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第3章 出会ったのは王子様 立ち向かうのはアンデッド教団
第26話 決着 そして女神への道?
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アンデッドの巨体を構成していた墓地の大地と、死体がバラバラになってあたりに降り注ぐ。
のしかかってきた巨大な胴体をオレの放った【陽光】がギリギリでぶち抜き、それと共にそれまでかろうじて保ってきた『人型』がついに崩壊し、完全に砕け散ったのだ。
オレは降り注ぐ残骸の中で、太陽の光を放ちつつ、どうにか立っていた。
もしあと数秒遅かったら、こっちは間違いなく押しつぶされていただろう。
あの司祭がどうなったか分からないが、いくら何でも一体化していたコープス・ギャザラーが滅んで無事とは思えない。
アンデッドの魂がどうなるかは知らないが、二度とこの世に帰ってこないよう、かっちりきっちりあの世に行って欲しいものだ。
オレは自分の無事をどうにか確認して、周囲を見回す。
周囲を埋め尽くした一般市民は、誰もがまぶしげにその手で目にひさしを作りつつ、それでもオレから目を背ける事が出来ない様子である。
どうやらオレはギリギリで賭けに勝ったらしい。
だがようやく安堵して心を緩めた瞬間、残った土塊の中から『何か』がオレに向けて飛び出してきた。
「え? まさか?!」
こっちが反応するより一瞬早く、肉が申し訳程度についただけの枯れ木のような腕がオレの首にかかる。
そして同時に、ひからびて落ちくぼんだ眼窩に憤怒を宿した視線が、オレの目と重なり合った。
「貴様のせいで……何もかも台無しだ! もう我は助からんが、お前も道連れにしてくれるわ!」
オレが未だ放っている【陽光】にその身を灼かれながら『虚ろなるものの司祭』が怒りと憎しみに駆られて攻撃してきたのだ。
そうか! この司祭はコープス・ギャザラーの頭部に潜り込んでいたんだ!
だから胴体をぶち抜かれ、本体が消滅した時も致命傷を避けられたということか。
だけどそれなら残った残骸に潜んで身を隠し、自分も一緒に滅びたフリをしてでも、どうにか逃げ延びるべきだったろう。
ここでオレを殺したところで、逃げられっこないのは明白だ。
言い換えるとそれほどまでに、自分の計画を台無しにしたオレに対する憎しみが深いということか。
「さあ我と共に滅びるがいい!」
「悪いけどこっちはそれに付き合う気はないよ!」
司祭の枯れた腕は、その外見に似合わぬ力でオレの細い首にねじ切れんばかりの力を込めてくる。
だがほぼ同時にオレは司祭に向けて、回復魔法である【肉体の治癒】を放った。
そしてそれと共に魔法で黒く染めていたオレの髪は、再び黄金の輝きを放ち出す。
「ぐぁぁぁぁ! なんだとぅ?!」
今まさにオレの首をへし折らんとした司祭の手は、みるみるうちに崩壊していく。
それだけではない。
司祭の身体全体が微塵に砕け、見る間に細かくチリに、そして無へと帰していった。
いわゆる『負の生命体』であるアンデッドに対しては『生命のエネルギー』である回復魔法が裏返ってダメージになる――『太陽光が弱点』と同様にファンタジーではお約束であるが、もし違っていたらこの司祭の道連れになっていたかと思うと、少しばかり寒気が走るところである。
「バ、バカな? その姿……それではお前はまさか!」
たぶんこの司祭は最後の瞬間にオレの事を『聖女教会の選ばれし者』だと思ったんだろうな。
こっちが回復魔法を使うとは思っていなかったので、迂闊にオレに接近したのが運の尽きだったわけだ。
もっともその評価をオレとしては力の限り否定したいところだが、こっちがそこまで口にする前に、司祭の身体は肉が残らず落ちたドクロだけとなる。
「そうか……お前は我らの計画を阻止するために送り込まれた『神の使者』だったというわけか……そうとも知らずに……」
おい。そりゃ買いかぶりもいいところだ。
だけどこっちが事実を指摘する間もなく、最後に残った司祭のドクロもまたチリと化す。
そしてオレの放っている【陽光】の中、微塵となった司祭の欠片は光を反射してまるでダイヤモンドダストのように輝いた。
暗闇の中で蠢いていた『虚ろなるもの』の司祭には過ぎた『詩的で美しい最後』というものであろうか。
だが司祭が完全に消滅したのを確認しても、オレは少しも安堵は出来なかった。
このとき複数の青紫――もちろん今のオレと同じ色をした――瞳が幾つも仰天の色を宿してこっちを見つめていたのだ。
その視線の主はもちろん駆けつけてきた聖女達である。
素人ならともかくプロである彼女達なら、いまオレが司祭に対して使ったのが回復魔法である事ぐらいすぐに気づくだろう。
それだけではない。
さきほどの司祭も気づいたように、今のオレは髪も金色になっている。
恐らく全開で魔力を放ったので【着色】の魔法が吹っ飛んでしまったのだ。
青紫の瞳と合わせてオレが逃げ出した『選ばれし者』である事は、もうさっき放った【陽光】と同じぐらい明白である。
そしてその【陽光】だけならまだごまかせるかもしれなかったが、こうなってしまっては取り繕いようがないだろう。
オレが捕まったら匿っていたテマーティンにも迷惑がかかる。
一刻も早くこの場を逃げ出さねばならない。
そう考えた瞬間、思わぬ出来事がオレの周囲で巻き起こった。
オレが周囲の状況から逃げる事を決断した瞬間、聖女達は揃って飛び出し、つられて護衛に同行している兵士達も後に続く。
ぬう。とにかく大勢で飛びかかって俺の身柄を抑える気か。
複数相手となると厄介だが、オレのチートな魔力を使えば逃げる事は不可能では無い。
俺はひとまず【陽光】を止め、次いで慌てて魔力を錬ろうとする。
だがこれまで拉致され、陵辱未遂され、とどめにコープス・ギャザラーと司祭を相手に少々奮闘しすぎたせいか、オレ自身の身体もかなりキツい状況になっていた。
まずい! これでは間に合わない! 取り押さえられてしまう!
血相を変えてオレに向けて駆けつけてくる聖女達を見て一瞬、オレの背筋に寒気が走る。
そしてオレが取り押さえられ、連行されてしまう恐怖に思わず動きを止めてしまった瞬間、聖女達はいきなり動きを止め――その場に揃って跪く。
ついてきた兵士達もその光景を見ると、聖女達に続き武器を置いて膝をつく。
え? どういうこと?!
「おお! 我らを、いえ。この国をお救い下さるため、女神イロールの化身が顕現されたのですね!」
「なんと尊いことでしょう」
「非力なる我らにとって身に余る光栄でございます」
祈りを捧げつつ崇敬の視線を向ける聖女達を見て、オレはちょっと脱力した。
あの。皆さん。勘違いも甚だしいですよ。
オレは聖女教会に性転換させられ、逃げ回りつつ男に戻る方法を探しているだけで、ちょっとチートが使えるに過ぎない二一世紀の男子高校生なんですから。
祈りなんか捧げられても困ります。
しかしオレが困惑していると、次に耳が割れんばかりの歓声が周囲に鳴り響いた。
それまで事の成り行きを見守っていた周囲の市民達もまた、聖女達がオレの前で跪き、祈りを捧げるのを見るとつられるように一斉に叫び出したのだ。
「おおお! 助かったんだ!」
「女神様が俺たちを助けて下さった!」
「輝ける女神様万歳!」
口々に喜びと感謝を叫ぶ怒濤のごときうねりが人々から発される。
自分の姿を見ると【陽光】の魔術は止めたとはいえ、その残滓があるのかオレの姿はぼんやりと光っている。
しかもさっきの司祭の攻撃時、頭を覆っていたフードは引き裂かれていたので、オレの容姿も、魔力の波動を受けてたなびきつつ黄金に輝く髪も丸見えになっていた。
周囲が夜闇に覆われているからこそ、その中でポツンと『桁違いの美少女』が金色の光をまとって立っている姿は、恐らく幻想的で神秘的なまでの美しさであろう。
しかもその少女は、ついさっき市民達に襲いかかった巨大な化け物の前にひとり立ちはだかり、太陽のごとき閃光を放ってその怪物を消し去ったのだ。
もしオレが一般市民としてその場にいたとして、この場面で『女神様が降臨した』と言われたら信じてしまうだろうな。
つまり市民達の反応は全くもって当然のことなのだ。
「女神様! ありがとうございます!」
「今宵の事は一生忘れません!」
「末代までの自慢話にさせていただきますぞ!」
絶賛と歓呼に迎えられ、オレはどうしてよいのかも分からず、たちすくむ。
普通の高校生は、いきなり『生き神様』扱いされた場合なんて考えてもいないわけだから仕方ないだろう。
だがこれでいい気分はしない。
だってオレはどこからどう考えても『女神様』なんかじゃないからね。
オレの祖国である日本の場合、神社に祀られて神になる人間も大勢いた事は知っているし、ネットでちょっと活躍すれば『神』なんてもてはやす人間だっていたさ。
だけど望みもしない女の姿で、崇拝されたって嬉しくも何ともないよ。
「ア、アルタシャ?!」
オレが逃げる事も忘れて立ちすくんでいると、今度は耳慣れてしまった偽名を呼ぶ声が響いてきた。
振り向くと予想通り、テマーティンとファザールがオレを見ている。
まずい。ここでテマーティンに抱きしめられたりしたら、一気に周囲が盛り上がって、オレを置いてけぼりにしたまま、なだれ込む事にもなりかねん。
しかし――
「おお。まさか……アルタシャ……あなたは本当に『御使い』だったのですね!」
思いもかけぬ事にテマーティンもファザールも跪く。
ええ? テマーティンまでこの空気に乗せられているの?
いや。神様が実在するこの世界では、こんな奇跡を目の当たりにしたら、そういう反応がむしろ正しいのだろう。
ならば! ここはそれにつけ込むのみ!
オレは改めて【陽光】を放つ。
もしオレを凝視している人間がいたら、これで間違いなく目がくらんだろう。
その隙にオレは【着色】でもう一度髪を黒く染めつつ、周囲に飛び込み、そのまま人混みに紛れる。
「ああ?! 女神様のお姿が?!」
「我らを救済する役目を果たしたので、神界にお戻りになられたのだ」
「うう。あの尊いお姿をもっと見ていたかった……」
一瞬の閃光の後で、オレの姿が消えたら、殆どの人間から『女神は神の領域にもどった』と思われるだろう。
そしてオレはまだ混乱の収まらぬ、このコルストの街区を駆けて、コープス・ギャザラーから逃げようとしていた市民のために開けられた城門から飛び出した。
無線通信どころか電話もないこの世界では、街区を一つ挟んだ先でも何が起きているかはリアルタイムで分からない。
城門を守る兵士も事態を把握出来ず、ただ殺到する市民におされて城門を開けただけなので、オレを見とがめる者はいない。
少し離れたところでオレは、しばしの時を過ごしたコルストの城壁を見上げる。
別れの言葉も言わずに逃げ出すなど、テマーティンやファザールには申し訳ないけど、もうこれ以上ここに留まる事は出来ないよ。
もし男に戻れて、それで機会があったら一度ここに帰ってきて、彼らの力になってあげられたらとは思う。
そのときにはテマーティン達もオレをアルタシャとは思わないのは確実だが、まあ思い出は美しいままにしておいてあげよう。
ちょっとばかり後ろめたい思いを抱えつつ、オレは未だ『怪物』が倒された事を知らず、まばらに逃げている人たちに紛れてラマーリア王国首都コルストを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この日、コルストにおける『虚ろなるもの』の教団は壊滅し、ラマーリア王国を悩ませていた要人に対するテロ行為は、ひとまずなりを潜める事になる。
だが人の欲望に根ざす『虚ろなるもの』への崇拝が消えた、という話はその後も決して聞かれる事は無かった。
のしかかってきた巨大な胴体をオレの放った【陽光】がギリギリでぶち抜き、それと共にそれまでかろうじて保ってきた『人型』がついに崩壊し、完全に砕け散ったのだ。
オレは降り注ぐ残骸の中で、太陽の光を放ちつつ、どうにか立っていた。
もしあと数秒遅かったら、こっちは間違いなく押しつぶされていただろう。
あの司祭がどうなったか分からないが、いくら何でも一体化していたコープス・ギャザラーが滅んで無事とは思えない。
アンデッドの魂がどうなるかは知らないが、二度とこの世に帰ってこないよう、かっちりきっちりあの世に行って欲しいものだ。
オレは自分の無事をどうにか確認して、周囲を見回す。
周囲を埋め尽くした一般市民は、誰もがまぶしげにその手で目にひさしを作りつつ、それでもオレから目を背ける事が出来ない様子である。
どうやらオレはギリギリで賭けに勝ったらしい。
だがようやく安堵して心を緩めた瞬間、残った土塊の中から『何か』がオレに向けて飛び出してきた。
「え? まさか?!」
こっちが反応するより一瞬早く、肉が申し訳程度についただけの枯れ木のような腕がオレの首にかかる。
そして同時に、ひからびて落ちくぼんだ眼窩に憤怒を宿した視線が、オレの目と重なり合った。
「貴様のせいで……何もかも台無しだ! もう我は助からんが、お前も道連れにしてくれるわ!」
オレが未だ放っている【陽光】にその身を灼かれながら『虚ろなるものの司祭』が怒りと憎しみに駆られて攻撃してきたのだ。
そうか! この司祭はコープス・ギャザラーの頭部に潜り込んでいたんだ!
だから胴体をぶち抜かれ、本体が消滅した時も致命傷を避けられたということか。
だけどそれなら残った残骸に潜んで身を隠し、自分も一緒に滅びたフリをしてでも、どうにか逃げ延びるべきだったろう。
ここでオレを殺したところで、逃げられっこないのは明白だ。
言い換えるとそれほどまでに、自分の計画を台無しにしたオレに対する憎しみが深いということか。
「さあ我と共に滅びるがいい!」
「悪いけどこっちはそれに付き合う気はないよ!」
司祭の枯れた腕は、その外見に似合わぬ力でオレの細い首にねじ切れんばかりの力を込めてくる。
だがほぼ同時にオレは司祭に向けて、回復魔法である【肉体の治癒】を放った。
そしてそれと共に魔法で黒く染めていたオレの髪は、再び黄金の輝きを放ち出す。
「ぐぁぁぁぁ! なんだとぅ?!」
今まさにオレの首をへし折らんとした司祭の手は、みるみるうちに崩壊していく。
それだけではない。
司祭の身体全体が微塵に砕け、見る間に細かくチリに、そして無へと帰していった。
いわゆる『負の生命体』であるアンデッドに対しては『生命のエネルギー』である回復魔法が裏返ってダメージになる――『太陽光が弱点』と同様にファンタジーではお約束であるが、もし違っていたらこの司祭の道連れになっていたかと思うと、少しばかり寒気が走るところである。
「バ、バカな? その姿……それではお前はまさか!」
たぶんこの司祭は最後の瞬間にオレの事を『聖女教会の選ばれし者』だと思ったんだろうな。
こっちが回復魔法を使うとは思っていなかったので、迂闊にオレに接近したのが運の尽きだったわけだ。
もっともその評価をオレとしては力の限り否定したいところだが、こっちがそこまで口にする前に、司祭の身体は肉が残らず落ちたドクロだけとなる。
「そうか……お前は我らの計画を阻止するために送り込まれた『神の使者』だったというわけか……そうとも知らずに……」
おい。そりゃ買いかぶりもいいところだ。
だけどこっちが事実を指摘する間もなく、最後に残った司祭のドクロもまたチリと化す。
そしてオレの放っている【陽光】の中、微塵となった司祭の欠片は光を反射してまるでダイヤモンドダストのように輝いた。
暗闇の中で蠢いていた『虚ろなるもの』の司祭には過ぎた『詩的で美しい最後』というものであろうか。
だが司祭が完全に消滅したのを確認しても、オレは少しも安堵は出来なかった。
このとき複数の青紫――もちろん今のオレと同じ色をした――瞳が幾つも仰天の色を宿してこっちを見つめていたのだ。
その視線の主はもちろん駆けつけてきた聖女達である。
素人ならともかくプロである彼女達なら、いまオレが司祭に対して使ったのが回復魔法である事ぐらいすぐに気づくだろう。
それだけではない。
さきほどの司祭も気づいたように、今のオレは髪も金色になっている。
恐らく全開で魔力を放ったので【着色】の魔法が吹っ飛んでしまったのだ。
青紫の瞳と合わせてオレが逃げ出した『選ばれし者』である事は、もうさっき放った【陽光】と同じぐらい明白である。
そしてその【陽光】だけならまだごまかせるかもしれなかったが、こうなってしまっては取り繕いようがないだろう。
オレが捕まったら匿っていたテマーティンにも迷惑がかかる。
一刻も早くこの場を逃げ出さねばならない。
そう考えた瞬間、思わぬ出来事がオレの周囲で巻き起こった。
オレが周囲の状況から逃げる事を決断した瞬間、聖女達は揃って飛び出し、つられて護衛に同行している兵士達も後に続く。
ぬう。とにかく大勢で飛びかかって俺の身柄を抑える気か。
複数相手となると厄介だが、オレのチートな魔力を使えば逃げる事は不可能では無い。
俺はひとまず【陽光】を止め、次いで慌てて魔力を錬ろうとする。
だがこれまで拉致され、陵辱未遂され、とどめにコープス・ギャザラーと司祭を相手に少々奮闘しすぎたせいか、オレ自身の身体もかなりキツい状況になっていた。
まずい! これでは間に合わない! 取り押さえられてしまう!
血相を変えてオレに向けて駆けつけてくる聖女達を見て一瞬、オレの背筋に寒気が走る。
そしてオレが取り押さえられ、連行されてしまう恐怖に思わず動きを止めてしまった瞬間、聖女達はいきなり動きを止め――その場に揃って跪く。
ついてきた兵士達もその光景を見ると、聖女達に続き武器を置いて膝をつく。
え? どういうこと?!
「おお! 我らを、いえ。この国をお救い下さるため、女神イロールの化身が顕現されたのですね!」
「なんと尊いことでしょう」
「非力なる我らにとって身に余る光栄でございます」
祈りを捧げつつ崇敬の視線を向ける聖女達を見て、オレはちょっと脱力した。
あの。皆さん。勘違いも甚だしいですよ。
オレは聖女教会に性転換させられ、逃げ回りつつ男に戻る方法を探しているだけで、ちょっとチートが使えるに過ぎない二一世紀の男子高校生なんですから。
祈りなんか捧げられても困ります。
しかしオレが困惑していると、次に耳が割れんばかりの歓声が周囲に鳴り響いた。
それまで事の成り行きを見守っていた周囲の市民達もまた、聖女達がオレの前で跪き、祈りを捧げるのを見るとつられるように一斉に叫び出したのだ。
「おおお! 助かったんだ!」
「女神様が俺たちを助けて下さった!」
「輝ける女神様万歳!」
口々に喜びと感謝を叫ぶ怒濤のごときうねりが人々から発される。
自分の姿を見ると【陽光】の魔術は止めたとはいえ、その残滓があるのかオレの姿はぼんやりと光っている。
しかもさっきの司祭の攻撃時、頭を覆っていたフードは引き裂かれていたので、オレの容姿も、魔力の波動を受けてたなびきつつ黄金に輝く髪も丸見えになっていた。
周囲が夜闇に覆われているからこそ、その中でポツンと『桁違いの美少女』が金色の光をまとって立っている姿は、恐らく幻想的で神秘的なまでの美しさであろう。
しかもその少女は、ついさっき市民達に襲いかかった巨大な化け物の前にひとり立ちはだかり、太陽のごとき閃光を放ってその怪物を消し去ったのだ。
もしオレが一般市民としてその場にいたとして、この場面で『女神様が降臨した』と言われたら信じてしまうだろうな。
つまり市民達の反応は全くもって当然のことなのだ。
「女神様! ありがとうございます!」
「今宵の事は一生忘れません!」
「末代までの自慢話にさせていただきますぞ!」
絶賛と歓呼に迎えられ、オレはどうしてよいのかも分からず、たちすくむ。
普通の高校生は、いきなり『生き神様』扱いされた場合なんて考えてもいないわけだから仕方ないだろう。
だがこれでいい気分はしない。
だってオレはどこからどう考えても『女神様』なんかじゃないからね。
オレの祖国である日本の場合、神社に祀られて神になる人間も大勢いた事は知っているし、ネットでちょっと活躍すれば『神』なんてもてはやす人間だっていたさ。
だけど望みもしない女の姿で、崇拝されたって嬉しくも何ともないよ。
「ア、アルタシャ?!」
オレが逃げる事も忘れて立ちすくんでいると、今度は耳慣れてしまった偽名を呼ぶ声が響いてきた。
振り向くと予想通り、テマーティンとファザールがオレを見ている。
まずい。ここでテマーティンに抱きしめられたりしたら、一気に周囲が盛り上がって、オレを置いてけぼりにしたまま、なだれ込む事にもなりかねん。
しかし――
「おお。まさか……アルタシャ……あなたは本当に『御使い』だったのですね!」
思いもかけぬ事にテマーティンもファザールも跪く。
ええ? テマーティンまでこの空気に乗せられているの?
いや。神様が実在するこの世界では、こんな奇跡を目の当たりにしたら、そういう反応がむしろ正しいのだろう。
ならば! ここはそれにつけ込むのみ!
オレは改めて【陽光】を放つ。
もしオレを凝視している人間がいたら、これで間違いなく目がくらんだろう。
その隙にオレは【着色】でもう一度髪を黒く染めつつ、周囲に飛び込み、そのまま人混みに紛れる。
「ああ?! 女神様のお姿が?!」
「我らを救済する役目を果たしたので、神界にお戻りになられたのだ」
「うう。あの尊いお姿をもっと見ていたかった……」
一瞬の閃光の後で、オレの姿が消えたら、殆どの人間から『女神は神の領域にもどった』と思われるだろう。
そしてオレはまだ混乱の収まらぬ、このコルストの街区を駆けて、コープス・ギャザラーから逃げようとしていた市民のために開けられた城門から飛び出した。
無線通信どころか電話もないこの世界では、街区を一つ挟んだ先でも何が起きているかはリアルタイムで分からない。
城門を守る兵士も事態を把握出来ず、ただ殺到する市民におされて城門を開けただけなので、オレを見とがめる者はいない。
少し離れたところでオレは、しばしの時を過ごしたコルストの城壁を見上げる。
別れの言葉も言わずに逃げ出すなど、テマーティンやファザールには申し訳ないけど、もうこれ以上ここに留まる事は出来ないよ。
もし男に戻れて、それで機会があったら一度ここに帰ってきて、彼らの力になってあげられたらとは思う。
そのときにはテマーティン達もオレをアルタシャとは思わないのは確実だが、まあ思い出は美しいままにしておいてあげよう。
ちょっとばかり後ろめたい思いを抱えつつ、オレは未だ『怪物』が倒された事を知らず、まばらに逃げている人たちに紛れてラマーリア王国首都コルストを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この日、コルストにおける『虚ろなるもの』の教団は壊滅し、ラマーリア王国を悩ませていた要人に対するテロ行為は、ひとまずなりを潜める事になる。
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しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
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