異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第7章 西方・リバージョイン編

第119話 ある意味で「お約束」でまた予想外な展開が

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 容姿に対するオスコーの賛辞の言葉を受け止め、オレは緊張にその身を固めながらひとまず当たり障りのない言葉でごまかすことにした。

「お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」
「いえいえ。お世辞などととんでもない」

 ここでオスコーの瞳の奥で何かが光る。

「ところであなた様が『悔悛者』であられるなら、是非ともその教えをいただけませんかな? 田舎僧には少々縁が遠いものですから、興味があるのですよ」

 ぬう。ひょっとしてオレが偽者である事に気付いた?
 それとも怪しんでカマをかけているのか。
 ひょっとしたらただ単にオレと話がしたいだけなのか。
 いずれにせよタティウスがここで割って入ってくる。

「お待ち下さい。話でしたら小官の方にお願いします」
「いえ。わたしは彼女の口から是非ともうかがいたいのですよ」

 ぐう。これは困った。こんな時にネズミを見てデタラメなお経を教えるのが『日本昔話』であった気がするが、もちろんこの場にネズミはいない ―― ではなくそんなデタラメが通用するはずがないだろう。
 ここは『未熟者ですから』とでも言って適当にごまかせば、タティウスも話を合わせてくれるはずだ。
 しかしそう思ったところで、オレの脳裏に響くものがあった。

『困ったものだな。ここは吾に続くがいい』

 え? ケノビウスが教えてくれるの?

『そもそも悔悛派とされているもの達の教えは、ザーロンの従者としてこの吾がまとめたものだ』

 おいおい!
 まさか大本の人だったのかよ!
 そしてそんな凄い人の魂が今ではオレの首輪に宿っているなんて、あまりにもったいなさすぎて、今すぐにでも取り外してもらいたいぐらいだ。
 それはともかく、今はケノビウスの言葉に従うことにするしかあるまい。

「幾つもありますが。たとえば聖人ザーロンの言葉をその従者であってケノビウスがまとめたものとしては『隷従は価値を知らぬ事以外の何者でも無い。重要でない事に価値を置く者は真の奴隷である』として真の信仰への道を示されました」

 オレのこの返答にタティウスは驚いた様子でその目を見開き、逆にオスコーは少しばかり嬉しげに目を細める。

「なるほど。興味深いですね。よろしければ他にも幾つかご教授願えませんでしょうか」
「いえ。それは今日の本題ではありませんので、また後の機会とさせていただきます」

 いくらケノビウスの助言があると言っても、やっぱり下手に突っ込まれればボロが出かねない。
 ここは早いところ、タティウスが話を本題に戻してもらいたいものだ。

「そうですか。それは残念です。ただかわりと言っては何ですが、その首輪を近くで拝見させて下さいませんか? 聞くところによれば聖者ザーロン本人が残したとされる神聖な聖遺物だとか。是非ともお願いします」
「ええ。それぐらいなら構いません」
「ありがとうございます」

 一礼するとオスコーは席を立ち、息がかかるほど顔を近づけてくる。

「ほう。これはすばらしい。まさに眼福というものです」

 おいちょっと待て。あんた今、首輪じゃなくてオレの胸元を凝視してないか?
 まさか最初からそのつもりなのかよ!
 いや。よくよく見るとこのドレス、遠目では純白の清楚なものだが、近くで見ると胸の谷間だの肩口だのが、きわどく微妙に見えるようで見えないように配置されていて、ずいぶんと扇情的な姿になっている。
 カリルは計算づくで、わざわざこのドレスを選んだのか!

「おっと。これは失礼」

 棒読みの謝罪の言葉と同時に、オスコーはその体勢を崩して、オレの胸にその顔を突っ込ませる。
 こら! このスケベオヤジが!
 タティウス達はどう見てもこうなる事を承知で、オレを装わせたんだろうけど、こんなオッサンにセクハラされるなんて、胸くそが悪くなるぞ。

「おやめ下さい。オスコー卿」

 思わずぶん殴りかけたが、ここでさすがにタティウスがやってきて不愉快そうにオスコーの服を引っ張って、オレから引きはがす。

「これはすみません。まだまだ足腰もしっかりしているつもりだったのですが、こんなことでよろめいてしまうとは、寄る年波を意識しておりませんでしたな」

 オスコーはいかにもうれしそうに、謝罪の弁を述べる。
 いっそよろめいたまま棺桶に足どころか首まで突っ込めばいいものを。

「そうですか。オスコー卿の体調が思わしくないとすると、今日のところはここまでとするべきでしょうね」

 そうかこれで終わりか。ようやく一安心 ―― いや違うだろ!
 さっきから肝心の『教団内部の腐敗』についてほとんど真相に関わるような話なんかしてないじゃないか。
 セクハラされたこっちの『貴い犠牲』には何の報いもないの?
 それとも今回はあくまでも『お近づき』だけが目的で、また今後もコイツにセクハラされる日々が続くのか?
 だがここでオスコーはいきなり顔色を変えて懇願する。

「待って下さい。体調は万全ですよ。ただ少しばかりよろけただけですからご心配は無用です」

 あんたもあんたで随分と必死だな!
 そんなにオレに対するセクハラは嬉しかったのかよ。

「いえいえ。お忙しい中を押しかけたこちらの非です。また日を改めさせていただきますので、これにて失礼をさせていただきます」

 どうやらこれで本当に引き上げらしい。
 これ以上、セクハラされる心配は無くなったとは言え、この訪問はいったい何が目的だったんだ?
 オレはタティウスの ―― そしてもちろんカリルの ―― 真意が読めず、困惑しつつオスコーに別れを告げる。
 だがこの時のオレはまだまだカリル達についての認識が甘かった事を、すぐに思い知らされる事になるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 オレ達が立ち去ろうとしたところで、オスコーはまだ引き留めようとついてくる。

「ところでこれからどうされますか? もしよろしければ是非とも我が寺院にお泊まり下さい」

 おい! この野郎。
 ゲスな下心が丸出しだぞ!

「いえいえ。そのようなお手間をかけさせるわけには参りません。もし次の機会があればそのときにはご厚意に甘えさせていただきましょう」
「そうですか……仕方有りません」

 あからさまに落胆するオスコーを見て、オレは少しは安堵した。もしこのままここに泊っていたら、それこそ何をされたか分ったものではない。

 だがそれはともかくこの展開に、こっちは少々困惑せざるを得なかった。
 これは一体どういうことだ?
 何の手がかりも得られず、ただ単にセクハラされただけだぞ。
 そしてオレがタティウスを詰問しようと思ったところで、先手をうって相手の方がこちらに問いかけてきた。

「少しばかり驚きましたな。あなたが悔悛者の教義に通じていたとは」

 タティウスは本心から瞠目し、また感心した様子だ。
 この場合『男子三日合わざれば刮目して見よ』と言ってやりたいところだが、悲しいかな今のオレは男子では無い。
 もちろんオレの首輪に霊魂が宿っていて、助言してくれているからだとは夢にも思っていないらしい。

「あなたも人が悪いですな。それならそうと前もって教えてくれればよかったのに」
「その言葉はあなたにだけは言われたくないですね」

 事前に何も教えずにこちらを散々振り回している『暁の使徒』の連中がどの面を下げてこちらを『人が悪い』などと言えるのか。
 本当に鉄面皮とはアンタの事だよ。

「こちらが教義について通じている事が分ったなら、この首輪を外してくれますか?」
「申し訳ありませんが、何度も言っているようにそれを決めるのは小官ではありません」
「それをお決めになる、ありがたい総長様はどこかに消えて影も形も見当たらないのですけどね」
「手厳しいですな。しかし我らにも使命がありますので、少しばかり隠し事があるのは我慢して下さい」
「それですよ!」

 思わずオレは抗議の声を挙げる。

「いまのは何だったんですか? あれでは――」
「こちらの目的であった教団の権威を傷つける不正についてはロクに問い詰めもせず、あなたがただ単にあの男の欲望の対象になっただけ、と言われるわけですな」

 やっぱり最初からそれが狙いだったのかよ。
 どういうつもりなんだ。
 もちろん何の証拠もなく乗り込んで、正面から問い詰めたところで相手が白状するはずも無いし、時代劇のように分りやすくこちらの目の前で悪行を暴露する会話をしているはずもない。
 そうだとすると考えられるのは――

「ひょっとしてカリルさんが、あいつにねめつけられるのがイヤだったので、こっちにそれを押しつけたんですか?」

 オレの問いかけに対してタティウスは苦笑する。

「まあそういう気持ちも否定はしませんよ」

 そりゃまあ昨日今日あったばかりのオレをスケープゴートにするのは分らないでもない。
 しかしそれが意味する事は明白だ。

「つまりなんですか?! あなた方はただ単に中央からやってきて、怪しい相手と適当に話だけして、それでノルマを達成したということで、肝心の不正については『見て見ぬふり』をするつもりだったとでも――」
「しっ。声が大きいですぞ」

 タティウスはオレの糾弾を受けてもまるで動じない。
 むしろ『思った通り』と言わんばかりだ。

「あなたはそう思うのですね?」
「他に考えようがあるんですか。間違いなくさっきのオスコーだって、こちらが偽者だというところまでは気付いていないとしても、真面目に不正を追及する気など無いと思ったことでしょうね」
「もちろんその通りですよ」

 タティウスはさも当然のように言い切った。

「どういう事ですかそれは?」
「あなたがそう思ったのならば、あのオスコー卿も同じ事を考えたでしょうね。つまりこちらの思惑通りということです」
「え? 全て思惑通りということは――」

 オレが困惑の声を挙げ、何が起きたのか考えようとしたところで、あんまり聞きたくもない声がこちらの耳に響いてきた。

「お二人ともご苦労様でした~」

 見るとカリル、および他の団員達がこちらに向かってくる。カリルの方は何が嬉しいのか分らないが、満面の笑みである。

「その様子だと首尾よく行ったようですね」
「もちろんですよ。団長。何しろ俺達はもともとそっちが本職でしたからねえ。それに総長が一緒にいれば『鬼に金棒』というヤツで、何も恐れるものなんざありませんぜ」

 団員達は自慢げに胸をはっている。
 いったいこいつらはオレ達がオスコーとやり合っている間に、何をしていたんだ?

「アルタシャさんもご苦労さまでした。一緒に宿に戻って疲れをとりましょうね」
「その後は俺と一緒のベッドで朝まで語り明かそう ―― むがあ!」
「ほう。お前は朝までこの小官の説教を聞きたいのか? いいだろう。しっかり付き合ってやるぞ。もちろん酒も女も一切なしだ」
「そんな殺生な~」

 またしても軽口を叩こうとしてトラートがタティウスに締め上げられる。

「あのう。これは一体どういうことなんですか?」

 ここまでの展開からして、どうやらオレとタティウスは囮であり、オスコーの注意を引きつけ、かつこちらが適当に話を聞くだけで引き上げるようなやる気の無い査察官一行だと思わせる役割だったらしい。
 それだけだったら他のメンツでも問題なかったろうに、どうしてオレにセクハラされるだけの役割が与えられたのか。
 いや。そんな事は分かりきった話だ。
 相手がオスコーのようなスケベオヤジなら、間違いなくオレが囮をしていた方が有効だろうよ。
 何しろ今のオレは魔法が一切使えない『ただの小娘』でしかないんだからな。

「あなた方がお話をしている間に、わたくしたちは目的を果たしたということですわ。本当に適材適所でしたね」

 いかにも嬉しげなカリルの笑顔は本当にまぶしかった。全ての元凶だと言うことを知らなかったら魅了されてしまいかねないほどに。
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