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第6章 西方・第五階級編
第97話 ひとまずの出発 そして……
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「お前はこれが銃だと知っているのか? なぜだ?」
アロンはオレに対して血相を変えて問い詰めてくる。
どうやら『銃を知っている』という事は、オレが思っていたよりも遙かに重大事だったらしい。
「いえ。故郷にも同じようなものがありまして……」
「それはどういうものなのだ?」
「え~と。火薬を使って鉛の弾を飛ばすヤツですけど……」
口にした後で少しばかりしまったとは思った。
適当な事を言ってごまかすか、むしろとんでもないデタラメを言って勘違いで済ませばいいものを、ついつい正直に答えてしまったのだ。
「なに? 火薬や銃を知っているのか? なぜお前がこの『大いなる秘密』を知っている?!」
ええ?
この世界では火薬を知っているだけでも、こんなに大事なの?
いや。確かに後世の目で見れば、ごく当たり前の知識でも、当事者にとっては重大な秘密であり、知った者は即座に口封じされるなんて事も歴史上は結構あったんだな。
これはちょっとやばいかもしれんぞ。
最悪、アロンを魔法でどうにかしてここから逃げる事になるかもしれない、などと考えていると横合いから制止の声が飛んでくる。
「待て。落ち着け。アロン」
サラニスがアロンの肩に手を置いて止めたのだ。
「恐らく他の『第五階級』のもの達が使っているのを見た事があるのだろう。お前のような戦士階級を傭兵として貸し出すところもあると聞いているからな」
「しかし――」
「仮に名前や効果を知っていたところで、製法や使用法を知らねばどうしようもあるまい。今のところは気にする事は無かろう」
「分りました」
ひとまずアロンは落ち着いた様子で引き下がる。
まあ確かに原理が分らないとどうしようもないし、仮に火薬の事を知っていても製造方法が分らないと使いようが無い。
たぶん彼らはこの世界では突出したテクノロジーを有してはいるけど、さきほどアロンが『大いなる秘密』と言ったように、それを他者から隠して自分たちだけのものとしているのだろう。
しかしサラニスは『今のところ』と言っていたが、それって先になればオレを始末しかねないということか?
いや。この連中は決して頭が悪いわけではないけど、今までの態度を見る限り、そんな策略の類いとは無縁だろう。
あんまり深読みするのもよくないな。
「とりあえず着替えたのなら出発しましょう。あなた方の目的地について教えて下さい」
「分った。これを見てくれ」
ここでサラニスはオレに向けて地図を差し出してくる。
見たところかなり精巧なもののようだ。敢えて言えば歴史の教科書に出ていた伊能忠敬の地図ぐらいのレベルだろうか。
この世界に来てから地図と言えば絵地図レベルしか見てこなかったが、たぶんこれだけでも価値の分る人間には相当なものなのだろうな。
そしてサラニスはその地図に幾つか描かれている星形の印を指さす。
そのうち一つは×で消されていたが、たぶんそれが彼らの故郷だったんだろうな。
「ここに示してある印が我ら『第五階級』の居住地となっている。そこに行けば我らを迎え入れてくれるはず」
本当に大丈夫なんだろうか。
他のところも襲撃されて滅ぼされてなければいいんだがな。
まあそれをこの連中に聞いても分らないだろうし、そのあたりは道中で情報収集するしかないだろう。
もっとも近い目的地は距離的にはオレならば二日もあればつくところだが、この連中と一緒だとそういうわけにもいかない。
十日ぐらいは覚悟すべきか。
まあ報酬を考えると、危険手当込みでも十分な額だろうと思うしかない。
そんなわけでオレはこの五人を引き連れて出発することにした。
何というか今のところ連中は『金魚のフン』という表現がふさわしく、オレの後にゾロゾロとついてくる。
少しばかり目立つが、しかしオレの目の届かないところで行方不明になっても困るのでここは仕方ないだろう。
しかし連中を引き連れて歩いていると、当然オレ一人の時よりも動きは大幅に遅いため、すぐに日が暮れてくる。
魔法で夜目を強化出来るオレはともかく『第五階層』の連中はそういうわけにはいかないから、今は野宿をするしかない。
とりあえず雨風をしのげ、水を得られる場所を見つけたところで、オレはサラニスに問いかける。
「今日はここで野宿しようと思いますけどいいですか?」
「我らは外の世界はほとんど知らないから、君の言うとおりにしよう」
「食料はどうします?」
オレ一人ならドルイド魔術で調達は簡単だが、五人もいるとさすがに手に余る。
今まで食料に困った事がなかったのでうっかり忘れていたが、宿場町で食料も調達しておけばよかったかなと少しばかり後悔する。
しかしこの点についてサラニスは落ち着いていた。
「それなら心配はない。当面の食料は我々も確保している」
そういって他のメンバーを見ると、重そうな荷物袋を地面においていた。
どうやら今のところは心配ないらしい。
「分かりました。それではこちらはちょっと外します」
「どうするのだ?」
「泉を見つけたので水浴びしてきますから、その間、周囲には気をつけていて下さい」
オレはここでひとまずサラニス達と分かれることにした。
特に深い意図のある行為でもなかったのだが、そこでオレは思わぬ現実を突きつけられる事となったのだ。
しばしの後、オレは前もって見つけていた泉に身を沈める。
ファーゼストを出て以来、動き回っていたことからこの身も結構汚れていたので、ひとまず体を洗えるところが欲しかったのだ。
日本人の感覚が残るオレとしては、やっぱり常に体を清潔にしておきたいのである。
「ふう。今日は疲れたな」
オレは冷たい泉の水に身を沈めつつ、独り言つ。
月光に照らされ水面に映っている肢体は、成熟した女性の丸みと柔らかさ、少女の初々しさを併せ持った完璧ともいえるバランスの美しさを醸し出している。
もっともこれが自分の体である以上、既に見慣れていて全くオレ自身は興奮しなくなってしまっているけどな。
いや。それどころかマニリア帝国の後宮では、他の女の子と一緒に風呂に入るのが当たり前だったので、今では自分以外の女性の裸を見てもドキドキするような事もあまりない。
うう。改めて実感するが、オレの男の意識はかなりやばいことになりつつあるようだ。
「とにかく……今はあの『第五階層』連中をどうにかして、後の事はそれから考えよう」
しかし本当にあいつらは今までオレが出会った中でも、そのおかしさは群を抜いている。
理解の難しさで言えばアンデッド教団の『虚ろなるもの』だとか、聖セルム教徒などよりよっぽど異質でかけ離れた存在だ。
そしてそれだけでなく、オレの心の片隅は少しばかり連中に対して憤る気持ちが存在していた。
ただその理由は、今のオレにもよく分からない。
理由も分からないのに、ちょっとムカつくというのは、まるでツンデレな少女が男子に対して抱く恋愛の初期症状 ―― いや。待て。そんな馬鹿な事があるか!
オレは思わず頭を激しく振る。だいたい王太子だの、皇帝だの、神様だのにプロポーズされてきたオレがあんな連中にどうして魅了されるんだ ―― じゃなくて!
そもそもオレは男と恋愛する気なんか全くないんだから、そんな感情を抱くはずがない。
いや。まさか精神の女性化がどんどん進んでいるというのか?
ええい。このままでは気分が落ち着かない。
とにかく急いで、連中のところに戻るとしよう。
そう決意してオレが泉から立ち上がった時、泉の岸辺には月光を浴びて立っている精悍な男の影がさしていた。
ええ?! まさか?!
オレが振り向くと、そこにいたのはアロンである ―― ただし鎧を脱いだ全裸の姿だけど。
月影の中に浮かび上がる、鍛え上げられた筋肉は中々に見栄えがするものだ。
そうじゃない! ちょっと待て! どういうつもりだ!
まさかオレを襲いにきたのか。
アロンだけでなく『第五階級』の連中は異性に対してはまるで興味がなさそうだったので、殆ど気にとめていなかったがまさかここまでのムッツリスケベだったとは。
くそう。とりあえず最初は覗きから始めて、順を追って行動しろよ ―― などと今さら慌てても仕方が無い。
オレがとにかく魔術をかけて、アロンを止めようと考えたが、ここでアロンの方は何も言わずそのまま水の中にそのたくましい体を沈め、洗い始める。
もちろんオレの事は完全無視の構えのようだ。
おい? お前はいったい何をしに来たんだ?
オレは無意識に自分の体を手で隠しつつ、アロンに向けて問いかける。
「アロンさん……あの……いったい何のつもりなんですか?」
「体を清潔にしておかねば、病気にかかる可能性が高まる。いざという時に体調不良で戦えないなどという事になったら、役目を果たせないだろう。お前も同じ理由で体を洗っているのでは無いのか?」
いや。その理屈は分るよ。
ずっと鎧を着込んでいたのなら不潔だから、健康のためにもいいことだろう。
しかし目の前に存在する、こちらの女体を完全無視とはどういうことだ?
「もちろん敵がいるかもしれないから、あまり時間はかけられない。もう終わりにしよう」
そう言ってアロンは泉から上がって暗闇の中に去って行った。
その後ろ姿を見て、オレは何も無かった事にホッとする反面、どういうわけかその態度に僅かな怒りを感じていた。
あれ? なぜオレはそんな事を考えているんだ?
今までむしろこんな形で寄ってくる男共の方にこそ、オレは不満を抱いていたはずなんだが ―― まさか?
そして自らの気持ちを見つめ直した時、オレはちょっとばかりショックを受けた。
この時、オレはさっきから『第五階級』の連中に対して抱いていた小さな不満の正体が分った。
いや。『分ってしまった』のだ。
女にされてからというもの、オレは確かに近寄ってくる男達に時に困惑し、また恥ずかしく思い、どうにか避けてきていた。
しかし心の片隅のどこかに、そうやって男から褒め称えられる事を誇らしく思う気持ちが芽生えていたようだ。
だからアロンやサラニスたち『第五階級』の男共が、オレの容姿に何の反応も示さず、また異性として意識する態度を示さなかった事に対し、少しにせよ不満を抱くようになっていたらしい。
その漠然とした気持ちが、いまのアロンの行動のためにオレの方がハッキリと意識させられてしまったのだ。
うう。なんてことだ。まさかこんな形でオレ自身の精神が女性の肉体に浸食され続けている事を思い知らされてしまうとは。
しかもそれでいてオレはそんな体だけで無く心まで変成しつつある自分自身をどこか受け入れている部分があったのだ。
オレは水面に映る『自分の身』を見つめつつ、自らの置かれた深刻な事態にしばし困惑せざるをえなかった。
アロンはオレに対して血相を変えて問い詰めてくる。
どうやら『銃を知っている』という事は、オレが思っていたよりも遙かに重大事だったらしい。
「いえ。故郷にも同じようなものがありまして……」
「それはどういうものなのだ?」
「え~と。火薬を使って鉛の弾を飛ばすヤツですけど……」
口にした後で少しばかりしまったとは思った。
適当な事を言ってごまかすか、むしろとんでもないデタラメを言って勘違いで済ませばいいものを、ついつい正直に答えてしまったのだ。
「なに? 火薬や銃を知っているのか? なぜお前がこの『大いなる秘密』を知っている?!」
ええ?
この世界では火薬を知っているだけでも、こんなに大事なの?
いや。確かに後世の目で見れば、ごく当たり前の知識でも、当事者にとっては重大な秘密であり、知った者は即座に口封じされるなんて事も歴史上は結構あったんだな。
これはちょっとやばいかもしれんぞ。
最悪、アロンを魔法でどうにかしてここから逃げる事になるかもしれない、などと考えていると横合いから制止の声が飛んでくる。
「待て。落ち着け。アロン」
サラニスがアロンの肩に手を置いて止めたのだ。
「恐らく他の『第五階級』のもの達が使っているのを見た事があるのだろう。お前のような戦士階級を傭兵として貸し出すところもあると聞いているからな」
「しかし――」
「仮に名前や効果を知っていたところで、製法や使用法を知らねばどうしようもあるまい。今のところは気にする事は無かろう」
「分りました」
ひとまずアロンは落ち着いた様子で引き下がる。
まあ確かに原理が分らないとどうしようもないし、仮に火薬の事を知っていても製造方法が分らないと使いようが無い。
たぶん彼らはこの世界では突出したテクノロジーを有してはいるけど、さきほどアロンが『大いなる秘密』と言ったように、それを他者から隠して自分たちだけのものとしているのだろう。
しかしサラニスは『今のところ』と言っていたが、それって先になればオレを始末しかねないということか?
いや。この連中は決して頭が悪いわけではないけど、今までの態度を見る限り、そんな策略の類いとは無縁だろう。
あんまり深読みするのもよくないな。
「とりあえず着替えたのなら出発しましょう。あなた方の目的地について教えて下さい」
「分った。これを見てくれ」
ここでサラニスはオレに向けて地図を差し出してくる。
見たところかなり精巧なもののようだ。敢えて言えば歴史の教科書に出ていた伊能忠敬の地図ぐらいのレベルだろうか。
この世界に来てから地図と言えば絵地図レベルしか見てこなかったが、たぶんこれだけでも価値の分る人間には相当なものなのだろうな。
そしてサラニスはその地図に幾つか描かれている星形の印を指さす。
そのうち一つは×で消されていたが、たぶんそれが彼らの故郷だったんだろうな。
「ここに示してある印が我ら『第五階級』の居住地となっている。そこに行けば我らを迎え入れてくれるはず」
本当に大丈夫なんだろうか。
他のところも襲撃されて滅ぼされてなければいいんだがな。
まあそれをこの連中に聞いても分らないだろうし、そのあたりは道中で情報収集するしかないだろう。
もっとも近い目的地は距離的にはオレならば二日もあればつくところだが、この連中と一緒だとそういうわけにもいかない。
十日ぐらいは覚悟すべきか。
まあ報酬を考えると、危険手当込みでも十分な額だろうと思うしかない。
そんなわけでオレはこの五人を引き連れて出発することにした。
何というか今のところ連中は『金魚のフン』という表現がふさわしく、オレの後にゾロゾロとついてくる。
少しばかり目立つが、しかしオレの目の届かないところで行方不明になっても困るのでここは仕方ないだろう。
しかし連中を引き連れて歩いていると、当然オレ一人の時よりも動きは大幅に遅いため、すぐに日が暮れてくる。
魔法で夜目を強化出来るオレはともかく『第五階層』の連中はそういうわけにはいかないから、今は野宿をするしかない。
とりあえず雨風をしのげ、水を得られる場所を見つけたところで、オレはサラニスに問いかける。
「今日はここで野宿しようと思いますけどいいですか?」
「我らは外の世界はほとんど知らないから、君の言うとおりにしよう」
「食料はどうします?」
オレ一人ならドルイド魔術で調達は簡単だが、五人もいるとさすがに手に余る。
今まで食料に困った事がなかったのでうっかり忘れていたが、宿場町で食料も調達しておけばよかったかなと少しばかり後悔する。
しかしこの点についてサラニスは落ち着いていた。
「それなら心配はない。当面の食料は我々も確保している」
そういって他のメンバーを見ると、重そうな荷物袋を地面においていた。
どうやら今のところは心配ないらしい。
「分かりました。それではこちらはちょっと外します」
「どうするのだ?」
「泉を見つけたので水浴びしてきますから、その間、周囲には気をつけていて下さい」
オレはここでひとまずサラニス達と分かれることにした。
特に深い意図のある行為でもなかったのだが、そこでオレは思わぬ現実を突きつけられる事となったのだ。
しばしの後、オレは前もって見つけていた泉に身を沈める。
ファーゼストを出て以来、動き回っていたことからこの身も結構汚れていたので、ひとまず体を洗えるところが欲しかったのだ。
日本人の感覚が残るオレとしては、やっぱり常に体を清潔にしておきたいのである。
「ふう。今日は疲れたな」
オレは冷たい泉の水に身を沈めつつ、独り言つ。
月光に照らされ水面に映っている肢体は、成熟した女性の丸みと柔らかさ、少女の初々しさを併せ持った完璧ともいえるバランスの美しさを醸し出している。
もっともこれが自分の体である以上、既に見慣れていて全くオレ自身は興奮しなくなってしまっているけどな。
いや。それどころかマニリア帝国の後宮では、他の女の子と一緒に風呂に入るのが当たり前だったので、今では自分以外の女性の裸を見てもドキドキするような事もあまりない。
うう。改めて実感するが、オレの男の意識はかなりやばいことになりつつあるようだ。
「とにかく……今はあの『第五階層』連中をどうにかして、後の事はそれから考えよう」
しかし本当にあいつらは今までオレが出会った中でも、そのおかしさは群を抜いている。
理解の難しさで言えばアンデッド教団の『虚ろなるもの』だとか、聖セルム教徒などよりよっぽど異質でかけ離れた存在だ。
そしてそれだけでなく、オレの心の片隅は少しばかり連中に対して憤る気持ちが存在していた。
ただその理由は、今のオレにもよく分からない。
理由も分からないのに、ちょっとムカつくというのは、まるでツンデレな少女が男子に対して抱く恋愛の初期症状 ―― いや。待て。そんな馬鹿な事があるか!
オレは思わず頭を激しく振る。だいたい王太子だの、皇帝だの、神様だのにプロポーズされてきたオレがあんな連中にどうして魅了されるんだ ―― じゃなくて!
そもそもオレは男と恋愛する気なんか全くないんだから、そんな感情を抱くはずがない。
いや。まさか精神の女性化がどんどん進んでいるというのか?
ええい。このままでは気分が落ち着かない。
とにかく急いで、連中のところに戻るとしよう。
そう決意してオレが泉から立ち上がった時、泉の岸辺には月光を浴びて立っている精悍な男の影がさしていた。
ええ?! まさか?!
オレが振り向くと、そこにいたのはアロンである ―― ただし鎧を脱いだ全裸の姿だけど。
月影の中に浮かび上がる、鍛え上げられた筋肉は中々に見栄えがするものだ。
そうじゃない! ちょっと待て! どういうつもりだ!
まさかオレを襲いにきたのか。
アロンだけでなく『第五階級』の連中は異性に対してはまるで興味がなさそうだったので、殆ど気にとめていなかったがまさかここまでのムッツリスケベだったとは。
くそう。とりあえず最初は覗きから始めて、順を追って行動しろよ ―― などと今さら慌てても仕方が無い。
オレがとにかく魔術をかけて、アロンを止めようと考えたが、ここでアロンの方は何も言わずそのまま水の中にそのたくましい体を沈め、洗い始める。
もちろんオレの事は完全無視の構えのようだ。
おい? お前はいったい何をしに来たんだ?
オレは無意識に自分の体を手で隠しつつ、アロンに向けて問いかける。
「アロンさん……あの……いったい何のつもりなんですか?」
「体を清潔にしておかねば、病気にかかる可能性が高まる。いざという時に体調不良で戦えないなどという事になったら、役目を果たせないだろう。お前も同じ理由で体を洗っているのでは無いのか?」
いや。その理屈は分るよ。
ずっと鎧を着込んでいたのなら不潔だから、健康のためにもいいことだろう。
しかし目の前に存在する、こちらの女体を完全無視とはどういうことだ?
「もちろん敵がいるかもしれないから、あまり時間はかけられない。もう終わりにしよう」
そう言ってアロンは泉から上がって暗闇の中に去って行った。
その後ろ姿を見て、オレは何も無かった事にホッとする反面、どういうわけかその態度に僅かな怒りを感じていた。
あれ? なぜオレはそんな事を考えているんだ?
今までむしろこんな形で寄ってくる男共の方にこそ、オレは不満を抱いていたはずなんだが ―― まさか?
そして自らの気持ちを見つめ直した時、オレはちょっとばかりショックを受けた。
この時、オレはさっきから『第五階級』の連中に対して抱いていた小さな不満の正体が分った。
いや。『分ってしまった』のだ。
女にされてからというもの、オレは確かに近寄ってくる男達に時に困惑し、また恥ずかしく思い、どうにか避けてきていた。
しかし心の片隅のどこかに、そうやって男から褒め称えられる事を誇らしく思う気持ちが芽生えていたようだ。
だからアロンやサラニスたち『第五階級』の男共が、オレの容姿に何の反応も示さず、また異性として意識する態度を示さなかった事に対し、少しにせよ不満を抱くようになっていたらしい。
その漠然とした気持ちが、いまのアロンの行動のためにオレの方がハッキリと意識させられてしまったのだ。
うう。なんてことだ。まさかこんな形でオレ自身の精神が女性の肉体に浸食され続けている事を思い知らされてしまうとは。
しかもそれでいてオレはそんな体だけで無く心まで変成しつつある自分自身をどこか受け入れている部分があったのだ。
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