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第3章 出会ったのは王子様 立ち向かうのはアンデッド教団
第20話 『虚ろなるもの』の生け贄として
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オレがどうにか状況の打開を考えていると、司祭はアゴをしゃくって合図する。
「こやつは儀式の時まで牢に放り込んでおけ」
この指図は予想通りで、少しだけほっとする。
今すぐに始末すると言い出さなかっただけ、オレにとってはチャンスがあるということだからな。
命令を受けた男共が動き出すが、ここでその一人が下卑た笑いを浮かべてフードの指導者へと近寄る。
「司祭様。ちょっと待って下せえ。神様に捧げる前に、俺たちでコイツを味見させてもらっていいですかい?」
おい! ちょっと待て!
それってつまり今からオレはこの連中にスケベこまされるということか?
辞めろ! 生け贄は論外だとして、そっちもまっぴらゴメンだ!
だいたいオレは『生娘』なんだから、そんな事をしたら生け贄としての価値が下がると思わないか?
幾らアンドッドの神様でも捧げられるのは生娘の方がいいよね?!
それはこの世界でも同じだよな?!
だったらそんな事を司祭様は許しちゃダメだよね?!
そう言ってくれ!
「王子の愛妾というなら、もう生娘じゃないんでしょう。だったら俺たちがちょっとばかりつまみ食いしたっていいじゃありませんか」
うがあ!
こいつらは勝手にオレを『テマーティンの愛妾』だと思っているんだった。
それではこっちが『生娘』だと主張しても、絶対に信じてなんかもらえない。
なんでこうも次から次へとオレの想定は一方的に踏みにじられるんだ。
「別に生け贄に捧げるの反対するってわけじゃありませんぜ。その前に俺たちもちょっとだけ楽しませてもらいたいだけなんでさあ」
こいつらのむき出しの下卑た欲望には正直、吐き気しかしない。
もともと男であるオレはそりゃ『愛する人に操を捧げたい』なんて考えているわけじゃないが、少なくともこんなクズ共に身体をいいようにされるぐらいなら、今からでも聖女教会にとっ捕まるか、テマーティンの愛人になった方がまだマシだ!
いや。あくまでも比較論の話だけど、要するにそれだけイヤだって事だ。
オレが絶対絶命の危機に戦慄していると、フードの相手は無言で男に向けて一歩踏み出し――そこで相手を張り倒した。
「愚か者が! 我らの神聖な儀式を貴様らごときゲス共の欲望で汚すつもりか!」
おお?! 司祭様は反対してくれたぞ!
広く慕われている人間を、ただ人々に悲痛な思いをさせたいというだけの理由で殺害しておいて、女をさいなむ行為を蔑むというのもよく分からない価値基準ではある。
まあ二一世紀の世界でも大国が町ひとつ砲撃や空爆で吹っ飛ばして、瓦礫に変えても大して話題にならないものだし、人間とはそういうものかもしれない。
しかし今のオレにとっては、首がちぎれるまで激しく同意したい気分である。
「いいか。我らは確かに法を犯してはいる! だがそれは全て神聖にして遠大な目標のためだ! 貴様らは何も考えず従っていればいいのだ!」
人間に対して『何も考えず従え』って、そりゃまるでロボットかアンデッドに対する言いぐさだろ。
いや。ここはそういう教団か。
とりあえず余計な言葉は聞かなかったことにして、今は全力でこの司祭様に心の中でエールを送ることにしよう。
「どうした? 返事は?」
「……分かりました」
不満を隠してもいないが、逆らう事も無く男は頷く。
結局のところ『人間の欲望』に訴え支持を獲得しておいて、いきなり言葉だけ高尚な事を言ったところで現実がついてこないのは、どこの世界でも一緒だということである。
これはこっちにとってつけ込める隙かもしれないな。
ひとまず安堵とは言わないまでも、状況を打開できるかもしれない糸口を見いだしたところで、オレは男共に担ぎ上げられて運び出されていった。
しばしの後、オレは僅かな灯りで照らされた薄暗い牢屋に放り込まれていた。
残念ながら手足を縛られ、魔術は使えない状況のままであり、現在自分がどこにいるのかも分からない。
ひとまず『最悪の状況』は脱する事が出来たが、単なる先送りでしかないのは明らかだ。
生け贄にされる前に、どうにか脱出する方策を見つけなければならないが、手足を拘束され、魔術が使えないオレには現状どうすることも出来ない。
いや。諦めるわけにはいかん!
とにかくこの状況を打開できる糸口を何とか探すんだ。
『キィキィ……』
必死で頭を悩ませていると、ささやかな声と共に、オレの目の前に小さな影が飛び出してきた。
「あれ? お前は?」
見るとネズミが一匹、オレの顔の前に姿を見せて、まるで心配するかのように声をかけてきたのだ。
そうか。こいつは捕まる前にオレがドルイド魔術で仲間にしたネズミだ!
コイツはオレの服の中に逃げ込んで、そのままついてきていたのか。
こういう場合、このネズミに助けを呼んでもらう――のはどう考えても不可能だな。
記憶では動物に知性を与える魔術もあったはずだが、今のオレにはそれどころじゃない。
申し訳ないが、ここはもう少し努力してもらおう。
「この手を縛っている縄をかじってくれないか?」
幸いにも『か弱い乙女』の身体である俺を縛っているのは、さして太くもない普通の縄である。
うまくすればネズミの歯でもどうにかなるかもしれない。
とにかく今はこのネズミが『最後の希望』なんだから、すがるしかない。
この場にいない王子様なんぞより、このネズミの方が遙かに頼りになるぞ!
だがオレが腕に響く縄が削られる感触を頼もしく感じていると、固い石の床に響く足音が次第に近づき、こっちは思わず緊張に身を固くした。
誰か来る?
もう生け贄の儀式の準備が整ったのか?!
これはまずい。
いや。考えようによってはむしろチャンスか?
仮にネズミに手を縛っている縄を切ることが出来たとしても、物理的な破壊魔術の使えないオレは牢を壊す事は出来ないのだ。
何とかしてこの牢を開けさせないといけないわけだから、そういう意味では人が来てくれるのを待つしか無い。
しかしネズミにかじらせている縄はまだ切れていない。
このまま引っ立てられて生け贄にされてしまえば、そこで全ておしまいである。
どうにかして時間を稼がねばなるまい。
不本意だが、もしさっきのゲス男共が、またオレを運び出しに来たのなら、媚びでも何でも売って時間を稼ぐべきだろう。
ええい! 男のプライドよりもここは命が大事だ。
口惜しいが逃げるためには何でもするぞ!
だがしばしの後、牢の格子の向こうに見えたのは予想外の相手だった。
「あ、あなたは?」
姿を見せたのは、テマーティンの屋敷でオレをいつも憎々しげににらんでいた侍女の一人だったのだ。
「こやつは儀式の時まで牢に放り込んでおけ」
この指図は予想通りで、少しだけほっとする。
今すぐに始末すると言い出さなかっただけ、オレにとってはチャンスがあるということだからな。
命令を受けた男共が動き出すが、ここでその一人が下卑た笑いを浮かべてフードの指導者へと近寄る。
「司祭様。ちょっと待って下せえ。神様に捧げる前に、俺たちでコイツを味見させてもらっていいですかい?」
おい! ちょっと待て!
それってつまり今からオレはこの連中にスケベこまされるということか?
辞めろ! 生け贄は論外だとして、そっちもまっぴらゴメンだ!
だいたいオレは『生娘』なんだから、そんな事をしたら生け贄としての価値が下がると思わないか?
幾らアンドッドの神様でも捧げられるのは生娘の方がいいよね?!
それはこの世界でも同じだよな?!
だったらそんな事を司祭様は許しちゃダメだよね?!
そう言ってくれ!
「王子の愛妾というなら、もう生娘じゃないんでしょう。だったら俺たちがちょっとばかりつまみ食いしたっていいじゃありませんか」
うがあ!
こいつらは勝手にオレを『テマーティンの愛妾』だと思っているんだった。
それではこっちが『生娘』だと主張しても、絶対に信じてなんかもらえない。
なんでこうも次から次へとオレの想定は一方的に踏みにじられるんだ。
「別に生け贄に捧げるの反対するってわけじゃありませんぜ。その前に俺たちもちょっとだけ楽しませてもらいたいだけなんでさあ」
こいつらのむき出しの下卑た欲望には正直、吐き気しかしない。
もともと男であるオレはそりゃ『愛する人に操を捧げたい』なんて考えているわけじゃないが、少なくともこんなクズ共に身体をいいようにされるぐらいなら、今からでも聖女教会にとっ捕まるか、テマーティンの愛人になった方がまだマシだ!
いや。あくまでも比較論の話だけど、要するにそれだけイヤだって事だ。
オレが絶対絶命の危機に戦慄していると、フードの相手は無言で男に向けて一歩踏み出し――そこで相手を張り倒した。
「愚か者が! 我らの神聖な儀式を貴様らごときゲス共の欲望で汚すつもりか!」
おお?! 司祭様は反対してくれたぞ!
広く慕われている人間を、ただ人々に悲痛な思いをさせたいというだけの理由で殺害しておいて、女をさいなむ行為を蔑むというのもよく分からない価値基準ではある。
まあ二一世紀の世界でも大国が町ひとつ砲撃や空爆で吹っ飛ばして、瓦礫に変えても大して話題にならないものだし、人間とはそういうものかもしれない。
しかし今のオレにとっては、首がちぎれるまで激しく同意したい気分である。
「いいか。我らは確かに法を犯してはいる! だがそれは全て神聖にして遠大な目標のためだ! 貴様らは何も考えず従っていればいいのだ!」
人間に対して『何も考えず従え』って、そりゃまるでロボットかアンデッドに対する言いぐさだろ。
いや。ここはそういう教団か。
とりあえず余計な言葉は聞かなかったことにして、今は全力でこの司祭様に心の中でエールを送ることにしよう。
「どうした? 返事は?」
「……分かりました」
不満を隠してもいないが、逆らう事も無く男は頷く。
結局のところ『人間の欲望』に訴え支持を獲得しておいて、いきなり言葉だけ高尚な事を言ったところで現実がついてこないのは、どこの世界でも一緒だということである。
これはこっちにとってつけ込める隙かもしれないな。
ひとまず安堵とは言わないまでも、状況を打開できるかもしれない糸口を見いだしたところで、オレは男共に担ぎ上げられて運び出されていった。
しばしの後、オレは僅かな灯りで照らされた薄暗い牢屋に放り込まれていた。
残念ながら手足を縛られ、魔術は使えない状況のままであり、現在自分がどこにいるのかも分からない。
ひとまず『最悪の状況』は脱する事が出来たが、単なる先送りでしかないのは明らかだ。
生け贄にされる前に、どうにか脱出する方策を見つけなければならないが、手足を拘束され、魔術が使えないオレには現状どうすることも出来ない。
いや。諦めるわけにはいかん!
とにかくこの状況を打開できる糸口を何とか探すんだ。
『キィキィ……』
必死で頭を悩ませていると、ささやかな声と共に、オレの目の前に小さな影が飛び出してきた。
「あれ? お前は?」
見るとネズミが一匹、オレの顔の前に姿を見せて、まるで心配するかのように声をかけてきたのだ。
そうか。こいつは捕まる前にオレがドルイド魔術で仲間にしたネズミだ!
コイツはオレの服の中に逃げ込んで、そのままついてきていたのか。
こういう場合、このネズミに助けを呼んでもらう――のはどう考えても不可能だな。
記憶では動物に知性を与える魔術もあったはずだが、今のオレにはそれどころじゃない。
申し訳ないが、ここはもう少し努力してもらおう。
「この手を縛っている縄をかじってくれないか?」
幸いにも『か弱い乙女』の身体である俺を縛っているのは、さして太くもない普通の縄である。
うまくすればネズミの歯でもどうにかなるかもしれない。
とにかく今はこのネズミが『最後の希望』なんだから、すがるしかない。
この場にいない王子様なんぞより、このネズミの方が遙かに頼りになるぞ!
だがオレが腕に響く縄が削られる感触を頼もしく感じていると、固い石の床に響く足音が次第に近づき、こっちは思わず緊張に身を固くした。
誰か来る?
もう生け贄の儀式の準備が整ったのか?!
これはまずい。
いや。考えようによってはむしろチャンスか?
仮にネズミに手を縛っている縄を切ることが出来たとしても、物理的な破壊魔術の使えないオレは牢を壊す事は出来ないのだ。
何とかしてこの牢を開けさせないといけないわけだから、そういう意味では人が来てくれるのを待つしか無い。
しかしネズミにかじらせている縄はまだ切れていない。
このまま引っ立てられて生け贄にされてしまえば、そこで全ておしまいである。
どうにかして時間を稼がねばなるまい。
不本意だが、もしさっきのゲス男共が、またオレを運び出しに来たのなら、媚びでも何でも売って時間を稼ぐべきだろう。
ええい! 男のプライドよりもここは命が大事だ。
口惜しいが逃げるためには何でもするぞ!
だがしばしの後、牢の格子の向こうに見えたのは予想外の相手だった。
「あ、あなたは?」
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