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第6章 西方・第五階級編
第95話 不思議な出会いは騒動の予感
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オレは街道からもう一度、離れて裏道を歩いていた。
人目を避けて裏道ばかり歩いているとは、まるでお尋ね者だな。
まあ実際に一歩間違えば『魔女』にされてしまう立場だから、仕方ないだろう。
だがそこで魔術で強化したオレの感覚の片隅に引っかかるものがあった。
苦痛にうめく声がオレの耳に届いたのだ。
誰かが苦しんでいるのか。
どうする。
こんな世界で行き倒れなんてどこにでもいるだろうし、オレに出来る事なんてしょせんは限られている。
一時的に助けられたところで、最後まで面倒を見るなんて出来るわけもなく、結局は本人がどうにかせねばならないのだ。
そんなわけで見捨ててさっさと先に行くのが、正しい選択だな。
そう思ったところで結局、助けに行ってしまうのがオレなのは仕方ない。
オレは苦痛の声の上がっている方向へと足を向けた。
しばしの後、苦痛の声のあがっているところを見ると、数人の人間が輪になっていた。
遠目にはシンプルで飾り気のない服をまとい、色とりどりのマントを身につけているようだ。
どうやら全員が男性であるらしいが、見たところ没個性というか、マント以外では誰が誰だか区別がつかない ―― まあ『外国人は全員同じ顔をしている』というものなのかもしれないけど。
そしてその輪の中心に倒れている男性がいて、それが苦痛にうめいているようだ。
ただ不可解な事に、周囲の男性達は互いに顔を見合わせ、困った様子を見せているが、なぜか倒れている相手に手をさしのべるものもいないようだ。
こいつらいったい何をしているんだ?
まあいい。とりあえず話しかけてみよう。
「あのう……皆さん。何をされているんですか?」
「「……」」
どういうわけか一同は、オレを見て何かを恐れるように一斉に下がる ―― もちろん苦しんでいる『仲間』を置いたままだ。
倒れているのを含めて全員で五人だけど、近くで見ても本当にマントの色以外には区別付かないな。
う~ん。よく分らんが、ここはうめいている相手を助けることにしよう。
近くで見るとマントは同じだが、この相手はえらく頑丈そうな鎧を身にまとっている。
おお。この鎧だけでもこの世界の感覚では一財産だろうな。
結構なお金持ちということか。
とりあえずオレが手を当てると、遠目で見ている連中の身に緊張が走る。心配だったら何か問いかけるなりしろよ。
この人達からは本当に『どうしていいのか分らない』というオーラが全身から発せられているよ。
見たところ鎧の男は負傷しているのでは無く、疲労困憊のあまり倒れてしまったようだ。
そりゃまあこんな重そうな鎧をまとって動き回っていたら、すぐに限界が来るよな。
オレはひとまず【疲労回復】の魔法をかける。
すると見る見る鎧の男の血色は回復し、呼吸も整ってくる。
どうやら大丈夫なようだな。
そこでオレはこちらを遠巻きに見ている連中に向き直る。
別にお礼を期待したわけではないが、オレだって欲ぐらいはある。
こんな高価な鎧をまとった相手を護衛にして、かなり世間知らずそうな人達なら、結構なものを出してくれるのでは無いか、という淡い期待ぐらいしてもバチはあたるまい。
「この人はもう心配いりませんよ。ただ疲れていただけでしたから」
オレが安心させるように話しかけると、四人は互いに目配せをして、そこで代表らしい相手が前に出て来た。
「私はサラニス。この一行の指導者だ」
「こちらはアルタシャと呼んで下さい」
すっかり使い慣れた偽名を伝えた上で、オレはサラニスと名乗った男に対面した。
年齢は見たところ二十代後半程度だが、もっと年を取っている雰囲気もあるし、また正反対に『世間知らずなお子様』的な空気も漂っている。
どこか不可思議な印象を与える外見だった。
「我らの護衛を助けてくれたのだな。感謝する」
全然、感情のこもっていない感謝の言葉を受け、オレはちょっとばかり落胆する。
だがその次に目のしたものにオレは度肝を抜かれる事になった。
「とりあえず礼はこれでいいか?」
そういってサラニスは重そうなインゴットをオレに差し出してたのだ。
その『山吹色』でピカピカと光る金属の塊はまさか?!
そう。それは紛れもない純金の塊だった。
控えめに言ってもたかが疲労で倒れた護衛を治療した報酬にしては、目の玉が飛び出る代物だろう。
「え? それはいったい」
「見ての通り純度九九.九九九%の金塊だ」
「あ……あのう……」
「足りないのか。仕方ない。それではもう一つ出そう」
純金のインゴットを二つ、何の惜しげも無く感情も見せずに差し出す姿にオレはあっけにとられるしかなかった。
そしてオレの困惑する態度を見てサラニスも困った顔を浮かべる。
「申し訳ない。我々には『外部の人間』の感覚が分らないのだ。よかったらどれだけ払えばいいのか教えてくれまいか?」
この人達は本当に世間を知らないらしい ―― 異世界人のオレが人のことを言えた義理では無いが。
そして彼らを騙し、金を出せるだけ巻き上げるのが、この場で最も賢い選択だろうな。
「そんなにいりませんよ。とりあえずしまっておいて下さい」
ああ。普段は自分の出自含め嘘をつきまくっているのに、こんなところで嘘をつけないオレって本当にヘタレな気がするな。
むしろこのサラニスと名乗った男の一行の事が急速に心配になってきた。
「あなた方がどこのどなたなのかまず教えてくれませんか?」
オレはこの連中に深く関わる羽目に陥るだろうという、ロクでもない予感をヒシヒシと感じずにはいられなかった。
まあ差し出してきた金塊をもらうことが前提なら決して損な取引でも無いはずだ ―― たぶんそれは甘すぎる見込みなんだろうな、と心の片隅で自分自身が呟いていたが。
オレの問いかけに対し、サラニスは少しばかり口ごもるが、どこか観念した様子で話を始める。
「我らは『第五階級』の者だ」
その説明では何がなんだかわかりません!
あんたらはそれで十分なのか知りませんけど、部外者に対してもうちょっと親切になってくれてもバチは当たらないと思いますよ。
オレの顔に浮かんだ困惑の表情に気付いたのだろう。
サラニスもこまったような顔になった。
どうやら言葉での意志疎通には重大な問題が発生しているにしろ、表情からある程度、お互いの意図は計れるようだ。
異文化の理解には言葉よりもボディランゲージの方が重要なんだなあ。
「すまないな。私は一応、外部の者との交渉役ではあるのだが、どうにもうまくいかないようだ」
「構いませんよ。とにかく何でも言って下さい」
オレは早くもこの自称『第五階級』とやらの相手を後悔し始めていたが、ここで見捨てて逃げるのも後味が悪い。
「それでは――」
ここでサラニスは後ろいる黄色のマントを羽織った男に対して合図すると、そちらが前に出てきた。
こちらはサラニスより年上に見えるが、やはり実年齢をつかみがたい外見であることに変わりはないようだ。
「私はゼリアン。学者をしている」
「それはどうも……」
どう反応してよいのか分からなかったので、オレは一応生返事をする。
「我らの『第五階級』とは『唯一なるもの』の他の信徒達のカーストとは別の存在を意味する言葉だ。本来は異なる宗派からの呼び名だったのだが、今では外部の者に我らを紹介する時には普通に使われるようになっている」
「はあ? カーストですか?」
「うむ。『唯一なるもの』の信徒では貴族、僧侶、兵士、農民という四つのカーストが定められている。それについては我らも同じなのだが、外部の者には我らの体制が理解しづらいらしく、別の階級としてそのように呼ばれるようになったのだ」
「まあ……分かりました」
オレが曖昧な返答をするとゼリアンは下がって、またサラニスと入れ替わる。
おいおい。その程度の話をするのにいちいち代役を立てるのか?
「意味は理解してくれたようだな」
改めてオレの前に立ったサラニスにはどこかホッとした様子がうかがえる。
「なんでそれだけの話をするためだけに、相手が入れ替わるんですか」
「君が『第五階級』の説明を求めたが、私は意味を知らなかったからだ」
「え? どういうことですか?」
「我らには我らの言語による呼称があるが、それは君のような『外部の者』には通じない事ぐらいは知っている。だから私は先ほどそちらに通じる言葉を使ったのだ」
どうやらこの連中は周囲の人間に対し『第五階級』だと名乗れば通用していたので、こっちにも同じように名乗ったという事らしい。
そこまでは俺の頭でも分るけど、それでも不可解な事が多すぎますよ。
「だけどそれぐらいの事をどうしてサラニスさんが知らないんですか?」
「今までの外部の人間に『第五階級』の意味を説明する必要もなかったので、私の仕事と関係ないと思っていたからだ。次からはいま聞いた事を説明するとしよう」
う~ん。この非効率的な集団は一体何なの?
間違いなく人間なんだけど、たぶん以前に出会ったアンデッド教団の『虚ろなるもの』あたりの方がよっぽどオレには理解しやすい。
しかし何というか放っておけないというか、このままに出来ないというか、あまりに頼りなさ過ぎで保護欲がそそられる気がするな。
ああ。いつものことだけど、きっとロクでもない事になるだろうという確信だけは止めどなくわき上がってくるよ。
「ところであなた方はどうして、こんなところにいるんですか?」
「そうだな……我らは故郷を出て、この見知らぬ土地に来ている」
「いったい何があったんです」
「我らの故郷は外部の者に攻撃されて破壊されてしまったのだ」
「ええ?!」
これにはオレも少々どころでなく驚いた。
西方でもいろいろと紛争があることは知っていたし、今までだっていろいろと血なまぐさい場面には出くわしてきたが、いきなりそんな話をされたらやっぱり『平和国家日本の高校生』としては落ち着いてはいられない。
だが奇妙な事にサラニスの言葉にも態度にも故郷が破壊されたことを『困った』と考えてはいても『悲しい』だとか『他の仲間が心配』だとか、そういう意識がまるで感じられない。
それは何というか『そのような感情はそもそも持ち合わせていない』としか表現のしようのないものだった。
「それで我らは、近くにある他の『第五階級』の居住地を目指していたのだが、唯一の護衛が倒れてしまってどうすればいいのか分らなかったのだ」
どうも護衛の人をほったらかしにして立ち去っても、その後の事が心配で動けなかったようだが、この『第五階級』の人達は想定外の出来事への対処能力が極めて低いらしい。
やや大げさに表現すると『人間』というよりは、漫画に出てくるアンドロイドの類いを彷彿とさせるところだ。
「そこで君に頼みたいのだが、我らが次の居住地につくまで、手助けをしてもらえないだろうか? もちろんただとは言わない。この金塊を必要なだけ持って行ってくれ」
そう言ってサラニスは改めて金塊をオレに差し出してくる。
ぬう。危険は間違いなくあるだろうけど、報酬としては十分過ぎるぐらいだ。
それに詳しい事は分らないにしろ、明らかに困っていて、しかも『外界』の事を何も知らないこの人達を放置するのもオレには出来ない相談だ。
ロクでもない相手に出会ったら、下手すれば有り金全部巻き上げられた上で、奴隷として売り飛ばされる何てこともありうるからな。
仕方ない。ここは少しだけ寄り道をするとしよう。
いつものようにただの『寄り道』ですまない事になるとは分っていても、何かあると首を突っ込まずにはいられないのがオレの性分というものなのだ。
人目を避けて裏道ばかり歩いているとは、まるでお尋ね者だな。
まあ実際に一歩間違えば『魔女』にされてしまう立場だから、仕方ないだろう。
だがそこで魔術で強化したオレの感覚の片隅に引っかかるものがあった。
苦痛にうめく声がオレの耳に届いたのだ。
誰かが苦しんでいるのか。
どうする。
こんな世界で行き倒れなんてどこにでもいるだろうし、オレに出来る事なんてしょせんは限られている。
一時的に助けられたところで、最後まで面倒を見るなんて出来るわけもなく、結局は本人がどうにかせねばならないのだ。
そんなわけで見捨ててさっさと先に行くのが、正しい選択だな。
そう思ったところで結局、助けに行ってしまうのがオレなのは仕方ない。
オレは苦痛の声の上がっている方向へと足を向けた。
しばしの後、苦痛の声のあがっているところを見ると、数人の人間が輪になっていた。
遠目にはシンプルで飾り気のない服をまとい、色とりどりのマントを身につけているようだ。
どうやら全員が男性であるらしいが、見たところ没個性というか、マント以外では誰が誰だか区別がつかない ―― まあ『外国人は全員同じ顔をしている』というものなのかもしれないけど。
そしてその輪の中心に倒れている男性がいて、それが苦痛にうめいているようだ。
ただ不可解な事に、周囲の男性達は互いに顔を見合わせ、困った様子を見せているが、なぜか倒れている相手に手をさしのべるものもいないようだ。
こいつらいったい何をしているんだ?
まあいい。とりあえず話しかけてみよう。
「あのう……皆さん。何をされているんですか?」
「「……」」
どういうわけか一同は、オレを見て何かを恐れるように一斉に下がる ―― もちろん苦しんでいる『仲間』を置いたままだ。
倒れているのを含めて全員で五人だけど、近くで見ても本当にマントの色以外には区別付かないな。
う~ん。よく分らんが、ここはうめいている相手を助けることにしよう。
近くで見るとマントは同じだが、この相手はえらく頑丈そうな鎧を身にまとっている。
おお。この鎧だけでもこの世界の感覚では一財産だろうな。
結構なお金持ちということか。
とりあえずオレが手を当てると、遠目で見ている連中の身に緊張が走る。心配だったら何か問いかけるなりしろよ。
この人達からは本当に『どうしていいのか分らない』というオーラが全身から発せられているよ。
見たところ鎧の男は負傷しているのでは無く、疲労困憊のあまり倒れてしまったようだ。
そりゃまあこんな重そうな鎧をまとって動き回っていたら、すぐに限界が来るよな。
オレはひとまず【疲労回復】の魔法をかける。
すると見る見る鎧の男の血色は回復し、呼吸も整ってくる。
どうやら大丈夫なようだな。
そこでオレはこちらを遠巻きに見ている連中に向き直る。
別にお礼を期待したわけではないが、オレだって欲ぐらいはある。
こんな高価な鎧をまとった相手を護衛にして、かなり世間知らずそうな人達なら、結構なものを出してくれるのでは無いか、という淡い期待ぐらいしてもバチはあたるまい。
「この人はもう心配いりませんよ。ただ疲れていただけでしたから」
オレが安心させるように話しかけると、四人は互いに目配せをして、そこで代表らしい相手が前に出て来た。
「私はサラニス。この一行の指導者だ」
「こちらはアルタシャと呼んで下さい」
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年齢は見たところ二十代後半程度だが、もっと年を取っている雰囲気もあるし、また正反対に『世間知らずなお子様』的な空気も漂っている。
どこか不可思議な印象を与える外見だった。
「我らの護衛を助けてくれたのだな。感謝する」
全然、感情のこもっていない感謝の言葉を受け、オレはちょっとばかり落胆する。
だがその次に目のしたものにオレは度肝を抜かれる事になった。
「とりあえず礼はこれでいいか?」
そういってサラニスは重そうなインゴットをオレに差し出してたのだ。
その『山吹色』でピカピカと光る金属の塊はまさか?!
そう。それは紛れもない純金の塊だった。
控えめに言ってもたかが疲労で倒れた護衛を治療した報酬にしては、目の玉が飛び出る代物だろう。
「え? それはいったい」
「見ての通り純度九九.九九九%の金塊だ」
「あ……あのう……」
「足りないのか。仕方ない。それではもう一つ出そう」
純金のインゴットを二つ、何の惜しげも無く感情も見せずに差し出す姿にオレはあっけにとられるしかなかった。
そしてオレの困惑する態度を見てサラニスも困った顔を浮かべる。
「申し訳ない。我々には『外部の人間』の感覚が分らないのだ。よかったらどれだけ払えばいいのか教えてくれまいか?」
この人達は本当に世間を知らないらしい ―― 異世界人のオレが人のことを言えた義理では無いが。
そして彼らを騙し、金を出せるだけ巻き上げるのが、この場で最も賢い選択だろうな。
「そんなにいりませんよ。とりあえずしまっておいて下さい」
ああ。普段は自分の出自含め嘘をつきまくっているのに、こんなところで嘘をつけないオレって本当にヘタレな気がするな。
むしろこのサラニスと名乗った男の一行の事が急速に心配になってきた。
「あなた方がどこのどなたなのかまず教えてくれませんか?」
オレはこの連中に深く関わる羽目に陥るだろうという、ロクでもない予感をヒシヒシと感じずにはいられなかった。
まあ差し出してきた金塊をもらうことが前提なら決して損な取引でも無いはずだ ―― たぶんそれは甘すぎる見込みなんだろうな、と心の片隅で自分自身が呟いていたが。
オレの問いかけに対し、サラニスは少しばかり口ごもるが、どこか観念した様子で話を始める。
「我らは『第五階級』の者だ」
その説明では何がなんだかわかりません!
あんたらはそれで十分なのか知りませんけど、部外者に対してもうちょっと親切になってくれてもバチは当たらないと思いますよ。
オレの顔に浮かんだ困惑の表情に気付いたのだろう。
サラニスもこまったような顔になった。
どうやら言葉での意志疎通には重大な問題が発生しているにしろ、表情からある程度、お互いの意図は計れるようだ。
異文化の理解には言葉よりもボディランゲージの方が重要なんだなあ。
「すまないな。私は一応、外部の者との交渉役ではあるのだが、どうにもうまくいかないようだ」
「構いませんよ。とにかく何でも言って下さい」
オレは早くもこの自称『第五階級』とやらの相手を後悔し始めていたが、ここで見捨てて逃げるのも後味が悪い。
「それでは――」
ここでサラニスは後ろいる黄色のマントを羽織った男に対して合図すると、そちらが前に出てきた。
こちらはサラニスより年上に見えるが、やはり実年齢をつかみがたい外見であることに変わりはないようだ。
「私はゼリアン。学者をしている」
「それはどうも……」
どう反応してよいのか分からなかったので、オレは一応生返事をする。
「我らの『第五階級』とは『唯一なるもの』の他の信徒達のカーストとは別の存在を意味する言葉だ。本来は異なる宗派からの呼び名だったのだが、今では外部の者に我らを紹介する時には普通に使われるようになっている」
「はあ? カーストですか?」
「うむ。『唯一なるもの』の信徒では貴族、僧侶、兵士、農民という四つのカーストが定められている。それについては我らも同じなのだが、外部の者には我らの体制が理解しづらいらしく、別の階級としてそのように呼ばれるようになったのだ」
「まあ……分かりました」
オレが曖昧な返答をするとゼリアンは下がって、またサラニスと入れ替わる。
おいおい。その程度の話をするのにいちいち代役を立てるのか?
「意味は理解してくれたようだな」
改めてオレの前に立ったサラニスにはどこかホッとした様子がうかがえる。
「なんでそれだけの話をするためだけに、相手が入れ替わるんですか」
「君が『第五階級』の説明を求めたが、私は意味を知らなかったからだ」
「え? どういうことですか?」
「我らには我らの言語による呼称があるが、それは君のような『外部の者』には通じない事ぐらいは知っている。だから私は先ほどそちらに通じる言葉を使ったのだ」
どうやらこの連中は周囲の人間に対し『第五階級』だと名乗れば通用していたので、こっちにも同じように名乗ったという事らしい。
そこまでは俺の頭でも分るけど、それでも不可解な事が多すぎますよ。
「だけどそれぐらいの事をどうしてサラニスさんが知らないんですか?」
「今までの外部の人間に『第五階級』の意味を説明する必要もなかったので、私の仕事と関係ないと思っていたからだ。次からはいま聞いた事を説明するとしよう」
う~ん。この非効率的な集団は一体何なの?
間違いなく人間なんだけど、たぶん以前に出会ったアンデッド教団の『虚ろなるもの』あたりの方がよっぽどオレには理解しやすい。
しかし何というか放っておけないというか、このままに出来ないというか、あまりに頼りなさ過ぎで保護欲がそそられる気がするな。
ああ。いつものことだけど、きっとロクでもない事になるだろうという確信だけは止めどなくわき上がってくるよ。
「ところであなた方はどうして、こんなところにいるんですか?」
「そうだな……我らは故郷を出て、この見知らぬ土地に来ている」
「いったい何があったんです」
「我らの故郷は外部の者に攻撃されて破壊されてしまったのだ」
「ええ?!」
これにはオレも少々どころでなく驚いた。
西方でもいろいろと紛争があることは知っていたし、今までだっていろいろと血なまぐさい場面には出くわしてきたが、いきなりそんな話をされたらやっぱり『平和国家日本の高校生』としては落ち着いてはいられない。
だが奇妙な事にサラニスの言葉にも態度にも故郷が破壊されたことを『困った』と考えてはいても『悲しい』だとか『他の仲間が心配』だとか、そういう意識がまるで感じられない。
それは何というか『そのような感情はそもそも持ち合わせていない』としか表現のしようのないものだった。
「それで我らは、近くにある他の『第五階級』の居住地を目指していたのだが、唯一の護衛が倒れてしまってどうすればいいのか分らなかったのだ」
どうも護衛の人をほったらかしにして立ち去っても、その後の事が心配で動けなかったようだが、この『第五階級』の人達は想定外の出来事への対処能力が極めて低いらしい。
やや大げさに表現すると『人間』というよりは、漫画に出てくるアンドロイドの類いを彷彿とさせるところだ。
「そこで君に頼みたいのだが、我らが次の居住地につくまで、手助けをしてもらえないだろうか? もちろんただとは言わない。この金塊を必要なだけ持って行ってくれ」
そう言ってサラニスは改めて金塊をオレに差し出してくる。
ぬう。危険は間違いなくあるだろうけど、報酬としては十分過ぎるぐらいだ。
それに詳しい事は分らないにしろ、明らかに困っていて、しかも『外界』の事を何も知らないこの人達を放置するのもオレには出来ない相談だ。
ロクでもない相手に出会ったら、下手すれば有り金全部巻き上げられた上で、奴隷として売り飛ばされる何てこともありうるからな。
仕方ない。ここは少しだけ寄り道をするとしよう。
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