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第3章 出会ったのは王子様 立ち向かうのはアンデッド教団
第10話 出会ったのは王子様と側近でした
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少し進むと、小さなお堂が目に入ってきた。
恐らく旅の安全を祈願する道祖神のほこらのたぐいだろう。
「とりあえずあそこで休ませてもらいましょう。そこでその人の手当もします」
「あなたが……ですか?」
戦士は半信半疑の様子である。
まあこの暗闇ではよく見えていないだろうが、せいぜい十代半ばのどこの馬の骨とも分からない相手であることは見当がつくだろう。
さっきは緊急事態だったのとオレの【調和】を受けて、どうにか話を聞いてくれていたが魔術が切れたので不安になってきたようだ。
「今はとにかくこっちを信じて下さい」
「……分かりました。それでは、非礼を承知で言わせていただきたい事があります」
「なんですか?」
戦士の人はなみなみならぬ決意をオレに対して注いでいる。
いや。心配する気持ちは分かりますけど、治療するのはオレであって、あなたは見ているだけで十分ですよ。
オレが聖女の外見をしているのを知れば、この戦士も安心する可能性が高いけど、こっちはそれを知られないようフードをかぶっているから、向こうから見たら『どこかの馬の骨』でしかないのは分かっている。
「もしあなたが何かの化身であり、殿下の御身や魂、命などを欲しいと思っておられるなら、代わりに私の命を捧げましょう。その代償に殿下をお救い下さい」
「はあ?」
思いもかけぬとんでもない言いがかりに対し、オレは思わずあっけにとられた。
そりゃまあ『危ないところを助けてくれたと思った相手が実はもっとろくでもない存在だった』という展開もよくある事だが、そんなことなど夢にも思っていない状態で、自分が疑われたら、こっちも困惑して当然だろう。
「何をおっしゃっておられるんです?」
「確かに私は戦士であって、魔術など【烽火】を上げる程度にしか使えません」
ああなるほど。さっきの【烽火】はこの人が使ったものなのか。
「それでも先ほどあなたが使ったように、一度に二十人以上の人間の戦闘意欲を失わせ、更に亡霊の群れを簡単に食い止める魔術が人の身を越えたものであることぐらいは見当がつきます」
え? そんなに凄いの?
あれぐらいだったら、まだまだ余裕のあるつもりだったんだけどな。
少し前のオレならそこで自分のチートを再確認して大喜びしていたんだろうけど、聖女教会に騙されたせいでオレはちょっと疑い深くなっている。
この人は魔術に詳しくないそうだし、勘違いの可能性もあると慎重に受け止めておこう。
「それは誤解です。この人の魂はもちろん、あなたの命もいりません」
「本当ですか?」
疑り深いオッサンだな――外見的にはまだ二十代後半だろうけど――幾らさっきの【応急手当】で持ち直していると言っても、今は『殿下』の治療の方が先決だろうが。
まあファンタジー世界の価値観だと、命よりも魂の方が大事ということはしばしばある。
オレがろくでもない邪霊だの邪神だのの化身であって、魂を奪っていくかもしれないと思ったらそれを最優先で心配する事もありうるのだろう。
まったく余計な心配そのものだが。
「とにかくこっちを信じて下さい! 早く治療しないと命に関わるのですよ!」
「……分かりました」
戦士はどうやら納得した様子だが、それでも身体から緊張は消えない。
オレが万一にも『殿下』の魂を引き抜くような真似をしたら、肉弾戦を挑んでとめるつもりのようだ。
まったくこっちは危険を顧みずに手助けしてやっているだけなのに、こんなに疑われるとはもう何もかもすっぽかして出て行ってしまいたい気分だが、それで死なれると寝覚めが悪い。
むしろオレがちゃんと『殿下』を助けてやった後で、この発言を引き合いにだして負い目を持たせた方が賢明だろう。
ほこらに入ったところで戦士は、手に持っていた蝋燭に火打ち石で灯りをともす。
光が漏れる危険はあるにせよ、この人には何も見えないのだから仕方ないか。
万一見つかったらそのときは、そのときで考えよう。
そういうわけでオレは『殿下』の傷に手を当てる。
この世界に来た直後は傷口を見るだけでビビっていたものだが、早くも慣れてしまった感がある。
あんまりこの世界には染まってしまいたくないのだが仕方ない。
ここで精神を集中させて、オレは魔力を注ぎ込む。
使う魔術は単純明快に【肉体治癒】だ。
これは【応急手当】と違って少し時間がかかるが、負傷程度ならば全て回復させる事が出来る。
ほうら。よく見ろよ。
見る見るうちに傷口がふさがって、血色も回復していくだろう。
「で、殿下……」
オッサンが小さく感嘆の声を挙げるのを耳にしつつ、オレはちょっとばかり誇らしげに胸を張る。
これでオレが『殿下』の魂なんぞ狙っていなかった事が明らかだな。
少しは反省しろよオッサン!
オレが内心で毒づいているうちに、すっかり回復した様子で『殿下』はその目を開けた。
そして次の瞬間、オレの背にはいきなり衝撃が走り、思わずたたらを踏んで、小さなほこらの壁に手をつく。
「テマーティン殿下?! ご無事であられましたか!」
戦士は前にいたオレを強引に押しのけて、テマーティンと呼んだ『若き主人』へと駆け寄ったのだ。
おいおい。このオッサン――もう戦士とは呼んでやらん――気持ちは分かるけど、乱暴にもほどがあるだろ。
オレのか弱い身体を傷ものにしたら責任とってくれるのか?
いや。待て。
その言い方ではまるで『責任取ってお嫁にしろ』に聞こえるな。
危ない。危ない。
本気にされたらそれこそ始末に負えんぞ。
テマーティン殿下と呼ばれた相手は、見たところオレより幾つか年上だが二十歳には届かないであろう『少年と青年の間』とでも言うべき年齢だ。
先ほどの戦闘のためかやや汚れているが、それでも育ちの良さそうな整った顔立ちで、濃い茶色の髪をしたなかなかのハンサムである。
そしてテマーティンはしばしの間、意識が朦朧としているかのような表情を浮かべていたが、その目の焦点が合ってくると、小さく問いかける。
「ファザール……お前なのか?」
「もちろんでございますとも、このファザール・ワイドリードは命ある限り。いえ。例え死んでも殿下と共にあの世をさすらう所存にございます」
「それではここはあの世というわけか?」
テマーティンはここでオレに対してやや困惑した視線を向けてきた。
なんだ?
ここでファザールと呼んだオッサンのテレパシーでも受けて、このオレがテマーティンの魂を狙う何ものかの化身だとでも思っているのか?
「殿下、お気をしっかりお持ち下さい。まだまだ世を去るには早すぎます。いえ。殿下にはこの国の玉座を受け継ぎ、歴史書にその御名を刻むまで、国のため、また民のために働く義務があるのですぞ」
「そなたはそう言うが……ここはあの世としか思えん。なぜならそこに私を天上に迎えるべくお越しになった神の使いがおられるでは無いか」
「え?」
テマーティンが手で指し示した先を見て、ファザールはその目を驚愕に見開く。
「あなた様は?!」
「私の目には治癒の女神、イロールの御使いにしか見えないが……」
「え?」
ここでオレはようやく気付く。
ファザールに勢いよく押しのけられたときに、かぶっていたフードが外れて、オレの容貌が丸出しになっていたのだ。
しかも夜中の移動だったので髪を【着色】しておらず、鮮やかな長い金髪が丸見えだ。
おまけによくよく見ると、オレの身体は輪郭部がボンヤリと輝いている。
恐らく魔力がかすかに漏れているのだろう。
よく分からないが、たぶんテマーティンの目には、今のオレはまさに幻想的な光景に写っているのだろう。
「ち、ちがいます! え……と……」
思いもかけぬ展開にオレはしどろもどろになるが、そのオレに対しテマーティンはズイと顔をよせてくる。
「もしあなたが私を迎えにお越しになった御使いで無いとしたら。どなた様なのでしょうか? 是非ともお教え下さい」
テマーティンの問いかけに、返答に窮したときオレの耳には複数の足音が遠くから響いてきた。
「待って下さい。何者かが大勢来ているようです」
ひょっとしたら先ほどテマーティンを狙った連中からの追撃かもしれない。
ひとまずごまかすと言うか、あの連中に再度襲撃されたら、こっちだってたまったもんじゃない。
オレは緊張にその身を固め、何とか使える魔術を探そうと試みる。
しかしオレの言葉を聞いたファザールは外を見て、灯りを確認したところで飛び出した。
「止まれ! こちらにおわすはラマーリア王国、王位継承者テマーティン殿下であられるぞ! そなた達は何者だ!」
おお。オレが今いる国はラマーリア王国というのか。
初めて知ったよ。
何しろこの世界、ネットはもちろんまともな書籍すら滅多に見かけない有様だから、隠れて生活していたら、今いる国の名前すら分からないのだ。
そしてファザールの言葉を聞いて、外に近づいていた連中は一斉に動きを止め、次いで手に持った松明の光をこちらに向けてくる。
ああそうか。
こいつらはさっきの【烽火】を見て駆けつけてきた連中なのか。
たぶんあの色と光は『王位継承者が危機にある』事を示すものだったのだろうな。
遅すぎるけど、今は感謝すべきだろう。
そしてほこらからテマーティンが姿を見せ、連中がそれを確認すると一斉にひざまずく。
「殿下! ご無事であられましたか!」
おいおい。
気持ちは分かるけど、まだ近くに敵がいるんだぞ。
その隙を襲撃されたらどうすんだ。
オレが思わずツッコミを入れたところで、少し落ち着いた様子のテマーティンはファザールに向けて問いかける。
「ところでお前以外の者はどうなったのだ?」
「申し訳ありません。全ては小官の不徳のいたすところです」
「そうか……彼らの遺体だけでも何とかしたいものだ」
ファザールの詫びを聞いて、テマーティンは全てを悟った様子で沈痛な表情を浮かべている。
どうやら部下の事はちゃんと心配するだけの度量はあるようだ。
そしてテマーティンはここで改めて、オレに向き直る。
「それでは……あなたもご同行下さいますね」
「……分かりました」
ここは逆らうわけにはいくまい。
オレはフードを目深くかぶって金髪を隠しつつ、ひとまずテマーティンに従うことにした。
恐らく旅の安全を祈願する道祖神のほこらのたぐいだろう。
「とりあえずあそこで休ませてもらいましょう。そこでその人の手当もします」
「あなたが……ですか?」
戦士は半信半疑の様子である。
まあこの暗闇ではよく見えていないだろうが、せいぜい十代半ばのどこの馬の骨とも分からない相手であることは見当がつくだろう。
さっきは緊急事態だったのとオレの【調和】を受けて、どうにか話を聞いてくれていたが魔術が切れたので不安になってきたようだ。
「今はとにかくこっちを信じて下さい」
「……分かりました。それでは、非礼を承知で言わせていただきたい事があります」
「なんですか?」
戦士の人はなみなみならぬ決意をオレに対して注いでいる。
いや。心配する気持ちは分かりますけど、治療するのはオレであって、あなたは見ているだけで十分ですよ。
オレが聖女の外見をしているのを知れば、この戦士も安心する可能性が高いけど、こっちはそれを知られないようフードをかぶっているから、向こうから見たら『どこかの馬の骨』でしかないのは分かっている。
「もしあなたが何かの化身であり、殿下の御身や魂、命などを欲しいと思っておられるなら、代わりに私の命を捧げましょう。その代償に殿下をお救い下さい」
「はあ?」
思いもかけぬとんでもない言いがかりに対し、オレは思わずあっけにとられた。
そりゃまあ『危ないところを助けてくれたと思った相手が実はもっとろくでもない存在だった』という展開もよくある事だが、そんなことなど夢にも思っていない状態で、自分が疑われたら、こっちも困惑して当然だろう。
「何をおっしゃっておられるんです?」
「確かに私は戦士であって、魔術など【烽火】を上げる程度にしか使えません」
ああなるほど。さっきの【烽火】はこの人が使ったものなのか。
「それでも先ほどあなたが使ったように、一度に二十人以上の人間の戦闘意欲を失わせ、更に亡霊の群れを簡単に食い止める魔術が人の身を越えたものであることぐらいは見当がつきます」
え? そんなに凄いの?
あれぐらいだったら、まだまだ余裕のあるつもりだったんだけどな。
少し前のオレならそこで自分のチートを再確認して大喜びしていたんだろうけど、聖女教会に騙されたせいでオレはちょっと疑い深くなっている。
この人は魔術に詳しくないそうだし、勘違いの可能性もあると慎重に受け止めておこう。
「それは誤解です。この人の魂はもちろん、あなたの命もいりません」
「本当ですか?」
疑り深いオッサンだな――外見的にはまだ二十代後半だろうけど――幾らさっきの【応急手当】で持ち直していると言っても、今は『殿下』の治療の方が先決だろうが。
まあファンタジー世界の価値観だと、命よりも魂の方が大事ということはしばしばある。
オレがろくでもない邪霊だの邪神だのの化身であって、魂を奪っていくかもしれないと思ったらそれを最優先で心配する事もありうるのだろう。
まったく余計な心配そのものだが。
「とにかくこっちを信じて下さい! 早く治療しないと命に関わるのですよ!」
「……分かりました」
戦士はどうやら納得した様子だが、それでも身体から緊張は消えない。
オレが万一にも『殿下』の魂を引き抜くような真似をしたら、肉弾戦を挑んでとめるつもりのようだ。
まったくこっちは危険を顧みずに手助けしてやっているだけなのに、こんなに疑われるとはもう何もかもすっぽかして出て行ってしまいたい気分だが、それで死なれると寝覚めが悪い。
むしろオレがちゃんと『殿下』を助けてやった後で、この発言を引き合いにだして負い目を持たせた方が賢明だろう。
ほこらに入ったところで戦士は、手に持っていた蝋燭に火打ち石で灯りをともす。
光が漏れる危険はあるにせよ、この人には何も見えないのだから仕方ないか。
万一見つかったらそのときは、そのときで考えよう。
そういうわけでオレは『殿下』の傷に手を当てる。
この世界に来た直後は傷口を見るだけでビビっていたものだが、早くも慣れてしまった感がある。
あんまりこの世界には染まってしまいたくないのだが仕方ない。
ここで精神を集中させて、オレは魔力を注ぎ込む。
使う魔術は単純明快に【肉体治癒】だ。
これは【応急手当】と違って少し時間がかかるが、負傷程度ならば全て回復させる事が出来る。
ほうら。よく見ろよ。
見る見るうちに傷口がふさがって、血色も回復していくだろう。
「で、殿下……」
オッサンが小さく感嘆の声を挙げるのを耳にしつつ、オレはちょっとばかり誇らしげに胸を張る。
これでオレが『殿下』の魂なんぞ狙っていなかった事が明らかだな。
少しは反省しろよオッサン!
オレが内心で毒づいているうちに、すっかり回復した様子で『殿下』はその目を開けた。
そして次の瞬間、オレの背にはいきなり衝撃が走り、思わずたたらを踏んで、小さなほこらの壁に手をつく。
「テマーティン殿下?! ご無事であられましたか!」
戦士は前にいたオレを強引に押しのけて、テマーティンと呼んだ『若き主人』へと駆け寄ったのだ。
おいおい。このオッサン――もう戦士とは呼んでやらん――気持ちは分かるけど、乱暴にもほどがあるだろ。
オレのか弱い身体を傷ものにしたら責任とってくれるのか?
いや。待て。
その言い方ではまるで『責任取ってお嫁にしろ』に聞こえるな。
危ない。危ない。
本気にされたらそれこそ始末に負えんぞ。
テマーティン殿下と呼ばれた相手は、見たところオレより幾つか年上だが二十歳には届かないであろう『少年と青年の間』とでも言うべき年齢だ。
先ほどの戦闘のためかやや汚れているが、それでも育ちの良さそうな整った顔立ちで、濃い茶色の髪をしたなかなかのハンサムである。
そしてテマーティンはしばしの間、意識が朦朧としているかのような表情を浮かべていたが、その目の焦点が合ってくると、小さく問いかける。
「ファザール……お前なのか?」
「もちろんでございますとも、このファザール・ワイドリードは命ある限り。いえ。例え死んでも殿下と共にあの世をさすらう所存にございます」
「それではここはあの世というわけか?」
テマーティンはここでオレに対してやや困惑した視線を向けてきた。
なんだ?
ここでファザールと呼んだオッサンのテレパシーでも受けて、このオレがテマーティンの魂を狙う何ものかの化身だとでも思っているのか?
「殿下、お気をしっかりお持ち下さい。まだまだ世を去るには早すぎます。いえ。殿下にはこの国の玉座を受け継ぎ、歴史書にその御名を刻むまで、国のため、また民のために働く義務があるのですぞ」
「そなたはそう言うが……ここはあの世としか思えん。なぜならそこに私を天上に迎えるべくお越しになった神の使いがおられるでは無いか」
「え?」
テマーティンが手で指し示した先を見て、ファザールはその目を驚愕に見開く。
「あなた様は?!」
「私の目には治癒の女神、イロールの御使いにしか見えないが……」
「え?」
ここでオレはようやく気付く。
ファザールに勢いよく押しのけられたときに、かぶっていたフードが外れて、オレの容貌が丸出しになっていたのだ。
しかも夜中の移動だったので髪を【着色】しておらず、鮮やかな長い金髪が丸見えだ。
おまけによくよく見ると、オレの身体は輪郭部がボンヤリと輝いている。
恐らく魔力がかすかに漏れているのだろう。
よく分からないが、たぶんテマーティンの目には、今のオレはまさに幻想的な光景に写っているのだろう。
「ち、ちがいます! え……と……」
思いもかけぬ展開にオレはしどろもどろになるが、そのオレに対しテマーティンはズイと顔をよせてくる。
「もしあなたが私を迎えにお越しになった御使いで無いとしたら。どなた様なのでしょうか? 是非ともお教え下さい」
テマーティンの問いかけに、返答に窮したときオレの耳には複数の足音が遠くから響いてきた。
「待って下さい。何者かが大勢来ているようです」
ひょっとしたら先ほどテマーティンを狙った連中からの追撃かもしれない。
ひとまずごまかすと言うか、あの連中に再度襲撃されたら、こっちだってたまったもんじゃない。
オレは緊張にその身を固め、何とか使える魔術を探そうと試みる。
しかしオレの言葉を聞いたファザールは外を見て、灯りを確認したところで飛び出した。
「止まれ! こちらにおわすはラマーリア王国、王位継承者テマーティン殿下であられるぞ! そなた達は何者だ!」
おお。オレが今いる国はラマーリア王国というのか。
初めて知ったよ。
何しろこの世界、ネットはもちろんまともな書籍すら滅多に見かけない有様だから、隠れて生活していたら、今いる国の名前すら分からないのだ。
そしてファザールの言葉を聞いて、外に近づいていた連中は一斉に動きを止め、次いで手に持った松明の光をこちらに向けてくる。
ああそうか。
こいつらはさっきの【烽火】を見て駆けつけてきた連中なのか。
たぶんあの色と光は『王位継承者が危機にある』事を示すものだったのだろうな。
遅すぎるけど、今は感謝すべきだろう。
そしてほこらからテマーティンが姿を見せ、連中がそれを確認すると一斉にひざまずく。
「殿下! ご無事であられましたか!」
おいおい。
気持ちは分かるけど、まだ近くに敵がいるんだぞ。
その隙を襲撃されたらどうすんだ。
オレが思わずツッコミを入れたところで、少し落ち着いた様子のテマーティンはファザールに向けて問いかける。
「ところでお前以外の者はどうなったのだ?」
「申し訳ありません。全ては小官の不徳のいたすところです」
「そうか……彼らの遺体だけでも何とかしたいものだ」
ファザールの詫びを聞いて、テマーティンは全てを悟った様子で沈痛な表情を浮かべている。
どうやら部下の事はちゃんと心配するだけの度量はあるようだ。
そしてテマーティンはここで改めて、オレに向き直る。
「それでは……あなたもご同行下さいますね」
「……分かりました」
ここは逆らうわけにはいくまい。
オレはフードを目深くかぶって金髪を隠しつつ、ひとまずテマーティンに従うことにした。
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