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第7章 西方・リバージョイン編
第115話 『首輪』の伝説とは
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しばしの後、オレは『暁の使徒』達の連中と離れ、リバージョインの船着き場の外れの小屋で目の前を流れるジャニューブ河を呆然と眺めていた。
正直に言えば途方に暮れていたのは間違いない。
何しろこの『悔悛の首輪』とやらを外さないと魔法が一切使えないのだから、オレは『ただの小娘』でしかないのだ。
つまり逃げ出したところで、今までのようにドルイド魔術を駆使して人里離れた場所を移動するわけにもいかないし、常人を遙かに凌ぐ移動力を発揮する事も出来ず、何よりも追いはぎに見つかればひとたまりも無い。
要するに今のところオレには『逃げ出す』という選択肢はあり得ないのだ。
そして実際『暁の使徒』達はオレが逃げると思っていないらしい。
ここはひとまずカリルに合わせて、どうにか彼女を納得させ ―― 場合によっては騙してでも ―― 首輪を外してもらうしかない。
「お困りのようですね」
気がつくといつの間にか、団長がオレの傍らに立っていた。
「自己紹介が遅れましたな。小官の名はタティウス。カリル総長の下で団長を務めさせていただいています」
「それはどうも……そんなことより――」
「最初に断っておきますが、総長の命令に背くことはしませんからね」
うう。やっぱりこの人が首輪を外してくれる見込みはないのか。
「あなたが不快に思うのは当然でしょうけど、その首輪はそう悪いものではないですよ」
こちらにとっては『命の綱』とも言える魔法を封じられて、そんな事考えられるわけないでしょうが! と思ったけどこの人はオレの本当の魔力を知らないから、そう軽く考えているんだろうな。
まあものは考えようだ。タティウスがオレの事を『カリルに巻き込まれた無力な小娘』だと思っているなら、そこにつけ込めるかもしれない。
少なくともこの人はカリルに逆らう気はなくとも、不満は抱いているのは明らかだからどうにかオレの望む方向に誘導する見込みもあるだろう。
「先ほど総長がお教えしたように、その首輪は『悔悛の首輪』と呼ばれており、預言者聖セルムの親友であった聖人ザーロンに由来するとされています」
また聞き慣れない名前だが、ここはそれについて聞いておいて損はないだろう。
「その聖人ザーロンはどんな人だったんですか?」
「ザーロンは聖セルムの幼なじみの親友であり、頭が回り弁の立つ優れた人物でした。しかし聖セルムが『唯一なるもの』より預言を受けた時に、嫉妬にかられて友を満座の前で辱めようとしたのです」
「あのう……それのどこが聖人なんですか?」
個人的には友人が『自分が神から預言を受けた』などと言い出した場合、まあ生暖かい目で見つめるぐらいだろうか。
少なくとも『満座の前で辱める』などと考えるのは、親友の発想ではないだろう。
「まだ話には続きがあるのですよ。ザーロンの対面した聖セルムは、既に彼の知っていた『幼なじみ』ではありませんでした。彼は口を開く前にその威厳と偉大さに打ちのめされ、恐怖と羞恥に駆られて逃げ出し、数年かけて世界の果てに逃げ延び、そこに隠れ住むようになったそうです」
本当にどこまでも小物なんですね!
ここまで『聖人』という言葉が似合わない人はむしろ珍しいのでは?
「しかし世界から親友が姿を消した事に気付いた聖セルムは自ら探索行に乗り出し、世界の果てでひっそりと暮らしているザーロンを見いだしました」
幾ら伝説とは言え、凄まじく暇でお節介な預言者なんだな。
「そして聖セルムはザーロンに対し、神より授けられた神秘を開陳し、その上で赦しと慈悲を与え、共に正しき信仰を広める事を望んだのです。聖セルムの意志を知ったザーロンは自らの高慢と傲岸を捨て去り、預言者の手を取り、力を合わせる事を誓いました」
結局、全ては預言者様の偉大さを示すためのエピソードというわけですか。
「この後、ザーロンは自らの罪の戒めとし、また唯一神と預言者に対する絶対服従の印として、己に首輪と鎖をはめ、生涯それを外す事はなかったそうです」
「つまりこの首輪はその聖者様に由来しているということなんですか?」
「そうですよ。ザーロンに与えられた神命は真理を聞こうとしないもの、そして最も堕落した者ですら歩める贖罪と悔悛への輝かしい道を示す事なのです」
すみませんけどその『輝かしい道』はあまりにもまぶしすぎて、このオレの目には全く見えません。
「そしてその首輪は、総長の実家に代々伝わっていた極めて貴重な逸品です。伝承によれば聖者ザーロンその人が信奉者に与えた至宝だとか」
おい。ちょっと待て。それが事実ならこの首輪は言ってみれば『国宝級』の代物なのか?
そんな貴重なものを出会ったばかりのオレごときに使うなんて、あまりに非常識 ―― まさか?
「それではもしかして……さっき団長さんが『やり過ぎ』だと言って止めようとしたのは『首輪をはめること』ではなく『この首輪を使うこと』だったんですか?」
「まあ。そういうことになりますね」
ここでちょっとばかりタティウスはバツが悪そうに視線を逸らす。
聖者由来の逸品となれば、値段のつけられないだけの価値があるだろう。
それを『見知らぬ小娘』相手に使うと言うのなら、確かに『やり過ぎ』だと思うのが当たり前だ。
「他の団員はその『悔悛の首輪』の価値は知らなかったので、さほど意外には思わなかったようですが」
是非とも団長さんには、そこで身を挺してでも止めて欲しかったよ!
あ? まさか?! ひょっとしたら!
宮廷魔術師すらも桁違いに凌駕するオレのチートな魔力が、こんなに簡単に押さえ込まれてしまうのは少々おかしいと思っていたが、それはこの首輪が聖遺物だからなのか!
うう。この点においてはカリルの判断は極めて適切だったということかよ。
非常識なキャラの傍目には無茶苦茶な判断が、実は正解だったという展開はフィクションではある意味『お約束』だが、まさか自分の身で体感することになろうとは。
あのお嬢様の恐ろしさに、今さらながら身が震える思いだった。
オレが絶句しているとタティウスは改めて念を押してくる。
「聖者ザーロンの教えでは『全ての奴隷は悔悛者として生きる道を選ばず、正当な主人に適当な労働を提供する事で生きる道を選んだ者』とされています。従ってあなたは奴隷では絶対にありません」
「奴隷でないのなら、せめて人並みの自由はあってしかるべきではないのですか?」
「それは確かにあなたの言うとおりですね」
タティウスは苦笑するが、もちろんオレを助ける気がないのは明らかだ。
「我が団の構成員の内、総長と小官以外の者は全員が元は罪人であったのですが『悔悛』を果たし、総長に選ばれたもの達です」
今ではそれにオレも含まれているということですか。
しかし先ほど見た限り、連中は自発的にカリルに仕えているように見えたが、彼女にはまだ何かあるのか。
「それにあまり大きな声では言えませんが、総長は実はやんごとなき出自の持ち主でしてね。小官は幼少のみぎりから仕えているのです」
国宝級の聖遺物を持っているんだから、それぐらいは予想がつきますよ。
いや。ひょっとしたら同行している連中もそれが目当てだったりするかもしれない。
「首輪がイヤだと言ったら、即座に焼き印なんて考える『やんごとなき出自』のお人はちょっとばかり珍しいと思いますけどね」
これぐらいのイヤミを言う権利ぐらいこちらにだってありますよね?!
「それについては聖者ザーロンの教えを追求する過程で、己の罪の象徴となるものをその身に焼き印として施したり、入れ墨にしたりする者も少なくないのです。総長もその一環としてあなたにお勧めしたのですよ」
あのどこが『勧めた』なんて言えるんだ!
精一杯好意的に解釈しても、こちらが自分の意思で首輪を選んだように見せかけるための脅しでしょうが。
「もちろん改悛を成し遂げ、聖職者として認められれば、焼き印ごときを消し去るのは難しくありません」
ああそうか。聖セルムの聖職者は『他人の傷を自分に移す』事が出来るのに加え『自己再生能力を高める事で傷を治す』という芸当が出来るのだったな。
逆を言えばだからこそ焼き印なども軽々しく出来るわけか。
「ただしほとんどの改悛者は消すことが出来る事を承知で、罪の象徴をそのまま残します。二度と過ちを犯さないよう、自らへの戒めとするためです」
とりあえずオレが犯した一番の過ちはカリルに関わった事だよ!
残念ながらそれを消す事は出来そうにないけどな。
「まあそんなわけなので、今回の使命を果たす事が出来ればそのときは改めて、あなたの解放をお願いしましょう。それまでしばし辛抱していただけますかな?」
「どうせこちらに選択肢などないのでしょう」
「それはご快諾いただいたということですね」
この人も聖職者らしく、無理矢理にでも都合よく解釈するんだな。
仕方ない。ひとまず『今回の使命』を果たす事に希望を抱くしかないだろう。
タティウスはいつまでもオレに『悔悛の首輪』をはめ続ける事に反対なのは明らかなのだから、その面で味方に引き込めるかもしれない。
ここでオレの表情を見て、タティウスはこちらの耳に口を近づけてくる。
「断っておきますけど、もし小官の方があの人の上司だったら、我が愛刀で首を切り落とす衝動にいつなんどき駆られか分ったものではありませんよ」
「それではあなたの方が部下である今はどうなんですか?」
「この剣で自分の首を切り落とす衝動と戦う日々ですな」
あんたも共犯なんだから同情はしませんよ。
「そんな事を新入りのこちらに話していいんですか?」
「大丈夫です。これは陰口などではありません。何しろ総長本人にこの話を何度伝えたか、数えきれませんから」
あんたらの関係も相当凄いな!
それなのに平然としてタティウスを『仲間』と呼び、信頼しているカリルはどこまでぶっ飛んでるんだか。
そしてタティウスがわざわざオレにこの話を伝えた真意は明白だ。
こちらに対して『自分はカリルに対する不満は売るほどあるが、それでも決して裏切ることはない』と言ったのである。
これはあの『異常なお嬢』の人徳というものなのだろうか。
少なくともオレには判断のしようがない。
そこでオレは改めてタティウスに別に疑問を問いかける。
「いま『暁の使徒』が受けている使命というのは、この近辺を荒らし回っている傭兵崩れの集団が、勝手に『聖戦』を掲げている事に関係しているのですよね」
「ええ。先ほど総長が言ったとおりです」
「そのような行為がまかり通っているのは、この地域の聖職者が荷担しているから。ハッキリ言ってしまえば、略奪の上前をはねる見返りに『聖戦』などと僭称する事を黙認しているのではないでしょうか」
「それについては現在調査中です」
タティウスの言葉が煮え切らないのは、たぶん『教団の恥部』だからなんだろうな。
むしろ誰もが触りたがらない問題だからこそ、敢えてカリルに話が来たとも考えられる。
「だけどそんな事が出来る人間は限られているでしょう。候補者はせいぜい数人なのではありませんか?」
「こちらにもいろいろと事情がありましてな。先ほど攻め込んできた連中相手のようにはいかないのですよ」
「そうですね――」
ざっと考えてもその理由は幾つか思い浮かぶな。
「連中だって『略奪した金です』などと言って渡してはいないでしょうからね。あくまでも寄付という形をとっていて、指摘されたところでどうとでも白を切れるようになっているのではありませんか」
この指摘にタティウスの眉が動く。
「むしろとっくにそうなっていて中央からはどうしようもないので、あなた方が派遣されたと考えた方が自然でしょう」
それでも不可解な点は山積みだ。
しかしこの時、こちらを見つめるタティウスの視線が急に鋭くなったように感じられ、オレは僅かながら緊張した。
正直に言えば途方に暮れていたのは間違いない。
何しろこの『悔悛の首輪』とやらを外さないと魔法が一切使えないのだから、オレは『ただの小娘』でしかないのだ。
つまり逃げ出したところで、今までのようにドルイド魔術を駆使して人里離れた場所を移動するわけにもいかないし、常人を遙かに凌ぐ移動力を発揮する事も出来ず、何よりも追いはぎに見つかればひとたまりも無い。
要するに今のところオレには『逃げ出す』という選択肢はあり得ないのだ。
そして実際『暁の使徒』達はオレが逃げると思っていないらしい。
ここはひとまずカリルに合わせて、どうにか彼女を納得させ ―― 場合によっては騙してでも ―― 首輪を外してもらうしかない。
「お困りのようですね」
気がつくといつの間にか、団長がオレの傍らに立っていた。
「自己紹介が遅れましたな。小官の名はタティウス。カリル総長の下で団長を務めさせていただいています」
「それはどうも……そんなことより――」
「最初に断っておきますが、総長の命令に背くことはしませんからね」
うう。やっぱりこの人が首輪を外してくれる見込みはないのか。
「あなたが不快に思うのは当然でしょうけど、その首輪はそう悪いものではないですよ」
こちらにとっては『命の綱』とも言える魔法を封じられて、そんな事考えられるわけないでしょうが! と思ったけどこの人はオレの本当の魔力を知らないから、そう軽く考えているんだろうな。
まあものは考えようだ。タティウスがオレの事を『カリルに巻き込まれた無力な小娘』だと思っているなら、そこにつけ込めるかもしれない。
少なくともこの人はカリルに逆らう気はなくとも、不満は抱いているのは明らかだからどうにかオレの望む方向に誘導する見込みもあるだろう。
「先ほど総長がお教えしたように、その首輪は『悔悛の首輪』と呼ばれており、預言者聖セルムの親友であった聖人ザーロンに由来するとされています」
また聞き慣れない名前だが、ここはそれについて聞いておいて損はないだろう。
「その聖人ザーロンはどんな人だったんですか?」
「ザーロンは聖セルムの幼なじみの親友であり、頭が回り弁の立つ優れた人物でした。しかし聖セルムが『唯一なるもの』より預言を受けた時に、嫉妬にかられて友を満座の前で辱めようとしたのです」
「あのう……それのどこが聖人なんですか?」
個人的には友人が『自分が神から預言を受けた』などと言い出した場合、まあ生暖かい目で見つめるぐらいだろうか。
少なくとも『満座の前で辱める』などと考えるのは、親友の発想ではないだろう。
「まだ話には続きがあるのですよ。ザーロンの対面した聖セルムは、既に彼の知っていた『幼なじみ』ではありませんでした。彼は口を開く前にその威厳と偉大さに打ちのめされ、恐怖と羞恥に駆られて逃げ出し、数年かけて世界の果てに逃げ延び、そこに隠れ住むようになったそうです」
本当にどこまでも小物なんですね!
ここまで『聖人』という言葉が似合わない人はむしろ珍しいのでは?
「しかし世界から親友が姿を消した事に気付いた聖セルムは自ら探索行に乗り出し、世界の果てでひっそりと暮らしているザーロンを見いだしました」
幾ら伝説とは言え、凄まじく暇でお節介な預言者なんだな。
「そして聖セルムはザーロンに対し、神より授けられた神秘を開陳し、その上で赦しと慈悲を与え、共に正しき信仰を広める事を望んだのです。聖セルムの意志を知ったザーロンは自らの高慢と傲岸を捨て去り、預言者の手を取り、力を合わせる事を誓いました」
結局、全ては預言者様の偉大さを示すためのエピソードというわけですか。
「この後、ザーロンは自らの罪の戒めとし、また唯一神と預言者に対する絶対服従の印として、己に首輪と鎖をはめ、生涯それを外す事はなかったそうです」
「つまりこの首輪はその聖者様に由来しているということなんですか?」
「そうですよ。ザーロンに与えられた神命は真理を聞こうとしないもの、そして最も堕落した者ですら歩める贖罪と悔悛への輝かしい道を示す事なのです」
すみませんけどその『輝かしい道』はあまりにもまぶしすぎて、このオレの目には全く見えません。
「そしてその首輪は、総長の実家に代々伝わっていた極めて貴重な逸品です。伝承によれば聖者ザーロンその人が信奉者に与えた至宝だとか」
おい。ちょっと待て。それが事実ならこの首輪は言ってみれば『国宝級』の代物なのか?
そんな貴重なものを出会ったばかりのオレごときに使うなんて、あまりに非常識 ―― まさか?
「それではもしかして……さっき団長さんが『やり過ぎ』だと言って止めようとしたのは『首輪をはめること』ではなく『この首輪を使うこと』だったんですか?」
「まあ。そういうことになりますね」
ここでちょっとばかりタティウスはバツが悪そうに視線を逸らす。
聖者由来の逸品となれば、値段のつけられないだけの価値があるだろう。
それを『見知らぬ小娘』相手に使うと言うのなら、確かに『やり過ぎ』だと思うのが当たり前だ。
「他の団員はその『悔悛の首輪』の価値は知らなかったので、さほど意外には思わなかったようですが」
是非とも団長さんには、そこで身を挺してでも止めて欲しかったよ!
あ? まさか?! ひょっとしたら!
宮廷魔術師すらも桁違いに凌駕するオレのチートな魔力が、こんなに簡単に押さえ込まれてしまうのは少々おかしいと思っていたが、それはこの首輪が聖遺物だからなのか!
うう。この点においてはカリルの判断は極めて適切だったということかよ。
非常識なキャラの傍目には無茶苦茶な判断が、実は正解だったという展開はフィクションではある意味『お約束』だが、まさか自分の身で体感することになろうとは。
あのお嬢様の恐ろしさに、今さらながら身が震える思いだった。
オレが絶句しているとタティウスは改めて念を押してくる。
「聖者ザーロンの教えでは『全ての奴隷は悔悛者として生きる道を選ばず、正当な主人に適当な労働を提供する事で生きる道を選んだ者』とされています。従ってあなたは奴隷では絶対にありません」
「奴隷でないのなら、せめて人並みの自由はあってしかるべきではないのですか?」
「それは確かにあなたの言うとおりですね」
タティウスは苦笑するが、もちろんオレを助ける気がないのは明らかだ。
「我が団の構成員の内、総長と小官以外の者は全員が元は罪人であったのですが『悔悛』を果たし、総長に選ばれたもの達です」
今ではそれにオレも含まれているということですか。
しかし先ほど見た限り、連中は自発的にカリルに仕えているように見えたが、彼女にはまだ何かあるのか。
「それにあまり大きな声では言えませんが、総長は実はやんごとなき出自の持ち主でしてね。小官は幼少のみぎりから仕えているのです」
国宝級の聖遺物を持っているんだから、それぐらいは予想がつきますよ。
いや。ひょっとしたら同行している連中もそれが目当てだったりするかもしれない。
「首輪がイヤだと言ったら、即座に焼き印なんて考える『やんごとなき出自』のお人はちょっとばかり珍しいと思いますけどね」
これぐらいのイヤミを言う権利ぐらいこちらにだってありますよね?!
「それについては聖者ザーロンの教えを追求する過程で、己の罪の象徴となるものをその身に焼き印として施したり、入れ墨にしたりする者も少なくないのです。総長もその一環としてあなたにお勧めしたのですよ」
あのどこが『勧めた』なんて言えるんだ!
精一杯好意的に解釈しても、こちらが自分の意思で首輪を選んだように見せかけるための脅しでしょうが。
「もちろん改悛を成し遂げ、聖職者として認められれば、焼き印ごときを消し去るのは難しくありません」
ああそうか。聖セルムの聖職者は『他人の傷を自分に移す』事が出来るのに加え『自己再生能力を高める事で傷を治す』という芸当が出来るのだったな。
逆を言えばだからこそ焼き印なども軽々しく出来るわけか。
「ただしほとんどの改悛者は消すことが出来る事を承知で、罪の象徴をそのまま残します。二度と過ちを犯さないよう、自らへの戒めとするためです」
とりあえずオレが犯した一番の過ちはカリルに関わった事だよ!
残念ながらそれを消す事は出来そうにないけどな。
「まあそんなわけなので、今回の使命を果たす事が出来ればそのときは改めて、あなたの解放をお願いしましょう。それまでしばし辛抱していただけますかな?」
「どうせこちらに選択肢などないのでしょう」
「それはご快諾いただいたということですね」
この人も聖職者らしく、無理矢理にでも都合よく解釈するんだな。
仕方ない。ひとまず『今回の使命』を果たす事に希望を抱くしかないだろう。
タティウスはいつまでもオレに『悔悛の首輪』をはめ続ける事に反対なのは明らかなのだから、その面で味方に引き込めるかもしれない。
ここでオレの表情を見て、タティウスはこちらの耳に口を近づけてくる。
「断っておきますけど、もし小官の方があの人の上司だったら、我が愛刀で首を切り落とす衝動にいつなんどき駆られか分ったものではありませんよ」
「それではあなたの方が部下である今はどうなんですか?」
「この剣で自分の首を切り落とす衝動と戦う日々ですな」
あんたも共犯なんだから同情はしませんよ。
「そんな事を新入りのこちらに話していいんですか?」
「大丈夫です。これは陰口などではありません。何しろ総長本人にこの話を何度伝えたか、数えきれませんから」
あんたらの関係も相当凄いな!
それなのに平然としてタティウスを『仲間』と呼び、信頼しているカリルはどこまでぶっ飛んでるんだか。
そしてタティウスがわざわざオレにこの話を伝えた真意は明白だ。
こちらに対して『自分はカリルに対する不満は売るほどあるが、それでも決して裏切ることはない』と言ったのである。
これはあの『異常なお嬢』の人徳というものなのだろうか。
少なくともオレには判断のしようがない。
そこでオレは改めてタティウスに別に疑問を問いかける。
「いま『暁の使徒』が受けている使命というのは、この近辺を荒らし回っている傭兵崩れの集団が、勝手に『聖戦』を掲げている事に関係しているのですよね」
「ええ。先ほど総長が言ったとおりです」
「そのような行為がまかり通っているのは、この地域の聖職者が荷担しているから。ハッキリ言ってしまえば、略奪の上前をはねる見返りに『聖戦』などと僭称する事を黙認しているのではないでしょうか」
「それについては現在調査中です」
タティウスの言葉が煮え切らないのは、たぶん『教団の恥部』だからなんだろうな。
むしろ誰もが触りたがらない問題だからこそ、敢えてカリルに話が来たとも考えられる。
「だけどそんな事が出来る人間は限られているでしょう。候補者はせいぜい数人なのではありませんか?」
「こちらにもいろいろと事情がありましてな。先ほど攻め込んできた連中相手のようにはいかないのですよ」
「そうですね――」
ざっと考えてもその理由は幾つか思い浮かぶな。
「連中だって『略奪した金です』などと言って渡してはいないでしょうからね。あくまでも寄付という形をとっていて、指摘されたところでどうとでも白を切れるようになっているのではありませんか」
この指摘にタティウスの眉が動く。
「むしろとっくにそうなっていて中央からはどうしようもないので、あなた方が派遣されたと考えた方が自然でしょう」
それでも不可解な点は山積みだ。
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