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第5章 辺境の地にて
第79話 神聖さと穢れについて
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オレが少々憤っていると『師匠』は倒れたままのアカスタに視線を向ける。
【本音を言えば、ワシも出来れば早く成仏したいのじゃ。しかしこの未熟者をほったらかしにするわけにもいかず、こうやって守護霊をやっておる】
「え? それでは本来の守護霊は違うのですか?」
【もちろんじゃ。一人前のシャーマンの守護霊は自らの魂の一部を切り取り、それを『覚醒』させることで『自分自身の一部にして、かつ別の存在』とするものなのじゃ。しかしワシはこやつをそこまで育てる事が出来なんだ。だからこうやって本来の道を外れて不肖の弟子を導こうとしておるのじゃ」
なるほど。この爺さんもそれなりに弟子の事を想い、責任を感じているのか。
【もしもお前さんが、こいつと一緒になってくれるなら、ワシも安心して成仏出来るのじゃがのう】
あんたの成仏を手助けしたいのは山々だけど、アカスタだろうと誰だろうと男と一緒になる気はゼロですから。
だいたいオレにとってはアカスタの身が無事なのが確認出来た以上、もっともっと大事な話があるのだ。
「それはともかく先ほどの霊体について知っている事があったら教えて下さい」
【そんな事は人に教わるのでは無く、まず自分で考えよ】
「こっちはあなたの弟子でも何でもないので、そんな回りくどいやり方をされても困ります。単刀直入に知っている事を教えて下さい」
【弟子で無いのなら、ワシが教える義務も義理もあるまい】
「それならここに倒れているお弟子さんを放置して、このまま立ち去りますよ。それでもいいんですか?」
正直に言うとそんな真似をする気は無い。
たとえば先ほどの霊体が戻ってきて、アカスタが襲われて命を落とすような事になったら確実にオレは激しく後悔する。
しかしこの霊体師匠にはこちらから出来る事が無いので、脅しをかけるとしたらこれぐらいしか打つ手は無いのだ。
【それは困るのう……】
どうやらこの脅しは有効だったようだ。
まあこのスケベ爺にも人並みの感情がなければ死んだ後でも弟子のためにこの世に残ったりはしないだろう。
【このバカ弟子がどうなろうと構わんが、お前さんの美貌とお別れするのは何とも惜しいからのう】
本気で言ってるのかこのクソ爺!
怒りと言うより殺意に近い感情がわき上がるが、オレには何も出来ない現実を再認識させられるだけなので、ぐっと堪える。
【正直に言えば、ワシもあんな霊体を見た事は無い。これは本当じゃ。だがある程度の見当はつくぞい】
「それで結構ですから教えて下さい」
今は何でもいいので手がかりが欲しいのだ。
それが間違っていたとしたら ―― その場合はオレがまたひどい目に遭うだけだ。
少なくとも犠牲者が増えるよりはよっぽどマシだと考えよう。
【間違っていても責任はとれないぞ】
「どうせこっちはあなたに対し何も出来ませんから構いませんよ」
【そんな事を言うモノではないぞ。お前さんがワシの前で裸になって、全てをさらけ出したらワシの目は潰れてしまうかもしれん。だから是非とも復讐に来てくれ】
霊体の癖に潰れる目があるのか!
いや。ここは抑えよう。今のところこのスケベ霊だけが手がかりなんだから。
「そういうのが見たいのでしたら、こちらが無事に帰ってこないと不可能だということは分ってますよね」
【それぐらいは承知しておるわ。案ずるな。ワシにもシャーマンとしての誇りはある。自分の仕事に関わる事では嘘はつかん】
つまり仕事以外では嘘をつくということだろうか。
だけどそんなところをツッコんでも仕方ない。
【ワシの感覚では、あのもの達にはむしろ『神聖さ』を感じたんじゃ。そしてたぶんお前さんの力が増したのは、あいつらから『与えられたもの』の故ではないかの】
「ええ? そんなバカな!」
オレはついつい素っ頓狂な声を挙げてしまった。
間違いなくあいつらに注入されたもののせいで、オレは死にかけたのだ。それにも関わらず『神聖さ』を感じただって?
【そう驚くでない。世には毒の吹き出す火山や、英雄が怪物を倒した結果、その穢れにより不毛の地になったと伝承されるところを『聖なる土地』として崇拝する事もある。毒や穢れが時として神聖さをもたらす事もあるのじゃぞ】
その理屈は有毒ガスを吹き出す火山を『ご神体』として崇拝する神社があちこちにある日本人としては理解しやすいけど、つい先ほどその神聖な存在によって殺されかけたオレとしては納得はしがたい。
「しかしさっきの霊体は『飢え』てもいましたよ」
【そうじゃ。霊体は人から崇拝と魔力を捧げられて、神性を得る。そしてその見返りとして力を分け与える。そして崇拝が受けられねば神性を失って飢える事になる】
「つまりさっきの霊体達は無理矢理に人から魔力を引き出し、その見返りに『神聖さ』故の毒を与えて病気にしていると思っているのですか?」
【先ほどの連中がお前さんにもたらしたのも、それに近いものだと思うんじゃ。たぶん並の人間では耐えられぬから、それを受けたものは病に落ち、命をも落とす。そういうことじゃないかのう】
「理屈は分りますけど、確信はないんですね」
少しばかり頼りなげな返答である。
もちろんこっちは命がかかっているだから鵜呑みには出来ないが、参考になった事は間違いない。
【そりゃ仕方なかろう。ワシだってそう何でも知っているわけではないからのう。さてそれでは返礼として、ワシの弟子に『目覚めの口づけ』をしてはくれんかの?】
「とんでもないです!」
オレは思わず叫びつつ、傍らで倒れているアカスタを蹴り起こした。
「いてえなあ……」
オレに蹴り起こされたアカスタは、しばらくして頭を抑えながら立ち上がってこっちに目を向ける。
「おう。お前も無事だったか。ワシが助けたお陰だな」
いや。まあ。アカスタのお陰でピンチを切り抜けられたのは事実だが、恩に着せられるほどの事はしてもらっていない気がするぞ。
「それじゃあワシの――」
「嫁にはなりませんからね」
「ええ~ う!」
スッパリキッパリ拒絶したところで、アカスタはあからさまに落胆の様子を見せるが次にその表情が一気に険しくなる。
オレが何事かと思うと、見習いシャーマンの少年は先ほどオレが『植物歪曲』で壊した木像に駆け寄った。
「うう……壊れちまった……せっかくの神様が……」
アカスタは残念そうに残骸をいろいろと拾い上げる。
部外者のオレにとっては『ただの腐りかけた木像』でしかないが、アカスタにとっては『先祖代々受け継いできた神様の像』なのだ。
理由はどうあれ目の前で壊れてしまったら、さぞかしショックだろう。
しかもオレがその原因とは無縁とも言えないのだから、痛ましそうなアカスタを見ると、こっちも申し訳ないという意識を感じずにはいられない。
「今晩のところはいろいろとお世話になりました」
オレはここで霊体師匠の方に頭を下げると、アカスタにも声をかける。
「アカスタ……落ち着いて」
「よっしゃぁ! ワシが像もお堂も直してやるからな! ちょっと待っててくれよ神様!」
「え?」
アカスタはあっさりと気分を切り替えたらしく、神像の残骸をポイと捨てる。
「あの……いいの? それは『神様の像』だったんでしょう?」
「ああ。これは確かに神様がここにお越しになったときに、宿るところだけど、壊れちまったならただの腐った木でしかねえよ」
アカスタはそんな事も分らないのか、と言わんばかりだ。
なるほど。元の世界だと『神様の像』に対して本当に神が宿る事は無いし、そもそも神様そのものが顕れる事など無いから、像はあくまでも崇拝の象徴でしかない。
だがだからこそ逆に、それを神様そのものとして敬意を払う事にも通じる。
しかしアカスタの信仰では『神様の像』は本当に神様が宿る場所だけど、逆に言えば神様そのものがいないのなら、ただの木の像でしかない。
つまり普段は自分の領域にいる神様がこの世界にやってきたときに宿る『器』でしかないから、その『器』が壊れたら新しく作ればいいという感覚になるわけだ。
「それじゃあ次は壊れにくいように石から削り出そう。そうすればきっと神様も喜んで下さるじゃろう」
ちょっと待った!
そんな事をして今度はその石の像に、またさっきの連中が宿ったら始末に負えん。
オレは思わずアカスタの肩に手を置いて制止する。
「石から削り出したら凄く手間がかかるでしょう? やっぱり適当な木を削って作った方がいいと思うんだけど……」
「お前はそう言うけど、ワシは他にも回らないといけないところがあるから、手入れしないとすぐに腐ってしまう木の像はやっぱりダメじゃないかと思うんだ」
「それを言ったら軽くてここに運びやすい木の像の方がよくない?」
もちろん木の像だって、作るのはもちろん運ぶのだって簡単じゃないだろうけど、アカスタひとりでは石の像の運搬なんてとても不可能だろう。
「そうか……確かにワシひとりでは難しいのう。じゃから是非ともお前がワシの嫁に――」
「お断りします」
いい加減にしろこのマセガキ。
オレの元の世界だとお前の年齢で結婚することそのものが犯罪だぞ。
改めて断固たる拒否をオレが示すと、やっぱりアカスタは落胆する。
「分った。それじゃあ仕方ない……とりあえずオレはしばらくここに留まるから、お前も明日の晩また来てくれないか?」
なかなかコイツは粘り強いな。
しかしまあコイツの使う魔術にも興味はある。
一神教徒とは対極に位置している存在だが、両方の魔術を学ぶ事で何かの手助けになるかもしれない。
なによりさっきはアカスタに助けてもらわないと危なかったのも事実だ。
結婚するつもりは全く無いが、このお堂を修理するのを手伝うぐらいならオレもやぶさかではない。
この神像が壊れ、お堂が傷ついた原因はオレにもある。もちろんそれを恥じる気は無いし、罪とも思わないが、それでも再建を助けたいとは思うのだ。
オレの【植物歪曲】の魔術を使えば、木材を加工するのもどうにかなるだろう。
それに横で見ている変態、もとい『師匠』とももう少し話がしたい。
「それではこのお堂が直って、神様の像をもう一度、納めるまでは手伝いましょう」
オレの返答を受けて、アカスタの顔には一気に精気が満ちる。
「おお! 感謝するぞ!」
いくら何でも現金すぎやしないかね。
いや。もし男のオレがアカスタの立場だったら、やっぱり嬉しいだろうな。
このお堂が壊れたのをひとりで直すなんてウンザリするだろうけど、今のオレが手助けに来ると聞いたら、きっと喜んで取り組むだろう。
いや。むしろ直すのを遅らせてでも、付き合わせたいと思うかもしれない。
そう考えると、つくづくこの身がうらめしい。
いそいそと壊れた木像や扉の残骸をかたづけているアカスタを見ながら、オレは小さくため息をつきつつその場を後にした。
【本音を言えば、ワシも出来れば早く成仏したいのじゃ。しかしこの未熟者をほったらかしにするわけにもいかず、こうやって守護霊をやっておる】
「え? それでは本来の守護霊は違うのですか?」
【もちろんじゃ。一人前のシャーマンの守護霊は自らの魂の一部を切り取り、それを『覚醒』させることで『自分自身の一部にして、かつ別の存在』とするものなのじゃ。しかしワシはこやつをそこまで育てる事が出来なんだ。だからこうやって本来の道を外れて不肖の弟子を導こうとしておるのじゃ」
なるほど。この爺さんもそれなりに弟子の事を想い、責任を感じているのか。
【もしもお前さんが、こいつと一緒になってくれるなら、ワシも安心して成仏出来るのじゃがのう】
あんたの成仏を手助けしたいのは山々だけど、アカスタだろうと誰だろうと男と一緒になる気はゼロですから。
だいたいオレにとってはアカスタの身が無事なのが確認出来た以上、もっともっと大事な話があるのだ。
「それはともかく先ほどの霊体について知っている事があったら教えて下さい」
【そんな事は人に教わるのでは無く、まず自分で考えよ】
「こっちはあなたの弟子でも何でもないので、そんな回りくどいやり方をされても困ります。単刀直入に知っている事を教えて下さい」
【弟子で無いのなら、ワシが教える義務も義理もあるまい】
「それならここに倒れているお弟子さんを放置して、このまま立ち去りますよ。それでもいいんですか?」
正直に言うとそんな真似をする気は無い。
たとえば先ほどの霊体が戻ってきて、アカスタが襲われて命を落とすような事になったら確実にオレは激しく後悔する。
しかしこの霊体師匠にはこちらから出来る事が無いので、脅しをかけるとしたらこれぐらいしか打つ手は無いのだ。
【それは困るのう……】
どうやらこの脅しは有効だったようだ。
まあこのスケベ爺にも人並みの感情がなければ死んだ後でも弟子のためにこの世に残ったりはしないだろう。
【このバカ弟子がどうなろうと構わんが、お前さんの美貌とお別れするのは何とも惜しいからのう】
本気で言ってるのかこのクソ爺!
怒りと言うより殺意に近い感情がわき上がるが、オレには何も出来ない現実を再認識させられるだけなので、ぐっと堪える。
【正直に言えば、ワシもあんな霊体を見た事は無い。これは本当じゃ。だがある程度の見当はつくぞい】
「それで結構ですから教えて下さい」
今は何でもいいので手がかりが欲しいのだ。
それが間違っていたとしたら ―― その場合はオレがまたひどい目に遭うだけだ。
少なくとも犠牲者が増えるよりはよっぽどマシだと考えよう。
【間違っていても責任はとれないぞ】
「どうせこっちはあなたに対し何も出来ませんから構いませんよ」
【そんな事を言うモノではないぞ。お前さんがワシの前で裸になって、全てをさらけ出したらワシの目は潰れてしまうかもしれん。だから是非とも復讐に来てくれ】
霊体の癖に潰れる目があるのか!
いや。ここは抑えよう。今のところこのスケベ霊だけが手がかりなんだから。
「そういうのが見たいのでしたら、こちらが無事に帰ってこないと不可能だということは分ってますよね」
【それぐらいは承知しておるわ。案ずるな。ワシにもシャーマンとしての誇りはある。自分の仕事に関わる事では嘘はつかん】
つまり仕事以外では嘘をつくということだろうか。
だけどそんなところをツッコんでも仕方ない。
【ワシの感覚では、あのもの達にはむしろ『神聖さ』を感じたんじゃ。そしてたぶんお前さんの力が増したのは、あいつらから『与えられたもの』の故ではないかの】
「ええ? そんなバカな!」
オレはついつい素っ頓狂な声を挙げてしまった。
間違いなくあいつらに注入されたもののせいで、オレは死にかけたのだ。それにも関わらず『神聖さ』を感じただって?
【そう驚くでない。世には毒の吹き出す火山や、英雄が怪物を倒した結果、その穢れにより不毛の地になったと伝承されるところを『聖なる土地』として崇拝する事もある。毒や穢れが時として神聖さをもたらす事もあるのじゃぞ】
その理屈は有毒ガスを吹き出す火山を『ご神体』として崇拝する神社があちこちにある日本人としては理解しやすいけど、つい先ほどその神聖な存在によって殺されかけたオレとしては納得はしがたい。
「しかしさっきの霊体は『飢え』てもいましたよ」
【そうじゃ。霊体は人から崇拝と魔力を捧げられて、神性を得る。そしてその見返りとして力を分け与える。そして崇拝が受けられねば神性を失って飢える事になる】
「つまりさっきの霊体達は無理矢理に人から魔力を引き出し、その見返りに『神聖さ』故の毒を与えて病気にしていると思っているのですか?」
【先ほどの連中がお前さんにもたらしたのも、それに近いものだと思うんじゃ。たぶん並の人間では耐えられぬから、それを受けたものは病に落ち、命をも落とす。そういうことじゃないかのう】
「理屈は分りますけど、確信はないんですね」
少しばかり頼りなげな返答である。
もちろんこっちは命がかかっているだから鵜呑みには出来ないが、参考になった事は間違いない。
【そりゃ仕方なかろう。ワシだってそう何でも知っているわけではないからのう。さてそれでは返礼として、ワシの弟子に『目覚めの口づけ』をしてはくれんかの?】
「とんでもないです!」
オレは思わず叫びつつ、傍らで倒れているアカスタを蹴り起こした。
「いてえなあ……」
オレに蹴り起こされたアカスタは、しばらくして頭を抑えながら立ち上がってこっちに目を向ける。
「おう。お前も無事だったか。ワシが助けたお陰だな」
いや。まあ。アカスタのお陰でピンチを切り抜けられたのは事実だが、恩に着せられるほどの事はしてもらっていない気がするぞ。
「それじゃあワシの――」
「嫁にはなりませんからね」
「ええ~ う!」
スッパリキッパリ拒絶したところで、アカスタはあからさまに落胆の様子を見せるが次にその表情が一気に険しくなる。
オレが何事かと思うと、見習いシャーマンの少年は先ほどオレが『植物歪曲』で壊した木像に駆け寄った。
「うう……壊れちまった……せっかくの神様が……」
アカスタは残念そうに残骸をいろいろと拾い上げる。
部外者のオレにとっては『ただの腐りかけた木像』でしかないが、アカスタにとっては『先祖代々受け継いできた神様の像』なのだ。
理由はどうあれ目の前で壊れてしまったら、さぞかしショックだろう。
しかもオレがその原因とは無縁とも言えないのだから、痛ましそうなアカスタを見ると、こっちも申し訳ないという意識を感じずにはいられない。
「今晩のところはいろいろとお世話になりました」
オレはここで霊体師匠の方に頭を下げると、アカスタにも声をかける。
「アカスタ……落ち着いて」
「よっしゃぁ! ワシが像もお堂も直してやるからな! ちょっと待っててくれよ神様!」
「え?」
アカスタはあっさりと気分を切り替えたらしく、神像の残骸をポイと捨てる。
「あの……いいの? それは『神様の像』だったんでしょう?」
「ああ。これは確かに神様がここにお越しになったときに、宿るところだけど、壊れちまったならただの腐った木でしかねえよ」
アカスタはそんな事も分らないのか、と言わんばかりだ。
なるほど。元の世界だと『神様の像』に対して本当に神が宿る事は無いし、そもそも神様そのものが顕れる事など無いから、像はあくまでも崇拝の象徴でしかない。
だがだからこそ逆に、それを神様そのものとして敬意を払う事にも通じる。
しかしアカスタの信仰では『神様の像』は本当に神様が宿る場所だけど、逆に言えば神様そのものがいないのなら、ただの木の像でしかない。
つまり普段は自分の領域にいる神様がこの世界にやってきたときに宿る『器』でしかないから、その『器』が壊れたら新しく作ればいいという感覚になるわけだ。
「それじゃあ次は壊れにくいように石から削り出そう。そうすればきっと神様も喜んで下さるじゃろう」
ちょっと待った!
そんな事をして今度はその石の像に、またさっきの連中が宿ったら始末に負えん。
オレは思わずアカスタの肩に手を置いて制止する。
「石から削り出したら凄く手間がかかるでしょう? やっぱり適当な木を削って作った方がいいと思うんだけど……」
「お前はそう言うけど、ワシは他にも回らないといけないところがあるから、手入れしないとすぐに腐ってしまう木の像はやっぱりダメじゃないかと思うんだ」
「それを言ったら軽くてここに運びやすい木の像の方がよくない?」
もちろん木の像だって、作るのはもちろん運ぶのだって簡単じゃないだろうけど、アカスタひとりでは石の像の運搬なんてとても不可能だろう。
「そうか……確かにワシひとりでは難しいのう。じゃから是非ともお前がワシの嫁に――」
「お断りします」
いい加減にしろこのマセガキ。
オレの元の世界だとお前の年齢で結婚することそのものが犯罪だぞ。
改めて断固たる拒否をオレが示すと、やっぱりアカスタは落胆する。
「分った。それじゃあ仕方ない……とりあえずオレはしばらくここに留まるから、お前も明日の晩また来てくれないか?」
なかなかコイツは粘り強いな。
しかしまあコイツの使う魔術にも興味はある。
一神教徒とは対極に位置している存在だが、両方の魔術を学ぶ事で何かの手助けになるかもしれない。
なによりさっきはアカスタに助けてもらわないと危なかったのも事実だ。
結婚するつもりは全く無いが、このお堂を修理するのを手伝うぐらいならオレもやぶさかではない。
この神像が壊れ、お堂が傷ついた原因はオレにもある。もちろんそれを恥じる気は無いし、罪とも思わないが、それでも再建を助けたいとは思うのだ。
オレの【植物歪曲】の魔術を使えば、木材を加工するのもどうにかなるだろう。
それに横で見ている変態、もとい『師匠』とももう少し話がしたい。
「それではこのお堂が直って、神様の像をもう一度、納めるまでは手伝いましょう」
オレの返答を受けて、アカスタの顔には一気に精気が満ちる。
「おお! 感謝するぞ!」
いくら何でも現金すぎやしないかね。
いや。もし男のオレがアカスタの立場だったら、やっぱり嬉しいだろうな。
このお堂が壊れたのをひとりで直すなんてウンザリするだろうけど、今のオレが手助けに来ると聞いたら、きっと喜んで取り組むだろう。
いや。むしろ直すのを遅らせてでも、付き合わせたいと思うかもしれない。
そう考えると、つくづくこの身がうらめしい。
いそいそと壊れた木像や扉の残骸をかたづけているアカスタを見ながら、オレは小さくため息をつきつつその場を後にした。
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