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第7章 西方・リバージョイン編
第129話 ひとまずの決着 そして明かされる一つの真相
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今のところタティウス達の奮闘もあって、襲ってきた傭兵団達にとっては思わしくは無い展開だろう。
だがここで敵の隊長は聞き捨てならぬ言葉を放つ。
「ええい! あの小娘を捕らえたものには褒美が出ると言っているだろうが! もちろんその場合はあの体を好きにして構わんぞ!」
追い! ちょっと待て! 連中はオレを殺しに来たのでは無く、捕らえて言うに言えない扱いをするつもりなのかよ。
そしてその言葉に、兵士達の目の色があからさまに変わった気がするぞ。
「おお! そうか! あの女を俺達のモノに出来るというなら――」
お前ら現金過ぎるだろ!
どうやら敵はやる気を少しは奮い起こしたらしく、ジリジリと包囲の輪を狭めてくる。
積極的に戦って自分が死傷するのは真っ平だけど、仲間と力を合わせてこちらを追い込むぐらいには戦意があるようだ。
「あのような者どもでも、見捨てて逃げるわけにいかないお気持ちは分りますが危険です。いまは一緒に逃げて下さい」
ミツリーンはカリルを無視して、オレに訴える。
明言こそしていないけど、タティウス達を蔑んでいるのは明らかだな。
「ご心配には及びませんわ~」
カリルは本当にいつも態度を変えないな。
ミツリーンの意図が通じていないのか、それとも分っていてとぼけているのか、それはオレには分らない。
だけどなんでそんな自信ありげなのか。
少なくともいま目の前で、自分の部下達が数において圧倒的に勝る敵に追い詰められつつあり、自分だって無事では済みそうにない状況で、そんなに余裕をもっていられるなんてオレには想像も出来ない。
まあカリルのこの態度のお陰で、オレもどうにか平静を維持していられるのかもしれないけど、誰かひとりでも命を落としたりすれば、そんな薄っぺらい余裕など一気に吹き飛ぶだろう。
オレの心配する表情を見たところで、カリルは大きく頷く。
いったい何に同意しているんだ?
「ほうら。ご覧なさい」
「え?」
カリルの指し示した方向を見ると、そこにはまたしてもオレの予想を裏切る光景が展開していたのだ。
「があ!」
どこからか飛んできた石が、傭兵団のひとりの頭に命中し、血の花が咲く。
「消えろ! このごろつきども!」
「お前達など見たくも無いわ!」
避難民達がその身から怒りを放ちつつ、こちらに集まってきていたのだ。
彼らは手に手に木の棒や石をつかんで、傭兵団に立ち向かう姿勢を見せている。
いったいどういうことだ?
「ワシらの乙女に何をするか」
「そうだ! あの乙女を守るんだ!」
何だって?
この避難民達が興奮して、今まで逃げていた傭兵達に立ち向かっているのはオレを守るためなのか?
もちろん何もなく避難民が僅かな勇気を振り絞ったわけではないだろう。
たぶん『黄金の乙女』が件の傭兵達に勝利した話を聞いていたのと、何よりいまこの場でタティウス達が奮戦して兵士達を押しとどめている事で、その気になったのではないか。
それは今の状況を考えれば、ありがたい限りだけど、オレのために人が命を落とすのは正直に言って重荷に過ぎる。
そんなわけでオレは思わず、避難民達に向けて叫んでしまう。
「皆さん! 危ないです。逃げて下さい」
オレのこの言葉に避難民達は一瞬、動きを止める。
おお。オレの意志が伝わってくれたか。
これでカリルから魔法の使用が認められれば、あの傭兵達を追い払う事だって出来るはずだ。
オレは僅かに安堵するが、それは文字通り一瞬だった。
「おお。何と慈悲深いお言葉だ」
「ご自身の危険も顧みず、我らのような草木のごとき者どもを心配して下さるとは……」
「もう生きていてもいい事などない身です。ここはあなた様のためにやらせて下さい」
なんで? 正反対になっているぞ。
「やっぱり素晴らしいですわ。今まで奪われ、虐げられ続けてきた人々が、希望を与えてくれたあなたのために蹶起する ―― まさに英雄的行動そのものです」
「そうですか……これもまた『選ばれし者』のお力ですか」
カリルとミツリーンはこれまた勝手に感動しているらしい。
あんたらにして見れば、縁もゆかりも無い避難民が少しばかり死んだところで大した事じゃ無いかもしれないけど、オレは違うんだよ。
もちろんそんな事を言ったところで、オレだってもし彼らが遠く離れたところで皆殺しにされていても、何もしなかったろう。
仮にその話を聞いても、一過性のニュースとしか思わないはずだ ―― 実際、元の世界でも紛争で何万人死んだという話を聞いても、オレは何もしなかったからな。
しかしいま現在、目の前でオレのために人間が犠牲になるのは耐えられない。
それを『偽善』『自己満足』だと言われるなら、全くもってその通りだ。幾ら罵ってくれても結構だよ。
そんな事はオレの知ったことでは無い。いまはやるべき事をやるしかないんだ。
「カリルさん。とにかく今は――」
オレがどうにか魔法を解放してもらえるように頼みかけたところで、あらためて高らかな叫びが響き渡る。
避難民達が雄叫びを挙げて、傭兵達に襲いかかったのだ。
うわあ。どう見ても群集心理が暴走しているよ。
二一世紀の世界でも軍隊にだって時には一般市民が立ち向かう ―― そして多大な犠牲が出る ―― 事はしばしばニュースになっていたが、この場合はオレが『扇動』したことになるのか?
不本意極まりないんですけど!
オレが困惑している中、避難民達は傭兵達に殺到する。
もちろん普段なら、ロクな武器も持っていない人々が、やる気が無いとは言えど傭兵達に勝てるはずが無い。
しかし傭兵達はタティウスらとの戦いで手一杯のところで、数においてずっと勝る群衆に押し寄せられた事で、連中には一気にひるみの色が広がる。
「もうダメだ!」
「待て貴様ら! 逃げるな!」
「やってられねえよ!」
指揮官は押しとどめようとするが、兵士達は慌てて逃げ出す。
まあ元から命を賭けて戦う気など無かった連中だから、形勢不利となったら逃走するのが当然だろう。
見たところ『暁の使徒』達は何人か負傷はしているようだが、いずれも軽傷のようで命に関わるほどの怪我をしている者はいない。
これで一安心と言いたいが、避難民の中にはどうやら重傷者がいるようだ。
急いで回復魔法を使って治療せねばなるまい。
もちろんオレの魔法が首輪に封じられているいま、そのためにはカリルの許可を得なければならない。
「カリルさん。え?!」
オレが振り向くと、またしても予想を裏切る光景がそこに展開していた。
「素晴らしい。これが『選ばれし者』の力の一端ですか」
「そうですわね。さすがはわたくしが見込んだだけの事はありますわ」
何でお前ら意気投合しているんだよ!
思わず脱力しかけるが、今はそんな暢気な事をしていられる状況では無い。
一刻も早く怪我人の手当をせねばらならないのだ。
ここでオレの傍らには、その身を朱に染めたタティウスがやってくる。
「先ほどの連中が味方を連れてやってくるやもしれません。今は早急にこの場を去るべきだと思います」
確かに今の連中はせいぜい数十人だけど、傭兵団の数からすれば一部に過ぎない。
連中の味方がどこにどれだけいるのかは分らない以上、ここはタティウスの言うとおりにするべきかもしれない ―― ただしそれはあくまでも負傷者を手助けしてからにしたい。
「それとお前は何ものだ?」
ここでタティウスはミツリーンに厳しい視線を注ぐ。
まあ『敵』ではないとしても、怪しい相手なのは明らかだから、この反応は当然と言うものだろう。
「ご心配なく。このお方はアルタシャさんのご友人らしいですわ~」
いや。まるっきり違いますけど。
聖女教会からの使者なんて、むしろ可能な限り近寄りたくない存在ですよ。
しかしここでミツリーンの顔には厳しい色が宿る。
まあどう考えてもこの状況では、オレを連れて逃げ去るわけにはいかない。当たり前だが『暁の使徒』達に同行するのも無理なのは明らかだ。
「今日のところはここまでとさせていただきます。それでは失礼」
ミツリーンは頭を下げると、そのまま去って行く。
一応はオレの思った通り『穏便にお引き取り下さった』わけだが、どう考えてもこれで終わりでは無いだろう。
ミツリーンにすれば目立ちまくっているオレの足取りをつかむのは簡単だから、敢えていま無理をする必要は無いと思っただけだ。
今回は『選ばれし者』であるオレの存在を確認出来ただけで十分と判断したらしい。
ほぼ間違いなくまたミツリーンはやってくるだろうし、そのときはもっと大勢仲間を連れてくるかもしれない。
結局のところ問題は先延ばしになっただけだ。
「そうですか~ ここでお別れとは名残惜しいですか、また来て下さいね~」
カリルは笑顔でミツリーンに別れを告げつつ手を振っている。
いや。百歩譲ってミツリーンの事はいいとしても、今この場で敵味方合わせて何十人もの死傷者が出ているのに、なんであんたはそんな笑顔でいられるの?
それでいてカリルは決して残酷だとか、流血を好むとか、そういうわけではない。
ひょっとするとオレに対する態度から、嗜虐趣味はあるかもしれないけどな。
それはともかく初めて会ったときリバージョインの戦いの時もそうだったけど、やっぱり頭のネジがどこか抜けているとしか思えない。
「今はそんな話をしている場合ではありませんよ。カリルさん。こっちに魔法を使わせて下さい」
「なぜですか? 団長が言われたように、今はなるだけ早くこの場を立ち去るべきだと思いますけど」
「だから怪我をした人が大勢いるんですよ。すぐに手当てしないと――」
「その必要はありませんわ。皆さんもただ命のありようが変わるだけですから」
ええい。何でこんなに話が通じないんだよ。
あんたの目には苦痛にうめく人々が入っていないのか?
「落ち着いて下さい。とりあえず今はこちらの話を聞いてもらえますか」
ここでタティウスがオレの肩をつかんで制止する。
「もうお気づきでしょうけど総長は『人の死』というものに対して、独特の感覚を持っているんです」
随分とオブラートに包んだ表現だな!
そんな言葉で言い表せるようなもんじゃないだろう。
「総長にはあのブロウブロウのために、人が死んだ場合、その霊魂がハッキリ見えているらしいです。だから人の死は単にそのありようが変わるだけでしか無い、という認識なんだそうですよ」
言葉が曖昧なのはタティウスにも、カリルが見ているものが具体的にどんなものなのかは、分らないからなのだろう。
ただそれでもカリルが目の前で広まる惨劇にも平然としていられる理由は、それなりに理解は出来た ―― 同意はしづらいけどな。
だがここで敵の隊長は聞き捨てならぬ言葉を放つ。
「ええい! あの小娘を捕らえたものには褒美が出ると言っているだろうが! もちろんその場合はあの体を好きにして構わんぞ!」
追い! ちょっと待て! 連中はオレを殺しに来たのでは無く、捕らえて言うに言えない扱いをするつもりなのかよ。
そしてその言葉に、兵士達の目の色があからさまに変わった気がするぞ。
「おお! そうか! あの女を俺達のモノに出来るというなら――」
お前ら現金過ぎるだろ!
どうやら敵はやる気を少しは奮い起こしたらしく、ジリジリと包囲の輪を狭めてくる。
積極的に戦って自分が死傷するのは真っ平だけど、仲間と力を合わせてこちらを追い込むぐらいには戦意があるようだ。
「あのような者どもでも、見捨てて逃げるわけにいかないお気持ちは分りますが危険です。いまは一緒に逃げて下さい」
ミツリーンはカリルを無視して、オレに訴える。
明言こそしていないけど、タティウス達を蔑んでいるのは明らかだな。
「ご心配には及びませんわ~」
カリルは本当にいつも態度を変えないな。
ミツリーンの意図が通じていないのか、それとも分っていてとぼけているのか、それはオレには分らない。
だけどなんでそんな自信ありげなのか。
少なくともいま目の前で、自分の部下達が数において圧倒的に勝る敵に追い詰められつつあり、自分だって無事では済みそうにない状況で、そんなに余裕をもっていられるなんてオレには想像も出来ない。
まあカリルのこの態度のお陰で、オレもどうにか平静を維持していられるのかもしれないけど、誰かひとりでも命を落としたりすれば、そんな薄っぺらい余裕など一気に吹き飛ぶだろう。
オレの心配する表情を見たところで、カリルは大きく頷く。
いったい何に同意しているんだ?
「ほうら。ご覧なさい」
「え?」
カリルの指し示した方向を見ると、そこにはまたしてもオレの予想を裏切る光景が展開していたのだ。
「があ!」
どこからか飛んできた石が、傭兵団のひとりの頭に命中し、血の花が咲く。
「消えろ! このごろつきども!」
「お前達など見たくも無いわ!」
避難民達がその身から怒りを放ちつつ、こちらに集まってきていたのだ。
彼らは手に手に木の棒や石をつかんで、傭兵団に立ち向かう姿勢を見せている。
いったいどういうことだ?
「ワシらの乙女に何をするか」
「そうだ! あの乙女を守るんだ!」
何だって?
この避難民達が興奮して、今まで逃げていた傭兵達に立ち向かっているのはオレを守るためなのか?
もちろん何もなく避難民が僅かな勇気を振り絞ったわけではないだろう。
たぶん『黄金の乙女』が件の傭兵達に勝利した話を聞いていたのと、何よりいまこの場でタティウス達が奮戦して兵士達を押しとどめている事で、その気になったのではないか。
それは今の状況を考えれば、ありがたい限りだけど、オレのために人が命を落とすのは正直に言って重荷に過ぎる。
そんなわけでオレは思わず、避難民達に向けて叫んでしまう。
「皆さん! 危ないです。逃げて下さい」
オレのこの言葉に避難民達は一瞬、動きを止める。
おお。オレの意志が伝わってくれたか。
これでカリルから魔法の使用が認められれば、あの傭兵達を追い払う事だって出来るはずだ。
オレは僅かに安堵するが、それは文字通り一瞬だった。
「おお。何と慈悲深いお言葉だ」
「ご自身の危険も顧みず、我らのような草木のごとき者どもを心配して下さるとは……」
「もう生きていてもいい事などない身です。ここはあなた様のためにやらせて下さい」
なんで? 正反対になっているぞ。
「やっぱり素晴らしいですわ。今まで奪われ、虐げられ続けてきた人々が、希望を与えてくれたあなたのために蹶起する ―― まさに英雄的行動そのものです」
「そうですか……これもまた『選ばれし者』のお力ですか」
カリルとミツリーンはこれまた勝手に感動しているらしい。
あんたらにして見れば、縁もゆかりも無い避難民が少しばかり死んだところで大した事じゃ無いかもしれないけど、オレは違うんだよ。
もちろんそんな事を言ったところで、オレだってもし彼らが遠く離れたところで皆殺しにされていても、何もしなかったろう。
仮にその話を聞いても、一過性のニュースとしか思わないはずだ ―― 実際、元の世界でも紛争で何万人死んだという話を聞いても、オレは何もしなかったからな。
しかしいま現在、目の前でオレのために人間が犠牲になるのは耐えられない。
それを『偽善』『自己満足』だと言われるなら、全くもってその通りだ。幾ら罵ってくれても結構だよ。
そんな事はオレの知ったことでは無い。いまはやるべき事をやるしかないんだ。
「カリルさん。とにかく今は――」
オレがどうにか魔法を解放してもらえるように頼みかけたところで、あらためて高らかな叫びが響き渡る。
避難民達が雄叫びを挙げて、傭兵達に襲いかかったのだ。
うわあ。どう見ても群集心理が暴走しているよ。
二一世紀の世界でも軍隊にだって時には一般市民が立ち向かう ―― そして多大な犠牲が出る ―― 事はしばしばニュースになっていたが、この場合はオレが『扇動』したことになるのか?
不本意極まりないんですけど!
オレが困惑している中、避難民達は傭兵達に殺到する。
もちろん普段なら、ロクな武器も持っていない人々が、やる気が無いとは言えど傭兵達に勝てるはずが無い。
しかし傭兵達はタティウスらとの戦いで手一杯のところで、数においてずっと勝る群衆に押し寄せられた事で、連中には一気にひるみの色が広がる。
「もうダメだ!」
「待て貴様ら! 逃げるな!」
「やってられねえよ!」
指揮官は押しとどめようとするが、兵士達は慌てて逃げ出す。
まあ元から命を賭けて戦う気など無かった連中だから、形勢不利となったら逃走するのが当然だろう。
見たところ『暁の使徒』達は何人か負傷はしているようだが、いずれも軽傷のようで命に関わるほどの怪我をしている者はいない。
これで一安心と言いたいが、避難民の中にはどうやら重傷者がいるようだ。
急いで回復魔法を使って治療せねばなるまい。
もちろんオレの魔法が首輪に封じられているいま、そのためにはカリルの許可を得なければならない。
「カリルさん。え?!」
オレが振り向くと、またしても予想を裏切る光景がそこに展開していた。
「素晴らしい。これが『選ばれし者』の力の一端ですか」
「そうですわね。さすがはわたくしが見込んだだけの事はありますわ」
何でお前ら意気投合しているんだよ!
思わず脱力しかけるが、今はそんな暢気な事をしていられる状況では無い。
一刻も早く怪我人の手当をせねばらならないのだ。
ここでオレの傍らには、その身を朱に染めたタティウスがやってくる。
「先ほどの連中が味方を連れてやってくるやもしれません。今は早急にこの場を去るべきだと思います」
確かに今の連中はせいぜい数十人だけど、傭兵団の数からすれば一部に過ぎない。
連中の味方がどこにどれだけいるのかは分らない以上、ここはタティウスの言うとおりにするべきかもしれない ―― ただしそれはあくまでも負傷者を手助けしてからにしたい。
「それとお前は何ものだ?」
ここでタティウスはミツリーンに厳しい視線を注ぐ。
まあ『敵』ではないとしても、怪しい相手なのは明らかだから、この反応は当然と言うものだろう。
「ご心配なく。このお方はアルタシャさんのご友人らしいですわ~」
いや。まるっきり違いますけど。
聖女教会からの使者なんて、むしろ可能な限り近寄りたくない存在ですよ。
しかしここでミツリーンの顔には厳しい色が宿る。
まあどう考えてもこの状況では、オレを連れて逃げ去るわけにはいかない。当たり前だが『暁の使徒』達に同行するのも無理なのは明らかだ。
「今日のところはここまでとさせていただきます。それでは失礼」
ミツリーンは頭を下げると、そのまま去って行く。
一応はオレの思った通り『穏便にお引き取り下さった』わけだが、どう考えてもこれで終わりでは無いだろう。
ミツリーンにすれば目立ちまくっているオレの足取りをつかむのは簡単だから、敢えていま無理をする必要は無いと思っただけだ。
今回は『選ばれし者』であるオレの存在を確認出来ただけで十分と判断したらしい。
ほぼ間違いなくまたミツリーンはやってくるだろうし、そのときはもっと大勢仲間を連れてくるかもしれない。
結局のところ問題は先延ばしになっただけだ。
「そうですか~ ここでお別れとは名残惜しいですか、また来て下さいね~」
カリルは笑顔でミツリーンに別れを告げつつ手を振っている。
いや。百歩譲ってミツリーンの事はいいとしても、今この場で敵味方合わせて何十人もの死傷者が出ているのに、なんであんたはそんな笑顔でいられるの?
それでいてカリルは決して残酷だとか、流血を好むとか、そういうわけではない。
ひょっとするとオレに対する態度から、嗜虐趣味はあるかもしれないけどな。
それはともかく初めて会ったときリバージョインの戦いの時もそうだったけど、やっぱり頭のネジがどこか抜けているとしか思えない。
「今はそんな話をしている場合ではありませんよ。カリルさん。こっちに魔法を使わせて下さい」
「なぜですか? 団長が言われたように、今はなるだけ早くこの場を立ち去るべきだと思いますけど」
「だから怪我をした人が大勢いるんですよ。すぐに手当てしないと――」
「その必要はありませんわ。皆さんもただ命のありようが変わるだけですから」
ええい。何でこんなに話が通じないんだよ。
あんたの目には苦痛にうめく人々が入っていないのか?
「落ち着いて下さい。とりあえず今はこちらの話を聞いてもらえますか」
ここでタティウスがオレの肩をつかんで制止する。
「もうお気づきでしょうけど総長は『人の死』というものに対して、独特の感覚を持っているんです」
随分とオブラートに包んだ表現だな!
そんな言葉で言い表せるようなもんじゃないだろう。
「総長にはあのブロウブロウのために、人が死んだ場合、その霊魂がハッキリ見えているらしいです。だから人の死は単にそのありようが変わるだけでしか無い、という認識なんだそうですよ」
言葉が曖昧なのはタティウスにも、カリルが見ているものが具体的にどんなものなのかは、分らないからなのだろう。
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