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第7章 西方・リバージョイン編
第114話 明かされるカリルの正体とは
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味方が誰もいないオレにとってただ一つの頼みの綱であった魔法が封じられた上に、今周囲にいるのはむくつけき男共ばかりだ。
カリルがどう表現しようが、今のオレが奴隷同然の扱いである事は、この首輪が何よりも雄弁に物語っている。
いまもし男共に襲われたら、あっという間に蹂躙されてしまうだろう。
降って湧いた絶体絶命の危機に対して戦慄していると、これまでオレには無関心だった男がひとりニコニコと笑いながら寄ってくる。
恐らく二十代の前半だろう。
まずまず整った外見で、またそれでいて革鎧をまとう引き締まった体躯は鍛え上げられた戦士を思わせる。
しかしそのへラッとした笑顔が軽薄そうな印象を振りまいている人物だ。
「これは素晴らしい。そうちょう~この娘、俺がもらっていいっすか~?」
見た目も中身もあからさまにチャラい男のようだが、そんな相手こそ今のオレには危機感を高める存在だよ。
「こらトラート! ダメに決まっているだろうが!」
このチャラ男はトラートというのか。
だが団長さんはかなりのカタブツらしい ―― ただしカリルには刃向かえないようだけど。
これだけでもまだちょっとばかりは救いがあると見るべきだろうか。
そしてカリルは嬉しげに、首輪の鎖を握りつつ一同に対して宣言する。
「みなさん~ アルタシャさんはわたくしのものなんですからね。扱いには十分に注意して下さいよ~」
そういってカリルはこれ見よがしに、オレの首輪に繋がった鎖を持ち上げて一同に示す。
「わたくしたちの心の絆は、この通り決して切れないものなのですからね~」
どう見ても完全に奴隷扱いだろ!
世に『決して切れない固い絆』という言葉は多々あれど、これほどイヤな絆があるだろうか。
そしてこの宣言を受けて、トラートは明らかに落胆の様子を見せる。
「仕方ありません。彼女との心の絆は総長にお譲りしますよ。何しろ俺は総長の忠実な部下ですからね」
「分ってもらえればいいのです」
カリルはにこやかに応じるが、トラートはここで改めてオレに向けてその手を伸ばしてくる。
「そんじゃ俺は心のつながりはいらないから、そっちは総長の独占ということで、体のつながりだけでも求めていいっすか?」
いいわけねえだろ!
もしそんな事を迫られたら、あんたが『体のつながり』なんか二度と出来なくなるよう股間を蹴り上げてやるよ!
そしてここで団長が眉をつり上げて、トラートの肩をつかんで引きはがす。
「貴様! 聖職者の端くれにありながら、肉欲に溺れるとは恥を知れ!」
あんまり頼りにはならないけど、ここは団長さんを当てにするしかない ―― いや。待て。いま団長は何て言った?
「俺は聖職者より『性職者』の方が ―― むがあ」
「お前はそれだからいつまでたっても進歩がないのだ! 深く反省しろ!」
団長はトラートの頸動脈を締め上げて、悶絶させているが、周囲の連中は全員が余裕の笑顔を浮かべつつツッコミを入れている。
「さすがは団長。たとえ女の子でも新入りを前にしたら、まずは自分の強面ぶりのアピールに余念がないですね」
どうもこれがこいつらの『普段通り』であるらしい。
しかもオレはいつのまにか連中から完全に『新入り』扱いされているぞ。
どうしていつもいつもオレはこんなブラックなところにばかり足を踏み入れる羽目になるんだよ。
しかしオレは聞き捨てならない団長の言葉を改めて確認する。
「あ、あの……皆さん、聖職者なんですか?」
「うん……ああそうだ……」
団長は腕の中のトラートが泡を吹いているのを気にもせずオレに答えるが、どこか歯切れが悪い。
何かを隠している様子がうかがえるな。
しかしここでカリルはにこやかに笑みをオレに注ぎつつ答える。
「実はわたくしは聖セルム教団の特務査察官ですのよ」
え? なにその肩書き?
皇帝の威光を笠に着るイヤミな『皇帝陛下の代理人』のはずが実は『皇帝本人』だったとか ―― などと今は亡き偉大な原作者が最後に手がけた仮面ラ○ダーのラスボスを彷彿とさせる立場ですか?
「総長……いいのですか?」
「だってこれからアルタシャさんには、ずっと同行してもらうわけですからね。それぐらいは明かすのが礼儀というものですわ」
相手に首輪をはめ、その鎖を握って同行を強制しておいて『礼儀』を口にするとは、いつから西方では辞書が書き換えられたんでしょう。
風よ、雲よ、心あらば教えてくれ!
「あなたもお気づきかと思いますけど、先ほどこの街に攻め寄せてきた方々は『異端を討伐する聖戦』を唱えておられましたね?」
「え……ええ……」
それについてサリゾールから聞いた時には、この地域の聖職者が略奪の上前をはねる見返りに、勝手に聖戦を唱える事を黙認しているのだろうという話をしたな。
あ? それでは『特務査察官』というのは? まさか?
「そのような聖セルム教団の権威を傷つけるような深刻な事態が予見されるとき、現地に派遣され不正を調査するのがわたくしの仕事なんですわ」
なるほど。つまり彼女の能力について教団にとって『魔法を見る』のはむしろオマケで『人の心理を見る』方が本命であり、その能力を買われての抜擢なんですね。
そんなお偉いお方でしたら、是非とも自分の職務に徹して、オレなんか無視していて欲しかったですよ!
当然ながらオレの心の悲鳴を聞いてくれる者など、この場には誰もいなかった。
ここで団長がオレの前にそびえ立って険しい視線を注いでくる。
「今の話を聞いた以上は、あなたにはどうしても我が団の一員となってもらわねばならない事になりましたな」
何ですかそれ?
オレは別に聞きたかったわけでもなんでもないのに、秘密を知ったからには組織の一員になれと強制するなんてそれでは――
「そんな話を聞くと我らが『悪の組織』みたいに思われるかもしれませんが、どうか納得して下さい」
なんと。オレの先回りをするとは、この団長もただ者ではない。
しかしどっちにしろこの『改悛の首輪』をはめられた状態では、魔法が使えないとなると逃げ出す事すら出来ないだろう。
ここはひとまず仲間になる代わりに、どうにか首輪を外してもらえるように、要求するしかないか。
「分かりました。ご同行させていただきます」
「ほら。ちゃんと正直に話したので、彼女も分かってくれたではありませんか」
それみたことか、といわんばかりにカリルは誇らしげだ。
機嫌がよさげなので、ここでオレの願いを聞き届けてくれるかどうかここは賭けてみるしかあるまい。
「それで改めてお願いなんですけど、この首輪は外していただけませんか?」
「そんなにイヤなのですか?」
カリルは少しばかり困った様子で小首をかしげている。
「当たり前でしょう! 息苦しい上に、こんな格好で人前に出るのも恥ずかしいです!」
「息苦しくて……人前に出るのは恥ずかしい……確かに言われてみればそうかもしれませんね。そうすると……残念ですが首輪はあきらめましょう」
おお。カリルも分かってくれたか。
彼女の言葉通り『話せば分かってくれる』ものなんだな。
オレはかすかな燭光が見えた気がした。
しかしそれは単なる錯覚だった ―― いつものように。
「どうしてもダメと仰るなら仕方有りませんね。いえ。わたくしがいつまでも落ち込んでいるわけには参りません」
カリルは落胆したように見えたが、あっという間に気を取り直した様子だ。
そしてその次に発した言葉は、オレの度肝を抜くに十分な代物だった。
「それでは悔悛の首輪の代わりに『焼き印』で代用するといたしましょう」
「へ? 今なんと言いました?」
すさまじく不吉極まりない言葉が、カリルの唇から発せられた気がするぞ。
「ですから焼き印で首輪の代用をすると申し上げたのですよ。お分かりいただけましたでしょうか?」
「あ……あの……その……」
あまりと言えばあまりな話の飛躍に、オレはしどろもどろになっていた。
焼き印を押して奴隷どころか家畜にまで堕ちろというのか?
だいたいどこの世界に首輪がイヤだからという理由で、焼き印を受け入れるヤツがいるというのだ。
「大丈夫です。焼き印でもその首輪と同等とまでは言いませんが、近い効果がありますから、あなたの悔悛には十分に役立ちます」
だったらなおさら悪いだろ!
首輪ならまだ外せるけど、焼き印は一生ものだぞ。
乙女の柔肌にそんなものを焼き付けて、あんたの良心は痛まないのか。
「焼き印でしたら、服で隠せますし、息苦しくもないでしょう。ほら。アルタシャさんの悩みは全部解消しましたよ」
ダメだこの人。善意でやっているオーラをその全身からほとばしらせている。
「総長……それでは脅迫しているのと変わりませんよ」
さすがの団長も少しばかり困った様子でカリルに応じつつ、こちらに向き直る。
「アルタシャ殿。念を押しておきますが、我らは総長に絶対服従を義務づけられておりましてな。意見は幾らでも出来ますが最終的に決定を下されたら、従うしかないのです」
ここで団長が何を言いたいのか、分らないほどオレだってバカではない。
口では反対しても、命令されたら情け容赦なく、オレのこの身に灼熱の焼きごてを押しつけるという事だ。
「ええ~ こんな綺麗な肌にそんな事をするなんて芸術に対する冒涜ですよ~ やっぱりその前にこの俺が――」
「お前はすっこんでろ!」
またしても割り込んできたトラートを団長はその太い腕で吹っ飛ばす。
「さてと。アルタシャ殿。これからどうされるかはあなた次第ですよ」
世の中にこれほど不毛な二者択一があるだろうか。
しかしそれでも選ばねばならない時があるのだ。
「よ、よく見るとこの鎖も悪くない気がしてきましたよ」
今まで何度も嘘をついてきたが、これほどまでに心の痛む嘘は初めてだ。
だがカリルはこの嘘で一気にその顔が晴れ晴れとしたものとなる。
「やっぱりその鎖を気に入って下さいましたか。わたくしも嬉しいです」
「そ、そうです。考えると結構、似合ってるんじゃないかと自分でも思います」
表情が引きつっている事は理解していたが、もはやそんな事などどうでもよかった。
「その首輪と鎖は我が家に代々伝わる貴重な逸品なのですよ。お気に召して下さって本当によかったです」
「うう。そんな『逸品』を独り占めするなんて、あまりのありがたさに涙が出て来そうですよ」
「そこまで言っていただけるとは……本当に嬉しいですわ!」
だめだ。この人には本当に皮肉が通じない。
そしてここでカリルはその表情を引き締める。
「あなたの心は今、かなり苦しんでおられるようですが――」
それは間違いなくあんたのせいだよ!
カリルは人の心理が見えるらしいが、思考までは見えないので、何でもかんでも都合よく解釈しているらしい。
ああ。『人に見えないものが見える』という事は『真実が見える』事の同義語では決してないのだな。
「まさしくいま正しき道の第一歩を踏み出されたのですわ。このわたくしは喜んで、あなたの新しい門出を受け入れましょう」
そういってカリルはいかにも嬉しげにオレを抱きしめる。
そんなふたりの美少女の抱擁は、端から見たらまるで『宗教画』のごとく、妙に神々しく、また美しいもの何だろうな、などとかなりズレた事を半ば麻痺した脳髄でオレは考えていた。
カリルがどう表現しようが、今のオレが奴隷同然の扱いである事は、この首輪が何よりも雄弁に物語っている。
いまもし男共に襲われたら、あっという間に蹂躙されてしまうだろう。
降って湧いた絶体絶命の危機に対して戦慄していると、これまでオレには無関心だった男がひとりニコニコと笑いながら寄ってくる。
恐らく二十代の前半だろう。
まずまず整った外見で、またそれでいて革鎧をまとう引き締まった体躯は鍛え上げられた戦士を思わせる。
しかしそのへラッとした笑顔が軽薄そうな印象を振りまいている人物だ。
「これは素晴らしい。そうちょう~この娘、俺がもらっていいっすか~?」
見た目も中身もあからさまにチャラい男のようだが、そんな相手こそ今のオレには危機感を高める存在だよ。
「こらトラート! ダメに決まっているだろうが!」
このチャラ男はトラートというのか。
だが団長さんはかなりのカタブツらしい ―― ただしカリルには刃向かえないようだけど。
これだけでもまだちょっとばかりは救いがあると見るべきだろうか。
そしてカリルは嬉しげに、首輪の鎖を握りつつ一同に対して宣言する。
「みなさん~ アルタシャさんはわたくしのものなんですからね。扱いには十分に注意して下さいよ~」
そういってカリルはこれ見よがしに、オレの首輪に繋がった鎖を持ち上げて一同に示す。
「わたくしたちの心の絆は、この通り決して切れないものなのですからね~」
どう見ても完全に奴隷扱いだろ!
世に『決して切れない固い絆』という言葉は多々あれど、これほどイヤな絆があるだろうか。
そしてこの宣言を受けて、トラートは明らかに落胆の様子を見せる。
「仕方ありません。彼女との心の絆は総長にお譲りしますよ。何しろ俺は総長の忠実な部下ですからね」
「分ってもらえればいいのです」
カリルはにこやかに応じるが、トラートはここで改めてオレに向けてその手を伸ばしてくる。
「そんじゃ俺は心のつながりはいらないから、そっちは総長の独占ということで、体のつながりだけでも求めていいっすか?」
いいわけねえだろ!
もしそんな事を迫られたら、あんたが『体のつながり』なんか二度と出来なくなるよう股間を蹴り上げてやるよ!
そしてここで団長が眉をつり上げて、トラートの肩をつかんで引きはがす。
「貴様! 聖職者の端くれにありながら、肉欲に溺れるとは恥を知れ!」
あんまり頼りにはならないけど、ここは団長さんを当てにするしかない ―― いや。待て。いま団長は何て言った?
「俺は聖職者より『性職者』の方が ―― むがあ」
「お前はそれだからいつまでたっても進歩がないのだ! 深く反省しろ!」
団長はトラートの頸動脈を締め上げて、悶絶させているが、周囲の連中は全員が余裕の笑顔を浮かべつつツッコミを入れている。
「さすがは団長。たとえ女の子でも新入りを前にしたら、まずは自分の強面ぶりのアピールに余念がないですね」
どうもこれがこいつらの『普段通り』であるらしい。
しかもオレはいつのまにか連中から完全に『新入り』扱いされているぞ。
どうしていつもいつもオレはこんなブラックなところにばかり足を踏み入れる羽目になるんだよ。
しかしオレは聞き捨てならない団長の言葉を改めて確認する。
「あ、あの……皆さん、聖職者なんですか?」
「うん……ああそうだ……」
団長は腕の中のトラートが泡を吹いているのを気にもせずオレに答えるが、どこか歯切れが悪い。
何かを隠している様子がうかがえるな。
しかしここでカリルはにこやかに笑みをオレに注ぎつつ答える。
「実はわたくしは聖セルム教団の特務査察官ですのよ」
え? なにその肩書き?
皇帝の威光を笠に着るイヤミな『皇帝陛下の代理人』のはずが実は『皇帝本人』だったとか ―― などと今は亡き偉大な原作者が最後に手がけた仮面ラ○ダーのラスボスを彷彿とさせる立場ですか?
「総長……いいのですか?」
「だってこれからアルタシャさんには、ずっと同行してもらうわけですからね。それぐらいは明かすのが礼儀というものですわ」
相手に首輪をはめ、その鎖を握って同行を強制しておいて『礼儀』を口にするとは、いつから西方では辞書が書き換えられたんでしょう。
風よ、雲よ、心あらば教えてくれ!
「あなたもお気づきかと思いますけど、先ほどこの街に攻め寄せてきた方々は『異端を討伐する聖戦』を唱えておられましたね?」
「え……ええ……」
それについてサリゾールから聞いた時には、この地域の聖職者が略奪の上前をはねる見返りに、勝手に聖戦を唱える事を黙認しているのだろうという話をしたな。
あ? それでは『特務査察官』というのは? まさか?
「そのような聖セルム教団の権威を傷つけるような深刻な事態が予見されるとき、現地に派遣され不正を調査するのがわたくしの仕事なんですわ」
なるほど。つまり彼女の能力について教団にとって『魔法を見る』のはむしろオマケで『人の心理を見る』方が本命であり、その能力を買われての抜擢なんですね。
そんなお偉いお方でしたら、是非とも自分の職務に徹して、オレなんか無視していて欲しかったですよ!
当然ながらオレの心の悲鳴を聞いてくれる者など、この場には誰もいなかった。
ここで団長がオレの前にそびえ立って険しい視線を注いでくる。
「今の話を聞いた以上は、あなたにはどうしても我が団の一員となってもらわねばならない事になりましたな」
何ですかそれ?
オレは別に聞きたかったわけでもなんでもないのに、秘密を知ったからには組織の一員になれと強制するなんてそれでは――
「そんな話を聞くと我らが『悪の組織』みたいに思われるかもしれませんが、どうか納得して下さい」
なんと。オレの先回りをするとは、この団長もただ者ではない。
しかしどっちにしろこの『改悛の首輪』をはめられた状態では、魔法が使えないとなると逃げ出す事すら出来ないだろう。
ここはひとまず仲間になる代わりに、どうにか首輪を外してもらえるように、要求するしかないか。
「分かりました。ご同行させていただきます」
「ほら。ちゃんと正直に話したので、彼女も分かってくれたではありませんか」
それみたことか、といわんばかりにカリルは誇らしげだ。
機嫌がよさげなので、ここでオレの願いを聞き届けてくれるかどうかここは賭けてみるしかあるまい。
「それで改めてお願いなんですけど、この首輪は外していただけませんか?」
「そんなにイヤなのですか?」
カリルは少しばかり困った様子で小首をかしげている。
「当たり前でしょう! 息苦しい上に、こんな格好で人前に出るのも恥ずかしいです!」
「息苦しくて……人前に出るのは恥ずかしい……確かに言われてみればそうかもしれませんね。そうすると……残念ですが首輪はあきらめましょう」
おお。カリルも分かってくれたか。
彼女の言葉通り『話せば分かってくれる』ものなんだな。
オレはかすかな燭光が見えた気がした。
しかしそれは単なる錯覚だった ―― いつものように。
「どうしてもダメと仰るなら仕方有りませんね。いえ。わたくしがいつまでも落ち込んでいるわけには参りません」
カリルは落胆したように見えたが、あっという間に気を取り直した様子だ。
そしてその次に発した言葉は、オレの度肝を抜くに十分な代物だった。
「それでは悔悛の首輪の代わりに『焼き印』で代用するといたしましょう」
「へ? 今なんと言いました?」
すさまじく不吉極まりない言葉が、カリルの唇から発せられた気がするぞ。
「ですから焼き印で首輪の代用をすると申し上げたのですよ。お分かりいただけましたでしょうか?」
「あ……あの……その……」
あまりと言えばあまりな話の飛躍に、オレはしどろもどろになっていた。
焼き印を押して奴隷どころか家畜にまで堕ちろというのか?
だいたいどこの世界に首輪がイヤだからという理由で、焼き印を受け入れるヤツがいるというのだ。
「大丈夫です。焼き印でもその首輪と同等とまでは言いませんが、近い効果がありますから、あなたの悔悛には十分に役立ちます」
だったらなおさら悪いだろ!
首輪ならまだ外せるけど、焼き印は一生ものだぞ。
乙女の柔肌にそんなものを焼き付けて、あんたの良心は痛まないのか。
「焼き印でしたら、服で隠せますし、息苦しくもないでしょう。ほら。アルタシャさんの悩みは全部解消しましたよ」
ダメだこの人。善意でやっているオーラをその全身からほとばしらせている。
「総長……それでは脅迫しているのと変わりませんよ」
さすがの団長も少しばかり困った様子でカリルに応じつつ、こちらに向き直る。
「アルタシャ殿。念を押しておきますが、我らは総長に絶対服従を義務づけられておりましてな。意見は幾らでも出来ますが最終的に決定を下されたら、従うしかないのです」
ここで団長が何を言いたいのか、分らないほどオレだってバカではない。
口では反対しても、命令されたら情け容赦なく、オレのこの身に灼熱の焼きごてを押しつけるという事だ。
「ええ~ こんな綺麗な肌にそんな事をするなんて芸術に対する冒涜ですよ~ やっぱりその前にこの俺が――」
「お前はすっこんでろ!」
またしても割り込んできたトラートを団長はその太い腕で吹っ飛ばす。
「さてと。アルタシャ殿。これからどうされるかはあなた次第ですよ」
世の中にこれほど不毛な二者択一があるだろうか。
しかしそれでも選ばねばならない時があるのだ。
「よ、よく見るとこの鎖も悪くない気がしてきましたよ」
今まで何度も嘘をついてきたが、これほどまでに心の痛む嘘は初めてだ。
だがカリルはこの嘘で一気にその顔が晴れ晴れとしたものとなる。
「やっぱりその鎖を気に入って下さいましたか。わたくしも嬉しいです」
「そ、そうです。考えると結構、似合ってるんじゃないかと自分でも思います」
表情が引きつっている事は理解していたが、もはやそんな事などどうでもよかった。
「その首輪と鎖は我が家に代々伝わる貴重な逸品なのですよ。お気に召して下さって本当によかったです」
「うう。そんな『逸品』を独り占めするなんて、あまりのありがたさに涙が出て来そうですよ」
「そこまで言っていただけるとは……本当に嬉しいですわ!」
だめだ。この人には本当に皮肉が通じない。
そしてここでカリルはその表情を引き締める。
「あなたの心は今、かなり苦しんでおられるようですが――」
それは間違いなくあんたのせいだよ!
カリルは人の心理が見えるらしいが、思考までは見えないので、何でもかんでも都合よく解釈しているらしい。
ああ。『人に見えないものが見える』という事は『真実が見える』事の同義語では決してないのだな。
「まさしくいま正しき道の第一歩を踏み出されたのですわ。このわたくしは喜んで、あなたの新しい門出を受け入れましょう」
そういってカリルはいかにも嬉しげにオレを抱きしめる。
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