異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第9章 『思想の神』と『英雄』編

第211話 ガーランドとウルハンガの真実は?

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 ウルハンガが去った後、オレの眼前で『ガーランド』が苦悩する姿は、本当に生きているかのようだ。
 それは『本物のガーランド』が自分の遺志を伝えるために魔法で創った幻影とは思えないほどのものだった。
 その原因は先ほど姿を見せ、そして消えたウルハンガしかあり得ない。
 本来ならば感情など持っているはずも無く、ただ単なるレコーダーでしか無いはずの『このガーランド』がなぜこんなことをしているのか、魔法の知識などないオレには確証などないが、作成者が余程強い感情を抱いていたとしか考えようがないな。
 それほどまでにガーランドはウルハンガを恨んでいたのだろうか。
 いずれにしてもオレにとってはウルハンガに対処する貴重な手がかりだ。
 ここはどうにか情報を引き出したい。

『う……裏切りもの』

 その言葉は確かウルハンガを蔑視する側の言葉であり、またガーランドがウルハンガをそう呼んでいた事が理由だったとは聞いている。
 ガーランドの幻影はその『裏切りもの』が姿を見せた事で、秘められた敵意をかき立てられたのか?

 いや。何かがおかしいぞ。
 だがただの遺志を後世に伝えるための魔法的な幻影に過ぎないはずの『このガーランド』がこれほど苦悩する様子を見せるということは、ウルハンガに対し極めて激しい感情を抱いていたのは間違いない。
 しかし見た限りでは『このガーランド』はウルハンガを憎んでいるとか敵視しているとか、そんな様子ではないのだ。
 もちろんオレに人の心を読む事なんて出来ないけど、自分自身の行いについての苦衷のように思える。
 そして苦しげなガーランドは思わぬ事をその口からこぼす。

『ウルハンガ……いや。ラーショナラよ……』
「え? ラーショナラ? それは確か……」

 そうだ。ウルハンガはいろいろな姿で描かれ、異なった名前で崇拝されていたんだな。
 オレと初対面の時にラーショナラについても言及していたけど、それは女神として崇拝されている時の名前だったっけ ―― え? まさか?!
 この時、オレの脳裏にはちょっと前にモラーニから聞いた『ウルハンガはその美しい外見で多くの人間を魅了した』という話が思い出された。
 オレの目の前に姿を見せたのがあの少年の姿だったからすっかり失念していたけど、ウルハンガは女神の姿もとるのだった。
 そうだとすればガーランドがその美しい女神の姿に魅了されていたとしても、何の不思議も無いだろう。
 この世界では英雄が女神様の恋人になるなんてありふれた話だ。
 そしてガーランドがウルハンガ ―― この場合は女神のラーショナラ ―― の恋人だったという事は十分に考えられることだ。

 そして神話ではしばしば気まぐれな女神が一度愛した英雄を裏切って、その命を奪ったという話も見られる。
 ウルハンガは気まぐれでは無いかも知れないけど、善悪には無頓着だから悪意は無くとも結果的に裏切ってしまったという事もありうる。
 そうするとガーランドは愛する女神に裏切られたという、その苦悩を背負って戦っていたのだろうか。
 この想像が正しいとしたら、ガーランドはウルハンガの思想を脅威視したとか、そういう大義とは無関係に、もの凄く個人的な動機で大陸を巻き込む大戦争を引き起こしていたということになるな。
 オレの場合、そんな恋をした事なんて一度も無い ―― しかも今のオレは女の身で、かつ幼女なのでなおさら縁遠い ―― けどそこまで思い詰める事はあり得るかもしれない。

 いや。待てよ。その想像も疑問だ。
 ガーランドはいろいろな勢力と手を組み、そこでウルハンガとその支持者を打ち払ったらそれまでの味方とも手を切り、ウルハンガを追い求めてまた別の勢力と共に戦うという事を繰り返していたらしい。
 一度は愛したウルハンガに裏切られた事がその原因だとしたら、やっぱり強烈な怨恨を抱いていないとおかしいぞ。
 やっぱり違うのか。
 ええい。ただの遺志を伝える幻影が悩んでいる光景を見ていると、こっちの悩みもドンドンと深くなっていくよ。
 本当に『ガーランド』という英雄は他人を悩ませ、混乱させるのだな。
 しかしオレがいろいろと考えていると、幻影の方は眼前にいるオレなど完全無視のままで頭を抱えつつ、天を仰いでいた。

『おお……我がラーショナラよ……我は裏切りを……』

 この言葉は普通に考えると、この地で協力し、また袂を分かったイロールの事になるのか?
 いや。たぶん違う。

「待って下さい。あなたはいったい誰を裏切ったんですか?」
『我は愛する女神ラーショナラを裏切った……故に我は自らを《裏切りもの》と蔑んだ』

 ええ?! それでは伝説でガーランドが『裏切りもの』と言っていたのは、自分自身の事だったの?
 そうか。先ほどからガーランドが自分を『正義』だと唱える事の無いのに違和感があったけど、本当にガーランドはそう思っていなかったのだろう。
 そしてそのガーランドの自らを蔑んだ言葉だけが一人歩きして、事情の知らない人間達が誤解して、いつの間にか『ガーランドがウルハンガを裏切りものと呼んでいた』事になってしまったのではないか。
 まったくこの話はつくづくややこしいな。

 しかしいったい何が理由でガーランドは愛していたはずのウルハンガ=ラーショナラを裏切り、戦い続ける道を選んだんだ?
 それがひょっとしたら今のこの状況を切り抜ける鍵となるかもしれない。
 そう思ってオレは改めて『ガーランド』に向かうが、そこで次にガーランドが発したものは ―― いつものように ―― こっちの想像を大きく裏切るものだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 オレは『幻影のガーランド』に向けて必死で問いかける。
 それは本来ならば、テレビ画面に向けて話しかけるような不毛で滑稽な行為の筈なのだが希望があるかぎりすがらないわけにはいかないのだ。

「教えて下さい。なぜあなたはウルハンガ、いえ、ラーショナラを裏切ったのですか?」
『我はラーショナラを心から愛した。だからこそ裏切ったのだ』
「いったいどうしてですか?」
『我は最初、ラーショナラと共にその理想を追い求め、大いなる帝国を作り上げたのだ』

 なるほど。最初はやっぱりこの二人は協力しあっていたのか。
 なんとなくそんな気はしていました。
 ガーランドとウルハンガの考えは殆ど違いが無い様子だったし、いろいろな伝説でも両者の一筋縄でいかない関係は言及されていたからね。

『しかし次第に我はそれに苦しむ事となった』

 それは理想と現実が食い違っていた事が理由なのだろうか。
 ウルハンガの唱える『人間の神からの解放』によって発展を成し遂げたかもしれないが、その先にはやはり神とは無縁の人間同士の争いとなりい、それに失望したということなのかもしれない。
 そう言えば日本の原作無しオリジナルロボットアニメの最長話数を誇る作品の最終クールは、若者達が独立戦争で勝利すれば理想の社会が創られると信じていたのに、それがあっさりと裏切られ、愛機を自爆させるのが最後の抵抗という、リアルであっても爽快感の欠片もない話だったな。

 しかし現実に失望したからと言って、長年に渡って愛し、力を合わせた女神を倒そうとするものだろうか。
 まだ何か裏があるのは間違いないな。

『我は気付いたのだ、愛する女神が消滅するかもしれない事に――』
「ええ?! いま消滅と言ったのですか?」

 つまりガーランドはウルハンガを消滅させる道を知っているということなの?
 だけどそれでもワケが分からない。
 この口調ではガーランドは愛する女神ラーショナラを消滅させたくないから、共に力を合わせて大帝国を築き上げた女神を裏切り、敵となり、苦悩しつつ戦い、最終的には打ち倒したということになる。
 いくら何でも無茶苦茶過ぎる。

 ガーランドが狂気に陥ったわけではないのは、この苦悩に満ちた幻影を見れば分かる。少なくとも正気の判断の結果だろう。
 だけどこの話が嘘でないとしたら、この原因はなんだろう?
 帝国の拡大によりウルハンガ=ラーショナラはその力を浪費し、次第に消滅への道を進んでいたと言う事になるのだろうか?
 確かにウルハンガは普通の神と違って崇拝を殆ど必要とはしていないようだけど、それでも支配地域が拡大し、信者が増えているのに力が却って減少し、消滅の危機を迎えるというのはどうにもおかしな話だ。

「教えて下さい! どうしてあなたの愛する女神が消滅の危機を迎えたのですか? そしてあなたが敵に回らずともそれを止める術は無かったのですか?」

 オレはガーランドに対して必死に問いかけた。
 しかしそれが何のためなのかは自分でもよく分からない。
 確かにこのままウルハンガを放置するわけにもいかない。
 その場合は間違いなく、多大な流血の惨事を招くだろう。

 しかしそれではオレはウルハンガを消滅させたいのだろうかと考えると、それも違うんだな。
 なぜならオレはウルハンガの言っている事が決して誤りでは無い事を知っているから。
 それは『この世界の現状』にはそぐわないかも知れないけど、将来的には必ず元の世界と同じように『物事を相対化して考える』思想が主流になると思えるからだ。
 だってこの世界の人間と元の世界の人間は結局、大差は無い。
 だから遠い将来には、きっと同じような道をたどって、全く同じでは無いにしても似たような世界になるんじゃなかろうか。
 もちろん元の世界で『物事を相対化して考える』思想が広まったのは、長い期間に渡って多大な犠牲を出し続けた結果であって、そのための道のりの長さを考えると気が遠くなってくる。
 つまりウルハンガがこれから招く流血は『必然的な犠牲』と考えるべきなのかもしれないし、そうするとオレがかの神を止めようとしているのは『歴史の歯車を止めようとする愚行』という事になるのかもしれない。
 そしてオレ自身、どこか縁の無い遠いところでウルハンガが活動し、戦争を引き起こしていたとしても、それを止めようとは思わなかっただろう。
 そう考えるとオレがやろうとしている事は、ただの自己満足に過ぎないのかもしれない。
 だけどそれが分かっていても、やっぱりオレはウルハンガを止めたい。
 それは今後、この世界で流れる流血全体から見れば取るに足らない、大河の一滴に過ぎないのかもしれないけど、それでもオレは自分の力の及ぶ範囲でどうにかしたいのだ。
 そのためにも『このガーランド』には何としても千年前の真相を語ってもらわねばならない。

『我が女神ラーショナラの教えは、摩擦こそあれど次第に人間の間に広まっていった。そして当初はそれによって彼女の力はいや増していた。だが常に共にいた我は気づいた ―― 気づいてしまったのだ――』
「そこで何をしているのですか?」

 ええ? まさか?!
 ガーランドの話がキモの部分にさしかかったところで、モラーニが院長室のドアを開けて中に入ってきたのだった。
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