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第3章 出会ったのは王子様 立ち向かうのはアンデッド教団
第19話 アンデッド教団のアジトにて
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頭に袋をかぶせられ、身体を拘束されて、周囲を知覚できず、もちろん魔術も使うことが出来ない状態でオレはどこかへと運ばれていた。
オレの身に何が起きたのか?!
考えるまでもない。
要するにオレを待ち受けていた連中に捕まったのだ――しかも明らかにろくでもない連中に。
オレを捕まえようとする相手と言えば、まず真っ先に聖女教会が思い浮かぶ。
だがこれまでの聖女教会のやり方からして、こんな力尽くの行動に出るとは考えにくい。
この手回しからしてファザールの通行証が偽造されていた、などという話はオレを誘い込むための嘘っぱちだろう。
オレの存在を知れば、正面から身柄の引き渡しを要求してくるであろう聖女教会が、こんな危うい手を使うとは考えにくい。
だとすればオレの身柄をさらったのが何ものかは、消去法では『虚ろなるもの』のシンパである可能性が最も高い。
普通に考えてオレがテマーティンとファザールを助けた時、顔は見られていなかったかもしれないが、その後で邸宅に迎え入れられ、侍女達に『命の恩人』と伝えていたのだから、王子暗殺を邪魔したのがオレだという事はバカでも分かる話だろう。
テマーティンの強引な誘いから逃げ出したら、遙かにやばい相手の手に落ちてしまったわけだ。
いや。待て。落ち着け。
少なくとも相手はいきなりオレを殺す意図はないのは確実だ。
それにオレのチートな魔力についても完全に把握はしていないだろう。
ならば逃げ出すチャンスはまだあるはずだ。
それにオレが行方不明になればテマーティンやファザールもオレを探すだろう。
絶望するには早すぎる。
とにかく今は状況を把握するしかない。
それからしばらくして、オレは固い床に落とされる。
痛ぇな!
オレはか弱い乙女の身体なんだぞ!
アザでもついたらどうしてくれるんだ!
オレが内心で文句を叫んでいると、頭を覆っていた袋が外され、次いで猿ぐつわも取られる。
もちろん『解放』してもらえたわけではないのは、相変わらずオレの手足が縛られている現実を見れば明らかだ。
周囲を見回すと、たいまつの明かりに照らされた石造りの建物の中である。
ここまで頼みもしないのにオレを運んできたと思われる屈強な男が数人いる他、フードをかぶった相手が何人か、正面の祭壇の前に並んでいる。
どう見ても楽しい光景ではなさそうだ。
「この者がテマーティン王子の新しい愛妾か?」
「そうです。間違いありません」
おいおい!
さっきの男も言っていたが、いったいどこからそんなたわけた話が――と思ったが、傍目にはそう見えても不思議ではないのか。
いや。少なくとも連中はオレが聖女教会の『選ばれし者』だとは思っていないということだから、ここはその誤解につけ込んで、なるだけ油断させた方がいいだろう。
「あ、あなたたちは『虚ろなるもの』の信徒……なのですか?」
声が震えていたのは『か弱い乙女を演技しているから』と言いたいが、残念ながらオレ自身も少々ビビっていたのは認めざるを得ない。
「まあ気付いて当然だろうな」
そういってフードの人間の一人がオレの前に歩み寄る。
体格や言葉からして壮年の男に思えるが、一瞬その姿がまるでテレビにノイズが入ったかのように変異したようにも見えた。
ひょっとすると幻覚魔法か何かで姿を変えているのか?
「聞くところによるとお前がテマーティン王子の命を助けたそうだが、いったい何をしたのかね?」
「え?」
ひょっとしてオレが魔術で戦闘を止め、回復魔法でテマーティンの命を取り留めた事に気付いていない?!
いや。冷静に考えると当然か。
回復魔法は聖女教会が独占していて、しかも今のオレは明らかに『聖女』には見えない。
そもそも『聖女』が自分の出自を隠す方が不自然極まりないのだ。
王子にトドメをさしかけたところでいきなり戦闘が中断したのも、襲った連中が自分たちの不手際をごまかして、いい加減な報告をしたとでも思っているのだろう。
つまりオレがさらわれた理由は至極簡単に『テマーティン王子の愛妾だから』ということになる。
ええい! そんな理不尽な理由でこんなトンデモ教団に誘拐されるなんて、オレは呪われた星の下に生まれたのか?!
オレが動揺していると、男は静かに頷く。
「恐れて口もきけないか。まあいい。これだけ美しければ十分だ。素晴らしい贄となろう」
ちょっと待て! いきなり生け贄かよ!
そりゃまったくもって『正統な邪教徒』の行動だけど『王子の愛妾』だと勘違いしているなら、もうちょっと利用価値を考えてくれよ!
ならばここは無駄話でも何でもいいから、時間を稼ぐしかあるまい。
都合よく助けが来る事は望み薄でも、うまくすれば魔術を使うチャンスが作れるかもしれない。
「なぜあなた方は、こんな事をしているのですか? 教えて下さい」
とりあえずオレは相手の意図を聞くことにする。
この手の抑圧された教団は、聞かれたら『自分たちの正当性』を自慢げに答えるのがお約束である。
ここはその習性につけこむしかあるまい。
「いいだろう。そなたを我らが神の御許に送る前に『真実』を教えて進ぜようではないか」
よかった。こいつらはひとまずパターンを踏襲してくれるようだ。
ろくでもないアンデッド教団の『ありがたくない話』を聞かされる事に安堵するとは、知らない人間に聞かれたら、間違いなく誤解されるだろうな。
ここで司祭らしき人物はオレに対して自慢げに説明を始める。
「我ら『虚ろなるもの』を崇拝するのは何のためなのかは聞いているだろう」
「アンデッドになって永遠の命を得たいのでしょう? それぐらいは知っていますよ」
「まあ……その程度だろうな」
ここで司祭は『無知な者を嘲笑する笑み』を浮かべて、手足を縛られたままのオレを見下ろしている。
「我らが存在しているのは、人々が求めるからだ。それにも関わらず事実を認めないものが迫害し、正義面をしているに過ぎん」
「それは知性のない下級のアンデッドを労働力として使って、儲ける連中がいるからですよね。でも――」
「その程度の浅はかな理解で我らを語ろうとは笑止な」
オレの聞きかじりの話を否定し、フードの男は僅かに覗いている唇をゆがめる。
「どうやらお前は貴族では無いようだから、庶民がどういうものかは知っているだろう」
オレが身をもって知っているのは二一世紀における『先進国の庶民』の生活だけど、まあそれでもファンタジー世界の庶民の生活の想像ぐらいは出来る。
少なくともオレだってこの首都に引きこもっている貴族達よりは分かっているつもりだ。
そういう意味では、お忍びであちこち出歩いて庶民の生活をその目で見ているテマーティンもそこらの貴族より庶民目線には近い考え方が出来るかもしれないな。
オレとしてはあの『軽率王子』はあんまり支持したくはないのだけど。
「考えても見ろ。農民達にとって用水路を引き、堤防を造るのは自分たちのためになると分かっていても、そのための労働にかり出され、その工事や維持の費用を税として取られるのは嬉しい事か?」
確かにオレがそんな事にかり出される立場になったら、やっぱりイヤだろうな。
必要だと分かっていても、喜んでやれるとはとても思えない。
「そのような事をアンデッドが行ってくれるのならば、やつらにとってはむしろ喜ばしい事ではないか」
「そのアンデッドが昨日までの隣人だったとしてもですか?」
「当たり前だ。それこそが『人間』というものの本質だろう」
フードの男は当然のように言い切った。
その手の『公共事業』は大部分、機械で行う元の世界ならともかく、地元の住民が忙しい中、自分たちの身を削って行うものだとしたら、確かに『アンデッドでも身代わりになってくれればいい』と思う人間もいるかもしれない。
「他にも救貧院の活動に使われる経費はどこから出るのだ? 日々汗水流して働いている者どもの税金ではないかね? 働きもしない穀潰し共のために自分たちの金が使われている事を心から嬉しく思う人間はどれだけいる?」
オレの感覚からすれば『明日は我が身』である以上、社会保障の整備は当然のこととなるが、自分がまともに働ける身からすれば、そんな事に経費を使われるのに不満を持つ人間の気持ちは分かる。
ずいぶんと偏った見方だが、恐らくこの世界ではそれを支持する人間も少なくないのだろうな。
「聖女達のきれい事など、所詮は表向きだけの話に過ぎん。実際には我らこそが奴らを裏で支えている……つまり日々迫害されている我ら『虚ろなるもの』の信徒こそが本当にこの世界の土台になっているのだ」
いや。その言いぐさは分かるけど、少なくともこの国でもそんなにたくさんアンデッドはいないでしょう。
テマーティンがお忍びであっちこっち見て回っているけど、まさかその都度、アンデッドを隠しているわけじゃあるまい。
う~ん。あの軽率王子様の行動が無かったら、オレもついつい信じてしまったかもしれないけど、やっぱりこいつらの言いぐさも偏りすぎだろう。
周囲に同意見の人間しかいないと、自分たちの主張こそが正しく、受け入れない世間が間違っていると考えが凝り固まってしまう人間はいつの世にもいると言うが、こいつらも同じなんだな。
「あなたは自分たちのやっていることが人々の望むものだと言いたいのですか?」
「当然だろう。罪人や怠け者の穀潰し共はアンデッドに変えて働かせるか、さもなくば『虚ろなるもの』の生け贄にすればいいのだ。そうすればこの国はまさに『理想の国家』に生まれ変わるだろう」
ああ。この人達は本当の意味での『確信犯』だ。
元から望み薄だったけど説得なんか出来る相手じゃ無い。
「それだけではないぞ。戦争になってもアンデッドを兵士にすれば、兵糧もいらない、略奪もしない、女共を犯したりもしない、恐怖も感じず慈悲も無い、まさに理想の軍隊となりうるのだ」
「そんなことをしたら……」
もし本当にそんな事をすれば、それこそ周辺国や各教団から袋だたきにされてあっという間にこの国は滅亡してしまうだろう。
だがオレが絶句していると、指導者はいかにも『そんな事はお見通し』と言わんばかりに応じてくる。
「お前はおおかた、そんなことでは即座にこの国は滅ぼされると思ったのだろう」
その通りだよ。
あんたらだってそう思っているなら、もうとっくに手遅れだと思うけど、諦めて真っ当な道に戻ってくれ。
「何のためにここしばらく我らが危険や犠牲を覚悟して、この国の要人共を暗殺してきたと思っているのだ」
そんなのオレが知っているわけ無いだろ。
もったいぶらずに教えてくれよ。
「簡単な事だ。名の知れた者を暗殺した事で、愚民どもの悲痛の叫びや、落胆の心が満ちてきている。それにより我らの『偉大な計画』は大きく進捗した――そしてそなたを最後の決め手として贄に捧げる事で、本当に完遂するのだ」
ええ?
いきなり『生け贄』というだけで驚きだったけど、連中にとってオレが『パズルの最終ピース』なわけなの?
口先だけでも『虚ろなるもの』に賛同して、そこで生け贄を脱したところで、どうにか逃げ出すチャンスをうかがおうとか思っていたのに、それは完全にダメじゃ無いか。
くそう。こんな事になるなら聖女教会に捕まった方がまだマシだった。
いやいや。諦めてどうする!
オレは決してくじけないぞ!
少なくとも『最後の決め手』としての贄ならば、そのためには大仰な儀式を行う必要があるはず。
ならばまだ逃げるチャンスは残っているはずだ。
絶望的な状況かもしれない。だがオレは希望を捨てはしない!
女のままで死んでたまるか!
オレの身に何が起きたのか?!
考えるまでもない。
要するにオレを待ち受けていた連中に捕まったのだ――しかも明らかにろくでもない連中に。
オレを捕まえようとする相手と言えば、まず真っ先に聖女教会が思い浮かぶ。
だがこれまでの聖女教会のやり方からして、こんな力尽くの行動に出るとは考えにくい。
この手回しからしてファザールの通行証が偽造されていた、などという話はオレを誘い込むための嘘っぱちだろう。
オレの存在を知れば、正面から身柄の引き渡しを要求してくるであろう聖女教会が、こんな危うい手を使うとは考えにくい。
だとすればオレの身柄をさらったのが何ものかは、消去法では『虚ろなるもの』のシンパである可能性が最も高い。
普通に考えてオレがテマーティンとファザールを助けた時、顔は見られていなかったかもしれないが、その後で邸宅に迎え入れられ、侍女達に『命の恩人』と伝えていたのだから、王子暗殺を邪魔したのがオレだという事はバカでも分かる話だろう。
テマーティンの強引な誘いから逃げ出したら、遙かにやばい相手の手に落ちてしまったわけだ。
いや。待て。落ち着け。
少なくとも相手はいきなりオレを殺す意図はないのは確実だ。
それにオレのチートな魔力についても完全に把握はしていないだろう。
ならば逃げ出すチャンスはまだあるはずだ。
それにオレが行方不明になればテマーティンやファザールもオレを探すだろう。
絶望するには早すぎる。
とにかく今は状況を把握するしかない。
それからしばらくして、オレは固い床に落とされる。
痛ぇな!
オレはか弱い乙女の身体なんだぞ!
アザでもついたらどうしてくれるんだ!
オレが内心で文句を叫んでいると、頭を覆っていた袋が外され、次いで猿ぐつわも取られる。
もちろん『解放』してもらえたわけではないのは、相変わらずオレの手足が縛られている現実を見れば明らかだ。
周囲を見回すと、たいまつの明かりに照らされた石造りの建物の中である。
ここまで頼みもしないのにオレを運んできたと思われる屈強な男が数人いる他、フードをかぶった相手が何人か、正面の祭壇の前に並んでいる。
どう見ても楽しい光景ではなさそうだ。
「この者がテマーティン王子の新しい愛妾か?」
「そうです。間違いありません」
おいおい!
さっきの男も言っていたが、いったいどこからそんなたわけた話が――と思ったが、傍目にはそう見えても不思議ではないのか。
いや。少なくとも連中はオレが聖女教会の『選ばれし者』だとは思っていないということだから、ここはその誤解につけ込んで、なるだけ油断させた方がいいだろう。
「あ、あなたたちは『虚ろなるもの』の信徒……なのですか?」
声が震えていたのは『か弱い乙女を演技しているから』と言いたいが、残念ながらオレ自身も少々ビビっていたのは認めざるを得ない。
「まあ気付いて当然だろうな」
そういってフードの人間の一人がオレの前に歩み寄る。
体格や言葉からして壮年の男に思えるが、一瞬その姿がまるでテレビにノイズが入ったかのように変異したようにも見えた。
ひょっとすると幻覚魔法か何かで姿を変えているのか?
「聞くところによるとお前がテマーティン王子の命を助けたそうだが、いったい何をしたのかね?」
「え?」
ひょっとしてオレが魔術で戦闘を止め、回復魔法でテマーティンの命を取り留めた事に気付いていない?!
いや。冷静に考えると当然か。
回復魔法は聖女教会が独占していて、しかも今のオレは明らかに『聖女』には見えない。
そもそも『聖女』が自分の出自を隠す方が不自然極まりないのだ。
王子にトドメをさしかけたところでいきなり戦闘が中断したのも、襲った連中が自分たちの不手際をごまかして、いい加減な報告をしたとでも思っているのだろう。
つまりオレがさらわれた理由は至極簡単に『テマーティン王子の愛妾だから』ということになる。
ええい! そんな理不尽な理由でこんなトンデモ教団に誘拐されるなんて、オレは呪われた星の下に生まれたのか?!
オレが動揺していると、男は静かに頷く。
「恐れて口もきけないか。まあいい。これだけ美しければ十分だ。素晴らしい贄となろう」
ちょっと待て! いきなり生け贄かよ!
そりゃまったくもって『正統な邪教徒』の行動だけど『王子の愛妾』だと勘違いしているなら、もうちょっと利用価値を考えてくれよ!
ならばここは無駄話でも何でもいいから、時間を稼ぐしかあるまい。
都合よく助けが来る事は望み薄でも、うまくすれば魔術を使うチャンスが作れるかもしれない。
「なぜあなた方は、こんな事をしているのですか? 教えて下さい」
とりあえずオレは相手の意図を聞くことにする。
この手の抑圧された教団は、聞かれたら『自分たちの正当性』を自慢げに答えるのがお約束である。
ここはその習性につけこむしかあるまい。
「いいだろう。そなたを我らが神の御許に送る前に『真実』を教えて進ぜようではないか」
よかった。こいつらはひとまずパターンを踏襲してくれるようだ。
ろくでもないアンデッド教団の『ありがたくない話』を聞かされる事に安堵するとは、知らない人間に聞かれたら、間違いなく誤解されるだろうな。
ここで司祭らしき人物はオレに対して自慢げに説明を始める。
「我ら『虚ろなるもの』を崇拝するのは何のためなのかは聞いているだろう」
「アンデッドになって永遠の命を得たいのでしょう? それぐらいは知っていますよ」
「まあ……その程度だろうな」
ここで司祭は『無知な者を嘲笑する笑み』を浮かべて、手足を縛られたままのオレを見下ろしている。
「我らが存在しているのは、人々が求めるからだ。それにも関わらず事実を認めないものが迫害し、正義面をしているに過ぎん」
「それは知性のない下級のアンデッドを労働力として使って、儲ける連中がいるからですよね。でも――」
「その程度の浅はかな理解で我らを語ろうとは笑止な」
オレの聞きかじりの話を否定し、フードの男は僅かに覗いている唇をゆがめる。
「どうやらお前は貴族では無いようだから、庶民がどういうものかは知っているだろう」
オレが身をもって知っているのは二一世紀における『先進国の庶民』の生活だけど、まあそれでもファンタジー世界の庶民の生活の想像ぐらいは出来る。
少なくともオレだってこの首都に引きこもっている貴族達よりは分かっているつもりだ。
そういう意味では、お忍びであちこち出歩いて庶民の生活をその目で見ているテマーティンもそこらの貴族より庶民目線には近い考え方が出来るかもしれないな。
オレとしてはあの『軽率王子』はあんまり支持したくはないのだけど。
「考えても見ろ。農民達にとって用水路を引き、堤防を造るのは自分たちのためになると分かっていても、そのための労働にかり出され、その工事や維持の費用を税として取られるのは嬉しい事か?」
確かにオレがそんな事にかり出される立場になったら、やっぱりイヤだろうな。
必要だと分かっていても、喜んでやれるとはとても思えない。
「そのような事をアンデッドが行ってくれるのならば、やつらにとってはむしろ喜ばしい事ではないか」
「そのアンデッドが昨日までの隣人だったとしてもですか?」
「当たり前だ。それこそが『人間』というものの本質だろう」
フードの男は当然のように言い切った。
その手の『公共事業』は大部分、機械で行う元の世界ならともかく、地元の住民が忙しい中、自分たちの身を削って行うものだとしたら、確かに『アンデッドでも身代わりになってくれればいい』と思う人間もいるかもしれない。
「他にも救貧院の活動に使われる経費はどこから出るのだ? 日々汗水流して働いている者どもの税金ではないかね? 働きもしない穀潰し共のために自分たちの金が使われている事を心から嬉しく思う人間はどれだけいる?」
オレの感覚からすれば『明日は我が身』である以上、社会保障の整備は当然のこととなるが、自分がまともに働ける身からすれば、そんな事に経費を使われるのに不満を持つ人間の気持ちは分かる。
ずいぶんと偏った見方だが、恐らくこの世界ではそれを支持する人間も少なくないのだろうな。
「聖女達のきれい事など、所詮は表向きだけの話に過ぎん。実際には我らこそが奴らを裏で支えている……つまり日々迫害されている我ら『虚ろなるもの』の信徒こそが本当にこの世界の土台になっているのだ」
いや。その言いぐさは分かるけど、少なくともこの国でもそんなにたくさんアンデッドはいないでしょう。
テマーティンがお忍びであっちこっち見て回っているけど、まさかその都度、アンデッドを隠しているわけじゃあるまい。
う~ん。あの軽率王子様の行動が無かったら、オレもついつい信じてしまったかもしれないけど、やっぱりこいつらの言いぐさも偏りすぎだろう。
周囲に同意見の人間しかいないと、自分たちの主張こそが正しく、受け入れない世間が間違っていると考えが凝り固まってしまう人間はいつの世にもいると言うが、こいつらも同じなんだな。
「あなたは自分たちのやっていることが人々の望むものだと言いたいのですか?」
「当然だろう。罪人や怠け者の穀潰し共はアンデッドに変えて働かせるか、さもなくば『虚ろなるもの』の生け贄にすればいいのだ。そうすればこの国はまさに『理想の国家』に生まれ変わるだろう」
ああ。この人達は本当の意味での『確信犯』だ。
元から望み薄だったけど説得なんか出来る相手じゃ無い。
「それだけではないぞ。戦争になってもアンデッドを兵士にすれば、兵糧もいらない、略奪もしない、女共を犯したりもしない、恐怖も感じず慈悲も無い、まさに理想の軍隊となりうるのだ」
「そんなことをしたら……」
もし本当にそんな事をすれば、それこそ周辺国や各教団から袋だたきにされてあっという間にこの国は滅亡してしまうだろう。
だがオレが絶句していると、指導者はいかにも『そんな事はお見通し』と言わんばかりに応じてくる。
「お前はおおかた、そんなことでは即座にこの国は滅ぼされると思ったのだろう」
その通りだよ。
あんたらだってそう思っているなら、もうとっくに手遅れだと思うけど、諦めて真っ当な道に戻ってくれ。
「何のためにここしばらく我らが危険や犠牲を覚悟して、この国の要人共を暗殺してきたと思っているのだ」
そんなのオレが知っているわけ無いだろ。
もったいぶらずに教えてくれよ。
「簡単な事だ。名の知れた者を暗殺した事で、愚民どもの悲痛の叫びや、落胆の心が満ちてきている。それにより我らの『偉大な計画』は大きく進捗した――そしてそなたを最後の決め手として贄に捧げる事で、本当に完遂するのだ」
ええ?
いきなり『生け贄』というだけで驚きだったけど、連中にとってオレが『パズルの最終ピース』なわけなの?
口先だけでも『虚ろなるもの』に賛同して、そこで生け贄を脱したところで、どうにか逃げ出すチャンスをうかがおうとか思っていたのに、それは完全にダメじゃ無いか。
くそう。こんな事になるなら聖女教会に捕まった方がまだマシだった。
いやいや。諦めてどうする!
オレは決してくじけないぞ!
少なくとも『最後の決め手』としての贄ならば、そのためには大仰な儀式を行う必要があるはず。
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