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第6章 西方・第五階級編
第96話 『第五階級』の連中とあれやこれや
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しばらくしてオレが【疲労回復】をかけた鎧をまとう『護衛』の男が立ち上がる。
それを見て見つめていた一同には明らかに安堵の空気が流れるが、特に『護衛』に対して心配の情を示す事も、ねぎらいの言葉をかけることもない。
ただそれは感情が希薄だとか、冷血だとか言うのでは無く、どちらかと言えば『何をすればいいのか分らない』という感じに見えた。
そしてその『護衛』はオレを見たところで、慌てて立ち上がってサラニスとオレとの間に割って入る。
まあ。この態度は予想していたので特に落胆したわけではない。
オレは明らかな『部外者』だから護衛の任務を持っていればサラニス達を守るのが最優先だろうし、なによりこの『第五階級』の人間の融通のなさ具合をみればむしろ当然の反応というものだ。
ここでサラニスは護衛に対して、制止の声をかける。
「待て。アロン。その者は外部の協力者だ」
アロンと呼ばれた男は、そこで動きを止めるとサラニスに向き直る。
見たところアロンはこのメンバーの中ではもっとも若い。
たぶんオレより少し上ぐらい。十八歳かそこらだろう。
護衛の任についているとしたら、まだ『未熟』なのかもしれないな。
「分かりました」
そりゃまたずいぶんとあっさり納得するんだな!
たぶんアロンは『敵』については自分で判断しても『味方』については護衛対象の命令通りに行動することしか考えないのだろう。
「とりあえずアルタシャだったな。我らと同行して手助けしてもらえるな?」
「ええ。約束します。あなた方が同胞の住む、次の居住地にたどり着くまでですね」
「うむ。感謝する」
あっさりと納得しているが、この人達はオレが彼らを騙して奴隷にするとか、持っている金塊をだまし取ろうとするとか考えもしないのだろうか。
まあいい。
実際にオレはそんなことをするつもりはないし、ひょっとしたら彼らには、それが分かっているのかもしれない。
いや。それはないか。
ただ単にオレが最初に出会った親切そうな相手だから、頼ろうとしているというところかもしれない。
あとあんまり考えたくないが、オレの容姿に惹かれている何てこともありそうだ。
何しろ過去には王太子だの、皇帝だの、街の神様だのが『美人』だというだけで、つきまとってきたぐらいだからな。
「ところであなた方の故郷を破壊した相手というのは何ものなんですか?」
「それは外部の者だ」
そんな事は分ってるよ!
あんたら大ざっぱ過ぎるだろ。
「もう少し詳しく伝えてもらえますか? たとえばあなた方と同じ聖セルム教徒だとか、異教徒だとか――」
オレのこの質問に対し、サラニスは不可思議そうに首をかしげる。
「なぜ我らを『聖セルム教徒』などと呼ぶのだ?」
「え? だって先ほどゼリアンさんはあなた方を『唯一なるもの』の信徒だと言っていたではありませんか」
「そうだ。我らは『唯一なるもの』の信徒だ。しかし部外者が崇める『聖セルム』などとは関係が無い」
サラニスはあっさりと断定したが、そういえば元の世界の一神教も崇める神様が同じでも、預言者が違うとまるで別物だったはず。
そうするとやっぱり彼らの故郷は宗教戦争で滅ぼされたのか。
いや。いま決めつけるのは短絡的だな。
あれだけの金塊を持ち歩けるぐらいなんだ。
いったいどうやって稼いでいるのか知らないが、周囲の連中からすればその富が垂涎の的で、狙われていたとしても何の不思議も無いだろう。
しかしいずれにせよ、こいつらの『外部』に関する認識がオレの感覚とはかけ離れ過ぎていて、その情報があまり当てになるものではないのはハッキリしている。
「分りました。さっきはすみません」
異教徒と誤解していたとしたら、機嫌を悪くするかもしれないと思ってオレは頭を下げるが、サラニスは不可思議そうな顔をする。
「なぜ謝るのだ? 君は知らなかっただけだろう?」
ああそうか。この人達は自分の仕事に関係ない知識は持ってないのが当たり前なんだったな。
だからオレが誤解していても気にもしないということらしい。
本当に扱いやすいのだか、扱いにくいのだか分らない連中だな。
そんなわけでオレはとりあえず『第五階級』の一同に対して、最初の指示を出すことにする。
「みなさんの格好は目立ちすぎます。近くの街に行って服を手に入れてきますから、それに着替えて下さい」
色とりどりのマントは一目で分かりやすいが、何しろ彼らの故郷を滅ぼした相手から追っ手が差し向けられているかもしれないのだ。
それに備えて目立たない服装に替える必要がある。
全く自慢にならないが、人目を避けて行動する事はここ数ヶ月ですっかり慣れてしまったのだ。
ここは街道から少し離れているだけなので、近くの宿場町に行って服を手に入れて来ることはさほど難しくない。
しかしオレのこの指示に対して、サラニスは自分や周囲の服装を見て首をかしげる。
「見たところ私たちの姿に問題があるとは思えないのだが」
ええい! こいつらどこまで世間知らずだ!
あんたらの『戦隊ヒーロー』まがいの格好が、どれだけ傍目にはわかりやすく、かつ追っ手から目立つか、考えた事もないのかよ。
「とにかく今はこちらの言うことを聞いて下さい。このままではあなた方の故郷を破壊した相手に『襲って下さい』と言っているようなものですよ」
「むう……そういうものなのか……ならば仕方あるまい」
一応はサラニスは納得したらしい。
ここで『戒律だから服を変える事は出来ない』などと言われたらどうしようかと思ったが、さすがにそこまでのこだわりは無いようだ。
「それではここで待っていて下さい」
一応は納得したらしいので、オレはひとまずサラニス達から離れて、街道にまで引き返すことにした。
オレが近くの街道沿いの宿場町にたどり着くと、そこでは少しばかりものものしい雰囲気が漂っていた。
見ると高札が掲げられ、住民や旅人達が集まっており、また兵士達が何人かやってきているらしい。
こういう場合、何が起きるかだいたいの想像ぐらいはオレにだって出来るが、ひとまず様子をうかがうことにする。
オレが固唾を呑んで見守っていると、兵士のひとりが声高らかに叫んでいた。
「よいか! この近くに背教者共が潜んでいる可能性が高い。お前達はそいつらを見つけ次第通報するのだ。そうすれば褒美が出るが、もし万が一にも匿えば厳しい処罰を行う!」
集まってきた市民に対し、兵士達が布告している。
その話に耳を欹てていると、どうやらサラニスやアロン達を追っているというよりは、逃走した『第五階級』の人間達を追っているらしい。
またそれを聞いている住民達も特に明確な敵意や、恐怖感を示しているわけではなく、どちらかと言えば『単なるお尋ね者』という以上の感覚はないらしい。
う~ん。どうも『第五階級』の連中はさほど知られてはいないようだ。
あの閉鎖的な意識からして、あまり他者とは関わりを持たないのだろうか。
この辺りの住民からも大して意識されていないらしいし、推測だが兵士達もあくまで任務として行っているだけで、敵愾心の類いはそれほど感じられない。
たぶんこちらの兵士も直接戦ったわけでは無く、彼らを追うように上から命じられただけなのだろう。
まあこれなら連中の外見さえごまかせば、どうにか逃げる事は出来るだろう。
そんなわけでオレは五着の古着を適当に調達し、急いでサラニス達のところに戻ることにした。
オレは少々、不安を感じつつ裏道を急いでいた。
こういう場合、しばしば戻ったところで彼らは捕まっていて、オレは途方に暮れる羽目になるなんて展開があるからだ。
念のため魔法で知覚を強化し、後をつけられていないか探って見たがそのような様子は無いらしい。
そしてしばしの後、オレの知覚には、さきほど別れた場所にそのままいる連中の姿が感じられた。
オレは特に何の指示もしなかったけど、ひとりだけ隠れてこちらを待った上で、残りのメンツは隠れておくとか、そういう事も考えていないらしい。
今回は無事に済んだけど、服装の事すら考えが至らない連中だから、オレがどうにかしなかったら間違いなくすぐに捕まっていただろう。
幾ら服装をごまかしたとしても、これではまだまだ先が思いやられるな。
もう関わってしまった以上は仕方ない。
報酬は莫大なものなんだから、ここはあきらめて付き合うだけだ。
そう思ってオレが近づくと、護衛のアロンがこちらに向けて警戒の視線を向けてくる。
まあどこに脅威が存在するのか分らないのだから、その行動そのものは当たり前なのだが、次のアロンの行動を見てオレは少々どころでなくぶったまげる事となった。
このときアロンがこちらに向けたのがただの剣や槍のたぐいだったら、オレももちろん避けただろうけど、驚くところまではいかなかったさ。
だがこの時、オレの顔面に向けられていたのは、鉄製の棒に穴が開いていて、それにいろいろな部品が取り付けられているものだった。
オレの記憶が確かなら、これは『マスケット銃』というヤツではないのか。
ちょっと待て。
まさかこの人達は銃器を使うのか?!
今まで幾つもの国を回ってきたけど、銃器どころか火薬すら見た事はなかったのだ。
いや。ファンタジー世界では『魔法の銃』なんてものだってしばしば存在している。
ひょっとするとそっちの類いかもしれないが、いずれにせよ撃たれたらたまったものじゃない。
オレは慌てて、手を広げてアロンの方向へと駆け寄った。
「待って下さい。アルタシャですよ!」
「……」
アロンは少しばかり怪訝な表情を浮かべつつ、ひとまず銃口を上に向ける。
ふう。どうやら分ってくれたらしい。
オレはひとまず胸をなで下ろしつつ近寄ると、手に入れてきた古着を適当に割り振る。
連中も少しばかり躊躇する様子を見せるが、アロン以外は皆着替えることにしたようだ。
だが板金鎧を着込んでいるアロンは、服を受け取る事を躊躇する。
「このような服では、護衛の役目を果たせない」
まあアロンは必要だからこんな重い鎧を着込んでいるわけで、その言い分は分かる。
ここはマントを外して、外から見て目立たないようにすればどうにかなるだろうか。
ここでアロンの方からオレに対して問いかけてくる。
「お前に一つ聞いてよいか?」
「なんでしょうか」
アロンは自分の手にした『マスケット銃』を指さす。
「お前は先ほど私が『これ』を向けたとき、慌てて制止したな。どうしてそんな事をしたのだ?」
「だって危ないじゃないですか。銃口を向けられたら、こっちだってたまったものじゃないですよ」
「なにぃ?!」
あれ? どうして顔色を変えて驚いているんですか?
オレはこの時、かなり迂闊な事を口走ってしまっていたことに気付いていなかったのだ。
それを見て見つめていた一同には明らかに安堵の空気が流れるが、特に『護衛』に対して心配の情を示す事も、ねぎらいの言葉をかけることもない。
ただそれは感情が希薄だとか、冷血だとか言うのでは無く、どちらかと言えば『何をすればいいのか分らない』という感じに見えた。
そしてその『護衛』はオレを見たところで、慌てて立ち上がってサラニスとオレとの間に割って入る。
まあ。この態度は予想していたので特に落胆したわけではない。
オレは明らかな『部外者』だから護衛の任務を持っていればサラニス達を守るのが最優先だろうし、なによりこの『第五階級』の人間の融通のなさ具合をみればむしろ当然の反応というものだ。
ここでサラニスは護衛に対して、制止の声をかける。
「待て。アロン。その者は外部の協力者だ」
アロンと呼ばれた男は、そこで動きを止めるとサラニスに向き直る。
見たところアロンはこのメンバーの中ではもっとも若い。
たぶんオレより少し上ぐらい。十八歳かそこらだろう。
護衛の任についているとしたら、まだ『未熟』なのかもしれないな。
「分かりました」
そりゃまたずいぶんとあっさり納得するんだな!
たぶんアロンは『敵』については自分で判断しても『味方』については護衛対象の命令通りに行動することしか考えないのだろう。
「とりあえずアルタシャだったな。我らと同行して手助けしてもらえるな?」
「ええ。約束します。あなた方が同胞の住む、次の居住地にたどり着くまでですね」
「うむ。感謝する」
あっさりと納得しているが、この人達はオレが彼らを騙して奴隷にするとか、持っている金塊をだまし取ろうとするとか考えもしないのだろうか。
まあいい。
実際にオレはそんなことをするつもりはないし、ひょっとしたら彼らには、それが分かっているのかもしれない。
いや。それはないか。
ただ単にオレが最初に出会った親切そうな相手だから、頼ろうとしているというところかもしれない。
あとあんまり考えたくないが、オレの容姿に惹かれている何てこともありそうだ。
何しろ過去には王太子だの、皇帝だの、街の神様だのが『美人』だというだけで、つきまとってきたぐらいだからな。
「ところであなた方の故郷を破壊した相手というのは何ものなんですか?」
「それは外部の者だ」
そんな事は分ってるよ!
あんたら大ざっぱ過ぎるだろ。
「もう少し詳しく伝えてもらえますか? たとえばあなた方と同じ聖セルム教徒だとか、異教徒だとか――」
オレのこの質問に対し、サラニスは不可思議そうに首をかしげる。
「なぜ我らを『聖セルム教徒』などと呼ぶのだ?」
「え? だって先ほどゼリアンさんはあなた方を『唯一なるもの』の信徒だと言っていたではありませんか」
「そうだ。我らは『唯一なるもの』の信徒だ。しかし部外者が崇める『聖セルム』などとは関係が無い」
サラニスはあっさりと断定したが、そういえば元の世界の一神教も崇める神様が同じでも、預言者が違うとまるで別物だったはず。
そうするとやっぱり彼らの故郷は宗教戦争で滅ぼされたのか。
いや。いま決めつけるのは短絡的だな。
あれだけの金塊を持ち歩けるぐらいなんだ。
いったいどうやって稼いでいるのか知らないが、周囲の連中からすればその富が垂涎の的で、狙われていたとしても何の不思議も無いだろう。
しかしいずれにせよ、こいつらの『外部』に関する認識がオレの感覚とはかけ離れ過ぎていて、その情報があまり当てになるものではないのはハッキリしている。
「分りました。さっきはすみません」
異教徒と誤解していたとしたら、機嫌を悪くするかもしれないと思ってオレは頭を下げるが、サラニスは不可思議そうな顔をする。
「なぜ謝るのだ? 君は知らなかっただけだろう?」
ああそうか。この人達は自分の仕事に関係ない知識は持ってないのが当たり前なんだったな。
だからオレが誤解していても気にもしないということらしい。
本当に扱いやすいのだか、扱いにくいのだか分らない連中だな。
そんなわけでオレはとりあえず『第五階級』の一同に対して、最初の指示を出すことにする。
「みなさんの格好は目立ちすぎます。近くの街に行って服を手に入れてきますから、それに着替えて下さい」
色とりどりのマントは一目で分かりやすいが、何しろ彼らの故郷を滅ぼした相手から追っ手が差し向けられているかもしれないのだ。
それに備えて目立たない服装に替える必要がある。
全く自慢にならないが、人目を避けて行動する事はここ数ヶ月ですっかり慣れてしまったのだ。
ここは街道から少し離れているだけなので、近くの宿場町に行って服を手に入れて来ることはさほど難しくない。
しかしオレのこの指示に対して、サラニスは自分や周囲の服装を見て首をかしげる。
「見たところ私たちの姿に問題があるとは思えないのだが」
ええい! こいつらどこまで世間知らずだ!
あんたらの『戦隊ヒーロー』まがいの格好が、どれだけ傍目にはわかりやすく、かつ追っ手から目立つか、考えた事もないのかよ。
「とにかく今はこちらの言うことを聞いて下さい。このままではあなた方の故郷を破壊した相手に『襲って下さい』と言っているようなものですよ」
「むう……そういうものなのか……ならば仕方あるまい」
一応はサラニスは納得したらしい。
ここで『戒律だから服を変える事は出来ない』などと言われたらどうしようかと思ったが、さすがにそこまでのこだわりは無いようだ。
「それではここで待っていて下さい」
一応は納得したらしいので、オレはひとまずサラニス達から離れて、街道にまで引き返すことにした。
オレが近くの街道沿いの宿場町にたどり着くと、そこでは少しばかりものものしい雰囲気が漂っていた。
見ると高札が掲げられ、住民や旅人達が集まっており、また兵士達が何人かやってきているらしい。
こういう場合、何が起きるかだいたいの想像ぐらいはオレにだって出来るが、ひとまず様子をうかがうことにする。
オレが固唾を呑んで見守っていると、兵士のひとりが声高らかに叫んでいた。
「よいか! この近くに背教者共が潜んでいる可能性が高い。お前達はそいつらを見つけ次第通報するのだ。そうすれば褒美が出るが、もし万が一にも匿えば厳しい処罰を行う!」
集まってきた市民に対し、兵士達が布告している。
その話に耳を欹てていると、どうやらサラニスやアロン達を追っているというよりは、逃走した『第五階級』の人間達を追っているらしい。
またそれを聞いている住民達も特に明確な敵意や、恐怖感を示しているわけではなく、どちらかと言えば『単なるお尋ね者』という以上の感覚はないらしい。
う~ん。どうも『第五階級』の連中はさほど知られてはいないようだ。
あの閉鎖的な意識からして、あまり他者とは関わりを持たないのだろうか。
この辺りの住民からも大して意識されていないらしいし、推測だが兵士達もあくまで任務として行っているだけで、敵愾心の類いはそれほど感じられない。
たぶんこちらの兵士も直接戦ったわけでは無く、彼らを追うように上から命じられただけなのだろう。
まあこれなら連中の外見さえごまかせば、どうにか逃げる事は出来るだろう。
そんなわけでオレは五着の古着を適当に調達し、急いでサラニス達のところに戻ることにした。
オレは少々、不安を感じつつ裏道を急いでいた。
こういう場合、しばしば戻ったところで彼らは捕まっていて、オレは途方に暮れる羽目になるなんて展開があるからだ。
念のため魔法で知覚を強化し、後をつけられていないか探って見たがそのような様子は無いらしい。
そしてしばしの後、オレの知覚には、さきほど別れた場所にそのままいる連中の姿が感じられた。
オレは特に何の指示もしなかったけど、ひとりだけ隠れてこちらを待った上で、残りのメンツは隠れておくとか、そういう事も考えていないらしい。
今回は無事に済んだけど、服装の事すら考えが至らない連中だから、オレがどうにかしなかったら間違いなくすぐに捕まっていただろう。
幾ら服装をごまかしたとしても、これではまだまだ先が思いやられるな。
もう関わってしまった以上は仕方ない。
報酬は莫大なものなんだから、ここはあきらめて付き合うだけだ。
そう思ってオレが近づくと、護衛のアロンがこちらに向けて警戒の視線を向けてくる。
まあどこに脅威が存在するのか分らないのだから、その行動そのものは当たり前なのだが、次のアロンの行動を見てオレは少々どころでなくぶったまげる事となった。
このときアロンがこちらに向けたのがただの剣や槍のたぐいだったら、オレももちろん避けただろうけど、驚くところまではいかなかったさ。
だがこの時、オレの顔面に向けられていたのは、鉄製の棒に穴が開いていて、それにいろいろな部品が取り付けられているものだった。
オレの記憶が確かなら、これは『マスケット銃』というヤツではないのか。
ちょっと待て。
まさかこの人達は銃器を使うのか?!
今まで幾つもの国を回ってきたけど、銃器どころか火薬すら見た事はなかったのだ。
いや。ファンタジー世界では『魔法の銃』なんてものだってしばしば存在している。
ひょっとするとそっちの類いかもしれないが、いずれにせよ撃たれたらたまったものじゃない。
オレは慌てて、手を広げてアロンの方向へと駆け寄った。
「待って下さい。アルタシャですよ!」
「……」
アロンは少しばかり怪訝な表情を浮かべつつ、ひとまず銃口を上に向ける。
ふう。どうやら分ってくれたらしい。
オレはひとまず胸をなで下ろしつつ近寄ると、手に入れてきた古着を適当に割り振る。
連中も少しばかり躊躇する様子を見せるが、アロン以外は皆着替えることにしたようだ。
だが板金鎧を着込んでいるアロンは、服を受け取る事を躊躇する。
「このような服では、護衛の役目を果たせない」
まあアロンは必要だからこんな重い鎧を着込んでいるわけで、その言い分は分かる。
ここはマントを外して、外から見て目立たないようにすればどうにかなるだろうか。
ここでアロンの方からオレに対して問いかけてくる。
「お前に一つ聞いてよいか?」
「なんでしょうか」
アロンは自分の手にした『マスケット銃』を指さす。
「お前は先ほど私が『これ』を向けたとき、慌てて制止したな。どうしてそんな事をしたのだ?」
「だって危ないじゃないですか。銃口を向けられたら、こっちだってたまったものじゃないですよ」
「なにぃ?!」
あれ? どうして顔色を変えて驚いているんですか?
オレはこの時、かなり迂闊な事を口走ってしまっていたことに気付いていなかったのだ。
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