異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第8章 ライバンス・魔法学院編

第142話 再会とそれがもたらしたものは

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 なぜ? どうしてコイツがここにいるんだ?

 オレが思わぬ成り行きに動きを止めていたところで、ホン・イールは入ってきた『スケベ野郎』に向けて話しかける。

「戻ってきたのね。待っていたわ。それで成果はどうだったの?」
「それが……何と言いますか……」

 少年の方はどこか恥ずかしげに視線を逸らしている ―― そのためか今のところオレの方には注意が向いていないようだ。

 間違いなく自分が覗いたオレの裸を思い出していたな。
 コイツはオレを『精霊の化身』か何かと勘違いしていたけど、推測するにホン・イールに言われてあの近辺の精霊か何を調べようとしていたのだろうか。
 いずれにせよこのスケベ野郎にはなるだけ関わりたくない。

 だが幸か不幸か、コイツと会った時と同じくオレは髪の毛を黒く染めたままなので、下手に顔を見られたらモロバレだ。
 そんなわけでオレはひとまず目立たないように奥に引き下がる。
 特に広い部屋でも無いが、本棚をはじめいろいろなものが置いてあるので完全に隠れるとまではいかなくとも、顔を見られない程度には引き下がる事は出来た。
 ちょっと離れたところで、少しばかり不自然ではあるが帽子の中に髪の毛をしまいつつ目深くかぶってどうにかごまかせるようにしつつ様子をうかがう。

「どうしたのよ。うん?」

 ホン・イールは席を立つと少年にその身を近づける。

「その傷跡……何ものかに襲撃されたの?」
「え……いえ! 違います! 何でもありません!」

 少年は慌てて手を振って否定する。
 よくよく見ると確かに少年の首にはくっきりとオレが絡みつけたツタが締め上げた跡が残っている。
 これを見ると、あのままだったら本当に絞め殺していたかもしれないな。

「そうなの? それではまさか?! ガランディア……あなたは?!」

 ホン・イールの顔に戦慄が浮かぶ。
 そうか。このスケベの名前はガランディアというのか。
 それはともかくホン・イールが戦慄したのはなぜだ?
 まさかオレとガランディアが既に出会っている事に気付いたのか。

「あなたはまさか縛られて喜ぶ趣味でもあるの?! しかも首を絞められて、窒息死する寸前に絶頂に達するとか――」
「そんなわけありません! 教授。無茶苦茶言わないで下さい!」
「何を言っているんですか!」

 ガランディアと共にオレもついついツッコミを入れてしまう。

「え? 君は……まさか?!」

 ぬがあ。しまった!
 ついつい叫んでしまったが、わざわざ自分から身を乗り出してどうする?!

「あのときの……どうして君がここに?!」
「ほう? 君たちは知り合いだったの。これは面白い事になりそうね」
「いえ。ちょっとそれは――」

 オレがどう説明してよいのか分らずにしどろもどろになっていたら、どういうわけかホン・イールは席を立つ。

「そうそう。あなたを泊める手続きの事があったから、今から少し出かけてくるわ。それでガランディア。その娘を頼むわね」
「「ええ?!」」

 オレとガランディアの声が思わずハモる。

「後は若い二人に任せておくから、それじゃあ少し待っていてね」

 何を言っているんだアンタ!
 オレがまたしてもあっけにとられている目の前でホン・イールはドアを開けて出ていった。もちろん後にオレとガランディアを残してだ。

 ホン・イールが去った後で、しばしオレとガランディアは気まずい空気の中で沈黙のなか向き合っていた。
 そしてその沈黙を破ったのはガランディアの方だった。

「あの……少し話をさせてもらっていいかな?」
「え……ええ……」

 どうしてよいのか分らず、オレはひとまずは同意する。

「僕の名前はガランディア。よかったら君の名前を教えてくれないかな?」

 オレは名乗るのに僅かに躊躇するも、どうせホン・イールに知られている以上、ごまかすのは無理なのは明らかだ。
 仕方ないので『正直に偽名を名乗る』ことにした。

「わたしのことはアルタシャと呼んで下さい」
「そうか。分ったよ」

 ガランディアはあっさりと受け入れたが、オレの事を聞いていないのか、はたまた『よくある名前』だと思っているのかどちらだろうか。
 そしてガランディアはオレに対して頭を深々と下げる。

「水浴びを見たのは改めて謝るよ。だけどあの場にいたのは、ホン・イール教授に頼まれて、あの山の精霊について調べていたのであって、そこでたまたま君を見かけただけなんだ。だから許してくれないかな?」
「その話を信じるとして、黙って覗いていたところまで偶然だと言い張るのですか?」
「それは……正直に言わせてもらうと、君があまりにも美しかったので、ついつい目を奪われていたんだよ」

 ガランディアは褒めているつもりなんだろうけど、オレにとってはちっとも嬉しくないのはいつものことだ。

「伝説のニンフはその美貌で見た人間の魂を抜いてしまうという話を聞いた事があるけど、ただのおとぎ話だとばかり……だけど君を見たとき僕は本当に魂を抜かれたのかと思って、それで何というか……」
「もういいですよ」

 まあオレも裸を見られた事で、そんなに怒り狂っていたというわけでもない。
 こっちも元男として、泉で美少女が水浴びしているのをたまたま見かけて、ついついそのまま見続けてしまったという男の気持ちはよく分るからな。
 もちろんそこで欲情して襲いかかってきたのなら、男に生まれた事を後悔するだけの仕打ちをしてやっただろうけど。

「それと改めて一つ聞いていいかな?」
「なんですか?」

 オレはちょっとばかり気を引き締める。ガランディアにはオレの魔力の一端なりとはいえ見せてしまったのだ。
 何かに気付かれている可能性は否定出来ない。

「本当の君は金髪なんじゃないのかい? なぜわざわざ黒く染めたりしているんだ?」

 ぬう。まさかカリルのブロウブロウ輝く眉と同様にこいつも魔法を見抜く目を持っているのか。
 それならばなおさら警戒が必要だな。

「どうして。それが分るんですか?」
「そりゃまあ……ね……」

 ガランディアはどこか恥ずかしげに、顔を赤面させ、視線をオレの顔からそらして下に向けつつ答える。

「水浴びしている時の君の髪は黒髪だったけど、その……秘めたところが『金色』だったものだから ―― ぐがあ!」

 オレは情け容赦なく、この色ボケ野郎の股間を蹴り上げる。
 スケベ死すべし!
 男に生まれた事を後悔しやがれ!
 やっぱりこいつはあのまま絞め殺しておくべきだったな。
 オレは床に倒れて悶絶しているガランディアを見ながら、かなり本気でそんな事を考えていた。

 オレが以前、マニリア帝国の後宮にいたときには、風呂に入るのも当然、人に見られる事が前提だったので頭髪だけで無く、他の部分も染めていたけど普段はそこまでしていなかったから、あそこを見られて気付かれてしまったというわけか。
 今後はこういう手間を惜しまないようにしようか ―― もちろん覗かれないのが一番なんだけど。

 それはともかく思わずガランディアをぶちのめしてしまったが、これはいくら何でもマズかったかもしれないな。
 だけどホン・イールに黙ってここを出て行くわけにもいかない。
 う~ん。本当にやばい状態だったら、回復魔法をかけてやるべきだけど、そこまでする必要はなさそうだな。
 別に魔力をけちっているのではなく、今のオレはかなり真剣にこのスケベ野郎に憤慨していたからだ。
 しかしこれではどう説明するべきだろうか。
 そんな事を考えていると扉が開いてホン・イールが改めて姿を見せる。

「おや。これは……」

 ホン・イールは特に驚いた様子も無く、倒れた自分の弟子を平然と眺めている。

「ふうん。ちょっとばかり驚いたわ」
「ちょっとですか!」

 この人は自分の教え子がどうなろうと知ったこっちゃないのだろうか。

「しかし……あなたの能力は凄まじい限りね」
「はあ?」

 毎度の事ながらいったい何を言っているんだ?
 ホン・イールはたかがスケベ野郎の股間を蹴り上げて悶絶させたぐらいの事で、感心しているのだろうか?
 それともやっぱりいつも通りとんでもない誤解をされているのか。
 たぶん後者だろうというむなしい確信はあるな。

「ちょっと耳に挟んだところでもあなたはこのわずか半年の間に、一国の王太子や皇帝、更には神すらも恋人にして手玉にとってきたらしいわね」
「いきなり何の話ですか!」
「今まであなたは行く先々で、その地の支配者を恋人にしてきたんじゃないの?」
「まったくもっと大外れです! 何ですかそのデタラメは!」

 オレが血相を変えてくってかかると、ホン・イールは妙に納得した様子で頷く。

「つまりあなたにとって彼らは『恋人』なんてものですら無く、男なんてしょせんは『手駒』でしかなくて、利用するだけ利用して後はポイ捨てなのね。しかもそれで捨てられた男共はあなたを恨むどころか、むしろ崇拝しているのだから大したものだわ」
「無茶苦茶過ぎますよ!」

 そりゃまあオレだって今までとんでもない誤解をされてきた事は何度あるか分ったもんじゃないが、それでもこんな評価はあんまりだ。
 しかしここでホン・イールは股間を押さえて倒れたままのガランディアを指さす。

「そんな事を言っても、彼が悶絶しているのは、あなたの男を手玉にとる凄まじいテクニックのなせる技ではないの?」
「いったい何を言っているんですか!」

 ホン・イールは要するにオレがこの短時間でガランディアに手を出して『イカせた』とでも思っているのか。
 斜め上にぶっ飛びすぎにも程がある。
 いや。思い返してみるとオレが今まで出会ってきた男共はどうも勝手にオレを女神と持ち上げた上で、自分は『女神の恋人』だと主張しているらしい。
 それを総合して考えるとオレは『男共を手玉にとって自分を崇拝させている』ということになってしまう。
 うう。オレはピチピチの処女のはずなのに、いつの間にか『世界を股にかけた魔性の女』扱いかよ。
 これならまだ『虚ろなる者』のところで王太子テマーティンの愛人扱いされていた方がまだマシだった。


 オレがかつて聞いたところでは『浮気もの』『女たらし』で名高いギリシャ神話の主神様だけど、実は昔のギリシャでは各都市国家の王家がどれもこれも『我が王家こそが主神の末裔』を名乗っていたので、それを統合した結果として『美人と見れば手を出す女たらしで大勢子供を作った』ということにされてしまったらしい。
 オレも今のままでは『男を見ると誘惑する』などという根も葉もない話が広められてしまいかねないと、ちょっとばかり戦慄する。
 そしてホン・イールはいつも通り冷静な口調で話を続ける。

「まあ広く崇拝されている女神の場合、土地毎に夫とされる存在が違う事はさして珍しくないわよ。早い話がおのおのの土地で支配的な男神や英雄がその『女神様の夫』としてセットで崇拝されるという事なんだけどね」

 さすが研究者というだけあって、そのあたりは詳しいらしい。
 ただ『詳しい』という事と、主張している事が正しいかどうかは全く別次元の話である。

「そんなわけであなたも行く先々で男を作っていたとしても、何ら恥じる事が無いのは当然よね」
「何から何までも大違いですよ! どこででも男を作ってなんかいません!」
「ふうん。そうなの」

 あっさりとホン・イールは同意するが、これはオレの言葉を信じたわけではなく、ただ単にこれもまた『証言』であり『研究素材』と受け止めているだけだろう。

「だいたい女神の相手は男神か英雄なんでしょう? このスケベ……もといガランディアさんがそんな対象で無い事は明らかじゃないですか」

 頭ごなしに否定しても仕方ないので、ここは適当に話を合わせた上でおかしな点を指摘した方がいいだろう。
 しかしオレの魂の叫びに対し、ホン・イールはアゴに手を当てつつ首をかしげる。

「あれ? てっきり青田買いか何かと思ったんだけど違うの?」

 え? どういう意味だ?
 まさか。いくら何でもこのスケベ野郎が『英雄』なんて事はあり得ないだろう。だとすると――

「この人はどこかの王族だとか皇族だとか、そういう立場だったりするんですか?」

 何しろオレの場合、そういう輩が呼んでもいないのにゾロゾロやってくる機会には事欠かないからな。
 この学院が最高学府クラスとすれば、そういう出自の人間がいち生徒として通っていてもおかしくはない。
 いや。むしろ定番ではないか ―― ええい。そんな輩は幼なじみだの、王女様だの、メイドだの、美少女に囲まれてハーレムやってろ!
 こっちに手を出してくるんじゃない!

 そこまで考えたところで、半年ぐらい前までオレが憧れていたハーレムだけど、もうそれも憧れの対象でも何でもなくなってしまったという一つの現実を突きつけられて、やっぱりオレの男の意識がヤバい事になりつつあるのを改めて実感し、ちょっと沈んでしまう。
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