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第8章 ライバンス・魔法学院編
第163話 図書館での思わぬ出会い
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とりあえず俺はガランディア達と別れて、一人で図書館の中を散策していた。
こうやって本を探して回っていれば、今まで何かする都度、とんでもない目にあってきた経験からすれば、大分落ち着けるところだ。
オレの目的とは外れているけど、この際だから興味のある出来事を片っ端から調べたいところでもある。
こちらの教えた書籍を探しているであろうガランディア達には少しばかり申し訳ないけど、こういう機会はそうそう無いので、今は少しばかり脇道にそれさせてもらいたい。
それではまずは先ほど気になった蘇生魔法についてでも調べてみるか。
そう思って【書物探査】の魔法をかけようと精神を集中した ―― そこで思いもかけぬ言葉がオレの背にかけられる。
「おお。やはりここにおられたのですか。探しましたよ」
「ええ?!」
聞きたくも無いがかなり聞き慣れた声に思わず振り向くと、そこには大陸をまたにかけたストーカー野郎、ミツリーンの姿があった。
なぜここに? と一瞬思ったけどそういえば昨日、この図書館での捜し物に協力するという話をしていたな。
ぶっちゃけ聖女教会からの使いなど、顔も見たくなかったので、意識から外していたよ。
「ここに所蔵されている資料からイロールについての記録を探すのが、目的でございましたな」
コイツとは可能な限り関わり合いになりたくないのだが、この際だから手助けは多い方がいいだろう。
「ところで先ほど、何人かの異教徒共とお話をされておられましたな」
「ここでそのような言い方は避けた方がいいですよ」
オレは遠回しに黙るようにうながす。
そもそもミツリーンにとってこの地の住民は、ごく一部の交易商人のたぐいをのぞきほとんどが『異教徒』だろうに。
そんな話が誰かの耳に入ったら、こっちも巻き添えくって激しく迷惑だよ。
「申し訳ありません。気をつけます」
素直に言うことを聞いてくれたのはありがたいが、たぶんオレの前から消えろと言ってもそれは絶対に聞き入れないだろうな。
「ところでわたしを探して、この西方に来ている聖女教会の使者はミツリーンさんだけではないですよね?」
「それは……当然です」
どういうわけかミツリーンはこの質問に答えたくなさそうで、少しばかり気まずい空気が周囲に漂う。何か裏がありそうな雰囲気だな。
「教えて下さい。聖女教会から送り込まれている人間はどれぐらいいるのですか?」
「それについて私は知る立場にはありません」
まあ確かに一介のエージェントに過ぎないであろうミツリーンが全貌を知っているとは思えないけど、やはり何か隠しているように見える。
「しかしお仲間と連絡はとっているのでしょう?」
「詳しくは申し上げられませんが、お言葉の通りです」
「そのお仲間はいま、こちらに向かっておられるのですか?」
「そこまでは……正直に言って分かりません」
むう。何か様子がおかしい。何とも歯切れが悪いな。
これはひょっとするとミツリーンは手柄を独り占めにするつもりで、オレを見つけた事を報告していないのかもしれない。
それとも何か別の意図があるのか?
たとえば聖女教会内部でもオレに対する扱いについては、意見がまとまっていないということもあり得るな。
その場合、オレを強制的に聖女教会まで連行するどころか、下手をすれば命を狙ってくる可能性まであり得るぞ。
いくら何でもミツリーンがそこまでするような気配は感じられないが、他の連中はどうなのか分らない。
まったくもってこのオレの周囲は警戒する相手ばかりで、気の休まる暇も無いのだな。
「あえて申し上げますが、私にとって最優先の使命はあなた様をお守りすることです。かけがえのない御身なのですから、何とぞご自愛下さい」
申し訳ないけどオレはその『御身』をどうにか捨てたくてたまらないんだよ。
「とにかく……昨日お願いしたようにこの図書館での捜し物に協力してもらいたいのですけどいいでしょうか?」
「分りました。いかようにもご下命を」
しょっちゅう余計なトラブルを背負い込みまくっているオレだけど、それでもあんまりミツリーンとガランディア達を対面させたくもないので、ここはなるだけ両者が関わらないよう別口で働いてもらうとしよう。
「それでは今から指示するタイトルの本を探してきてもらえますか?」
「分かりました。それではまた後ほど――」
ミツリーンは恭しく頭を下げると、オレの言葉を聞いて立ち去っていく。
こんな風に従順に言うことを聞いてくれる相手に出会う事は滅多に無いんだけど、コイツが聖女教会の手先というからには、その態度を鵜呑みにするわけにいかないのは当然だ。
ひょっとしたらオレを信頼させた上で、騙して聖女教会に拉致するような事を考えていても何ら不思議ではないのだから。
ああ。こんな時には《読心術》の魔法が使えたら、と思わずにはいられない。
それはともかくどうにかミツリーンとも別れ、あらためて一人になったところで、オレも少しは安堵のため息をつく。
これでようやく自分の興味に集中出来る。せっかくこの世界有数の図書館に来ているのだから、この際だから魔法を使い放題で片っ端から調べてやるとしよう。
そう思って駆け出そうとした時の事だった――
『それは辞めた方がよいな』
「え?」
オレは唐突に脳裏に ―― 『耳に』ではない ―― 響いた何ものかの声に思わず足を縫い止められたかのようにその場に釘付けとなったのだ。
今までにも何度か、精神に語りかけられた事はあるが、今回の相手はかなりの存在、おそらくファーゼスト神クラスだろうか。
そして今までオレが聞いている範囲内で、この場所においてそんな相手はひとつしか思い当たらない。
「あなたはこの学園の守護精霊ですね?」
『ほう。驚きもしないとは、今までに何度か似たような経験があるのかね? まずは名乗っておこうか。我が名はビューゼリアン』
霊体となるとやはり性別だとか、年齢だとかは関係ないようで、脳裏に響く『声』には相手が老若男女いずれなのかは全く分からない。
「わたしのことはアルタシャと呼んで下さい」
とっくにそれぐらいの事は知っているだろうけど、ここは礼儀正しくしておくべきだ。
残念ながらこういう相手に出会った経験はそれなりにあるけど、扱いに慣れているとはお世辞にも言えないので、下手に刺激しない方がいいだろう。
『ふむ。そなたのような不死者がこの学園を訪れたのはずいぶんと久しぶりだ。よければ話を聞かせてもらえぬかな?』
「それは何のためですか?」
『この吾が肉体を持たないからと言って、知識欲がなくなったとは思わないで欲しいものだな。むしろこのように現世にとどまっているのも、より多くの知識を欲したからであり、この学園を守護しているのも、知識を集めるためなのだ』
もちろん言っていることは理解できる。
もしも可能ならば、ホン・イールだって同じ道を志しそうだ。
首輪に宿っていたケノビウスも人間性に欠ける部分もあれば結構、人間らしい一面もあったが、この学園そのものに宿る精霊になっても人間の頃に抱いていた意識が残っていても何の不思議も無い。
しかしそうなるとオレを捕まえて、あれやこれややらかす事を望んでいても何の不思議も無いことになってしまう。
何しろビューゼリアンというこの精霊は、自分の守護している学園で生徒や教師が、魔法実験で犠牲になっても手出しなどしない、研究バカらしいのだから。
「ところでなぜ、先ほどはこちらの魔法を止めたのですか?」
『この図書館内部で《唯一なるもの》の道と離れた魔法を使う事をそうそう許すわけにはいかぬ。異教の魔法を知識として収集することは認められるが、実践する事は正しい道ではないのだ』
随分と勝手な言いぐさだけど、一神教徒にとって多神教の魔法を実践するのは禁忌に近いということか。
たとえるなら『医者が麻薬中毒を研究することは正しい行為だが、自分で麻薬を使うのは人間失格』ということだろうか。
やっぱり『知識の殿堂』を仕切る霊体でも、この世界では当たり前と言うべき偏見とは無縁ではないらしい。
いや。待てよ。よくよく思い返すと今の言葉は聞き捨てならない。
「ちょっと待って下さい! それでは昨日の襲撃はあなたが仕掛けたものなのですか!」
『勝手に決めつけられるとは心外だな』
勝手にこっちの意識に入り込んでいるアンタの方がオレを侵害してるんだけどな。
「違うというのですか?」
『あれについては我が行ったわけでは無い。そもそもこの学園の守護者である我があのような真似をする必要があると思うかね?』
言っている事は分るけど、鵜呑みにも出来ないのがこれまでの経験だ。
「しかしあれは自然発生したものではありません。何ものかが召喚なり創造なりして、わたしのところに送り込んで来たのは間違いないですよね」
『もちろんだとも』
「それでは何ものがそれを行ったのか教えて下さい。一歩間違えば死人が出ていたかもしれないのですよ。学園の守護精霊なのに、生徒が殺されかけても見逃すのですか?!」
『残念だがそれは教えられん。そして生徒の生死に我は関わる事も出来ん』
「なぜですか?!」
この時、オレはかなり真剣に憤っていた。
オレ自身の事はまだいいよ。ロクでもない連中が群れをなして押し寄せてくるのは承知の上で、とっくの昔に覚悟は出来ていたから。
それにこの学園の守護精霊が、よそ者に過ぎないオレの事など『どうなろうと知っちゃこっちゃ無い』と思っていたとしても仕方ないとあきらめはつく。
しかしたまたまオレの元を訪問しただけのスビーリーやアニーラまで命を落としかけたのだぞ。
守護精霊の癖に自分の生徒を守る気がないのかよ。
『仕方なかろう。世俗の生き死にに干渉するのは我の仕事では無い。たとえば街の守護聖者が、その街で引き起こされた個別の犯罪行為にまでいちいち介入するワケでないことぐらいは知っておろう』
「その通りかもしれませんけど、それでも知っていて黙って見過ごす事が許されてしまうなんておかしいですよ」
オレは改めて抗議するも、ビューゼリアンから伝わってきたのは、どこか困惑した様子でまたどこか面白がっている、そんな感覚だった。
『そなたは実に妙な事を口にするのだな。不死者ならば、個別の人間の生き死には可能な限り干渉しない事は当然であろう』
「申し訳ないですけど、こちらはあなたの言う不死者の範疇に入っていないのですよ」
『なるほどな。どうやらそなたは不死者でもなければ定命でもないらしい。これは実に興味深い』
このときオレはまるで全身をねめつけられるかのような不気味な感覚が走った。
そうだ。結局のところオレに関心を持って近寄ってくる相手には、いつもロクな相手がいない。それは相手が人間だろうと、人間以外だろうと違いは無いのだ。
こうやって本を探して回っていれば、今まで何かする都度、とんでもない目にあってきた経験からすれば、大分落ち着けるところだ。
オレの目的とは外れているけど、この際だから興味のある出来事を片っ端から調べたいところでもある。
こちらの教えた書籍を探しているであろうガランディア達には少しばかり申し訳ないけど、こういう機会はそうそう無いので、今は少しばかり脇道にそれさせてもらいたい。
それではまずは先ほど気になった蘇生魔法についてでも調べてみるか。
そう思って【書物探査】の魔法をかけようと精神を集中した ―― そこで思いもかけぬ言葉がオレの背にかけられる。
「おお。やはりここにおられたのですか。探しましたよ」
「ええ?!」
聞きたくも無いがかなり聞き慣れた声に思わず振り向くと、そこには大陸をまたにかけたストーカー野郎、ミツリーンの姿があった。
なぜここに? と一瞬思ったけどそういえば昨日、この図書館での捜し物に協力するという話をしていたな。
ぶっちゃけ聖女教会からの使いなど、顔も見たくなかったので、意識から外していたよ。
「ここに所蔵されている資料からイロールについての記録を探すのが、目的でございましたな」
コイツとは可能な限り関わり合いになりたくないのだが、この際だから手助けは多い方がいいだろう。
「ところで先ほど、何人かの異教徒共とお話をされておられましたな」
「ここでそのような言い方は避けた方がいいですよ」
オレは遠回しに黙るようにうながす。
そもそもミツリーンにとってこの地の住民は、ごく一部の交易商人のたぐいをのぞきほとんどが『異教徒』だろうに。
そんな話が誰かの耳に入ったら、こっちも巻き添えくって激しく迷惑だよ。
「申し訳ありません。気をつけます」
素直に言うことを聞いてくれたのはありがたいが、たぶんオレの前から消えろと言ってもそれは絶対に聞き入れないだろうな。
「ところでわたしを探して、この西方に来ている聖女教会の使者はミツリーンさんだけではないですよね?」
「それは……当然です」
どういうわけかミツリーンはこの質問に答えたくなさそうで、少しばかり気まずい空気が周囲に漂う。何か裏がありそうな雰囲気だな。
「教えて下さい。聖女教会から送り込まれている人間はどれぐらいいるのですか?」
「それについて私は知る立場にはありません」
まあ確かに一介のエージェントに過ぎないであろうミツリーンが全貌を知っているとは思えないけど、やはり何か隠しているように見える。
「しかしお仲間と連絡はとっているのでしょう?」
「詳しくは申し上げられませんが、お言葉の通りです」
「そのお仲間はいま、こちらに向かっておられるのですか?」
「そこまでは……正直に言って分かりません」
むう。何か様子がおかしい。何とも歯切れが悪いな。
これはひょっとするとミツリーンは手柄を独り占めにするつもりで、オレを見つけた事を報告していないのかもしれない。
それとも何か別の意図があるのか?
たとえば聖女教会内部でもオレに対する扱いについては、意見がまとまっていないということもあり得るな。
その場合、オレを強制的に聖女教会まで連行するどころか、下手をすれば命を狙ってくる可能性まであり得るぞ。
いくら何でもミツリーンがそこまでするような気配は感じられないが、他の連中はどうなのか分らない。
まったくもってこのオレの周囲は警戒する相手ばかりで、気の休まる暇も無いのだな。
「あえて申し上げますが、私にとって最優先の使命はあなた様をお守りすることです。かけがえのない御身なのですから、何とぞご自愛下さい」
申し訳ないけどオレはその『御身』をどうにか捨てたくてたまらないんだよ。
「とにかく……昨日お願いしたようにこの図書館での捜し物に協力してもらいたいのですけどいいでしょうか?」
「分りました。いかようにもご下命を」
しょっちゅう余計なトラブルを背負い込みまくっているオレだけど、それでもあんまりミツリーンとガランディア達を対面させたくもないので、ここはなるだけ両者が関わらないよう別口で働いてもらうとしよう。
「それでは今から指示するタイトルの本を探してきてもらえますか?」
「分かりました。それではまた後ほど――」
ミツリーンは恭しく頭を下げると、オレの言葉を聞いて立ち去っていく。
こんな風に従順に言うことを聞いてくれる相手に出会う事は滅多に無いんだけど、コイツが聖女教会の手先というからには、その態度を鵜呑みにするわけにいかないのは当然だ。
ひょっとしたらオレを信頼させた上で、騙して聖女教会に拉致するような事を考えていても何ら不思議ではないのだから。
ああ。こんな時には《読心術》の魔法が使えたら、と思わずにはいられない。
それはともかくどうにかミツリーンとも別れ、あらためて一人になったところで、オレも少しは安堵のため息をつく。
これでようやく自分の興味に集中出来る。せっかくこの世界有数の図書館に来ているのだから、この際だから魔法を使い放題で片っ端から調べてやるとしよう。
そう思って駆け出そうとした時の事だった――
『それは辞めた方がよいな』
「え?」
オレは唐突に脳裏に ―― 『耳に』ではない ―― 響いた何ものかの声に思わず足を縫い止められたかのようにその場に釘付けとなったのだ。
今までにも何度か、精神に語りかけられた事はあるが、今回の相手はかなりの存在、おそらくファーゼスト神クラスだろうか。
そして今までオレが聞いている範囲内で、この場所においてそんな相手はひとつしか思い当たらない。
「あなたはこの学園の守護精霊ですね?」
『ほう。驚きもしないとは、今までに何度か似たような経験があるのかね? まずは名乗っておこうか。我が名はビューゼリアン』
霊体となるとやはり性別だとか、年齢だとかは関係ないようで、脳裏に響く『声』には相手が老若男女いずれなのかは全く分からない。
「わたしのことはアルタシャと呼んで下さい」
とっくにそれぐらいの事は知っているだろうけど、ここは礼儀正しくしておくべきだ。
残念ながらこういう相手に出会った経験はそれなりにあるけど、扱いに慣れているとはお世辞にも言えないので、下手に刺激しない方がいいだろう。
『ふむ。そなたのような不死者がこの学園を訪れたのはずいぶんと久しぶりだ。よければ話を聞かせてもらえぬかな?』
「それは何のためですか?」
『この吾が肉体を持たないからと言って、知識欲がなくなったとは思わないで欲しいものだな。むしろこのように現世にとどまっているのも、より多くの知識を欲したからであり、この学園を守護しているのも、知識を集めるためなのだ』
もちろん言っていることは理解できる。
もしも可能ならば、ホン・イールだって同じ道を志しそうだ。
首輪に宿っていたケノビウスも人間性に欠ける部分もあれば結構、人間らしい一面もあったが、この学園そのものに宿る精霊になっても人間の頃に抱いていた意識が残っていても何の不思議も無い。
しかしそうなるとオレを捕まえて、あれやこれややらかす事を望んでいても何の不思議も無いことになってしまう。
何しろビューゼリアンというこの精霊は、自分の守護している学園で生徒や教師が、魔法実験で犠牲になっても手出しなどしない、研究バカらしいのだから。
「ところでなぜ、先ほどはこちらの魔法を止めたのですか?」
『この図書館内部で《唯一なるもの》の道と離れた魔法を使う事をそうそう許すわけにはいかぬ。異教の魔法を知識として収集することは認められるが、実践する事は正しい道ではないのだ』
随分と勝手な言いぐさだけど、一神教徒にとって多神教の魔法を実践するのは禁忌に近いということか。
たとえるなら『医者が麻薬中毒を研究することは正しい行為だが、自分で麻薬を使うのは人間失格』ということだろうか。
やっぱり『知識の殿堂』を仕切る霊体でも、この世界では当たり前と言うべき偏見とは無縁ではないらしい。
いや。待てよ。よくよく思い返すと今の言葉は聞き捨てならない。
「ちょっと待って下さい! それでは昨日の襲撃はあなたが仕掛けたものなのですか!」
『勝手に決めつけられるとは心外だな』
勝手にこっちの意識に入り込んでいるアンタの方がオレを侵害してるんだけどな。
「違うというのですか?」
『あれについては我が行ったわけでは無い。そもそもこの学園の守護者である我があのような真似をする必要があると思うかね?』
言っている事は分るけど、鵜呑みにも出来ないのがこれまでの経験だ。
「しかしあれは自然発生したものではありません。何ものかが召喚なり創造なりして、わたしのところに送り込んで来たのは間違いないですよね」
『もちろんだとも』
「それでは何ものがそれを行ったのか教えて下さい。一歩間違えば死人が出ていたかもしれないのですよ。学園の守護精霊なのに、生徒が殺されかけても見逃すのですか?!」
『残念だがそれは教えられん。そして生徒の生死に我は関わる事も出来ん』
「なぜですか?!」
この時、オレはかなり真剣に憤っていた。
オレ自身の事はまだいいよ。ロクでもない連中が群れをなして押し寄せてくるのは承知の上で、とっくの昔に覚悟は出来ていたから。
それにこの学園の守護精霊が、よそ者に過ぎないオレの事など『どうなろうと知っちゃこっちゃ無い』と思っていたとしても仕方ないとあきらめはつく。
しかしたまたまオレの元を訪問しただけのスビーリーやアニーラまで命を落としかけたのだぞ。
守護精霊の癖に自分の生徒を守る気がないのかよ。
『仕方なかろう。世俗の生き死にに干渉するのは我の仕事では無い。たとえば街の守護聖者が、その街で引き起こされた個別の犯罪行為にまでいちいち介入するワケでないことぐらいは知っておろう』
「その通りかもしれませんけど、それでも知っていて黙って見過ごす事が許されてしまうなんておかしいですよ」
オレは改めて抗議するも、ビューゼリアンから伝わってきたのは、どこか困惑した様子でまたどこか面白がっている、そんな感覚だった。
『そなたは実に妙な事を口にするのだな。不死者ならば、個別の人間の生き死には可能な限り干渉しない事は当然であろう』
「申し訳ないですけど、こちらはあなたの言う不死者の範疇に入っていないのですよ」
『なるほどな。どうやらそなたは不死者でもなければ定命でもないらしい。これは実に興味深い』
このときオレはまるで全身をねめつけられるかのような不気味な感覚が走った。
そうだ。結局のところオレに関心を持って近寄ってくる相手には、いつもロクな相手がいない。それは相手が人間だろうと、人間以外だろうと違いは無いのだ。
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