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第8章 ライバンス・魔法学院編
第168話 いきなりの三角関係 そして突然の急展開?
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いきなり現れたガランディアはこっちに駆け寄ってくると、ミツリーンの腕をつかんでオレから引きはがしつつ、間に割って入ってくる。
どうみても『ナイト様』を気取った行動だけど、たぶんガランディア本人は意識してはいないだろう。
本当に生まれついての女たらしなのか。
「彼女は困っているじゃないか。無理矢理に手をつかむとはどういうつもりだ」
いや。確かに困っていたけど、間違いなくガランディアの想像とは別の事です。
もっとも第三者の視点だと、さっきの光景はミツリーンがオレを強引に口説こうとしていたように見えるだろうから、ガランディアの行動は決しておかしなものではない。
そんな場面に狙ったように鉢合わせするとは、ガランディアはどういう星の下で生まれたんだろうか。かつてハーレムにあこがれたオレとしては、ちょっとばかり気になるところでもある。
それはともかくオレとしてもミツリーンには困っていたから、ここはその出しゃばりにちょっとばかり感謝するよ。
だけどそれで事態が片付くはずもないのは明らかだった。
「何ものか知らないが、邪魔をするな。我らは重要な話をしているのだ」
う~ん。ミツリーンの態度も実にお約束だな。
まあ奇をてらう意味なんて全く無いから、そっちの方がありがたい。
しかし現状ではどうするべきか。
残念ながら二人とも考えている事はまるで食い違っていて、しかもオレにとってもその勘違いのどちらに従ってもいい事は無い。
ついでに言えオレが拒絶しても、それで引き下がる程、物わかりのいい相手でないこともまた確実だ。
「君の事は僕が守るから安心して」
ガランディアはそういう台詞がよくまあ当たり前のように出てくるもんだな。
こいつのご先祖様は本当は『英雄にして背教者ガーランド』ではなく、女たらしで有名なギリシャ神話の主神様だと言われても信じてしまいかねん。
それで大抵の女は落ちるかもしれないけど、正直言ってオレの場合はどん引きだよ。
「お前は何を勘違いしているのか知らんが、本来ならば学生のお前ごときが軽々しく近づいてよいお方ではないのだぞ」
ミツリーンもこれまでは慎重な様子だったけど、相手が若輩者のガランディア一人だと結構強気だな。
しかしオレの事を引き合いに出されても困るんだけど。
「確かに僕はただの無力な学生だよ。そして彼女が尋常でない力の持ち主だって事も分かっている。しかしあなたも見たところ、ここでおおっぴらに活動できるような人間ではないみたいですね」
「……」
ミツリーンの表情があからさまに険しくなる。
実際、ここは奴さんにとっては『敵の中枢部』みたいなところだ。
たとえ相手が一介の学生 ―― 本当にガランディアをそう表現していいのかは別として ―― でもトラブルを引き起こすのが危険である事が分からないはずがない。
しかしそれでミツリーンの身柄が当局に拘束されると、これもまたオレにとって望ましい展開ではない。
ミツリーンが捕まって尋問されても、そうそう簡単に口を割ることはないかもしれないけど、何しろこの世界には魔法があるからな。
読心術とか強制的に質問に答えさせる魔法があっても不思議じゃないし、異教徒ともなれば拷問だって行われるかもしれないのだ。
さすがにオレの事でミツリーンが拷問されるのは、ちょっと辞めてもらいたい。
そしてホン・イール達のようにオレのこれまでの行いを知った上で、泳がせてくれる相手ばかりとは限らない。
治安当局がミツリーンの話を聞けば、オレを拘束しようと行動に出る事だって十分に考えられるだろう。
これはちょっとまずい。
いつものことだが、この場は可能な限り穏便に片付けるしかないということか。
「二人とも待って下さい」
オレを巡って争う男の間に割って入って止めるなんて、傍目にはとんでもない修羅場モードということかな。
今はいないスビーリー達がここに来たら、もう話がややこしくてかなわないから、今は急いでどうにかせねばなるまい。
「ミツリーンさん。今は引いてくれませんか?」
「……分りました」
さすがのミツリーンもこの『敵地』でわざわざ騒ぎを起こす程バカではない。
それにオレの『お願い』を聞かないわけにはいかない立場だ。
「ご命令とあらば、私に否応はありません」
「いえ。ですから――」
「命令通り、ここは引きましょう」
ああ。コイツは意地でも、オレの命令だから引き下がるという形にするつもりらしい。
もうここはオレの方が折れるしか無いな。
「それでは失礼します。後ほどまた」
ミツリーンは一礼して去って行く。
自分で意図した通りではあるが、これがただの問題の先延ばしでしかないことぐらいは分っているつもりだよ。
そしてミツリーンの姿が消えたところで、ガランディアは心配げにオレに問いかけてくる。
「今の人は君を追ってきたのかい? ひょっとしたら実家の方なのかな?」
う~ん。たぶんガランディアはオレがどこかのいいところの出身で、家出か何かでこの学園に転がり込み、ミツリーンはそのオレを連れ戻しに来たとでも思っているらしい。
いや。まあオレだってホン・イールに言われて、ガランディアの事をどこかの王族か皇族なんじゃないのかと勘ぐったりした事もあるから、こっちのことをそう誤解されたとしてもそう不思議でもないのだろうな。
「申し訳ないのですけど、一言で表現するのは難しい関係なので――」
「分ったよ。話したくないなら無理には聞かないさ。だけど困っているならいつでも相談して欲しい」
ええい。このナチュラルボーン・ハーレム野郎が。
しかしまあミツリーンがいなくなってくれたのは、少しばかりありがたいので、ここはあいつが持って来た書籍に目を通すとしよう。
そう思ってオレが振り向いたとき、あたりの気色がボンヤリと光に覆われ、オレの視界がかすみ出す。
なんだと? どういうことだ?
「アルタシャ……これはいったい?」
ガランディアもどうやら巻き込まれているらしい。
そして何事が起きているのか、こちらが理解する前に辺り一面の光景が一気にはじけ、そこでオレの意識は途切れる事となる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここはいったい……」
オレの意識が途切れたのはたぶん一瞬だったはずだが、そこで周囲の気色はがらりと変っていた ―― などと言っても全く別世界になっているとかそういう話ではない。
周りの景色がボンヤリとしていて、まるで霞がかかったように見えるところもあれば、歪んだレンズを通したように変な形に写っているところもある。
そしてその一方で周囲には、いろいろな半透明の霊体らしくものが蠢いている。
まともに見えているのはオレの傍らにいたガランディアだけだ。
こんな時にもふたり一緒というのは、なるだけ避けたかったけど仕方ない。まあいくら何でも二人きりだからといって襲ってくるような事がないだけマシだろう。
「これはどういうことなんだ?」
明らかにガランディアも困惑している様子だ。
オレに聞かれても困るけど、推測するにいわゆる『エーテル界』とか『精霊界』とかのたぐいで元の世界と重なり合う別世界だろう。
つまりオレが引き込まれて、ガランディアはたまたま一緒にいて巻き込まれたというところだろうか。
だがなぜいきなりそんな事になっているのか。
考えるまでもなく、昨日精霊だのアンデッドだのを送り込んでオレを襲撃してきた連中が、それではラチがあかないと思って今度はオレを異世界に引き込む事にしたわけか。
幾らオレでも周囲の空間ごと引きずり込まれたら、いくら何でもかわしようが無いな。
だけど実を言えばオレの場合はシャーマン魔術で異世界の事もどうにかなるので、引き込まれても殆ど問題無く脱出は可能だよ ―― オレ一人だけならね。
困ったことにガランディアが一緒だから、それは無理だ。
いくら何でも知り合いを見捨てて、オレ一人だけ元の世界に戻るなんて真似は出来ない。
どうしてもダメなら、こっちが先に脱出して助けを呼ぶ事になるけど、それは最期の手段だな。
オレがいない間にガランディアが殺されでもしたら、こっちもたまったもんじゃない。
ひょっとするとガランディアを一緒に巻き込んだのは、敵の深謀遠慮なのかもしれない。
そんな事を考えていると、オレの手がぐっと握られる。
思わず振り向くとガランディアが厳しい表情をしつつ、どういうわけかオレの方にその身を寄せてきていた。
おい! ドサクサに紛れて人の手を握っているじゃねえよ!
いや。よくよく見るとガランディアの身体は冷や汗をかき、緊張にこわばっているようだ。こっちの手を握ったのも不安のためか。
まあ普通の人間だったらいきなりこんな事になれば、パニックに陥っても不思議じゃないから、そうならなかっただけでもマシと思うしか無いか。
「あの。ガランディアさん――」
「大丈夫だよ。君の事は僕が守るから」
ええ? ちょっと待てや。
ひょっとしてガランディアはオレを励ましているつもりなの?
いや。まあガランディアはオレの魔力は知っているけど、それでもひとりならここからいつでも脱出が可能だと知らないから『か弱い女の子』を庇っているつもりなんだろう。
自分だって怖い癖に、そのやせ我慢は立派なハーレム野郎だと一応は肯定的に受け止めておいてやろう。
「たぶんここは精霊界だろう。なぜこうなったのかは分らない。だけど元の景色も見えているということは、まだそれほど深く引き込まれているわけではないはずだから、脱出はそれほど難しく無いと思う」
なるほど。オレはそういう点では無知だから、ガランディアもそれなりに役に立つか。
「分りました。それではあたりを探しましょう」
「それはダメだよ!」
ガランディアが握っている手に力がこもる。
「あのう……痛いんですけど……」
「ああ! これはゴメン!」
ガランディアは慌てて手を離し、そして頭を下げる。
「君の事が心配だったものでつい……」
「いいですよ。気にしてませんから」
全裸を見られた事に比べれば気にするような話じゃ無いさ。
どちらかと言えば、むしろこっちの方がガランディアの心配をしているんだけどね。
まあいい。ここは『霊視』と『霊体遮断』の魔法を使って霊体からの攻撃に備えるとしよう。
どう考えたって相手の意図がこの精霊界に引きずり込んで、それで終了という事はあり得ない。
これだけ大がかりな魔法だったら相当なコストがかかっているはずで、オレを捕らえるために更なる手立てを講じているのは間違いないはずだ。
「とにかくここは迂闊に動き回るべきじゃない」
「そうは言っても動かずにいたら、何に襲われるか分りませんよ」
「実はこの学園でも魔法の実験の失敗や、魔法の物品を調査中に誤って作動させてしまって異世界に引き込まれてしまう事はたまにあるんだよ。だからそうなったときにはなるだけ動かずに救助を待つ事になっているんだ」
何というか冬山で遭難したみたいな話だな。
それはそれで合理的な判断だとは思うけど、問題なのは明らかにこれは事故ではなく、何ものかがオレを狙ってのものだってことだ。
そいつがこの学園でかなりの地位があるのなら、救助を邪魔する事は当然考えられる。
しかもオレ達が行方不明になったことに気付いてもらうにも、かなり時間がかかるだろう。
下手をすればホン・イールだの他のハーレム要員だのの連中は『二人でどこかにしけ込んでいる』と思い込んでしまうかもしれない。
ただ狙われているのがオレだったとしたら、むしろ同行せずにオレだけ先に脱出して助けを呼んだ方が効率的かもしれないな。
気は進まないが、ここはそれを伝えてオレが先に行くべきかも知れない。
「ガランディアさん。実は――」
「危ない!」
いきなりガランディアがオレを押しのけて前に立つ。
そして地面というか床というか、よく分らないところにオレは転がる羽目となる。
何がどうしたんだ?
顔を上げてみるとガランディアの前には、その全身が半透明でボンヤリとした輪郭をした人型の存在が姿を現していた。
どうみても『ナイト様』を気取った行動だけど、たぶんガランディア本人は意識してはいないだろう。
本当に生まれついての女たらしなのか。
「彼女は困っているじゃないか。無理矢理に手をつかむとはどういうつもりだ」
いや。確かに困っていたけど、間違いなくガランディアの想像とは別の事です。
もっとも第三者の視点だと、さっきの光景はミツリーンがオレを強引に口説こうとしていたように見えるだろうから、ガランディアの行動は決しておかしなものではない。
そんな場面に狙ったように鉢合わせするとは、ガランディアはどういう星の下で生まれたんだろうか。かつてハーレムにあこがれたオレとしては、ちょっとばかり気になるところでもある。
それはともかくオレとしてもミツリーンには困っていたから、ここはその出しゃばりにちょっとばかり感謝するよ。
だけどそれで事態が片付くはずもないのは明らかだった。
「何ものか知らないが、邪魔をするな。我らは重要な話をしているのだ」
う~ん。ミツリーンの態度も実にお約束だな。
まあ奇をてらう意味なんて全く無いから、そっちの方がありがたい。
しかし現状ではどうするべきか。
残念ながら二人とも考えている事はまるで食い違っていて、しかもオレにとってもその勘違いのどちらに従ってもいい事は無い。
ついでに言えオレが拒絶しても、それで引き下がる程、物わかりのいい相手でないこともまた確実だ。
「君の事は僕が守るから安心して」
ガランディアはそういう台詞がよくまあ当たり前のように出てくるもんだな。
こいつのご先祖様は本当は『英雄にして背教者ガーランド』ではなく、女たらしで有名なギリシャ神話の主神様だと言われても信じてしまいかねん。
それで大抵の女は落ちるかもしれないけど、正直言ってオレの場合はどん引きだよ。
「お前は何を勘違いしているのか知らんが、本来ならば学生のお前ごときが軽々しく近づいてよいお方ではないのだぞ」
ミツリーンもこれまでは慎重な様子だったけど、相手が若輩者のガランディア一人だと結構強気だな。
しかしオレの事を引き合いに出されても困るんだけど。
「確かに僕はただの無力な学生だよ。そして彼女が尋常でない力の持ち主だって事も分かっている。しかしあなたも見たところ、ここでおおっぴらに活動できるような人間ではないみたいですね」
「……」
ミツリーンの表情があからさまに険しくなる。
実際、ここは奴さんにとっては『敵の中枢部』みたいなところだ。
たとえ相手が一介の学生 ―― 本当にガランディアをそう表現していいのかは別として ―― でもトラブルを引き起こすのが危険である事が分からないはずがない。
しかしそれでミツリーンの身柄が当局に拘束されると、これもまたオレにとって望ましい展開ではない。
ミツリーンが捕まって尋問されても、そうそう簡単に口を割ることはないかもしれないけど、何しろこの世界には魔法があるからな。
読心術とか強制的に質問に答えさせる魔法があっても不思議じゃないし、異教徒ともなれば拷問だって行われるかもしれないのだ。
さすがにオレの事でミツリーンが拷問されるのは、ちょっと辞めてもらいたい。
そしてホン・イール達のようにオレのこれまでの行いを知った上で、泳がせてくれる相手ばかりとは限らない。
治安当局がミツリーンの話を聞けば、オレを拘束しようと行動に出る事だって十分に考えられるだろう。
これはちょっとまずい。
いつものことだが、この場は可能な限り穏便に片付けるしかないということか。
「二人とも待って下さい」
オレを巡って争う男の間に割って入って止めるなんて、傍目にはとんでもない修羅場モードということかな。
今はいないスビーリー達がここに来たら、もう話がややこしくてかなわないから、今は急いでどうにかせねばなるまい。
「ミツリーンさん。今は引いてくれませんか?」
「……分りました」
さすがのミツリーンもこの『敵地』でわざわざ騒ぎを起こす程バカではない。
それにオレの『お願い』を聞かないわけにはいかない立場だ。
「ご命令とあらば、私に否応はありません」
「いえ。ですから――」
「命令通り、ここは引きましょう」
ああ。コイツは意地でも、オレの命令だから引き下がるという形にするつもりらしい。
もうここはオレの方が折れるしか無いな。
「それでは失礼します。後ほどまた」
ミツリーンは一礼して去って行く。
自分で意図した通りではあるが、これがただの問題の先延ばしでしかないことぐらいは分っているつもりだよ。
そしてミツリーンの姿が消えたところで、ガランディアは心配げにオレに問いかけてくる。
「今の人は君を追ってきたのかい? ひょっとしたら実家の方なのかな?」
う~ん。たぶんガランディアはオレがどこかのいいところの出身で、家出か何かでこの学園に転がり込み、ミツリーンはそのオレを連れ戻しに来たとでも思っているらしい。
いや。まあオレだってホン・イールに言われて、ガランディアの事をどこかの王族か皇族なんじゃないのかと勘ぐったりした事もあるから、こっちのことをそう誤解されたとしてもそう不思議でもないのだろうな。
「申し訳ないのですけど、一言で表現するのは難しい関係なので――」
「分ったよ。話したくないなら無理には聞かないさ。だけど困っているならいつでも相談して欲しい」
ええい。このナチュラルボーン・ハーレム野郎が。
しかしまあミツリーンがいなくなってくれたのは、少しばかりありがたいので、ここはあいつが持って来た書籍に目を通すとしよう。
そう思ってオレが振り向いたとき、あたりの気色がボンヤリと光に覆われ、オレの視界がかすみ出す。
なんだと? どういうことだ?
「アルタシャ……これはいったい?」
ガランディアもどうやら巻き込まれているらしい。
そして何事が起きているのか、こちらが理解する前に辺り一面の光景が一気にはじけ、そこでオレの意識は途切れる事となる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここはいったい……」
オレの意識が途切れたのはたぶん一瞬だったはずだが、そこで周囲の気色はがらりと変っていた ―― などと言っても全く別世界になっているとかそういう話ではない。
周りの景色がボンヤリとしていて、まるで霞がかかったように見えるところもあれば、歪んだレンズを通したように変な形に写っているところもある。
そしてその一方で周囲には、いろいろな半透明の霊体らしくものが蠢いている。
まともに見えているのはオレの傍らにいたガランディアだけだ。
こんな時にもふたり一緒というのは、なるだけ避けたかったけど仕方ない。まあいくら何でも二人きりだからといって襲ってくるような事がないだけマシだろう。
「これはどういうことなんだ?」
明らかにガランディアも困惑している様子だ。
オレに聞かれても困るけど、推測するにいわゆる『エーテル界』とか『精霊界』とかのたぐいで元の世界と重なり合う別世界だろう。
つまりオレが引き込まれて、ガランディアはたまたま一緒にいて巻き込まれたというところだろうか。
だがなぜいきなりそんな事になっているのか。
考えるまでもなく、昨日精霊だのアンデッドだのを送り込んでオレを襲撃してきた連中が、それではラチがあかないと思って今度はオレを異世界に引き込む事にしたわけか。
幾らオレでも周囲の空間ごと引きずり込まれたら、いくら何でもかわしようが無いな。
だけど実を言えばオレの場合はシャーマン魔術で異世界の事もどうにかなるので、引き込まれても殆ど問題無く脱出は可能だよ ―― オレ一人だけならね。
困ったことにガランディアが一緒だから、それは無理だ。
いくら何でも知り合いを見捨てて、オレ一人だけ元の世界に戻るなんて真似は出来ない。
どうしてもダメなら、こっちが先に脱出して助けを呼ぶ事になるけど、それは最期の手段だな。
オレがいない間にガランディアが殺されでもしたら、こっちもたまったもんじゃない。
ひょっとするとガランディアを一緒に巻き込んだのは、敵の深謀遠慮なのかもしれない。
そんな事を考えていると、オレの手がぐっと握られる。
思わず振り向くとガランディアが厳しい表情をしつつ、どういうわけかオレの方にその身を寄せてきていた。
おい! ドサクサに紛れて人の手を握っているじゃねえよ!
いや。よくよく見るとガランディアの身体は冷や汗をかき、緊張にこわばっているようだ。こっちの手を握ったのも不安のためか。
まあ普通の人間だったらいきなりこんな事になれば、パニックに陥っても不思議じゃないから、そうならなかっただけでもマシと思うしか無いか。
「あの。ガランディアさん――」
「大丈夫だよ。君の事は僕が守るから」
ええ? ちょっと待てや。
ひょっとしてガランディアはオレを励ましているつもりなの?
いや。まあガランディアはオレの魔力は知っているけど、それでもひとりならここからいつでも脱出が可能だと知らないから『か弱い女の子』を庇っているつもりなんだろう。
自分だって怖い癖に、そのやせ我慢は立派なハーレム野郎だと一応は肯定的に受け止めておいてやろう。
「たぶんここは精霊界だろう。なぜこうなったのかは分らない。だけど元の景色も見えているということは、まだそれほど深く引き込まれているわけではないはずだから、脱出はそれほど難しく無いと思う」
なるほど。オレはそういう点では無知だから、ガランディアもそれなりに役に立つか。
「分りました。それではあたりを探しましょう」
「それはダメだよ!」
ガランディアが握っている手に力がこもる。
「あのう……痛いんですけど……」
「ああ! これはゴメン!」
ガランディアは慌てて手を離し、そして頭を下げる。
「君の事が心配だったものでつい……」
「いいですよ。気にしてませんから」
全裸を見られた事に比べれば気にするような話じゃ無いさ。
どちらかと言えば、むしろこっちの方がガランディアの心配をしているんだけどね。
まあいい。ここは『霊視』と『霊体遮断』の魔法を使って霊体からの攻撃に備えるとしよう。
どう考えたって相手の意図がこの精霊界に引きずり込んで、それで終了という事はあり得ない。
これだけ大がかりな魔法だったら相当なコストがかかっているはずで、オレを捕らえるために更なる手立てを講じているのは間違いないはずだ。
「とにかくここは迂闊に動き回るべきじゃない」
「そうは言っても動かずにいたら、何に襲われるか分りませんよ」
「実はこの学園でも魔法の実験の失敗や、魔法の物品を調査中に誤って作動させてしまって異世界に引き込まれてしまう事はたまにあるんだよ。だからそうなったときにはなるだけ動かずに救助を待つ事になっているんだ」
何というか冬山で遭難したみたいな話だな。
それはそれで合理的な判断だとは思うけど、問題なのは明らかにこれは事故ではなく、何ものかがオレを狙ってのものだってことだ。
そいつがこの学園でかなりの地位があるのなら、救助を邪魔する事は当然考えられる。
しかもオレ達が行方不明になったことに気付いてもらうにも、かなり時間がかかるだろう。
下手をすればホン・イールだの他のハーレム要員だのの連中は『二人でどこかにしけ込んでいる』と思い込んでしまうかもしれない。
ただ狙われているのがオレだったとしたら、むしろ同行せずにオレだけ先に脱出して助けを呼んだ方が効率的かもしれないな。
気は進まないが、ここはそれを伝えてオレが先に行くべきかも知れない。
「ガランディアさん。実は――」
「危ない!」
いきなりガランディアがオレを押しのけて前に立つ。
そして地面というか床というか、よく分らないところにオレは転がる羽目となる。
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