異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第7章 西方・リバージョイン編

第123話 風呂場にていろいろと

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 カリルはオレの疑問に対しては、珍しく真面目な顔をして答えてくる。

「あなたの言いたい事は分ります。しかしどんな理由があろうとも聖戦を僭称し、その上で略奪や虐殺を行う事は許されざる罪です。微力なわたくしたちに出来るのはそのような罪を可能な限り暴き出す事でしかありません」
「それで罪を暴いた後はどうするんです? 司祭達は即決裁判でどうにかするのは分りましたけど、軍勢を相手には出来ませんよね」

 首輪をはめられる前のオレもちょっとした軍隊の相手をしたことはあるけど、出来たのはあくまでも『足止め』でしかない。
 よくあるヒロイックファンタジーのように腕の立つ魔法使いが数人いるだけで軍勢を滅ぼせるなら、そもそもあんな連中が幅をきかせるわけがないのだから、そんなの当たり前なんだけど。

「問題が深刻であるなら、中央から討伐軍が派遣されるでしょう。残念ながらわたくしたちの権限ではそれを要請する以上の事は出来ません」

 まあそんなものだろうか。
 カリルにしては珍しい程、まともというか普通の結論だな。
 オレだってあんな連中を野放しにしておくのは心が痛むけど、だからといって無駄死にすると分っていて、突っ込むのはバカのやることだ。
 だがそんなオレの考えはやっぱり甘かった。

「ただしあくまでもわたくし共に与えられた権限の範囲での話です」

 え? まさか?

「あなたもご存じのように、聖セルムの教えは本来ならば寛容なものであり、たとえ道を踏み外した者であっても改悛と贖罪の機会を絶やすことなく門戸を開け続けるものなのです」

 こちらが同意する事を前提で話をしているのはさすがの鉄面皮だな。

「そして今、武器を取って暴れている方々もその多くは本来の武人ではありません。ほとんどは農民階級の次男、三男と言った人たちが、あのように他人から奪う道を選択せざるを得なかったのです」

 そういえば聖セルム教団はカースト制度をとっていたのだった ―― 何しろこないだまで同行していた『第五階級』の呼び名の由来は四つあるカーストに入っていない事を意味していたそうだからな。

 階級は大ざっぱに貴族、魔術師、騎士、農民の四つだけど、生まれた階級を変わる事を許さない派閥と、そうでない派閥があるということだった。
 もっともそういう区分が意味をなすのは安定した社会であって、混乱したところではあんまり意味は無いだろうけどな。
 何にせよ傭兵の大半は本来ならば武器を持って戦わない『農民』階級の出身ということなのか。

「そして本来ならば、農地を耕し日々を静かに送る事の出来た人達を、騙していいように利用し戦わせているのが彼らの指揮官達です」

 そういえばRPGのネタでちょっとばかりかじった知識だと、元の世界における中世の傭兵団では兵士が自分たちで『自治』を行い、貴族たちに虐げられない自由な生活を謳歌している建前になっていたらしい。
 そしてそれに憧れて傭兵団に入る農民の子弟も結構いたようだ。
 いつの時代でも、はぐれものが『自分たちは自由なのだ』と叫び、一部の若者がそれを支持する事はある。
 だがその『自由』は実のところは傭兵隊長達に誘導されていただけの、儚い幻想でしかなかったらしい。
 しかも彼らが命がけで得た稼ぎも、その殆どは隊長に金を払って部隊に同行する酒保業者が提供する酒・賭博・女につぎ込まれて消えてしまい、結局のところ潤ったのは傭兵隊長と商人だけだったそうだ。
 もちろん蓄えなど出来るはずも無く、不潔な環境で病気も蔓延し、彼らが移動する先々で伝染病をばらまいた結果、戦争以上の犠牲を出すことは珍しくなかったとか。
 こっちの世界でもそういう事情は同じらしいな。

「つまりその指揮官達をどうにか排除して、そこにいる兵士達を何とか正道に戻したいと思っているんですか?」
「もちろんですとも!」

 カリルは胸を張って ―― 何しろ全裸なので実にまぶしい光景だ ―― 自信満々に断言する。

「あのう……カリルさんの言っている事は分りますよ。しかし実行するとなるとどれだけ問題があるか、ちょっと考えて見ましたか?」

 そもそも連中の指揮官だってバカではあるまい。
 一騎打ちを所望したら都合よく出て来てくれるので、それを倒したら全員、こちらの言うことを聞いてくれる ―― なんて甘い話があるわけないだろう。

「これが大変な仕事であるのは分っておりますわ。しかしそれを成し遂げねば、この地に平穏は訪れません」

 それって要するに精神論だけで具体策は何も無いように聞こえるんですけど!
 まあ宗教家なんだから精神論を唱えるのが悪いとは言いませんけど、物事には優先順位というものがあると思いますよ。
 そりゃまあフィクションだとしばしば曖昧かつ高邁な精神論、建前論を唱えるヒロインと、それを粉骨砕身の働きで実現する主人公という取り合わせもあるけど、この世界でそれは通用しませんよね。

「もちろん今すぐそれを行おうとは思っていません。わたくしだって出来る事と出来ない事の区別ぐらいはついているつもりですわよ」

 まあ確かにあんたは『出来ない』事はさせないらしいが『無茶』は平気でやらせているようにしか見えないんだけど。
 いずれにせよ、傭兵団をどうにかするのは遠い先の目標というならまあいいだろう。
 少しばかり胸をなで下ろすオレだったが、やはりカリルが何かとんでもない事を考え、実行しようとしているのではないか、と言う疑念はぬぐえない。

「それでカリルさん――」
「静かに……しばしお待ちを」

 このときどういうわけかカリルは急に自分の身にタオルを巻き付けて、そのブロウブロウ輝く眉をひそませ、どこかあらぬ方向に厳しい視線を注いでいた。


 今までに無いカリルの態度にオレは少しばかりどころでない不安を感じずにはいられなかった。
 まさか? この風呂場に敵の襲撃でもあるのか?!
 オレは一瞬、その身を固めつつカリルを凝視しつつ問いかける。

「いったいどうしたんですか? カリルさん――」
「仲間同士、親交を深めるのはいいことですわね」
「はあ?」

 脈絡の無い言葉にオレはまたしても話の腰を折られ、そこでカリルはオレ達二人のいる風呂の壁に足を向ける。
 蒸し風呂なので四方はちゃんと木の壁で覆ってあるけど、よくよく見るとそこには隙間が ―― まさか?!

「皆さん。おそろいで何の御用でしょうか?」

 カリルが静かに壁の隙間に手をかけて広げると、そこにはトラートはじめ何人かの男衆の引きつった笑顔があった。

 あいつら壁の隙間からオレ達の風呂を覗いていたのか!
 まったくなんてお約束な展開だ!

 しかし眼前の光景を見て、今のオレが『覗く側』ではなく『覗かれる側』だと改めて自覚させられて、ちょっとばかり心が沈む。
 ついでに言えばカリルの全裸を見ても、僅かに気恥ずかしい思いはするが、それ以上の事を感じなくなってしまっているのだ。
 それは目をぎらつかせて、こちらを覗いている男衆との反応の差を見れば明らかだろう。

「いやあ。総長や新入りの事が心配でいてもたってもいられなくて、みんなで守ろうと思ってやってきたんですよ」

 団員の中で比較的年配の男が、頭をかきつつ答え、他の面々も激しく同意の様子で首を勢いよく縦に振るが、カリルは静かに問いかける。

「それはもちろん団長の許可を得ておられるのですね?」
「いや……はははは……」

 あからさまにとぼけた男衆一同の乾いた笑いが、湯気に覆われた蒸し風呂の中に響くと共に、野太い声がかぶってきた。

「ほう。それは面白い話を聞かせてもらったぞ」
「「「ええ?!」」」

 背後から響いた声に男衆一同は硬直 ―― もちろん局部の話ではない ―― した様子で動きを止める。

「姿が見えないからどこに行ったのかと思ったら、やはりこういうことだったか」

 こちらからは殆ど見えないが、それでもタティウスの身から発せられる押し殺した怒りが肌にヒシヒシと伝わってくるようだ。

「あの……言い出したのはトラートですから」
「オレ達はコイツを止めようと思って来ただけです!」
「この裏切り者! むしろそっちこそ一番前に出てあれこれ言っていただろうが!」

 タティウスの圧力を前に見苦しく責任転嫁を始める連中の姿は、これが聖セルム教の誇る査察官一行だとは、信者でないオレでも信じたくない浅ましい光景であった。

「やかましい! 全員同罪だ! さあこっちにこい!」
「どうやら即決裁判の必要はなかったようですわね~」
「総長も物騒な事を言わないで下さいよ。それでは失礼します!」

 穴の向こうでタティウスに引っ立てられていく連中の嘆きと悲鳴が、湯気を押しのけるかのごとき勢いで、狭い蒸し風呂の中に鳴り響いた。

 しばしの後、オレとカリルは服を着替えたところで、いつも通りの険しい顔をしたタティウスの訪問を受けていた。

「皆さんはどうされてますか?」
「二度とあのような真似をする気が起きぬよう、入念に言い聞かせてました」

 たぶん『肉体言語』にてみっちりと一方的に言い聞かせたのだろう。

「お二人ともお気をつけ下さい。小官もつねに警戒しているわけにはいきませんからね」
「分りましたわ~ 警備は全部お任せしますから、わたくしはもう寝ますわ」

 ここでカリルは複雑な表情を浮かべているタティウスにまた笑顔を注ぐ。

「あれ? このまま二度と目覚めなければいいと思ってませんか?」
「それについて口にすることはありません」

 どうやらその心の声をカリルには見透かされているらしい。
 それにしても本当にこの二人は仲がいいな。
 いっそこの二人は結婚してしまえばいいのに ―― などと言ったら、タティウスは目をむいて激怒しそうだ。
 まあその場合、タティウスは間違いなく一生、苦労のさせられ通しになるだろうから、その気持ちはよく分る。
 そしてカリルが寝室に入ったところでタティウスはオレに向き直る。

「お騒がせしてすみませんね。あいつらも決して悪人というわけではないのですが――」
「いいですよ。むしろ本当の襲撃でなくてよかったと思っているぐらいです」

 まあ正直、風呂をのぞかれた事に気恥ずかしい思いはするけど、別に怒っているわけでもない。

「むしろのぞき見をしている間に、何ものかの襲撃があったりすればそちらの方がよほど取り返しがつきませんよ」
「仰る通りです。これは団長たる小官の落ち度ですから、批判は甘んじて受けましょう」

 そう思ってくれるなら、首輪を外してくれればいいけど、絶対にそれだけはやらないだろうな。

「それでは少々厚かましいとは思いますが、今後も総長についていろいろとお願いしてよろしいでしょうか」

 本当に厚かましいな! だけどどうせオレには選択肢なんかないんだけど。

「申し訳ないですけど、そんな事を言われても安請け合いなど出来ませんよ」
「当然ですね。しかしあなたに実力で総長を守れという気はありませんよ。ただ少しばかり話し相手になって下さればいいんです」
「そりゃまあ。いざという時にはむしろ攻撃されるのはこっちですからね」

 どう考えても現状では『囮役』のオレの方が優先的に攻撃されるに決まっている。

「それはその通りですが、査察官は自分の身にもしもの事があったときに、中央に連絡を取る使い魔を有しているものです。だからそうそう手出しされることはありません」

 なるほど。
 そういえば以前に出会ったフレストルの使い魔である《金属の猛禽》であるメリアタンも、主人を守るだけでなく、その身のにもしもの事があったときは郷里に飛んで帰って、それを伝える役目があると言っていたな。
 査察官に手を出すということは、仮に命を奪う事に成功しても、その使い魔に報告され、教団の中央から激しい報復を招く事になるわけだ。

「それではカリルさんはどんな使い魔を持っているんですか?」
「総長に使い魔はいません」
「はい?」

 あまりにあっけらかんと答えられたので、オレは思わず惚けてしまう。

「総長は使い魔ではなく、その首輪を所望しましたからね。そんなわけで使い魔は持っていないんです」
「それじゃあ意味ないじゃないですか!」
「そんなことありませんよ。だいいちアルタシャさんはこの話を他の人に漏らしますか?」
「いえ……そんな事はしませんけど……」
「それなら総長の使い魔が何なのか、誰も知らないわけですから、迂闊に手を出せない事にかわりは無いですよ」

 そう言ってタティウスは笑う。
 本当にこの人達は他人を欺いてばかりだな!
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