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第8章 ライバンス・魔法学院編
第164話 学園の守護者とあれこれ
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オレはこの学園の守護精霊だといいつつ、仮に生徒が巻き込まれても手を出さないというビューゼリアンには少々憤っていたのは確かだ。
恐らくこの精霊の仕事はあくまでも大規模な破壊だとか、外部からのテロ行為だとかからこの学園を守る事であって、個別の犯罪行為に干渉はしないということなのか。
「それではどんな犯罪も内部のものならあなたは見過ごすのですか?」
『そんな事は無いぞ。教授による汚職や横領、生徒を扇動して暴力に走らせるなど『学問の府』としての活動に支障を来すものは、当然この我の管轄であり見つけ次第、懲罰を下すことになっている』
つまりビューゼリアンは魔法の研究や実験に伴う犠牲は甘受しているが、魔法とは関係の無い組織内部の腐敗・暴走を取り締まるのが仕事ということなのか。
二一世紀の人間の感覚で言えば、そりゃまあ組織内の腐敗は重大な問題ではあるにしろ、人命が失われる事はもっと優先して取り組むべきことだろう。
しかしビューゼリアンは犠牲がでることを奨励まではしていないまでも、恐らくは『魔法の発展に必要なコスト』程度の認識であるらしい。
むしろ自由に魔法の研究が行われている結果として受け止めているのかもしれない。
どうやらこの学園の守護精霊は、ここにいるマッドな学者達と大差は無いようだ。
いや。冷静に考えるとファーゼストのような街の神様が『その地域における典型的な貴族』として信者から描かれ、顕現した時にはその姿をとるように、ビューゼリアンもそのような対象としてこの学園の教授や生徒から見られているために、実際の行動もそうなってしまうのかもしれない。
正直に言えば、ビューゼリアンに憤りはしたけど、それではオレがコイツに対して何が出来るのかと言われると何も出来ないわけで、不本意だけど許容するしか選択肢は無い事は分っているのだ。
『何にせよそなたはずいぶんと毛色の変わった存在だ。実に興味深い』
「まさかこちらを捕らえようとでも思っているのですか?」
『先ほど吾が言ったことを覚えていないのか? 吾はあくまでもこの学園の守護精霊であって、そなたに対しても出来る事は限定されている。施設や資料に火をかけたり、生徒達を扇動したりせぬ限り、吾に許されているのはこうやって話をすることぐらいだ』
仮にビューゼリアンが直接オレに手出しすることが出来ないとしても、教授達をたきつけるとか、自分の眷属にオレを襲わせるとか幾らでも出来る事はあるだろう。
なにしろ聖セルム教において、死後この世に精霊として残っている連中の言うことを鵜呑みにしたら、とんでもない目に遭わされる事は、オレにかけられた首輪に宿っていたケノビウスの件でとっくに学習済みなのだ。
「一応は分かりました。しかしわたしも出来るだけ早く、ここの蔵書から必要な情報を取り出したいのですよ」
『それはまた随分と急ぐのだな。不死者の身なのだから、仮に年単位で時間がかかろうと構わないではないか』
悪いけどそんなに時間をかけたら、オレの男としての自我が無くなってしまいかねないんですよ!
あんたはもう性別とか、そういうものはとっくの昔に捨ててしまったかもしれないけど、オレには色々あるんです。しかしそれを明かすワケにもいかないので、ここは相手が納得しそうな事を言うしか無い。
「その方が結果的にはあなたのためになるかもしれませんよ。なにしろわたしはいろいろな相手に狙われていますからね。いつまでもこの学園にとどまっていたら何があるか分かりませんから」
『それならば心配はいらん。そのような外部からの侵入についてならば、この我が許しはしないからな』
要するに中で起きた事は全部、あんたの承認済み、少なくとも黙認しているという事かよ。多神教の神話だとしばしば、自分の領域だったら主神級でも手が出せないような強大な存在がいたりするけど、ひょっとするとこの学園内におけるビューゼリアンもそういう相手なのかもしれないな。
『むしろ我にとってはもっとも自由にならぬものが、この学園の教師や生徒達の日々の行動なのだ』
それは凄いのか凄くないのかよく分らないが、結局のところ多神教の世界でも一神教の世界でも神様が人間の意志を自由にする事は出来ないということなのだろう。
「ところであなたの基準だとわたしはどうなるんですか?」
『我の用いる基準は《唯一なるもの》の定めた世界の法だ』
それは全然答えになっていません。
『それでは答えになっていないとそなたは思ったであろう』
「当たり前ですよ」
『しかしそれは当然なのだ。唯一なるものは可能性を尊ぶ。故に聖セルムが与えられし預言も完全なものではなく、常に考える余地が残されているのだ』
それって要するに曖昧でどうにでも解釈できるという事なんじゃ無いでしょうか。
まあそれだからこそ聖セルム教団は幾つもの派閥に分裂しているし、この学園でもまた多くの学閥が競い合っているんだろうな。
『そのためどこに限界があり、どこまで許されるかもまた同じでは無い。時代や状況次第で常に変遷していくものなのだ』
その理屈はもっともだけど、恣意的な解釈を許す根拠にもなりそうだなあ。
もちろん疑っていたらキリが無いけど、この学園の現状を考えるとビューゼリアンの考えている基準はかなり偏っている気がするな。
ケノビウスが肝心な事をオレに黙って利用していたように、このビューゼリアンも何か画策している、そんな気がヒシヒシと感じられたのだ。
オレがいろいろと悩んでいると、ビューゼリアンはさらに話を続けてくる。
『あとそなたは誤解しているかもしれんが、我はこの学園の守護精霊ではあるが、別に敷地内の事を全て知っているワケではないし、もちろん将来を予知する事も出来ない。結局のところ我は《死すべき定めを持たぬ管理者》以上の存在では無いのだ』
まあ『街の神様』でも街の中の事を全部知っているわけじゃないし、何よりイロールが自分の寺院の中で男を性転換させていることすら知らないのだから、それぐらいは分っているよ。
しかし本当にこの世界の神様とか精霊とかは、元の世界と比べると遙かに身近な存在というだけに、その振るえる力も限定されているらしい。
まあ街どころか大きな学校ですら、守護精霊のような存在がいるのに、それらが自由に力を振るったら世界がメチャクチャになりかねないから、当然のことなんだろうけどな。
それを考えると『全知全能の唯一神』が決して直接人間に介入しないという考えは、元の世界の一神教同様、理にかなったことだと言えるかもしれない。
それはともかく改めてオレはビューゼリアンに問うことがある。
「おっしゃる理屈からすると基準は絶対のものではないのでしょうから、今回はこちらの使う魔法を許容してもらえませんかね? さっきも言ったようにわたしはすぐに問題を引き起こす質なので、あんまり一カ所に長居したくないんです」
『それはつまりそなたは自ら引き起こした問題を、自分で解決する事で名声を博していたということなのかね?』
「そんなわけありませんよ!」
いや。まあ傍目にはそう思われても仕方ないかもしれないし、ホン・イールはそんな事を考えているらしいのは確かだ。
しかしオレが問題を引き寄せやすい体質なのは確かだが、自分で引き起こした事など一度として無いんだよ。
『いや。別に構わんぞ。そなたが問題を引き起こし、それがどのような結果を招くのかにも我は興味はあるからな』
おいおい。ビューゼリアンは自分の守るべき生徒や教師が巻き込まれる危険性がある事を承知で、オレのようなヤバい存在を受け入れようと思っているのかよ ―― だけどそんなヤツは大勢いたし、たぶん今でも大勢いるだろう。
正直に言って、これが元の男子高校生の容姿のままだったら、下手したら行く先々で『疫病神』扱いされていたのかもしれないのだなあ。
『何だったらここにいつまでも留まっていればいいぞ』
「それであなたの配偶者にでもなれと言うのですか?」
『生憎だが我はそのような肉体に根ざす欲望など遙か昔に忘れてしまった。今までに出会ったもの達は違ったのかね?』
そういえばケノビウスも似たような話をしていたな。
まあ首輪でも学園でも、何かに宿る時点でその魂の一部が変質するということか。
そりゃまあビューゼリアンが男だったか女だったか知らないけど、もし男だったとしたら学園内で女子が風呂に入っているのもガン見している事になるわけで、確かにそういう事になるのは遠慮したい話だろう。
「ならば何のためにここに留まれというのですか?」
『そなたは自分の力がどれほどのものか、知りたくは無いのか? ここにいればその力を存分に振るう機会もあるし、またそれを計る体制も整っているのだぞ』
「申し訳ないですけど、お断りさせてもらいます」
生憎だけどオレはそんな事には興味無いんだよ。
要するにビューゼリアンにとっても貴重な研究素材だから、オレを引き留めようとしているのは分る。
だけど今のオレに力を与えている信者達は『黄金の女神』として崇拝している上に、それを仕切っている皇帝だの王太子だのが『恋人』として振る舞っているんだからな。
元の世界でも神様は信徒の都合で、崇拝された後からもいろいろな要素が付け加えられたりするのは当たり前だったけど、自分がその対象になると実に恥ずかしい気分だ。
そんなわけでオレは『信徒の捧げた崇拝の力』は本当にそれを使わないと命が危ないような状況で無い限り触れるつもりはない。
『分った。ならばもっと別の話をしようではないか』
随分としつこく食い下がってくるんだな。
話題をいろいろと変えているけど、本当の意図は別のところにありそうだ。
『そなたは言わば不死者の領域と定命の領域との橋渡しになり得る存在だ』
「こちらを調べることで不死者になる道を探ろうとか、そんな話ですか?」
『それも面白いが、もっと別の可能性があるとは思わないかね?』
随分ともったいぶった態度だな。
曲がりなりにも教育者だから『自分で気付かねば意味は無い』とでも思っているかもしれないが、ひとつ重大な誤解があるようだ。
「わたしはあなたの生徒ではありませんから、回りくどい言い方をされてもついていけませんよ」
『それならば今からでもこの学園に入学し、我が生徒の一人となってもよいぞ。この我がそれを承認しようではないか』
これは学園ものでよくあるパターンの『理事長肝いりで強引な編入』という展開ですか!
うう。男のままだったら、これでハーレム展開なんて妄想出来たかもしれないけど、今のオレの場合、逆ハー路線しかありえない。
しかしどこか違和感があるな。
ビューゼリアンはオレについても少なくともホン・イール以上に知識を有しているはずだ。もちろんその認識がオレとは大きく食い違っている可能性が高いけど、それでもオレを研究素材以外の目的でこの学園に受け入れる意図はなんだ?
やっぱり何か裏で画策しているのではないか。それもこの『学園の管理者』という枠を遙かに超えた何かが含まれている。
そんな感覚がヒシヒシとオレの背筋を走っていた。
恐らくこの精霊の仕事はあくまでも大規模な破壊だとか、外部からのテロ行為だとかからこの学園を守る事であって、個別の犯罪行為に干渉はしないということなのか。
「それではどんな犯罪も内部のものならあなたは見過ごすのですか?」
『そんな事は無いぞ。教授による汚職や横領、生徒を扇動して暴力に走らせるなど『学問の府』としての活動に支障を来すものは、当然この我の管轄であり見つけ次第、懲罰を下すことになっている』
つまりビューゼリアンは魔法の研究や実験に伴う犠牲は甘受しているが、魔法とは関係の無い組織内部の腐敗・暴走を取り締まるのが仕事ということなのか。
二一世紀の人間の感覚で言えば、そりゃまあ組織内の腐敗は重大な問題ではあるにしろ、人命が失われる事はもっと優先して取り組むべきことだろう。
しかしビューゼリアンは犠牲がでることを奨励まではしていないまでも、恐らくは『魔法の発展に必要なコスト』程度の認識であるらしい。
むしろ自由に魔法の研究が行われている結果として受け止めているのかもしれない。
どうやらこの学園の守護精霊は、ここにいるマッドな学者達と大差は無いようだ。
いや。冷静に考えるとファーゼストのような街の神様が『その地域における典型的な貴族』として信者から描かれ、顕現した時にはその姿をとるように、ビューゼリアンもそのような対象としてこの学園の教授や生徒から見られているために、実際の行動もそうなってしまうのかもしれない。
正直に言えば、ビューゼリアンに憤りはしたけど、それではオレがコイツに対して何が出来るのかと言われると何も出来ないわけで、不本意だけど許容するしか選択肢は無い事は分っているのだ。
『何にせよそなたはずいぶんと毛色の変わった存在だ。実に興味深い』
「まさかこちらを捕らえようとでも思っているのですか?」
『先ほど吾が言ったことを覚えていないのか? 吾はあくまでもこの学園の守護精霊であって、そなたに対しても出来る事は限定されている。施設や資料に火をかけたり、生徒達を扇動したりせぬ限り、吾に許されているのはこうやって話をすることぐらいだ』
仮にビューゼリアンが直接オレに手出しすることが出来ないとしても、教授達をたきつけるとか、自分の眷属にオレを襲わせるとか幾らでも出来る事はあるだろう。
なにしろ聖セルム教において、死後この世に精霊として残っている連中の言うことを鵜呑みにしたら、とんでもない目に遭わされる事は、オレにかけられた首輪に宿っていたケノビウスの件でとっくに学習済みなのだ。
「一応は分かりました。しかしわたしも出来るだけ早く、ここの蔵書から必要な情報を取り出したいのですよ」
『それはまた随分と急ぐのだな。不死者の身なのだから、仮に年単位で時間がかかろうと構わないではないか』
悪いけどそんなに時間をかけたら、オレの男としての自我が無くなってしまいかねないんですよ!
あんたはもう性別とか、そういうものはとっくの昔に捨ててしまったかもしれないけど、オレには色々あるんです。しかしそれを明かすワケにもいかないので、ここは相手が納得しそうな事を言うしか無い。
「その方が結果的にはあなたのためになるかもしれませんよ。なにしろわたしはいろいろな相手に狙われていますからね。いつまでもこの学園にとどまっていたら何があるか分かりませんから」
『それならば心配はいらん。そのような外部からの侵入についてならば、この我が許しはしないからな』
要するに中で起きた事は全部、あんたの承認済み、少なくとも黙認しているという事かよ。多神教の神話だとしばしば、自分の領域だったら主神級でも手が出せないような強大な存在がいたりするけど、ひょっとするとこの学園内におけるビューゼリアンもそういう相手なのかもしれないな。
『むしろ我にとってはもっとも自由にならぬものが、この学園の教師や生徒達の日々の行動なのだ』
それは凄いのか凄くないのかよく分らないが、結局のところ多神教の世界でも一神教の世界でも神様が人間の意志を自由にする事は出来ないということなのだろう。
「ところであなたの基準だとわたしはどうなるんですか?」
『我の用いる基準は《唯一なるもの》の定めた世界の法だ』
それは全然答えになっていません。
『それでは答えになっていないとそなたは思ったであろう』
「当たり前ですよ」
『しかしそれは当然なのだ。唯一なるものは可能性を尊ぶ。故に聖セルムが与えられし預言も完全なものではなく、常に考える余地が残されているのだ』
それって要するに曖昧でどうにでも解釈できるという事なんじゃ無いでしょうか。
まあそれだからこそ聖セルム教団は幾つもの派閥に分裂しているし、この学園でもまた多くの学閥が競い合っているんだろうな。
『そのためどこに限界があり、どこまで許されるかもまた同じでは無い。時代や状況次第で常に変遷していくものなのだ』
その理屈はもっともだけど、恣意的な解釈を許す根拠にもなりそうだなあ。
もちろん疑っていたらキリが無いけど、この学園の現状を考えるとビューゼリアンの考えている基準はかなり偏っている気がするな。
ケノビウスが肝心な事をオレに黙って利用していたように、このビューゼリアンも何か画策している、そんな気がヒシヒシと感じられたのだ。
オレがいろいろと悩んでいると、ビューゼリアンはさらに話を続けてくる。
『あとそなたは誤解しているかもしれんが、我はこの学園の守護精霊ではあるが、別に敷地内の事を全て知っているワケではないし、もちろん将来を予知する事も出来ない。結局のところ我は《死すべき定めを持たぬ管理者》以上の存在では無いのだ』
まあ『街の神様』でも街の中の事を全部知っているわけじゃないし、何よりイロールが自分の寺院の中で男を性転換させていることすら知らないのだから、それぐらいは分っているよ。
しかし本当にこの世界の神様とか精霊とかは、元の世界と比べると遙かに身近な存在というだけに、その振るえる力も限定されているらしい。
まあ街どころか大きな学校ですら、守護精霊のような存在がいるのに、それらが自由に力を振るったら世界がメチャクチャになりかねないから、当然のことなんだろうけどな。
それを考えると『全知全能の唯一神』が決して直接人間に介入しないという考えは、元の世界の一神教同様、理にかなったことだと言えるかもしれない。
それはともかく改めてオレはビューゼリアンに問うことがある。
「おっしゃる理屈からすると基準は絶対のものではないのでしょうから、今回はこちらの使う魔法を許容してもらえませんかね? さっきも言ったようにわたしはすぐに問題を引き起こす質なので、あんまり一カ所に長居したくないんです」
『それはつまりそなたは自ら引き起こした問題を、自分で解決する事で名声を博していたということなのかね?』
「そんなわけありませんよ!」
いや。まあ傍目にはそう思われても仕方ないかもしれないし、ホン・イールはそんな事を考えているらしいのは確かだ。
しかしオレが問題を引き寄せやすい体質なのは確かだが、自分で引き起こした事など一度として無いんだよ。
『いや。別に構わんぞ。そなたが問題を引き起こし、それがどのような結果を招くのかにも我は興味はあるからな』
おいおい。ビューゼリアンは自分の守るべき生徒や教師が巻き込まれる危険性がある事を承知で、オレのようなヤバい存在を受け入れようと思っているのかよ ―― だけどそんなヤツは大勢いたし、たぶん今でも大勢いるだろう。
正直に言って、これが元の男子高校生の容姿のままだったら、下手したら行く先々で『疫病神』扱いされていたのかもしれないのだなあ。
『何だったらここにいつまでも留まっていればいいぞ』
「それであなたの配偶者にでもなれと言うのですか?」
『生憎だが我はそのような肉体に根ざす欲望など遙か昔に忘れてしまった。今までに出会ったもの達は違ったのかね?』
そういえばケノビウスも似たような話をしていたな。
まあ首輪でも学園でも、何かに宿る時点でその魂の一部が変質するということか。
そりゃまあビューゼリアンが男だったか女だったか知らないけど、もし男だったとしたら学園内で女子が風呂に入っているのもガン見している事になるわけで、確かにそういう事になるのは遠慮したい話だろう。
「ならば何のためにここに留まれというのですか?」
『そなたは自分の力がどれほどのものか、知りたくは無いのか? ここにいればその力を存分に振るう機会もあるし、またそれを計る体制も整っているのだぞ』
「申し訳ないですけど、お断りさせてもらいます」
生憎だけどオレはそんな事には興味無いんだよ。
要するにビューゼリアンにとっても貴重な研究素材だから、オレを引き留めようとしているのは分る。
だけど今のオレに力を与えている信者達は『黄金の女神』として崇拝している上に、それを仕切っている皇帝だの王太子だのが『恋人』として振る舞っているんだからな。
元の世界でも神様は信徒の都合で、崇拝された後からもいろいろな要素が付け加えられたりするのは当たり前だったけど、自分がその対象になると実に恥ずかしい気分だ。
そんなわけでオレは『信徒の捧げた崇拝の力』は本当にそれを使わないと命が危ないような状況で無い限り触れるつもりはない。
『分った。ならばもっと別の話をしようではないか』
随分としつこく食い下がってくるんだな。
話題をいろいろと変えているけど、本当の意図は別のところにありそうだ。
『そなたは言わば不死者の領域と定命の領域との橋渡しになり得る存在だ』
「こちらを調べることで不死者になる道を探ろうとか、そんな話ですか?」
『それも面白いが、もっと別の可能性があるとは思わないかね?』
随分ともったいぶった態度だな。
曲がりなりにも教育者だから『自分で気付かねば意味は無い』とでも思っているかもしれないが、ひとつ重大な誤解があるようだ。
「わたしはあなたの生徒ではありませんから、回りくどい言い方をされてもついていけませんよ」
『それならば今からでもこの学園に入学し、我が生徒の一人となってもよいぞ。この我がそれを承認しようではないか』
これは学園ものでよくあるパターンの『理事長肝いりで強引な編入』という展開ですか!
うう。男のままだったら、これでハーレム展開なんて妄想出来たかもしれないけど、今のオレの場合、逆ハー路線しかありえない。
しかしどこか違和感があるな。
ビューゼリアンはオレについても少なくともホン・イール以上に知識を有しているはずだ。もちろんその認識がオレとは大きく食い違っている可能性が高いけど、それでもオレを研究素材以外の目的でこの学園に受け入れる意図はなんだ?
やっぱり何か裏で画策しているのではないか。それもこの『学園の管理者』という枠を遙かに超えた何かが含まれている。
そんな感覚がヒシヒシとオレの背筋を走っていた。
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