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第7章 西方・リバージョイン編
第121話 魔法や使い魔についてあれこれと
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とりあえずオレ達一行は寺院の門から出る事になったが、またしてもオレが先頭に立たされる羽目になった。
しかも先ほどは『通りすがり』の相手からの注目だったが、今回は明らかにオレを目当てにした人間が鈴なりになっているようだ。
不本意だがオレはこのような形で注目を浴びるのには慣れている ―― ただしそれが受け入れ難い事にはかわりは無い。
「それではお任せしますわ」
カリルは無責任にもオレに全て託するつもりらしい。
だがオレがそれに苦言を呈する前に、周囲から次から次へと声が殺到する。
「お願いです。この街もお守り下さい」
「ワシらもずっと不安だったのですよ!」
いや。周辺の街も襲われている中、不安になるのは分りますけど、そんな風に頼られても困ります。
リバージョインの時だって、オレはあくまでも『手助け』をしただけであって、オレ自身が戦ったわけじゃない。
もちろん魔法を封じられた今のオレなんぞ、ただの無力な小娘に過ぎないのだ。
街を守るどころか、危なくなったら逃げ出すのがせいぜいだろう。
そして今のオレは、すがりつく人々から何とか逃げ出すのがやっとな状況だった。
しばしの後、オレはどうにか追いすがる人々を振り切って、宿屋に飛び込んでいた。
これ以上、さらし者になる事が無くなったのでひとまず安心したものの、今後もこんな事が続くと思うとうんざりする。
しかしながらオレはここで少しばかり心に引っかかっていた事を首輪のケノビウスに問いかけることにする。
「一つ聞いていいですか?」
『一体何だ』
「さっきの話ですけど――」
仮にも査察官ともあろうものが、身分を隠し、寺院に忍び込んで財物を漁り、また泥棒していいはずがない。
しかしケノビウスはオレの言葉を遮った。
『吾の主たる聖人ザーロンは、聖セルムの啓発の光が届かない影にも目を届かせるのがその使命だった。そういえば分るな?』
つまりザーロンは表沙汰に出来ない裏仕事や汚れ役を引き受ける役割だったということか。
やっぱりザーロンと聖セルムの逸話も裏に何かいろいろとありそうだな。
もっともそんな事を問い詰めたところで、まともに答えてくれるとも思えないので、ここはもう一つの疑問を問うことにしよう。
「さきほど寺院の警備を魔法で行っていると聞きましたが、いったいどんな魔法が使われているんですか?」
オレの知る限りでは一神教徒の魔法は、自分の能力を底上げしたり、自己再生能力を高めたり、場合によっては他人の傷や病気を自分にうつすと言った、あくまでも『自分自身に限る』ものだったはずだ。
それ以外には霊体を物品に封じ込めて《使い魔》にするような事もあるにせよ、今ひとつ寺院の警備などとは繋がらなかった。
『そうだな……まず基本的な話からしようか』
あんたも首輪の癖に説教くさいんだな。いや。ケノビウスは首輪になってまで後進の指導にあたろうと思ったのだからこそ説教くさいのか。
『聖セルム教における魔法は、多くの場合は可能性を引き出す事でその力を示す。未熟な術者は己自身のみにしか影響を及ぼせないが、熟練するに従ってより広い範囲に力を及ぼせるようになるのだ』
一神教徒にとって自分の能力を引き上げるのは、術を使う人間にとって自分自身がもっとも身近な対象だから比較的簡単に行えるという事らしい。
「具体的にはどんな魔法が使えるんですか?」
考えてみると結構な数の一神教徒と出会って来たが、細かく問うのは初めてな気がするな。
まともにそういう会話が出来る相手がいなかった、と言うのが一番の理由だけど、それで最終的に『首輪』に問いかける事になるとは、これは運命の皮肉というべきか、それともオレが凋落したと見るべきなのだろうか。
『たとえば建築家ならば、魔法が持続する間、石組みが崩れないように出来るし、薬剤師ならば薬剤が劣化しなくなる。武器ならばその威力を増し、盾ならば壊れる事が無くなる。むろん他にもいろいろとあるぞ』
「それでは警備の場合ならばどうなるんです」
『警備というなら、たとえば扉の強度を増す事や、錠前を強化して定められた鍵以外では決して開けられないようにする事が可能になる』
先ほどの会話からすると『定められた鍵以外では決して開けられない扉』があれば、それに頼ってしまって他の警備がおざなりになるので、カリルのように魔法を無効化出来る人間がいると簡単に破られてしまうらしい。
カリルが査察官と聞いた時、とんでもない事だと思ったが、むしろ相応しい役割という事なのだろうか。
オレが巻き込まれているのも、何もかもカリル ―― というより『カリルを抜擢した何ものか』 ―― の思惑通りなのか?
もちろん普通に考えればそんなバカな事はあり得ないと一笑に付すところだが、そう言い切れないのがオレのこれまで歩んできた道なのだ。
しかしいまはそれを問うたところで結論など出るはずがない。
そしてオレが首輪との会話に頭を悩ませていると、タティウスが横合いから顔を乗り出してくる。
「大丈夫ですか? 随分とお疲れのようですね」
「こうなったのはいったい誰のせいですか」
「それは申し訳ありません」
あれ? 随分と殊勝な態度だな。
「さきほどからブツブツと独り言を唱えておられますけど、本当にお悩みならば是非とも相談して下さい」
むぐう。オレが首輪のケノビウスと会話しているとは思っていないから、一人の世界に引きこもっていると勘違いされているのか。
しかし『首輪と会話している』なんて聞いたら、オレ自身も変だと言わざるを得ない。
ああ。何度も女神だの何だのともてはやされ、今もまた人々に望みもしないのに称賛されているオレの正体がこんなものだとしたら、やっぱり預言者だの聖人だのも一皮むけば、こんなものだったのだろうか。
オレはそんな絶対に答えの出ない問題に改めて頭を悩ます羽目に陥っていた。
ここまでの話からすると、どうやらタティウスはこの『悔悛の首輪』の由来は知っていてもケノビウスのことはまるで知らないらしい。
どういうわけか一神教徒の《使い魔》は特に理由が無い限り、他人に自分から意志を伝えるような事はしないようなので、たぶんケノビウスの方からタティウスに話しかけた事は一度も無いのだろう。
別に隠す利用もないので、ここはオレの方から説明した方がいいかな。
「実はこの首輪は――」
『少し待て。必要が無いのなら、吾の事は黙っていて欲しい』
「え?」
どうやらケノビウスは自分の存在を明かしたがらないらしい。。
ケノビウスは数百年に渡り、ただ神棚に飾られてきただけの存在だったから、あえて他人と意志疎通をする必要性を殆ど感じていないのだろうか。
『吾、いや吾らはあくまでも預言者や聖者の道へといざなう《道具》に過ぎん。崇拝の対象となってはならない。それ故に吾らは敢えて必要なきとき以外に意志を示す事はしないのだ』
う~ん。元の世界では付喪神のようにモノに神が宿るという考えがあったけど、こちらの一神教徒はそういう考えをむしろ否定しているのか。
霊体を道具として使うが故にこそ、唯一神や預言者に対する崇拝の妨げになることを警戒しているということらしい。
『先ほどの像にこめられた霊も同じだろう。預言者や聖人の像に宿った霊が、自らを預言者と偽るような事があれば、真の崇拝をゆがめるのは必定だからな』
それだったらそもそもそんなものに《使い魔》を封じるなよ、と言いたくなるが、たぶんそれを行った司祭は『器が壊れないように身近で大事なモノ』に封じたつもりだったんだろうな。
そしてオレが言葉を呑み込んだのを見て、タティウスは問いかけてくる。
「その首輪がどうされたのですか?」
「いえ。ちょっと息苦しいものですから」
別にケノビウスの言うことを聞く義理はないが、しばらくは寝食を共にせねばならないし、常時説教されたらこちらがたまらない。
ここは言うことを聞くしかないだろう。
そしてタティウスは押し黙ったオレに対してたたみかけるかのごとく、その身を寄せてきて真剣に問いかけてくる。
「我らはもう仲間ではありませんか。困っている事があれば何でも相談して下さい」
あんたも相変わらず図々しいな!
オレは別に仲間になりたくもないし、なった覚えもない。
ただとんでもない事に何も知らない部外者からは『仲間』どころか連中を率いているようにしか見えない事は分っているとも。
そしてタティウスは確かにオレに対して気をつかってはいるかもしれないけど、しょせんは『カリルの囮』としての存在でしかないのは明らかだ。
まあこの『暁の使徒』の連中に俺の事をカリルより優先してもらおうなどとはこれっぽっちも思わない。
逆にそんな事になったらむしろ一刻も早く逃げ出したくなるよ。
「どうせタティウスさんは『お気持ちは分ります』などと口先では言いますけど、結局は全部カリルさんの命令通りにしか動かないのでしょう?」
「当然です」
そこは少しでいいから返答を躊躇しろよ!
まあそう言われるのは分っていたけど、それでも正面から言い切られると、いろいろと複雑だ。
別に『ツンデレな乙女心』とかそんな話では絶対にないぞ!
オレは無駄だと分っていながらも、タティウスをにらみ付ける。
しかしもちろんこの厚顔な男はオレの意志など相手はしなかった。
「このまま使命を果たせば、あなたにも決して悪い結果にはならないと思いますよ」
オレとしてはこの首輪さえ外してもらえれば、報酬なんざどうでもいいんですけどね。
「前にも言いましたが、我らが総長は少々名の通った家の出身でしてね。しかも査察官という地位は、各国の王にでも堂々と面会を求める事すら可能な立場なのです」
「それがどうかしましたか? 首輪をはめられた側としては、相手が王様だろうと、他の誰だろうと大した違いはありませんよ」
「落ち着いて下さい。つまり総長がその気になればあなたを王家に輿入れさせる事だって不可能ではないということです」
そんな話を聞いてもまるで心が動かないのは、オレの心がやっぱり『女である』事を当たり前に受け入れつつあるからなのだろうか。
しかしオレのさめた表情を見て、タティウスは何か別の意味に受け止めたらしい。
「簡単に信じられないのも無理はありませんが、あなたの美貌と能力ならどこに輿入れしても大丈夫ですよ」
「ええ。そうかもしれませんね」
「まあそういう事もありうると、心にとめておいて下さい」
タティウスにすれば『このまま協力してくれていたら、破格の報酬を得られる』と伝えたつもりなんだろうな。
とっくの昔に王太子や皇帝、果ては神様からプロポーズされた事のあるオレにとって、全くありがたみはないんだよ。
そんな話をしてもタティウスどころか誰も信じるはずがないけど ―― ひょっとしたらカリルは信じるかもしれないが、それはそれで恐ろしい事になりそうだ。
しかし無理矢理はめられた首輪の言いなり同然のオレが、民衆からは喝采を受け、王家に輿入れだの何だの言われるとはどこまで神様とはひねくれているんだろうか。
しかも先ほどは『通りすがり』の相手からの注目だったが、今回は明らかにオレを目当てにした人間が鈴なりになっているようだ。
不本意だがオレはこのような形で注目を浴びるのには慣れている ―― ただしそれが受け入れ難い事にはかわりは無い。
「それではお任せしますわ」
カリルは無責任にもオレに全て託するつもりらしい。
だがオレがそれに苦言を呈する前に、周囲から次から次へと声が殺到する。
「お願いです。この街もお守り下さい」
「ワシらもずっと不安だったのですよ!」
いや。周辺の街も襲われている中、不安になるのは分りますけど、そんな風に頼られても困ります。
リバージョインの時だって、オレはあくまでも『手助け』をしただけであって、オレ自身が戦ったわけじゃない。
もちろん魔法を封じられた今のオレなんぞ、ただの無力な小娘に過ぎないのだ。
街を守るどころか、危なくなったら逃げ出すのがせいぜいだろう。
そして今のオレは、すがりつく人々から何とか逃げ出すのがやっとな状況だった。
しばしの後、オレはどうにか追いすがる人々を振り切って、宿屋に飛び込んでいた。
これ以上、さらし者になる事が無くなったのでひとまず安心したものの、今後もこんな事が続くと思うとうんざりする。
しかしながらオレはここで少しばかり心に引っかかっていた事を首輪のケノビウスに問いかけることにする。
「一つ聞いていいですか?」
『一体何だ』
「さっきの話ですけど――」
仮にも査察官ともあろうものが、身分を隠し、寺院に忍び込んで財物を漁り、また泥棒していいはずがない。
しかしケノビウスはオレの言葉を遮った。
『吾の主たる聖人ザーロンは、聖セルムの啓発の光が届かない影にも目を届かせるのがその使命だった。そういえば分るな?』
つまりザーロンは表沙汰に出来ない裏仕事や汚れ役を引き受ける役割だったということか。
やっぱりザーロンと聖セルムの逸話も裏に何かいろいろとありそうだな。
もっともそんな事を問い詰めたところで、まともに答えてくれるとも思えないので、ここはもう一つの疑問を問うことにしよう。
「さきほど寺院の警備を魔法で行っていると聞きましたが、いったいどんな魔法が使われているんですか?」
オレの知る限りでは一神教徒の魔法は、自分の能力を底上げしたり、自己再生能力を高めたり、場合によっては他人の傷や病気を自分にうつすと言った、あくまでも『自分自身に限る』ものだったはずだ。
それ以外には霊体を物品に封じ込めて《使い魔》にするような事もあるにせよ、今ひとつ寺院の警備などとは繋がらなかった。
『そうだな……まず基本的な話からしようか』
あんたも首輪の癖に説教くさいんだな。いや。ケノビウスは首輪になってまで後進の指導にあたろうと思ったのだからこそ説教くさいのか。
『聖セルム教における魔法は、多くの場合は可能性を引き出す事でその力を示す。未熟な術者は己自身のみにしか影響を及ぼせないが、熟練するに従ってより広い範囲に力を及ぼせるようになるのだ』
一神教徒にとって自分の能力を引き上げるのは、術を使う人間にとって自分自身がもっとも身近な対象だから比較的簡単に行えるという事らしい。
「具体的にはどんな魔法が使えるんですか?」
考えてみると結構な数の一神教徒と出会って来たが、細かく問うのは初めてな気がするな。
まともにそういう会話が出来る相手がいなかった、と言うのが一番の理由だけど、それで最終的に『首輪』に問いかける事になるとは、これは運命の皮肉というべきか、それともオレが凋落したと見るべきなのだろうか。
『たとえば建築家ならば、魔法が持続する間、石組みが崩れないように出来るし、薬剤師ならば薬剤が劣化しなくなる。武器ならばその威力を増し、盾ならば壊れる事が無くなる。むろん他にもいろいろとあるぞ』
「それでは警備の場合ならばどうなるんです」
『警備というなら、たとえば扉の強度を増す事や、錠前を強化して定められた鍵以外では決して開けられないようにする事が可能になる』
先ほどの会話からすると『定められた鍵以外では決して開けられない扉』があれば、それに頼ってしまって他の警備がおざなりになるので、カリルのように魔法を無効化出来る人間がいると簡単に破られてしまうらしい。
カリルが査察官と聞いた時、とんでもない事だと思ったが、むしろ相応しい役割という事なのだろうか。
オレが巻き込まれているのも、何もかもカリル ―― というより『カリルを抜擢した何ものか』 ―― の思惑通りなのか?
もちろん普通に考えればそんなバカな事はあり得ないと一笑に付すところだが、そう言い切れないのがオレのこれまで歩んできた道なのだ。
しかしいまはそれを問うたところで結論など出るはずがない。
そしてオレが首輪との会話に頭を悩ませていると、タティウスが横合いから顔を乗り出してくる。
「大丈夫ですか? 随分とお疲れのようですね」
「こうなったのはいったい誰のせいですか」
「それは申し訳ありません」
あれ? 随分と殊勝な態度だな。
「さきほどからブツブツと独り言を唱えておられますけど、本当にお悩みならば是非とも相談して下さい」
むぐう。オレが首輪のケノビウスと会話しているとは思っていないから、一人の世界に引きこもっていると勘違いされているのか。
しかし『首輪と会話している』なんて聞いたら、オレ自身も変だと言わざるを得ない。
ああ。何度も女神だの何だのともてはやされ、今もまた人々に望みもしないのに称賛されているオレの正体がこんなものだとしたら、やっぱり預言者だの聖人だのも一皮むけば、こんなものだったのだろうか。
オレはそんな絶対に答えの出ない問題に改めて頭を悩ます羽目に陥っていた。
ここまでの話からすると、どうやらタティウスはこの『悔悛の首輪』の由来は知っていてもケノビウスのことはまるで知らないらしい。
どういうわけか一神教徒の《使い魔》は特に理由が無い限り、他人に自分から意志を伝えるような事はしないようなので、たぶんケノビウスの方からタティウスに話しかけた事は一度も無いのだろう。
別に隠す利用もないので、ここはオレの方から説明した方がいいかな。
「実はこの首輪は――」
『少し待て。必要が無いのなら、吾の事は黙っていて欲しい』
「え?」
どうやらケノビウスは自分の存在を明かしたがらないらしい。。
ケノビウスは数百年に渡り、ただ神棚に飾られてきただけの存在だったから、あえて他人と意志疎通をする必要性を殆ど感じていないのだろうか。
『吾、いや吾らはあくまでも預言者や聖者の道へといざなう《道具》に過ぎん。崇拝の対象となってはならない。それ故に吾らは敢えて必要なきとき以外に意志を示す事はしないのだ』
う~ん。元の世界では付喪神のようにモノに神が宿るという考えがあったけど、こちらの一神教徒はそういう考えをむしろ否定しているのか。
霊体を道具として使うが故にこそ、唯一神や預言者に対する崇拝の妨げになることを警戒しているということらしい。
『先ほどの像にこめられた霊も同じだろう。預言者や聖人の像に宿った霊が、自らを預言者と偽るような事があれば、真の崇拝をゆがめるのは必定だからな』
それだったらそもそもそんなものに《使い魔》を封じるなよ、と言いたくなるが、たぶんそれを行った司祭は『器が壊れないように身近で大事なモノ』に封じたつもりだったんだろうな。
そしてオレが言葉を呑み込んだのを見て、タティウスは問いかけてくる。
「その首輪がどうされたのですか?」
「いえ。ちょっと息苦しいものですから」
別にケノビウスの言うことを聞く義理はないが、しばらくは寝食を共にせねばならないし、常時説教されたらこちらがたまらない。
ここは言うことを聞くしかないだろう。
そしてタティウスは押し黙ったオレに対してたたみかけるかのごとく、その身を寄せてきて真剣に問いかけてくる。
「我らはもう仲間ではありませんか。困っている事があれば何でも相談して下さい」
あんたも相変わらず図々しいな!
オレは別に仲間になりたくもないし、なった覚えもない。
ただとんでもない事に何も知らない部外者からは『仲間』どころか連中を率いているようにしか見えない事は分っているとも。
そしてタティウスは確かにオレに対して気をつかってはいるかもしれないけど、しょせんは『カリルの囮』としての存在でしかないのは明らかだ。
まあこの『暁の使徒』の連中に俺の事をカリルより優先してもらおうなどとはこれっぽっちも思わない。
逆にそんな事になったらむしろ一刻も早く逃げ出したくなるよ。
「どうせタティウスさんは『お気持ちは分ります』などと口先では言いますけど、結局は全部カリルさんの命令通りにしか動かないのでしょう?」
「当然です」
そこは少しでいいから返答を躊躇しろよ!
まあそう言われるのは分っていたけど、それでも正面から言い切られると、いろいろと複雑だ。
別に『ツンデレな乙女心』とかそんな話では絶対にないぞ!
オレは無駄だと分っていながらも、タティウスをにらみ付ける。
しかしもちろんこの厚顔な男はオレの意志など相手はしなかった。
「このまま使命を果たせば、あなたにも決して悪い結果にはならないと思いますよ」
オレとしてはこの首輪さえ外してもらえれば、報酬なんざどうでもいいんですけどね。
「前にも言いましたが、我らが総長は少々名の通った家の出身でしてね。しかも査察官という地位は、各国の王にでも堂々と面会を求める事すら可能な立場なのです」
「それがどうかしましたか? 首輪をはめられた側としては、相手が王様だろうと、他の誰だろうと大した違いはありませんよ」
「落ち着いて下さい。つまり総長がその気になればあなたを王家に輿入れさせる事だって不可能ではないということです」
そんな話を聞いてもまるで心が動かないのは、オレの心がやっぱり『女である』事を当たり前に受け入れつつあるからなのだろうか。
しかしオレのさめた表情を見て、タティウスは何か別の意味に受け止めたらしい。
「簡単に信じられないのも無理はありませんが、あなたの美貌と能力ならどこに輿入れしても大丈夫ですよ」
「ええ。そうかもしれませんね」
「まあそういう事もありうると、心にとめておいて下さい」
タティウスにすれば『このまま協力してくれていたら、破格の報酬を得られる』と伝えたつもりなんだろうな。
とっくの昔に王太子や皇帝、果ては神様からプロポーズされた事のあるオレにとって、全くありがたみはないんだよ。
そんな話をしてもタティウスどころか誰も信じるはずがないけど ―― ひょっとしたらカリルは信じるかもしれないが、それはそれで恐ろしい事になりそうだ。
しかし無理矢理はめられた首輪の言いなり同然のオレが、民衆からは喝采を受け、王家に輿入れだの何だの言われるとはどこまで神様とはひねくれているんだろうか。
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