異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第3章 出会ったのは王子様 立ち向かうのはアンデッド教団

第14話 ファザールとの会話にて『馬の民』の伝説

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 図書館から帰って今日得た情報を整理していると、ファザールがオレに与えられた部屋にやってきた。

「アルタシャ様。お話を少しよろしいでしょうか?」

 その顔を見れば、テマーティン王子の手前、遠慮はしているがオレを『厄介者』と受け止めているのは間違いあるまい。
 どう見ても少しですまない話だろう。

「お願いです。なるだけ早く聖女教会にお戻り下さい。そして殿下の側室となられれば、あなた様の希望も叶うのです。調べたいものがあるにしても、その後なら誰彼はばかることなく出来るではありませんか」
「お言葉は分かりますが……しかし今はそうするわけにはいかないと何度もお答えしたはずです」

 オレの『いつもの返答』にファザールは予想通り、その眉間にしわを刻む。
 いや。そっちの言いたいことぐらいこっちだって重々承知してますよ。
 ここ数日情報を調べただけで、オレを匿う事がこの国にとっても危険だって事はよ~く思い知りましたから。

「ひとつ伺いますが、殿下があなたを迎え入れているのは、ただ単なる恩返しだと思っておられるわけではありますまいな?」

 そんな事は分っているよ!
 テマーティンがオレを嫁にしたくて、便宜を図っていることぐらい最初からバレバレじゃないか!
 それに応えられないこっちの事情を、教えられないのはなんとも歯がゆいけど。

「あなた様の存在を聖女教会に知られれば、殿下の地位はもとよりこの国そのものが危うくなりかねないのです」

 それだって調査を進める事でよく分かってます!
 オレはテマーティンやこのラマ―リア王国がどうなろうと知ったこっちゃ無い、とまではさすがに思っていないけど、今のところはオレの存在が見抜かれている様子は無いのだから、もうちょっと我慢してくれないかな。
 やっぱりこれは他人事の気楽さ故だろう。
 やばくなったらオレは逃げられる自信があるが、テマーティンやファザールは国を担いで逃げるというわけにはいかないからな。

「重要な知識は広めるべきという、アルタシャ様のお考えは重々承知しているつもりです。しかしあなた様は『馬の民』の話をご存じですかな?」
「すみません……わたしは知りません」

 もともとこの世界の人間では無いオレが知っているわけないだろう。
 ファンタジーな世界なんだから、名前からして『下半身が馬』というケンタウロスな連中か、さもなくば『首だけ馬』の馬頭観音まがいの存在だろうか。
 ひょっとしたらガリバー旅行記最終章のごとく『人間以上に知的で高貴な馬』だったりするかもしれない。
 オレと何の関係があるのか分からないが、興味はそそられるな。
 そしてファザールはオレの返答を聞き、予想通りと言わんばかりにため息をつく。

「伝説の話なのですが、かつてこの世には『馬の民』と呼ばれる民族がいました。
彼らは世界で最初に馬を飼い慣らし、家畜として利用する方法を考え出したと言われています」

 そのまんまかよ!
 ファンタジーなんだからもっと凄い存在かと思ったのに、拍子抜けにも程があるだろ!

「そうやって彼らは、馬を用いて世界の隅々にまで広がり、莫大な富を得たそうです」
「その話がわたしといかなる関係があるのですか?」
「重要なのはここからですよ。世界中に広まった馬の民は、求められると富と引き替えに馬を操る方法を売り渡し、それにより彼らは一時期、更に豊かになりました。しかしその結果、彼らの力の源であった『馬』は誰もが使えるものとなってしまいました」
「それって……つまり……」

 ここまでくればファザールが何を言いたいのかはオレにだって明らかだ。

「そうです。秘密を明かしてしまった『馬の民』はそれ故に衰退、消滅してしまったと言われているのです」

 ファザールの口にした『馬の民』の伝説はこの世界における『秘密を明かす危険』を唱えるものなのか。

「アルタシャ様の考えならば『馬の民』の広めた知識で誰もが馬を使えるようになったのだから、より多くの人間が幸せになった、と言えるかもしれません。しかしその結果として自らが衰退することを喜ぶ者は少ないでしょう」

 オレは聖女教会なんぞ皆殺しになればいい、とまでは思っているわけではないが、衰退するぐらいなら自業自得だろう。
 しかしファザールの言うことも分からないわけではない。
 聖女教会に限らず秘密を明かそうとするものに対し、この世界はオレが考えていたよりもずっと不寛容なのだ。
 さすがにこの世界の常識を吹っ飛ばして、オレの考えを押し通すのは不可能だろう。

「ファザールさんのおっしゃる事も分かります。ですが知識を広めるべきか隠すべきかというのは、どちらかが正しく、どちらかが間違っている、という話では無いはずです」
「そうです……しかしそれが間違いだった場合、危うくなりかねない側のものが心配するのは当然ではありませんか?」

 オレがファザールの立場だったら、やっぱり王子や自分の立場、国の安寧を優先して、同じ事を言い出しかねないだろうな。
 それは分かっているが、それでも同意できないものが世の中にはあるのだ。
 仕方ないのでオレはここで敢えて、いまファザールが触れていない事実を指摘することにした。

「ファザールさんは、わたしがこの国にいると危ういとおっしゃりたいのでしょうけど、テマーティン王子はこの前、わたしに舞踏会に出るようにお願いしてこられましたよ」

 オレの指摘にファザールは渋い顔をする。

「殿下は元からそういう遊びが少々過ぎるお方なのです……小官もずっと諫めてはいるのですが……」

 そうなのだ。
 テマーティンはことある毎にオレを着飾らせた上で、宮廷に誘おうとする。
いきなり国王に謁見とか、そこまではいかないだろうけど、宮廷で行われるパーティなどに顔を出す事を望んでいるようだ。
 髪は黒く染めているし、入念に化粧をすれば、聖女教会の人間でもオレだと気付く事はまずないだろう。
 女になったオレをしっかりと見た事があるのは、オスリラとあとはレシーラしかいないのだ。
 この世界には写真など無いし、似顔絵付の手配書が回っているわけでもないので簡単にばれることはあるまい。
 だがそれでも大胆にすぎる行いであることは間違い無い。
 むろんオレは宮廷における貴族同士の会話など、とてもつとまらないと言って何度も断ったが、テマーティンは『何も言わず、無言で同行してくれさえすればいい』としつこくいいよってくるのだ。
 その意図がどこにあるのか分からない程、オレもバカではない。
 要するにテマーティンは将来、オレを嫁にしたときの予行演習がしたいのだ。
 それとたぶん聖女教会に追われている『選ばれし者』であるオレを同行させて、そのスリルを楽しみたいという困った嗜好もある気がする。
 まったく。
 火遊びがすぎて、つい先日には命を落としかけたというのに、まだ次の火遊びに出るとは、ひょっとしてスリルジャンキーなのか、あの王子様?
 自分に圧力をかけてきている相手でありながら、目の前で苦悩しているファザールにオレは少々同情していた。
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