは私が引き受けますから、アタルさんは部屋にお戻り下さい」
「は、はい……そうさせてもらい――」

 だが次の瞬間、オレの中で何かがはじけた。
 どういうわけかオレは瀕死の男の傷口に向けて手を伸ばしたのだ。
 二十一世紀の知識で言えば、ろくに消毒もしていない手で傷口を触るなど高校生でも駄目な事は分かるが、それでもオレは止まらなかった。
 このとき理由は分からないが、なぜか確信はあったのだ。

「あの……アタルさん。いったい何を?」

 オスリラが困惑した声をかけるが、それはまるで遙か彼方からのように虚ろに響く。
 オレは瀕死の男の傷をつかみ、そこに『こみ上げてきた何か』を送り込む。

「アタルさん?!」

 気がついたときオレの目の前で今にも息を引き取りそうだった男は、どういうわけか落ち着いた呼吸をしながら静かな眠りについている様子だった。

「あれ……これは?」

 服には大量の出血の後が見られるが、不可思議にも身体に見えていた傷がすっかり癒えており、その安らかな顔からは苦痛ひとつ感じられない。

「あの……アタルさん……あなたまさか?」
「え……これはその……」

 このときオレは自分が何をしたのか、本能的に悟っていた。
 そう。オレはこの世界において『女性しか使えない』とされている回復魔法を無意識のうちに使い、この瀕死の男を助けたのだ。
 普通に考えたら、そんなうまい話があるはずがない。
 性別の限定は別にしても、瀕死の人間を簡単に回復させるなんて、普通はそうとうに高度な魔術だ。
 そんなものを修行や訓練、そして経験も無く、最初から使用できるクラスなんてRPGでもそうそうあるものではない。
 だがオレはそう考えた。

 そうだ。これは紛れもないチートだ!
 異世界からやってきて、この世界では絶対にあり得ないとされる魔術を、教えられてもいないのに自由に使いこなす。
 まさにオレが夢見ていた通りだ!
 そして何より素晴らしいのは、オスリラの言葉を信じるなら『オレはこの世界で回復魔法が使える唯一の男性』ということである。
 これはまさに典型的ハーレムフラグ。
 つまりこれからオレは女の園でモテモテ人生を開始するのだ!
 やったぞ! オレはついにつかんだのだ! オレにとっての理想の世界を!
 お父さん お母さん その他 元の世界の皆さん これまでお世話になりました!
 オレはこの世界で天下を取ります。
 そして魔術を極めたら、いつの日か元の世界に戻る魔術も見いだして、たまに里帰りするでしょう。
 そのときはこっちの世界のお土産をたっぷり持って帰りますから、それまでちょっとばかり待っていて下さいね。
 オレはこのとき文字通り『人生の絶頂』だった。
 残念ながらそれは『遥か彼方に垣間見えた山の頂をつかもうと空しく手を伸ばしていた』に過ぎなかったのだが。

 治癒魔法チートが発動してから数日の間、オレはひっきりなしに幾人ものけが人や病人と対面させられては、魔術をテストされた。
 治療相手のうち意識のあるのはどういうわけか全員、目隠しをされていたが、オレが男である事を隠す意図があったのは間違いないだろう。
 その過程でしつこく『どこでその魔術を学んだのか』もまたひっきりなしに問われた。
 それについては『頭に思い浮かんだものをそのまま使っているだけ』としか答えなかったが、さすがに半信半疑の様子である。

 オレが彼女達の立場だったら、やっぱり信じがたい事だろうから、疑問を抱かれるのは仕方の無い話だろうな。
 だけど正直に答え続けたら、数日後には諦めたのか、質問されることはなくなり、ただオレの魔力をテストするだけになったようだ。
 そしてその数日でオレもそれなりにこの世界についての情報は得られた。
 まず俺がいる大陸の名前はペント大陸と呼ばれており、滞在しているアルコー王国はその中央部近くに位置する大陸でも有数の大国だそうだ。
 首都グラマーは人口十万人を越える大陸屈指の大都市だそうだが、まあ百万都市も結構ある元の世界の感覚だと中都市程度のものだな。

 そして『聖女教会』とは開祖であるチャラーナ・イロールという千年前に治癒魔術の達人だった女性を女神として崇拝し、その教えを守る教会だ。
 この大陸の宗教は多神教なので、他にも天候の神、軍神、農業の神など無数の神々が崇拝されているらしいが、その中でも『聖女教会』は治癒魔術を通じて極めて大きな力を持っているらしい。
 信徒である聖女の多くが金髪で青紫の瞳をしているのは、それが開祖の姿だからであり、そのような女性を優先的に迎え入れているからだろう。
 大ざっぱに見たところ、救貧院で働いている女性の半分程度はオスリラと同じ金髪と青紫の瞳なのだ。
 病院を兼ねた救貧院では当然、産婦人科も兼ねている。
 ここでは生まれた子供はまず魔術の才能をテストされ、回復魔法の才能があると分かると赤子の時点で親元から離され、世俗とは一切縁を切って、この教会にある聖女養成学校で育てられる事になる。
 当然、子供が教会に引き取られるのは名誉な事であり、建前上は皆喜んで子供を預ける事になっているが、やっぱり割り切れない親もいるだろうな――それはオレが口を挟むような事では無い。
 なお産婦人科が魔術で安全に子供を産み、育てる事が可能だとしたら、基本的に中世レベルのこの世界は人口増加率が凄いことになると思われそうだが、どうやらこっちではモンスターや悪霊のたぐいによる犠牲があって、それで帳尻があっているらしい。
 もちろん元の世界のようにネットで検索すれば一発で分かるほど、情報技術が進歩しているわけではないので、細かいところはオレの推測に過ぎないが。
 そして聞くところによると回復魔法の才能が見いだされるのは百人にひとり程度。
 その中で厳しい試験を乗り越えて『聖女』の資格が得られるのは更に十分の一、つまり千人に一人程度と言うことになる。
 物心ついたときから厳しい修行を受けて、この合格率というのだからいかに狭き門か分かるだろう。

 なお一部には赤子の頃には才能が見落とされ、より年長になってからそれを見いだされてスカウトされる例もあるそうで、オスリラもその一人だそうだ。
 そのため修行に入るのが遅かったオスリラは『聖女』としてはギリギリ合格程度の能力だが、世俗については『純粋培養』された聖女より詳しいので、対外折衝を任される事が多いらしい。
 なお聖女になれなかった落第生も、別に命を落としたり再起不能になったりするわけではなく、一部は救貧院に残って聖女の裏方仕事をするが、殆どは世俗に戻って家庭を持つ――大部分は教会の推薦する相手と結婚する――事になるようだ。
 つまりここには当然、オレと同年配で回復魔法を学ぶ少女が大勢いるわけだ!
 こんなあからさまなハーレムフラグ、命に代えてもへし折ってたまるものか。
 オレは何としてもここの聖女養成学校に『ただ一人の男子生徒』として入学し、このチート魔力を使ってハーレムを造って見せる!

「とりあえず今日のところであなたの魔力についてのテストは終了です」

 ずっとオレと同行していたオスリラは、少しばかり疲れた様子で宣告した。
 ちょっとばかり彼女の気持ちもオレには理解出来る。
 彼女だって『聖女』の地位を得るために必死で努力したろうに、チートなオレが簡単に魔術を使いこなし、それをずっと目の当たりにしてきたのだから、そりゃ複雑な気分になって当然だ。
 ごめんなさい。
 オレがハーレムをつくった時は、オスリラも優遇しますのでそれでどうにか勘弁して下さい。

「それではアタルさん。このグラマー救貧院の院長と会って下さいますか?」
「分かりました」

 お約束のパターンならここで聖女養成学校への入学が命じられるのだろう。
 実のところ『女しか回復魔法は使えない』という前提を守るために命を狙われるとか、幽閉されるとかいう悪いパターンも考えていた――そしてその場合でもチートでどうにかなるとは思っていた――が、一番偉い人に面会ということは、いきなりそんなことにはならないということだ。
 院長室に案内されたオレを、二十代後半とおぼしき外見のきつい目をした女性が出迎える。
 この人も金髪で青紫の瞳だが、やはり崇拝する女神様と似た外見の女性が出世するのだろうな。

「よく来てくれた。私がこのグラマー救貧院の院長、レシーラだ」
「オレがアタルです」

 緊張からややぞんざいに答えたオレの耳に、小声でオスリラさんの注意が聞こえる。

「レシーラ院長はこのアルコー王国、国王陛下の側室でもあられる人ですから、礼儀には気をつけて下さい」
「え? それは……」

 つまりレシーラ院長はオレのハーレムに加えることが出来ないのか。
 ちょっと残念だがまあ年も離れすぎているし、人妻では諦めるしかないな。
 ハーレムは欲しいが、略奪愛はオレの守備範囲外である。
 これについては女性のパートナーが王様だろうが、市井の人だろうが変わりは無いので『王の側室』自体は気にしたりはしない。
 どうせ王様なんて、自分では何もせず『勇者に魔王の打倒を依頼する』程度の存在だから、放置でオッケー!

「ああ構わんぞ。ひょっとすると、むしろ私の態度の方が後になったら『無礼』ということになるかもしれんからな」
「ではやはり?!」

 レシーラ院長の言葉にオスリラは顔色を変え、オレはほくそ笑む。
 この言葉の意味は、要するに『世界でただ一人、男なのに回復魔法が使えるオレは計り知れない価値』があって、この院長様もそれを認めているということだ。
 やったぞ!
 オレはついにチートで世界をこの手に握ったのだ!

「さて……アタル殿であったな。我が聖女教会の千年に渡る歴史の中で、あなたのように学びもせずに、まるで呼吸をするかのごとく簡単に回復魔法が使える人間が出てきた例は極めて希に……百年に一人程度だが存在している」

 百年に一人だと?!
 この言葉にオレは――少しばかり落胆した。
 なんだ。教わりもしないのに魔法が使えるのは、オレが初めてじゃないのか。
 まあいい。それでも百年に一人ならそれなりのものだろう。

「それらの偉大なる先達は『選ばれしもの』と呼ばれ、いずれも我が教会の発展に大きく貢献し、全員が女神イロールに準じる尊崇の対象となっている」

 う~ん。
 これは逆に評価がちょっと高すぎるな。
 オレとしては学園に通ってハーレムが作れればいいのだから、尊崇の域にまで達したくは無いのだ。
 ハーレム要員の中には、そういうのが一人ぐらいいてもいいが、全員がそれでは困る。
 従順なのもいれば、ツンデレなのもいて、ことあるごとに逆らうライバル(ただし最終的にはデレる)、クール、引っ込み思案、などなど多様な女の子がいてこそのハーレムではないか――残念ながら異世界なので『幼なじみ』属性は諦めざるをえまい。
 そんなわけでオレは『生き神様』扱いはちょっと遠慮願いたいが、ここはレシーラ院長の話を続けて聞くしかあるまい。
 文句があれば後で言えばいいのだから。

「しかしアタル殿。あなたの場合、残念ながら正式に『選ばれしもの』とするには少々どころではない問題がある」

 そりゃそうでしょう。
 普通に考えて『神に選ばれしもの』なんてご大層な身分ならば、単純に魔術だけでなく、他にもいろいろな要素が求められるに決まっている。
 しかしオレには魔術以外には足りないものだらけだ。
 何しろオレがこの世界にやってきてから十日も経っていないのだ。
 もちろん聖女教会の教義などろくに知らないし、魔術だって『何となく使える』というだけで体系立てた理論を知っているわけではない。
 そんなオレを『選ばれしもの』としてたたき直すためにハーレム、もとい学校に入れて教育するという展開が次に来るわけだ。
 オレが『選ばれしもの』であることは極秘だろうから『男なのに回復魔法が使える』というだけで、女の園に放り込まれるわけだ。
 オレはわくわくしながら院長の次の言葉を待った。
 だが――

「申し訳ないが、アタル殿。あなたには我らの手で適切な『処置』が必要になる」
「はあ……『処置』ですか?」

 曖昧な言葉にオレは少しばかり落胆しつつ、問いかける。
 具体的には何だろうか。
 まさか『女しか回復魔法は使えない』という前提を守るために『女装』させて入学とかじゃないだろうな。
 それもニッチとは言え、それなりに支持のあるハーレム展開ではあるが、そういう疑似百合学園ものはオレの趣味ではない。
 いっそ『男装女子が男子校に入学する疑似BLの方がまだマシ』などと無意味な妄想が頭を巡る。
 暢気な妄想のふけっていられるのも、さすがに『百年に一人』しか出ないという貴重な存在である『選ばれしもの』を殺害したり、幽閉したりはしないだろうという、オレなりの読みがあったからだ。

「それについて今後はオスリラの言うことを聞いていただけますかな?」

 曖昧な返答と共に、院長はオレに対して一礼してから、オスリラの方に視線を向ける。
 そしてオレがつられて顔を向けると、オスリラもまた笑顔で頷いた。

「準備は整っております。こちらにいらして下さい」

 微笑むオスリラの案内を受けて、オレは院長室を後にした。
 次に何が待つかなど想像だにせずに。
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