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第7章 西方・リバージョイン編
第124話 今度は『首輪』とあれやこれや
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カリルに使い魔がいないことは分った ―― 敢えて言えばオレの首輪に宿っているケノビウスこそがカリルの使い魔というべきだろうか。
「そうやって何もかもハッタリでどうにかなると思っているのですか?」
「それが通用しなかった時のために、小官達がいるのですよ」
タティウスはごく平然と言い切る。
そしてこれまでいろいろと他人を欺く事を当然としてきたかのような、カリルとその一行だけどこの言葉だけは紛れもない真実だと言うことをオレは直感した。
これは推測だけどタティウスはもし自分が死んでカリルが助かるのなら、躊躇無くそれを選ぶのではないか。
それはたぶんお互いの立場とか、損得とか、職務とかそういう一般的な事とは一切関係ないのだろう。
タティウスとカリルの関係は、愛とか友情とか使命感とか、そんな単純な言葉では表現しきれないけど、それでも紛れもなく強い絆があるんだな。
それについてカリルの方がどう考えているのかは、さっぱり分らないけど、聞いたところで彼女がちゃんと答えずに、適当にはぐらかされるだろう。
そんな事を考えているとタティウスはとってつけたように、またこちらにも問いかけてくる。
「もちろんあなたが攻撃されたとしても、命がけで守るつもりですよ。優先順位は総長の次だと思っていて下さい」
「あなたの命よりも優先なのですか?」
「もちろんですとも」
ちょっとばかり意地の悪い質問だったが、何の躊躇も無く断言された。
それが本当だとしても、オレとしては首輪を外してくれた方がよっぽどありがたいのだけどな。
「それでは他の連中の事もありますので、これにて失礼します。あなたも気をつけていて下さい」
タティウスも立ち去ってオレが一人残されたところで、こっちはため息をつきつつ首輪のケノビウスに話しかける。
とりあえずこの首輪が現時点ではオレにとって最も身近な存在なのである。
信頼出来る相手など一人もいない現状だが、このままあきらめて流されるままになる気はないのだ。
「ケノビウスさん。こちらが攻撃されるのはまだいいのですけど、その時のためにせめて魔法ぐらい使わせてもらえませんかね?」
『それを決めるのは吾では無い』
この返答が予想出来ていたので、ちっとも意外でもなく、落胆もしなかった自分自身がどこかイヤだ。
それはともかくここでオレは本題に入ることにする。
今さらこの首輪と一蓮托生である事に文句を言っても仕方ないが、それならそれで気分を切り替えて、もっと建設的な方向に進むことにしたわけだ。
「お願いですけど、こちらにあなた方の魔法を教えて下さいませんか?」
この首輪はあくまでも『聖セルム教で教えているもの以外の魔法』を封じるものだということだから、逆を言えば彼らの魔法を学べばいいことになる。
そして今はそれを期待出来る相手はケノビウスしかいないのだ。
ケノビウスが聖者の従者だったというなら、当然相応の魔法の使い手だろう。
オレが教わる相手としては、十分な実力があるはずだ。
しかし『女神』だの何だの、持てはやされたオレが首輪に教えを請うことになろうとは、まったく世の中とは分らないものだな。
『聖セルムの教えに帰依しているとは言い切れない、そなたに教えると思うかね』
「もちろん教えてくれるでしょうね。なぜならそうやってあなた方は布教してきたのではないですか」
建前はどうあれ実際に、一神教への信仰を広める大きな原動力は『比較的簡単に魔法が使えるようになる』というもののはずだ。
幾ら強力でも、敵を吹き飛ばす派手な攻撃魔法のたぐいは一般人の日常生活には何の役にも立たないし、逆にそんなものを誰もが使えるようになったら、それこそ世の中が大混乱だろう。
そう考えるとやっぱ目を見張るほど強力な魔法が使えなくとも、日常生活や自分の職業に役立つ地味な魔法が使える一神教の勢力が伸びるのは当然と言えるかも知れない。
『まあよかろう。どうせそなたのことだ、帰依しろと言ったら口だけでもそう言うだろうからな』
やっぱりオレのそういうところは見抜かれていたか。
『もちろん何を口にしようが、吾がそなたから離れる事は無いが』
「それならなおさらの事、魔法ぐらいは教えて下さいよ」
『魔法ぐらい、とは大きく出たな。それがどれほどの秘技か分っておろうに』
「そんな事はイヤという程、思い知らされていますよ」
そりゃまあ聖女教会などという『女性しか回復魔法は使えない』という虚構を守るために、男を性転換しているような組織だってあるぐらいだ。
この世界では自分たちの陣営の魔法知識はいってみれば、もっとも重要な秘密の一つなのだろう。
「しかしあなただって、この『暁の使徒』達の使命を成功させたいでしょう? それにこっちが死ぬような事になれば困るのではないですか」
ケノビウスが自分では動けず、当然ながら人の手を借りねば誰かの首に収まる事も無い。
もしも『暁の使徒』が任務にしくじったら、そのままうち捨てられる可能性も否定出来ないだろう。
いくら物品にこもった霊体が人間的な感覚とは大きくかけ離れていたとしても、本来の役目を果たせず、いつ誰にひろわれるかも分からぬまま放置されるのは受け入れがたいはずだ。
『確かにそれはそなたの言うとおりだ――」
ケノビウスはここで期待を持たせるような、気を揉ませるような、そんな態度である。
どいつもこいつも一筋縄ではいかない連中揃いだけど、それでもたった数日で何となく慣れてきた自分も結構、タフになってきた気がするな。
傍目にはどうあれ、現実にはほぼ『奴隷』なオレに対してケノビウスが魔法を教えてくれるのか。仮に教えてくれるとしても、どこまで認めてくれるのか。
そのあたりは結構心配な要素ではある。
ただこれまで一神教徒に対して魔法を教わる機会があんまりなかったのは、オレがいろいろな理由から、人里離れたところを故意に移動してきたのと、もうひとつ男から学ぶ場合、体を要求されかねないという危惧があったからだ。
首輪のケノビウスにはその心配がないので、ダメ元でも何でも頼む気になったと言える。
『そなたの身に危険があることについてだが、もしもの事があったら、そのときは吾がどうにかしよう』
「ええ? まさか?! 魔法を使うんですか?」
一神教徒のよく使う魔法の一つに『他人の受けた傷や病気を自分の身にうつす』というのがあるが、オレの受けた傷を首輪が代わりに受けたりするの?
いくら何でもそれはあり得ない気がするぞ。
『そう驚くな。吾は首輪をはめた者に対して、魔法を唱えて支援する事が出来るのだぞ。そして吾とそなたは一体だ。それ故に吾が自身にのみ有効な魔法であっても、そなたにも同じ効果を及ぼす事も出来る』
それは凄い。本人に変わって魔法を使ってくれるというのは、冷静に考えれば大変な便利アイテムではあるだろう。
知性を持っていて、はめた相手の魔法を抑止するだけでなく、自分で魔法を唱えてその影響を与える事まで出来るとは、さすが国宝級の聖遺物だな。
そう考えるとカリルがこの首輪をオレにはめたときに、タティウスが驚いたのもまあ理解は出来る。
しかし首輪が魔法を使ってくれるのは、残念ながらオレの望みでは無い。
こっちはあくまでもオレの方が魔法を使えるようになりたいのだ。
まあオレが今まで使っていた魔法はチートで努力もせず得たものだけど、もし魔法の獲得のために幼い頃から血のにじむ努力を余儀なくされていたりしたら、こっちの考えも大分違っていたかもしれないけどな。
「それではあなたを外した後で何も変わらないではないですか?」
もちろんオレとしては一刻も早くケノビウスを自分の首から外したい。
しかしながらホンの少しだが『こんな目にあったのだから、逆にこの体験から何かを得ずに終わらせたくない』という欲張った意識もあったりするのだ。
『そなたの精神が浄化され、正しき信仰をえるように昇華されれば、それだけでも十分過ぎるほどの成果というものだろう』
くう。こいつも宗教家だけあって、こういうやり取りには慣れているか。
やっぱりオレの考えは甘すぎたのか。
『だがどうしてもと言うなら、教えてやらんこともないぞ』
「ええ? 本当ですか?!」
『そなたが望んだ事では無いのか。なぜそんなに驚くのだ』
「いえ。そうすぐに教えてもらえるとは思っていなかったのものですから」
仮にケノビウスから魔法を教えてもらえるとしても、それは大分先の話になるかと思っていた。
まさか一回目で了承が得られるとは、これまた想定外だ。
これまで常に期待も予想も裏切られてきたオレだけど、まさかそんなうまい話があるのだろうか?
いや。まて。それにはきっと裏があるに違いない。
最悪の場合、教わった魔法は首輪のケノビウスと精神を入れ替えるもので、何も知らずに唱えると、オレの身体を奪われて、こっちの精神が首輪の中に閉じ込められる ―― などというファンタジーならありがちな展開もありうる。
『そなたは数百年ぶりの弟子ということになる。そうなると吾としても相応の能力を持ってもらいたいと思うのはおかしいかね』
「いえ! そんな事は全くありませんよ!」
ケノビウスはただ『聖人の遺品』として祭られるのに飽きていて、数百年ぶりにでも『自分の成果』を挙げたいと思っていたのかもしれない。
そしていまは魔法を使えないとしても、オレの有する魔力は宮廷魔術師の十人ぐらいは軽く凌駕しているらしいので、そんなオレに魔法を教えたらどうなるかという興味があるのかもしれないな。
「それでは今すぐにでも魔法の使い方を伝授して下さい」
『やれやれ……若い者はせっかちだな』
そりゃおおかた千年以上、存在し続けているあんたからすれば、どんなお年寄りだってガキでしょうよ。
『魔法を教えるのはかまわんが、それはあくまでも本来の役目である、そなたの改悛を優先させる事を忘れるなよ』
「それはもちろんです……」
要するにこれからもカリル達に付き合わされねばならないと言うことだ。
もちろん不満も不安も山ほど有るし、たぶんこれから先にはきっとロクでもない事が波のごとく押し寄せてくるに違いない ―― そして恐らくオレはそれを避ける事すら出来ないだろう。
しかしその見返りに魔法を教えてもらえるなら、つらい『囮』『偶像』扱いにも少しは希望がもてるかもしれない。
人間はどんな状況でもそこから楽しみを見いだせる ―― という言葉があったような気がするが、ほとんど開き直りに近い形でオレは覚悟を固めていた。
こうなったら長期戦を覚悟の上で、オレはこいつらから出来る限りのものを吸収し、また盗みとってやるのだと決めたのだ。
「そうやって何もかもハッタリでどうにかなると思っているのですか?」
「それが通用しなかった時のために、小官達がいるのですよ」
タティウスはごく平然と言い切る。
そしてこれまでいろいろと他人を欺く事を当然としてきたかのような、カリルとその一行だけどこの言葉だけは紛れもない真実だと言うことをオレは直感した。
これは推測だけどタティウスはもし自分が死んでカリルが助かるのなら、躊躇無くそれを選ぶのではないか。
それはたぶんお互いの立場とか、損得とか、職務とかそういう一般的な事とは一切関係ないのだろう。
タティウスとカリルの関係は、愛とか友情とか使命感とか、そんな単純な言葉では表現しきれないけど、それでも紛れもなく強い絆があるんだな。
それについてカリルの方がどう考えているのかは、さっぱり分らないけど、聞いたところで彼女がちゃんと答えずに、適当にはぐらかされるだろう。
そんな事を考えているとタティウスはとってつけたように、またこちらにも問いかけてくる。
「もちろんあなたが攻撃されたとしても、命がけで守るつもりですよ。優先順位は総長の次だと思っていて下さい」
「あなたの命よりも優先なのですか?」
「もちろんですとも」
ちょっとばかり意地の悪い質問だったが、何の躊躇も無く断言された。
それが本当だとしても、オレとしては首輪を外してくれた方がよっぽどありがたいのだけどな。
「それでは他の連中の事もありますので、これにて失礼します。あなたも気をつけていて下さい」
タティウスも立ち去ってオレが一人残されたところで、こっちはため息をつきつつ首輪のケノビウスに話しかける。
とりあえずこの首輪が現時点ではオレにとって最も身近な存在なのである。
信頼出来る相手など一人もいない現状だが、このままあきらめて流されるままになる気はないのだ。
「ケノビウスさん。こちらが攻撃されるのはまだいいのですけど、その時のためにせめて魔法ぐらい使わせてもらえませんかね?」
『それを決めるのは吾では無い』
この返答が予想出来ていたので、ちっとも意外でもなく、落胆もしなかった自分自身がどこかイヤだ。
それはともかくここでオレは本題に入ることにする。
今さらこの首輪と一蓮托生である事に文句を言っても仕方ないが、それならそれで気分を切り替えて、もっと建設的な方向に進むことにしたわけだ。
「お願いですけど、こちらにあなた方の魔法を教えて下さいませんか?」
この首輪はあくまでも『聖セルム教で教えているもの以外の魔法』を封じるものだということだから、逆を言えば彼らの魔法を学べばいいことになる。
そして今はそれを期待出来る相手はケノビウスしかいないのだ。
ケノビウスが聖者の従者だったというなら、当然相応の魔法の使い手だろう。
オレが教わる相手としては、十分な実力があるはずだ。
しかし『女神』だの何だの、持てはやされたオレが首輪に教えを請うことになろうとは、まったく世の中とは分らないものだな。
『聖セルムの教えに帰依しているとは言い切れない、そなたに教えると思うかね』
「もちろん教えてくれるでしょうね。なぜならそうやってあなた方は布教してきたのではないですか」
建前はどうあれ実際に、一神教への信仰を広める大きな原動力は『比較的簡単に魔法が使えるようになる』というもののはずだ。
幾ら強力でも、敵を吹き飛ばす派手な攻撃魔法のたぐいは一般人の日常生活には何の役にも立たないし、逆にそんなものを誰もが使えるようになったら、それこそ世の中が大混乱だろう。
そう考えるとやっぱ目を見張るほど強力な魔法が使えなくとも、日常生活や自分の職業に役立つ地味な魔法が使える一神教の勢力が伸びるのは当然と言えるかも知れない。
『まあよかろう。どうせそなたのことだ、帰依しろと言ったら口だけでもそう言うだろうからな』
やっぱりオレのそういうところは見抜かれていたか。
『もちろん何を口にしようが、吾がそなたから離れる事は無いが』
「それならなおさらの事、魔法ぐらいは教えて下さいよ」
『魔法ぐらい、とは大きく出たな。それがどれほどの秘技か分っておろうに』
「そんな事はイヤという程、思い知らされていますよ」
そりゃまあ聖女教会などという『女性しか回復魔法は使えない』という虚構を守るために、男を性転換しているような組織だってあるぐらいだ。
この世界では自分たちの陣営の魔法知識はいってみれば、もっとも重要な秘密の一つなのだろう。
「しかしあなただって、この『暁の使徒』達の使命を成功させたいでしょう? それにこっちが死ぬような事になれば困るのではないですか」
ケノビウスが自分では動けず、当然ながら人の手を借りねば誰かの首に収まる事も無い。
もしも『暁の使徒』が任務にしくじったら、そのままうち捨てられる可能性も否定出来ないだろう。
いくら物品にこもった霊体が人間的な感覚とは大きくかけ離れていたとしても、本来の役目を果たせず、いつ誰にひろわれるかも分からぬまま放置されるのは受け入れがたいはずだ。
『確かにそれはそなたの言うとおりだ――」
ケノビウスはここで期待を持たせるような、気を揉ませるような、そんな態度である。
どいつもこいつも一筋縄ではいかない連中揃いだけど、それでもたった数日で何となく慣れてきた自分も結構、タフになってきた気がするな。
傍目にはどうあれ、現実にはほぼ『奴隷』なオレに対してケノビウスが魔法を教えてくれるのか。仮に教えてくれるとしても、どこまで認めてくれるのか。
そのあたりは結構心配な要素ではある。
ただこれまで一神教徒に対して魔法を教わる機会があんまりなかったのは、オレがいろいろな理由から、人里離れたところを故意に移動してきたのと、もうひとつ男から学ぶ場合、体を要求されかねないという危惧があったからだ。
首輪のケノビウスにはその心配がないので、ダメ元でも何でも頼む気になったと言える。
『そなたの身に危険があることについてだが、もしもの事があったら、そのときは吾がどうにかしよう』
「ええ? まさか?! 魔法を使うんですか?」
一神教徒のよく使う魔法の一つに『他人の受けた傷や病気を自分の身にうつす』というのがあるが、オレの受けた傷を首輪が代わりに受けたりするの?
いくら何でもそれはあり得ない気がするぞ。
『そう驚くな。吾は首輪をはめた者に対して、魔法を唱えて支援する事が出来るのだぞ。そして吾とそなたは一体だ。それ故に吾が自身にのみ有効な魔法であっても、そなたにも同じ効果を及ぼす事も出来る』
それは凄い。本人に変わって魔法を使ってくれるというのは、冷静に考えれば大変な便利アイテムではあるだろう。
知性を持っていて、はめた相手の魔法を抑止するだけでなく、自分で魔法を唱えてその影響を与える事まで出来るとは、さすが国宝級の聖遺物だな。
そう考えるとカリルがこの首輪をオレにはめたときに、タティウスが驚いたのもまあ理解は出来る。
しかし首輪が魔法を使ってくれるのは、残念ながらオレの望みでは無い。
こっちはあくまでもオレの方が魔法を使えるようになりたいのだ。
まあオレが今まで使っていた魔法はチートで努力もせず得たものだけど、もし魔法の獲得のために幼い頃から血のにじむ努力を余儀なくされていたりしたら、こっちの考えも大分違っていたかもしれないけどな。
「それではあなたを外した後で何も変わらないではないですか?」
もちろんオレとしては一刻も早くケノビウスを自分の首から外したい。
しかしながらホンの少しだが『こんな目にあったのだから、逆にこの体験から何かを得ずに終わらせたくない』という欲張った意識もあったりするのだ。
『そなたの精神が浄化され、正しき信仰をえるように昇華されれば、それだけでも十分過ぎるほどの成果というものだろう』
くう。こいつも宗教家だけあって、こういうやり取りには慣れているか。
やっぱりオレの考えは甘すぎたのか。
『だがどうしてもと言うなら、教えてやらんこともないぞ』
「ええ? 本当ですか?!」
『そなたが望んだ事では無いのか。なぜそんなに驚くのだ』
「いえ。そうすぐに教えてもらえるとは思っていなかったのものですから」
仮にケノビウスから魔法を教えてもらえるとしても、それは大分先の話になるかと思っていた。
まさか一回目で了承が得られるとは、これまた想定外だ。
これまで常に期待も予想も裏切られてきたオレだけど、まさかそんなうまい話があるのだろうか?
いや。まて。それにはきっと裏があるに違いない。
最悪の場合、教わった魔法は首輪のケノビウスと精神を入れ替えるもので、何も知らずに唱えると、オレの身体を奪われて、こっちの精神が首輪の中に閉じ込められる ―― などというファンタジーならありがちな展開もありうる。
『そなたは数百年ぶりの弟子ということになる。そうなると吾としても相応の能力を持ってもらいたいと思うのはおかしいかね』
「いえ! そんな事は全くありませんよ!」
ケノビウスはただ『聖人の遺品』として祭られるのに飽きていて、数百年ぶりにでも『自分の成果』を挙げたいと思っていたのかもしれない。
そしていまは魔法を使えないとしても、オレの有する魔力は宮廷魔術師の十人ぐらいは軽く凌駕しているらしいので、そんなオレに魔法を教えたらどうなるかという興味があるのかもしれないな。
「それでは今すぐにでも魔法の使い方を伝授して下さい」
『やれやれ……若い者はせっかちだな』
そりゃおおかた千年以上、存在し続けているあんたからすれば、どんなお年寄りだってガキでしょうよ。
『魔法を教えるのはかまわんが、それはあくまでも本来の役目である、そなたの改悛を優先させる事を忘れるなよ』
「それはもちろんです……」
要するにこれからもカリル達に付き合わされねばならないと言うことだ。
もちろん不満も不安も山ほど有るし、たぶんこれから先にはきっとロクでもない事が波のごとく押し寄せてくるに違いない ―― そして恐らくオレはそれを避ける事すら出来ないだろう。
しかしその見返りに魔法を教えてもらえるなら、つらい『囮』『偶像』扱いにも少しは希望がもてるかもしれない。
人間はどんな状況でもそこから楽しみを見いだせる ―― という言葉があったような気がするが、ほとんど開き直りに近い形でオレは覚悟を固めていた。
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