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第9章 『思想の神』と『英雄』編
第204話 千年前の真実はどこに?
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このウルハンガがオレに対して何を問うのだろうか?
オレの正体 ―― いろいろと複雑で一言ではとても言い表せないけど ―― について聞くのだろうか?
それともオレの有する力についてか。
これまでの経緯やここにいる理由かもしれない。
もしもウルハンガが本当に『元神』なら、オレの崇拝についての情報だってあり得る。
いろいろな事が脳裏をよぎり、不安がかき立てられる。
何を聞かれるのかよく分からないが、その場しのぎの嘘をついてもウルハンガは簡単に見抜くだろうという妙な確信だけはあった。
そして緊張と共に待つオレに対して、ウルハンガはあっさりと問いかけてくる。
「君はこれからしばらく僕に協力してくれないかな?」
え? それが尋ね事なの?
ちょっとばかり拍子抜けしたと言ってもいいだろう。
もちろん冷静に考えれば、ウルハンガに協力するという事だってかなり神経をすり減らしそうだけど、それでも事前に質問の中身をあれこれと想像して頭を悩ませていた事を考えるとちょっと自分がバカみたいだ。
「尋ね事とはそれなんですか?」
「そうだよ。何かおかしいかな」
そりゃまあウルハンガが仲間になってくれたなら、なんて事もこっちは考えていたわけで協力だって中身次第ではやぶさかではない。
ウルハンガがこっちの想像通り『神の座を取り戻したい存在』ならば、いったい何をつかさどり、信徒に何を求めるのかを教えてくれて、それに納得出来るのならば手を貸してもいいと思っている。
しかしいきなり協力を求められて、はいそうですかと応じるわけにもいかないのだ。
「僕は君が尋常で無い能力を有している事や、ある『不変の世界』の住民から強い加護を得ている事は気付いているよ。そして何よりも君は僕の考えをかなりの程度理解出来ているように見受けられるね」
そうか。この世界ではやはりウルハンガのような『物事を相対的に考える』のは一般には受け入れられるものではないからな。
ただやっぱりこの態度からして、オレと同じ世界の出身者という事はないらしい。
ここはオレとしても少しばかりガッカリしたところだが、そこは致し方ないだろう。
「それでもあなたはこっちを『敵になるかもしれない』と言ったでしょう。そんな相手に助力を求めるんですか?」
「うん。だからこそ敵に回すよりも味方につけたいんだ。そんなのは当然の考えだと思うけどね」
そりゃ間違ってないけど、ここまで割り切って考えられるのはどこか人間離れ ―― この世界でも元の世界でも等しく ―― しているように感じられるな。
「協力を頼むにしても、もっと色々とあるでしょう」
「なるほど。お互いについてもっとよく知った上で、一歩ずつ信頼関係を構築し、そしてより深い仲になるやり方だね」
それって普通に聞いたら『恋人関係』でしょ。
風呂を覗きたがるハロリック達もマセガキだと思ったけど、ウルハンガはむしろ老成しているというべきか。
しかしオレが幼女化していなかったら、今までのように『男女の関係』についてもいろいろと想像してしまっただろうな。
そう考えると現状も悪くない ―― ことはないぞ。
「君は自分の事については聞かれたくないように思えたからね。だから単刀直入にこちらの望みをぶつけたのだけどマズかったかな? それでは――」
「ああ分かりました。こっちの事はいいですから、ウルハンガは何をしたくて、こっちに何をさせたいのか、それを言って下さい」
「報酬については聞かないのかい?」
どうでもいいとは言わないけど、オレにとって最も重要なのは『自分の行動に己が納得出来るかどうか』であって報酬には殆ど興味は無い。
「そんなのは後回しでいいですよ」
「分かったよ。そうだね――」
ここでウルハンガは少しばかり考える様子を見せる。それは自分の意図をどういう言葉で表現すべきかを考慮しているように見えた。
「簡単に言えば、僕の望みは『解放』だよ」
それはよくあるパターンだとウルハンガの本体はどこかに封印されていて、ここに姿を見せているのはごく一部だけなので少年の姿にならざるを得ないとかいう展開だろうか。
そして『本体』の解放を望んでいて、オレに協力させたいなどと考えているのか?
ならばこの孤児院に来たのは、その『本体』がここにあるとか、そうでなくとも手がかりが秘められているという話だったりするのか。
「それはつまり自分の『本当の力』を解放したいと言うことですか?」
仮にウルハンガが何らかの神の一部であり、それで『封印』された本体が解放されたとしても、いきなり他の神と同等の強大な力を振るう事は出来ない。
その次には信徒を獲得して、崇拝の力を集めなければならないはずなのだ。
しかもウルハンガは『神々の世界では厄介者』扱いだと言っていた。
既存の神々から嫌われていると言うならば、それはつまり神々の『現体制』をひっくり返すような何かを考えているということではないのだろうか。
しかしここでウルハンガは小さく微笑む。
「僕自身の力なんてどうでもいいんだよ。なぜなら僕には力なんてないんだ。『不変の世界』では単なる影にすぎないような、そんな小さな存在だからね」
そんな些細な存在なのに神々から『厄介者』だって言うのか?
ただやかましいだけの『嫌われ者』とかそっちなのか?
いや。違う。
今までオレが出会ってきた神や精霊とは大きく異なるのはウルハンガの価値観であり、その主張だ。
そしてここでウルハンガは改めてオレに頬笑みかける。
「僕は自分の考えを世界に広めたい。そして多くの人に受け入れてもらいたい。この考えを『解放』することこそが僕の望みなんだよ」
ウルハンガは柔らかく、それでいて断固とした決意を持ってオレに言い切った。
この不可思議な少年、ウルハンガの望みが自分の考えを広める事だって?
これまでの発言からするとウルハンガの考えは『神や正義を含め、あらゆるものを相対的に考える』というもので、この世界の基準の一般的なものよりもむしろオレの考え ―― つまり元の世界 ―― に近いだろう。
ただウルハンガが元の世界とは無関係とすれば、この世界に新たな思想もたらす存在なのか。
そしてこの世界にその考えを広める事が、神々の中で厄介がられているという事になる。
だけどやっぱり不可思議なところがある。
それはガーランドとの千年前の戦いについてだ。
ここまでオレが得た情報ではウルハンガは千年前に『英雄にして背教者』であるガーランドの仇敵だったはずだ。
そもそもオレがここに来たのはそのガーランドの足跡を辿るのが目的だった。
そしてその『英雄』に興味を抱いた理由は、オレと同じように『宗教に無節操』な存在だと思ったからだ。
ガーランドの伝説では、彼はいろいろな勢力や神々の元で英雄になったと思えば、またそれを裏切って背教者となったとされている。
その一連の行動が、どこか『宗教の枠を超えた思考』の持ち主に感じられて、オレはそこに興味を抱いてここまで来たのだ。
もちろんオレは別にガーランドの信奉者ではないし、本当にウルハンガが千年前の仇敵だったとしてもそんな事でどうこうする気は無い。
ウルハンガ自身が言うように、そんな過去の敵対関係などどうだっていいのだ。
しかし今まで得た情報とウルハンガの発言からすると、ガーランドとウルハンガはこの世界の基準に照らせば、むしろ両者は近い存在に思えてくる。
やっぱりここでも伝説が誤りで、本当はウルハンガとガーランドは仇敵ではなく、その関係が大きく誤解されて広まっているのかもしれない。
ひょっとすると互いの考えが近かったからこそ、両者は主導権を巡って相争ったのだろうか?
そこをどうにか確認してみたい。
「あなたの考えを広めるのに協力する事が悪いとは思いません。だけど千年前の事を教えてくれますか?」
「それはまた随分と古い話だね」
「その名前は千年前の伝説にあるものですからね。興味を持って当然だと思いますよ」
「いいよ ―― と言いたいところだけど、僕はその千年前の事は殆ど知らないんだ」
「え? どういうことですか?」
自分でウルハンガだとかラーショナラだとか、千年前にガーランドと戦ったとされる存在だと名乗っていたのじゃないのか?
「当たり前じゃないか。僕は千年前のウルハンガとは別の存在だよ。だから何が起きたのかなんて覚えていないよ」
確かに『伝説の存在の転生』だとしても、記憶まで受け継いでいるかどうかは分からない。しかしそれでも何か知っている事はあるはずだ。
そうでなければ目的意識を持ってこの孤児院に来ている事が説明出来ない。
「それでも知っている限りで構いませんので教えて下さい」
「分かったよ。千年前の僕はどうやら『完全なるもの』として不完全なものたちに創造されたらしいんだ」
ここでウルハンガは皮肉めいた態度で肩をすくめる。
「ああ。もちろん君の言いたい事は分かっている。前にも言っていたけど、この世に完全なるものなど絶対に存在しない」
だいたい世界が ―― 元の世界もこの世界も等しく ―― 完全である事などあり得ない。だからこれだけ多様なのだ。
以前に出会った『第五階級』の連中はそんな不完全な世界を完全なものとするため、人間性を殆ど否定してしまっていたけど、幸か不幸かウルハンガはそっちとはむしろ逆で『多様性』や『相対性』を重んじているらしい。
「何よりも不完全なものたちが完全なものを創造する事など不可能だ。だから僕は今でもこの通り不完全なままなのさ」
その不完全なものたちと言うのは、言い換えると自分たちが『不完全』だと自覚していたからこそ『完全なるもの』を求めて新しい神を創造したということなのだろう。
新しい神を創る、と言うのは元の世界ではある意味で簡単な事だった。
なぜなら大勢の人間が信じればいいのだから。
それはこの世界でも似たようなもので、本当に信心を捧げる人間が大勢いればそこに神が生まれる。
ただしこっちの場合は、本当に神様が生まれて、信徒達に恩恵を与えてくれるわけだから『自分たちでいっちょ神様の一つでも創ってやろうか』と考える人間が出ても何の不思議もないはずだ。
たぶん『○○神に俺はなる!』という夢を追い求めるのと同じぐらい、自分の望み通りの神を創る事を目指している人間がいるのだろう。
「そして今と同じく自分の考えを広め、それによって世界を変革しようとした。しかしガーランドはそれに敵対して戦い、その結果として千年前のウルハンガは敗れて滅ぼされたのさ」
その話を信じるとすれば、ガーランドとウルハンガは本当に仇敵関係だったのか?
ガーランドはウルハンガを《裏切りもの》と呼んだらしいが、その思想に共鳴したけど結局は裏切られたという事なのだろうか。
それが千年前の真実の一端だとしても、オレにとっては謎が深まるばかりだ。
しかしここでオレの耳には別の声が響いてきた。
「おおい! 先生が帰ってきたぞ!」
どうやらモラーニが帰ってきたらしく、ウルハンガとの話はいったん打ち切りとせざるを得ないようだ。
「ウルハンガ、話はここまでに ―― あれ?」
オレが振り向いた時、ウルハンガはいつの間にか視界から消えていたのだった。
オレの正体 ―― いろいろと複雑で一言ではとても言い表せないけど ―― について聞くのだろうか?
それともオレの有する力についてか。
これまでの経緯やここにいる理由かもしれない。
もしもウルハンガが本当に『元神』なら、オレの崇拝についての情報だってあり得る。
いろいろな事が脳裏をよぎり、不安がかき立てられる。
何を聞かれるのかよく分からないが、その場しのぎの嘘をついてもウルハンガは簡単に見抜くだろうという妙な確信だけはあった。
そして緊張と共に待つオレに対して、ウルハンガはあっさりと問いかけてくる。
「君はこれからしばらく僕に協力してくれないかな?」
え? それが尋ね事なの?
ちょっとばかり拍子抜けしたと言ってもいいだろう。
もちろん冷静に考えれば、ウルハンガに協力するという事だってかなり神経をすり減らしそうだけど、それでも事前に質問の中身をあれこれと想像して頭を悩ませていた事を考えるとちょっと自分がバカみたいだ。
「尋ね事とはそれなんですか?」
「そうだよ。何かおかしいかな」
そりゃまあウルハンガが仲間になってくれたなら、なんて事もこっちは考えていたわけで協力だって中身次第ではやぶさかではない。
ウルハンガがこっちの想像通り『神の座を取り戻したい存在』ならば、いったい何をつかさどり、信徒に何を求めるのかを教えてくれて、それに納得出来るのならば手を貸してもいいと思っている。
しかしいきなり協力を求められて、はいそうですかと応じるわけにもいかないのだ。
「僕は君が尋常で無い能力を有している事や、ある『不変の世界』の住民から強い加護を得ている事は気付いているよ。そして何よりも君は僕の考えをかなりの程度理解出来ているように見受けられるね」
そうか。この世界ではやはりウルハンガのような『物事を相対的に考える』のは一般には受け入れられるものではないからな。
ただやっぱりこの態度からして、オレと同じ世界の出身者という事はないらしい。
ここはオレとしても少しばかりガッカリしたところだが、そこは致し方ないだろう。
「それでもあなたはこっちを『敵になるかもしれない』と言ったでしょう。そんな相手に助力を求めるんですか?」
「うん。だからこそ敵に回すよりも味方につけたいんだ。そんなのは当然の考えだと思うけどね」
そりゃ間違ってないけど、ここまで割り切って考えられるのはどこか人間離れ ―― この世界でも元の世界でも等しく ―― しているように感じられるな。
「協力を頼むにしても、もっと色々とあるでしょう」
「なるほど。お互いについてもっとよく知った上で、一歩ずつ信頼関係を構築し、そしてより深い仲になるやり方だね」
それって普通に聞いたら『恋人関係』でしょ。
風呂を覗きたがるハロリック達もマセガキだと思ったけど、ウルハンガはむしろ老成しているというべきか。
しかしオレが幼女化していなかったら、今までのように『男女の関係』についてもいろいろと想像してしまっただろうな。
そう考えると現状も悪くない ―― ことはないぞ。
「君は自分の事については聞かれたくないように思えたからね。だから単刀直入にこちらの望みをぶつけたのだけどマズかったかな? それでは――」
「ああ分かりました。こっちの事はいいですから、ウルハンガは何をしたくて、こっちに何をさせたいのか、それを言って下さい」
「報酬については聞かないのかい?」
どうでもいいとは言わないけど、オレにとって最も重要なのは『自分の行動に己が納得出来るかどうか』であって報酬には殆ど興味は無い。
「そんなのは後回しでいいですよ」
「分かったよ。そうだね――」
ここでウルハンガは少しばかり考える様子を見せる。それは自分の意図をどういう言葉で表現すべきかを考慮しているように見えた。
「簡単に言えば、僕の望みは『解放』だよ」
それはよくあるパターンだとウルハンガの本体はどこかに封印されていて、ここに姿を見せているのはごく一部だけなので少年の姿にならざるを得ないとかいう展開だろうか。
そして『本体』の解放を望んでいて、オレに協力させたいなどと考えているのか?
ならばこの孤児院に来たのは、その『本体』がここにあるとか、そうでなくとも手がかりが秘められているという話だったりするのか。
「それはつまり自分の『本当の力』を解放したいと言うことですか?」
仮にウルハンガが何らかの神の一部であり、それで『封印』された本体が解放されたとしても、いきなり他の神と同等の強大な力を振るう事は出来ない。
その次には信徒を獲得して、崇拝の力を集めなければならないはずなのだ。
しかもウルハンガは『神々の世界では厄介者』扱いだと言っていた。
既存の神々から嫌われていると言うならば、それはつまり神々の『現体制』をひっくり返すような何かを考えているということではないのだろうか。
しかしここでウルハンガは小さく微笑む。
「僕自身の力なんてどうでもいいんだよ。なぜなら僕には力なんてないんだ。『不変の世界』では単なる影にすぎないような、そんな小さな存在だからね」
そんな些細な存在なのに神々から『厄介者』だって言うのか?
ただやかましいだけの『嫌われ者』とかそっちなのか?
いや。違う。
今までオレが出会ってきた神や精霊とは大きく異なるのはウルハンガの価値観であり、その主張だ。
そしてここでウルハンガは改めてオレに頬笑みかける。
「僕は自分の考えを世界に広めたい。そして多くの人に受け入れてもらいたい。この考えを『解放』することこそが僕の望みなんだよ」
ウルハンガは柔らかく、それでいて断固とした決意を持ってオレに言い切った。
この不可思議な少年、ウルハンガの望みが自分の考えを広める事だって?
これまでの発言からするとウルハンガの考えは『神や正義を含め、あらゆるものを相対的に考える』というもので、この世界の基準の一般的なものよりもむしろオレの考え ―― つまり元の世界 ―― に近いだろう。
ただウルハンガが元の世界とは無関係とすれば、この世界に新たな思想もたらす存在なのか。
そしてこの世界にその考えを広める事が、神々の中で厄介がられているという事になる。
だけどやっぱり不可思議なところがある。
それはガーランドとの千年前の戦いについてだ。
ここまでオレが得た情報ではウルハンガは千年前に『英雄にして背教者』であるガーランドの仇敵だったはずだ。
そもそもオレがここに来たのはそのガーランドの足跡を辿るのが目的だった。
そしてその『英雄』に興味を抱いた理由は、オレと同じように『宗教に無節操』な存在だと思ったからだ。
ガーランドの伝説では、彼はいろいろな勢力や神々の元で英雄になったと思えば、またそれを裏切って背教者となったとされている。
その一連の行動が、どこか『宗教の枠を超えた思考』の持ち主に感じられて、オレはそこに興味を抱いてここまで来たのだ。
もちろんオレは別にガーランドの信奉者ではないし、本当にウルハンガが千年前の仇敵だったとしてもそんな事でどうこうする気は無い。
ウルハンガ自身が言うように、そんな過去の敵対関係などどうだっていいのだ。
しかし今まで得た情報とウルハンガの発言からすると、ガーランドとウルハンガはこの世界の基準に照らせば、むしろ両者は近い存在に思えてくる。
やっぱりここでも伝説が誤りで、本当はウルハンガとガーランドは仇敵ではなく、その関係が大きく誤解されて広まっているのかもしれない。
ひょっとすると互いの考えが近かったからこそ、両者は主導権を巡って相争ったのだろうか?
そこをどうにか確認してみたい。
「あなたの考えを広めるのに協力する事が悪いとは思いません。だけど千年前の事を教えてくれますか?」
「それはまた随分と古い話だね」
「その名前は千年前の伝説にあるものですからね。興味を持って当然だと思いますよ」
「いいよ ―― と言いたいところだけど、僕はその千年前の事は殆ど知らないんだ」
「え? どういうことですか?」
自分でウルハンガだとかラーショナラだとか、千年前にガーランドと戦ったとされる存在だと名乗っていたのじゃないのか?
「当たり前じゃないか。僕は千年前のウルハンガとは別の存在だよ。だから何が起きたのかなんて覚えていないよ」
確かに『伝説の存在の転生』だとしても、記憶まで受け継いでいるかどうかは分からない。しかしそれでも何か知っている事はあるはずだ。
そうでなければ目的意識を持ってこの孤児院に来ている事が説明出来ない。
「それでも知っている限りで構いませんので教えて下さい」
「分かったよ。千年前の僕はどうやら『完全なるもの』として不完全なものたちに創造されたらしいんだ」
ここでウルハンガは皮肉めいた態度で肩をすくめる。
「ああ。もちろん君の言いたい事は分かっている。前にも言っていたけど、この世に完全なるものなど絶対に存在しない」
だいたい世界が ―― 元の世界もこの世界も等しく ―― 完全である事などあり得ない。だからこれだけ多様なのだ。
以前に出会った『第五階級』の連中はそんな不完全な世界を完全なものとするため、人間性を殆ど否定してしまっていたけど、幸か不幸かウルハンガはそっちとはむしろ逆で『多様性』や『相対性』を重んじているらしい。
「何よりも不完全なものたちが完全なものを創造する事など不可能だ。だから僕は今でもこの通り不完全なままなのさ」
その不完全なものたちと言うのは、言い換えると自分たちが『不完全』だと自覚していたからこそ『完全なるもの』を求めて新しい神を創造したということなのだろう。
新しい神を創る、と言うのは元の世界ではある意味で簡単な事だった。
なぜなら大勢の人間が信じればいいのだから。
それはこの世界でも似たようなもので、本当に信心を捧げる人間が大勢いればそこに神が生まれる。
ただしこっちの場合は、本当に神様が生まれて、信徒達に恩恵を与えてくれるわけだから『自分たちでいっちょ神様の一つでも創ってやろうか』と考える人間が出ても何の不思議もないはずだ。
たぶん『○○神に俺はなる!』という夢を追い求めるのと同じぐらい、自分の望み通りの神を創る事を目指している人間がいるのだろう。
「そして今と同じく自分の考えを広め、それによって世界を変革しようとした。しかしガーランドはそれに敵対して戦い、その結果として千年前のウルハンガは敗れて滅ぼされたのさ」
その話を信じるとすれば、ガーランドとウルハンガは本当に仇敵関係だったのか?
ガーランドはウルハンガを《裏切りもの》と呼んだらしいが、その思想に共鳴したけど結局は裏切られたという事なのだろうか。
それが千年前の真実の一端だとしても、オレにとっては謎が深まるばかりだ。
しかしここでオレの耳には別の声が響いてきた。
「おおい! 先生が帰ってきたぞ!」
どうやらモラーニが帰ってきたらしく、ウルハンガとの話はいったん打ち切りとせざるを得ないようだ。
「ウルハンガ、話はここまでに ―― あれ?」
オレが振り向いた時、ウルハンガはいつの間にか視界から消えていたのだった。
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