異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第5章 辺境の地にて

第78話 危機を脱したところで出てきた相手は

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 オレは倒れたアカスタに駆け寄ったものの、そこで意識が少しばかり混濁してくる。

 ああ。体が重い。全身が痛い。頭がボンヤリとしてくる。

 さきほどの神像に捕まっていた時に、受けたダメージは思ったよりも深刻らしい。
 オレが受けた感覚だが、どうもあの霊体達は襲った相手から『霊力』というか『生命力』というか、そういうものを吸収し、その代わりに何らかの毒か病原体のようなものを相手に注入するらしい。
 敢えて言えば『毒を持つ吸血生物』に近い行動だ。

 あと先ほどの神像がこっちを襲っても、アカスタには全く眼中になく、ただ吹っ飛ばしただけだったのを見るとオレはあの霊体達にとって随分と『おいしいエサ』だったらしい。
 男にもてるのもうんざりだが、あんなおぞましい連中にもてるなんて真っ平ゴメンだ。

 そんなことを考えつつオレは気絶しているアカスタに対し、重い体にむち打って踏ん張って手を伸ばす。
 とりあえず命を落とすほどの重傷では無い様子だったので、オレは【応急手当】をアカスタにかける。
 そこで傍らの霊体『師匠』はオレに向けて、嬉しそうに頬笑みかけてきている。
 あんたひょっとして、オレが必死に弟子を助けようとしているのを見て、オレ達を『お似合い』とでも思っているのではあるまいな。
 どうやらこの霊体師匠はあくまでも ―― 大して役に立たない ―― 助言をする程度であって、魔術をかけたり、戦いの手助けをしたりすることは出来ないらしい。
 つくづく無能だと言いたいが、冷静に考えるとファンタジーにおいて『既に死んでいる師匠の霊体』が実際に役に立つ話なんてないから、それを考えると正しい事なのかもしれないな。

 普段からどんな助言をしているのか知らないが、とりあえずアカスタは下心満載ではあるにせよ、危険を承知でオレを助けてくれたのだから、ここはひとまずこのスケベ師匠にも感謝はしておこう。
 そして顔に血色が戻り規則正しい呼吸を始めたアカスタの様子を確認して、オレは一応は安堵する。
 次はオレ自身を回復させよう。
 そう考えたところで、オレの背中におぞましい気配が走る。

 まさか?! この気配は先ほどの霊体と同じだ!
 しまった! オレは依り代となった、木像は破壊したけど中に集っていた霊体をどうにか出来たわけじゃ無い。
 また襲いかかってくるつもりか!
 いくら霊体だからってしつこすぎるだろ。いい加減、成仏してくれよ。

 思わず振り向くと、そこでは壊れた木像からまるで蒸気か何かのように揺らめく存在が立ち上っていた。
 どうする。実体を持たない霊体のままならどうにかなるけど、次にまた何か別のものを依り代にして攻撃されたら今度こそやばいぞ。

 先ほど受けたダメージはまるで回復していないのだ。
 ここはアカスタを放置して逃げる事も一瞬だが、心をよぎる。
 だけどコイツはオレを助けるためにこんな事になったのだ。
 それを見捨てて逃げるなんて真似をしたら、たぶんオレはもう自分を許せないだろう。
 ここはどうにか凌ぐしかないんだ。

 オレが冷や汗を流しつつ、霊体を見据えていると連中はいきなり幾つもの群れに分裂してあっという間にバラバラに消えていった。

 あれ? 助かったのか?

 思わぬ成り行きにオレは、安堵するよりもしばし困惑していた。
 しかしそんなオレの耳、いや心に、落ち着いた声が響いてきた。

【感謝するぞ……】
「え?」

 オレが見たところ、神像に取り憑いていたおぞましい群れが消えたところで、そこにはいくつかの霊体が宙に浮いていた。
 ただそれは先ほど見た『あばたに覆われ、毒々しい存在』ではなく、半透明でぼんやりと人の形をした存在だった。

「あのう……あなた方はいったい?」

 先ほどの神像にこもっていたけど、勝手に動かされて迷惑していた霊体だろうか?
 それともこのお堂の守護霊とかそのたぐいか?

 いや! 違う! これはひょっとしたら――

【そなたのお陰で助かった……これで我らは行くべきところに向かう事が出来る】
「え? それではやっぱり! あなた方はさっきのあの霊体?!」

 いくら霊体に関する知識が乏しいと言っても、こんなことになったら何が起きたのかは一目瞭然だ。
 さきほどオレから吸収した力で、この霊体はまともになったらしい。
 つまりこいつらが『感謝する』と言ったのは『エサになってくれてありがとう』という意味合いということになる。

【だが残念だな。そなたを完全に吸収出来ればきっと我らの殆どがこうなったろうに。どうにか一部だけが助かった。実に悔やまれる】

 こいつら霊体だけあって人間とは価値観がかけ離れすぎだろ!
 いや。待て。こいつらはいま『助かった』という言い方をした。
 加えてオレを襲ったことについては『吸収』と表現している。

 やっぱりあの『あばたに覆われた霊体』は何らかの望まぬ形態であり、それを脱するために人間を襲い、霊体の見えない人間はそれに気付かないまま病気になっていたということになる。
 そして普通の人間ではやつらの望むものを、十分に提供できないが、オレにはそれがあるらしい。
 思わずゾッとなった。
 それはつまり先ほど逃げ出した連中が、またオレを襲いに来る可能性が高いことを意味していたからだ。


 オレの背筋が寒くなるなかで、さきほどの霊体達は目の前から消えていった。
 どうやら連中の言った『行くべきところ』に去って行ったらしい。
 それがあいつらの本来の『循環』だったとしたら、そこから外れるようになった理由は何なのだろうか。
 ええい。今はそんな事を考えている場合では無い。
 とりあえず。自分自身を癒やすのが優先だ。

 あの霊体からの攻撃で受けたダメージが【病の治癒】キュアディシーズで回復させる事が出来るのは、以前にフレストルを治した事で分っている。
 オレが自分に『病の治癒』をかけると、この身の苦痛は潮が引くように消えていく。
 それでどうにか一息ついたところでオレは未だ気絶したままのアカスタ ―― まあ打ち倒されてからまだ二分かそこらしか経っていないけど ―― の様子を確認する。
 しかしそこで思いもかけぬ言葉がオレの精神にかけられる。

【ほう……お前さんは本当に大したもんじゃのう……】
「え?」

 オレが思わず振り向くと、そこにはアカスタの霊体師匠がオレに向けて笑いかけていた。

「あの……今の言葉はあなたが?」
【ああそうじゃ。ワシの言葉がお前さんには聞こえるようになったらしいのう】

 どうやら『ワシ』というのは、この師弟共通の一人称らしい。
 ただ単にアカスタが跡を継いだときに、師匠の真似をしただけかもしれないけど。

「なんで今までオレには黙っていたんですか!」

 実際に役に立ったかどうかは分らないが、この師匠に相応の知識があって何らかの警告を発してくれていたなら、さっきのピンチを切り抜ける事だって出来たかもしれないのだ。

【そう慌てるでない。ワシだっていまようやく、お前さんに『声』がとどくようになったんじゃからな】
「それを信じるとして、なぜそうなったんですか?」
【ワシにも分らん。ただお前さんの力が増したからじゃないかのう……】

 おいおい。いまさっきオレはあの霊体達に力を吸われ、その代償に毒を撃ち込まれたようなものなのに、どうして力が増したりするんだよ。
 霊体の癖に耄碌しているのか?
 それとも何か別の要因があるのだろうか。今のオレに『死にかけたらパワーアップする』とか某サ○ヤ人のような能力まであっても驚きはしない。

【しかし弟子でもなく、見たところ本職のシャーマンでもないのに、ワシの言葉が聞こえるようになるとは少し驚いたぞ】
「こちらがシャーマンでない事は分るんですか?」

 アカスタはオレの男装を見て、シャーマンだと勘違いしたがさすがに『師匠』はそんなに単純でも無いらしい。

【無論じゃ。お前さんにはワシのような守護霊ワイターが憑いているワケではないからのう。アカスタのような未熟者にはその区別がつかん。じゃがまあそれはいいとしよう】

 そういって『師匠』はオレの身をじっくりと見つめてきた。
 オレは先ほど自分の身を癒やしたので、肌のあばたに覆われた部分も元通りの姿に戻っている。
 それを霊体とは言え、じろじろと見つめられると少々気恥ずかしい。
 なにしろコイツはオレの胸を揉むことを弟子に要求するようなスケベ守護霊なのだ。

【ふうむ。実にいいのう。お前さんはいい嫁になれるじゃろう】
「お断りさせてもらいます」

 アカスタには命を助けられたし、もし何か困った事があるなら助力するのもやぶさかではないが、それでも彼の嫁になる気などさらさらない。

【そうつれなくするでないぞ。相手のよいところ、悪いところを両方見てそれでゆっくりと考えて決めればよいのじゃからな】

 言っている事は正論だが、もちろんオレがそんな話に付き合うつもりなど皆無だ。

「何度言われようとお弟子さんとそういう関係になる気はありませんから」
【おいおい。誤解するでないぞ。ワシにはそんなつもりは全く無いからの】
「あれ? そうだったんですか?」
【当たり前じゃ。お前さんほどの素晴らしい娘が、アカスタのような半人前にふさわしいはずが無かろうが】

 なんだ。さきほどから『いい嫁になれる』とか何とか言われていたが、単なる一般論か。
 まあそれでも別に嬉しくも無いが、しつこく誘われるよりはマシだな。
 だが次に霊体師匠の発した言葉にオレは思わずひっくり返る。

【お前さんはワシの嫁になるのじゃからな】
「ふざけないで下さい!」

 オレに霊体を消し飛ばすような攻撃魔法が無い事を感謝しろよ。
 この色ボケジジイ。
 いや。そこまでしなくても、もし一神教徒から霊体を道具にする魔術をオレが学んでいたら真っ先にあんたを呪縛し、二度と日の目を見ないように『唯一なるもの』の社の地下にでも封印したところだ。

【なんじゃ。ダメなのか? てっきりアカスタのような小童では不満なので、ワシのような熟した男が好みかと思ったのじゃが】

 あんたは熟したなんて段階を過ぎ去りすぎて、段階どころか人生の階段を遙かに越えて生身の体だって捨て去った身だろうが!

「あんまりふざけていると、こっちも怒りますよ」
【まあそう怒るでない。不肖の弟子しか話し相手のいない寂しい老人相手だと思って、愚痴の一つも聞いてくれたらいいではないか】

 そういって『師匠』は俺を制するように両手を挙げる。
 その姿は嬉しげで、そして自分で口にしているようにどこか寂しげな様子がうかがえた。
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