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第9章 『思想の神』と『英雄』編
第213話 エウスブスに再会して
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オレの前に現れたエウスブスは見たところ身体のあちこちに包帯を巻いている結構、痛々しそうな姿だ。
もちろん致命傷になるような傷は一つもないのは分かっているが、それでも痛いに決まっているだろうに、こんな所に来ているとはどういうつもりだろうか。
まだ体力が万全でないからか、初対面の時に身につけていた重装の鎧では無く、軽そうな革鎧をまとっているが、腰にさした剣は相変わらず物騒な空気を漂わせている。
まあこの近隣はあちこちで武力紛争が勃発している様子だから、周囲の人間も警戒は敢えて近寄ってはこないけど、せいぜい『どこかの傭兵崩れ』ぐらいに見ているらしい。
そんなエウスブスの方も、オレの姿を見てさすがに驚いた様子だ。
こっちが尋常な幼女でないことは気付いていたらしいけど、さすがに孤児院を出て一人でこんな所にまで来ているとは思わなくて当たり前か。
「アルタシャ……君がどうして? 孤児院にいたのではないのかい?」
「えっと……エウスブスさんも怪我はいいのですか?」
ここはちょっとばかり話を逸らさせてもらうとしよう。
エウスブスは負傷しているとは言え、軽傷なのでオレが本気になれば治すのは難しくないだろう。
オレの能力を見せるべきかどうかは分からないけど、場合によっては助けになるかもしれない ―― 最悪、殺戮など始めた場合はオレの魔法でどうにかして官憲に突き出すしかないけどな。
それにオレが船をこぎ出して、このフェルスター湖に出るよるも、やはりここは知り合いであるエウスブスを頼った方が賢明だろう。
いろいろと危ない男ではあるが話は通じるし、うまくすれば利害を一致させて、ウルハンガを共に追う事も出来るかもしれない。
モラーニのようにあっさりと納得してくれるかどうか不安だけど、エウスブスもオレの能力については察していたから、ちょっとばかり ―― 本当はかなり ―― 突拍子の無い話でも耳を傾けてはくれるだろう。
そして何よりもエウスブスはウルハンガを『偉大な太陽神の眷属』として自分の崇拝する『地界の太陽神シャガーシュ』と近しい存在として認識し、探していたワケだから『ウルハンガ生誕伝説のある幻の島』探しに乗り気になってくれる可能性は高い。
もっともこれまでのオレの場合、簡単に話が進んだ事なんて無いわけで、期待半分というところだな。
「ひょっとすると君は僕と一緒にいたくて、ここまで追ってきてくれたのかな」
「そんなわけありません!」
やっぱり期待は大外れだったようだ。
思わず叫んだオレの拒絶の言葉を聞いて、エウスブスは少しばかり落胆の色を見せる。
「そこまで即答されると僕もちょっと傷つくなあ」
まあ本気で言っているわけで無いのは分かっているが、コイツには微妙にロリコンのケがあるような気がするぞ。
「それはともかく、こう見えても僕は我が神が命じる『弱者の庇護』に命を賭けているつもりなんだよ」
その『弱者の庇護』が時には『弱者を殺戮してその魂を神の御許に送ること』を意味すると知っていなければ、こっちももっとあなたを当てに出来たかもしれないのですけどね。
「それでどうしてエウスブスさんはここに来たのですか? まだ傷も癒えていないのでしょう?」
「大丈夫だよ。君のようなかわいい女の子の応援があれば、僕は幾らでも戦えるから」
よくまあ今のオレのような幼女相手にして、そんな恥ずかしい台詞がさらっと口から出るもんだな。
あんたは『虐殺の神』よりも『女たらしの神』にでも入信している方がお似合いだろう。
「それはともかく――」
ここでエウスブスの表情が一気に引き締まる。その視線の鋭さはオレでも一瞬、背筋が寒くなる程だった。
「これは噂なんだけどグバシ信徒達が、この近辺で暗躍しているらしい。この前、僕達と戦ったのもその一派だった。そしてその理由は、かの邪神が復活するかもしれないからだそうだ」
「それでどうしてこの湖なんですか?」
まあ『完全なるもの』ウルハンガ=『裏切りもの』グバシとすれば、そんなの当たり前なのだけど、 エウスブスの認識はこっちとかなり違っているので、ここはその考えているところは確認しておかねばならないだろう。
「このフェルスター湖ではウルハンガ創造の儀式が行われた事で最大の聖地であったのだけど、前に伝えたようにウルハンガは邪神グバシによって破壊されてしまい、皮肉にも最大の聖地に存在した寺院はもっとも腐敗した寺院となっていたんだ」
「それを英雄ガーランドが打倒したという事になっているのです?」
「もちろんその手助けをしたのが、我らシャガーシュの信徒だったのだけどね」
エウスブスはどこか誇らしげだが、どうやら『千年前に消えた幻の島』という伝説そのものは根強く残っているらしい。
そうか。なぜウルハンガがその地を目指したのか、なんとなく見当がついてきた。
重要なのかウルハンガが生まれた場所かどうかという話ではない。
そこで『何か凄いものが生まれ。伝説がある』という人々の認識だ。
もしもこの湖の中心に今まで伝説のみに語られ、存在を認識されていなかった島が、その伝説と共に姿を現せば否応なしに、この近辺の人間全てがウルハンガの存在を意識するだろう。
もちろんそれは正式な崇拝ではないが、ウルハンガは通常の神とは異なっているので、たぶんそれだけでもある程度の力を得られるか、少なくともその切っ掛けになるのではないだろうか。
そうだとすると ―― ウルハンガを止めるのに時間はあまり残っていないだろう。
こうなったらエウスブスをどうにか説得して、タラスター島に向かう船を調達してもらうしかないだろう。
漕ぎ手の人の危険はあるけど、エウスブスなら交渉して割り増し料金で、島の伝説のあるあたりまで行ってもらえるかもしれない。
「あのう。エウスブスさん。一つお願いがあるのですけど――」
「大丈夫。分かっているよ」
どういうわけかエウスブスは先刻承知とばかりに頷く。
「僕と同じく、アルタシャもタラスター島を目指しているのだろう? それで僕に同行を願いたいのと、島を探すために船頭を雇って欲しいというところかな?
「それは……その通りです」
「君は前にもウルハンガやグバシについて熱心に聞いていたけど、やっぱり君もグバシ復活の脅威を察してここに来たのかい?」
これはちょっと返答に窮せざるを得ない。
つくづくこの男は察しがいいのか悪いのかよく分からないな。
「分かっているよ。君にも不安はあるのだろう。しかし心配することは無いさ。いくら何でも邪神がそうそう復活するはずがない」
もちろんそれが当たり前です。
よくあるファンタジー小説なら『封印を破壊する』だの『王女様を生け贄に捧げる』とかで、邪神が復活して世界を危機に陥れる事が珍しく無い。
だがこの世界の神様は崇拝の力あってのものだから、かつて滅んだ神様を復活させるのは、元の世界で言えば『数百年前に滅んだ国を再興する』ようなものであって極めて難しい。
仮に可能になったとしてもそこでいきなり世界を席巻するような力を持てるはずもなく、一から地道に信徒を募って力を蓄えねばならないのだ。
しかしウルハンガは『思想の神』なので、本人に力がなくともその思想を広める事で、大きな影響を周囲に与える事が出来るのではないか。
本人の力は微々たるものでも、それに共鳴した人間達の力が大きなうねりになる ―― う~ん。まるで『主人公』のようだ。
そういえば主張している事も『絶対の正義は無い』『物事は相対的に考えるべき』『力は使い方で善悪が決まる』だから、やっぱりどっちかと言えば主人公ぽいな。
だったらその妨害を計るオレは『悪役』なのかもしれない。
いま現在はともかく遠い将来、オレの住んでいた元の世界のようにウルハンガのような考えが主流になったら、邪魔をした連中は『正しい思想を弾圧した悪党』として語られる事になる可能性だってありうるな。
まあオレの場合は、今ですら周囲どころか大陸中で本人の実像とかけ離れた評価をされまくっているせいで、もう遠い将来にどんな事を言われようと全く気にもならない自信はあるけどな。
「何者かが悪行を企んではいるのだろうけど、この僕が連中と戦って、それを食い止めるだけだよ」
「エウスブスさんが、ひとりでですか?」
そりゃまあエウスブスがオレの助けになることを期待はしたけど、いくら何でも無茶が過ぎませんか?
相手はウルハンガを『自分達の悪行を正当化する邪神』と信仰しているカルト教団なんですよね。
「いや。僕は一人では無いよ」
「ひょっとしてこちらを数に入れていませんか?」
もちろんオレはこの幼女の身でも人並み以上の事が出来るつもりだけど、あまり頼られるわけにもいかないのだ。
「まさか。君のような女の子を入れるはずが無いよ」
エウスブスはいつものごとくさわやかそのものの笑顔を見せる。
「僕の味方は我が同胞達だよ。彼らは死せる後も我が神の御許から、変わらずこの僕を見つめていて、いざという時は助けになってくれるはずだ」
うう。それって完全に『狂信者』の発想だな。
そんな事をさらっと何の気負いも無く、笑顔で言い切れるのだからやっぱりヤバい人だという認識を新たにせざるを得ない。
「それではタラスター島へ連れて行ってくれる人を探すとしようじゃないか。もちろん君も一緒だけど、僕がいるから心配ないよ」
この人の頬笑みはウルハンガとはまた違った怖さがあるよ。
しかし随分と簡単に言い切っているけど、ここの漁師さんがそうそう簡単に見知らぬ相手に船を貸してくれるだろうか?
幾ら金を出すとは言え、結構不吉な話のあるところですよね?
だがこのオレの予想はまたしても裏切られる事となる。
「なんだ。あんた達もかい? 最近、そういう奴らが多いなあ」
エウスブスに声をかけられた漁師は『いつもの事』と言わんばかりに応じている。
なんだ? オレ達に以外にもタラスター島を目指している連中がいるのか?
いや。ウルハンガが復活したという噂が広まっているとしたら、その生まれた場所と呼ばれる『伝説の島』を探す奴が出てきても何の不思議も無い。
もちろんその動機だって、ウルハンガの味方と敵はもちろん、学術的な興味や知的好奇心から、さらには単純な宝探し目当ての人間など多岐にわたるはず。
何しろ元の世界でも、何代にもわたって徳川埋蔵金を探し続けている人たちだっていたんだ。こっちの世界でもその手の文字通り『一山当てたい人間』は大勢いて当然だろう。
推測だけど『そこには莫大な宝が眠っている』『偉大なアーティファクトが隠されている』とかいう、無責任な伝説だってあちこちにあるに違いない。
もちろん千年前の伝説を本気で追い求めている人間などそう多いはずが無いが、いったん何かで火がつけば、我も我もと人が押し寄せるのは全く珍しい事では無い。
これはウルハンガの敵・味方だけでなく、それとは別のいろいろな『邪魔者』をどうにかせねばならないみたいだな。
現時点での唯一の味方 ―― 眼前のエウスブス ―― もいろいろと危険性を抱えているわけで、気がつくと周囲が地雷原になっているのはオレにとってはいつもの事とは言えど、決して慣れる事の無い状況だ。
もちろん致命傷になるような傷は一つもないのは分かっているが、それでも痛いに決まっているだろうに、こんな所に来ているとはどういうつもりだろうか。
まだ体力が万全でないからか、初対面の時に身につけていた重装の鎧では無く、軽そうな革鎧をまとっているが、腰にさした剣は相変わらず物騒な空気を漂わせている。
まあこの近隣はあちこちで武力紛争が勃発している様子だから、周囲の人間も警戒は敢えて近寄ってはこないけど、せいぜい『どこかの傭兵崩れ』ぐらいに見ているらしい。
そんなエウスブスの方も、オレの姿を見てさすがに驚いた様子だ。
こっちが尋常な幼女でないことは気付いていたらしいけど、さすがに孤児院を出て一人でこんな所にまで来ているとは思わなくて当たり前か。
「アルタシャ……君がどうして? 孤児院にいたのではないのかい?」
「えっと……エウスブスさんも怪我はいいのですか?」
ここはちょっとばかり話を逸らさせてもらうとしよう。
エウスブスは負傷しているとは言え、軽傷なのでオレが本気になれば治すのは難しくないだろう。
オレの能力を見せるべきかどうかは分からないけど、場合によっては助けになるかもしれない ―― 最悪、殺戮など始めた場合はオレの魔法でどうにかして官憲に突き出すしかないけどな。
それにオレが船をこぎ出して、このフェルスター湖に出るよるも、やはりここは知り合いであるエウスブスを頼った方が賢明だろう。
いろいろと危ない男ではあるが話は通じるし、うまくすれば利害を一致させて、ウルハンガを共に追う事も出来るかもしれない。
モラーニのようにあっさりと納得してくれるかどうか不安だけど、エウスブスもオレの能力については察していたから、ちょっとばかり ―― 本当はかなり ―― 突拍子の無い話でも耳を傾けてはくれるだろう。
そして何よりもエウスブスはウルハンガを『偉大な太陽神の眷属』として自分の崇拝する『地界の太陽神シャガーシュ』と近しい存在として認識し、探していたワケだから『ウルハンガ生誕伝説のある幻の島』探しに乗り気になってくれる可能性は高い。
もっともこれまでのオレの場合、簡単に話が進んだ事なんて無いわけで、期待半分というところだな。
「ひょっとすると君は僕と一緒にいたくて、ここまで追ってきてくれたのかな」
「そんなわけありません!」
やっぱり期待は大外れだったようだ。
思わず叫んだオレの拒絶の言葉を聞いて、エウスブスは少しばかり落胆の色を見せる。
「そこまで即答されると僕もちょっと傷つくなあ」
まあ本気で言っているわけで無いのは分かっているが、コイツには微妙にロリコンのケがあるような気がするぞ。
「それはともかく、こう見えても僕は我が神が命じる『弱者の庇護』に命を賭けているつもりなんだよ」
その『弱者の庇護』が時には『弱者を殺戮してその魂を神の御許に送ること』を意味すると知っていなければ、こっちももっとあなたを当てに出来たかもしれないのですけどね。
「それでどうしてエウスブスさんはここに来たのですか? まだ傷も癒えていないのでしょう?」
「大丈夫だよ。君のようなかわいい女の子の応援があれば、僕は幾らでも戦えるから」
よくまあ今のオレのような幼女相手にして、そんな恥ずかしい台詞がさらっと口から出るもんだな。
あんたは『虐殺の神』よりも『女たらしの神』にでも入信している方がお似合いだろう。
「それはともかく――」
ここでエウスブスの表情が一気に引き締まる。その視線の鋭さはオレでも一瞬、背筋が寒くなる程だった。
「これは噂なんだけどグバシ信徒達が、この近辺で暗躍しているらしい。この前、僕達と戦ったのもその一派だった。そしてその理由は、かの邪神が復活するかもしれないからだそうだ」
「それでどうしてこの湖なんですか?」
まあ『完全なるもの』ウルハンガ=『裏切りもの』グバシとすれば、そんなの当たり前なのだけど、 エウスブスの認識はこっちとかなり違っているので、ここはその考えているところは確認しておかねばならないだろう。
「このフェルスター湖ではウルハンガ創造の儀式が行われた事で最大の聖地であったのだけど、前に伝えたようにウルハンガは邪神グバシによって破壊されてしまい、皮肉にも最大の聖地に存在した寺院はもっとも腐敗した寺院となっていたんだ」
「それを英雄ガーランドが打倒したという事になっているのです?」
「もちろんその手助けをしたのが、我らシャガーシュの信徒だったのだけどね」
エウスブスはどこか誇らしげだが、どうやら『千年前に消えた幻の島』という伝説そのものは根強く残っているらしい。
そうか。なぜウルハンガがその地を目指したのか、なんとなく見当がついてきた。
重要なのかウルハンガが生まれた場所かどうかという話ではない。
そこで『何か凄いものが生まれ。伝説がある』という人々の認識だ。
もしもこの湖の中心に今まで伝説のみに語られ、存在を認識されていなかった島が、その伝説と共に姿を現せば否応なしに、この近辺の人間全てがウルハンガの存在を意識するだろう。
もちろんそれは正式な崇拝ではないが、ウルハンガは通常の神とは異なっているので、たぶんそれだけでもある程度の力を得られるか、少なくともその切っ掛けになるのではないだろうか。
そうだとすると ―― ウルハンガを止めるのに時間はあまり残っていないだろう。
こうなったらエウスブスをどうにか説得して、タラスター島に向かう船を調達してもらうしかないだろう。
漕ぎ手の人の危険はあるけど、エウスブスなら交渉して割り増し料金で、島の伝説のあるあたりまで行ってもらえるかもしれない。
「あのう。エウスブスさん。一つお願いがあるのですけど――」
「大丈夫。分かっているよ」
どういうわけかエウスブスは先刻承知とばかりに頷く。
「僕と同じく、アルタシャもタラスター島を目指しているのだろう? それで僕に同行を願いたいのと、島を探すために船頭を雇って欲しいというところかな?
「それは……その通りです」
「君は前にもウルハンガやグバシについて熱心に聞いていたけど、やっぱり君もグバシ復活の脅威を察してここに来たのかい?」
これはちょっと返答に窮せざるを得ない。
つくづくこの男は察しがいいのか悪いのかよく分からないな。
「分かっているよ。君にも不安はあるのだろう。しかし心配することは無いさ。いくら何でも邪神がそうそう復活するはずがない」
もちろんそれが当たり前です。
よくあるファンタジー小説なら『封印を破壊する』だの『王女様を生け贄に捧げる』とかで、邪神が復活して世界を危機に陥れる事が珍しく無い。
だがこの世界の神様は崇拝の力あってのものだから、かつて滅んだ神様を復活させるのは、元の世界で言えば『数百年前に滅んだ国を再興する』ようなものであって極めて難しい。
仮に可能になったとしてもそこでいきなり世界を席巻するような力を持てるはずもなく、一から地道に信徒を募って力を蓄えねばならないのだ。
しかしウルハンガは『思想の神』なので、本人に力がなくともその思想を広める事で、大きな影響を周囲に与える事が出来るのではないか。
本人の力は微々たるものでも、それに共鳴した人間達の力が大きなうねりになる ―― う~ん。まるで『主人公』のようだ。
そういえば主張している事も『絶対の正義は無い』『物事は相対的に考えるべき』『力は使い方で善悪が決まる』だから、やっぱりどっちかと言えば主人公ぽいな。
だったらその妨害を計るオレは『悪役』なのかもしれない。
いま現在はともかく遠い将来、オレの住んでいた元の世界のようにウルハンガのような考えが主流になったら、邪魔をした連中は『正しい思想を弾圧した悪党』として語られる事になる可能性だってありうるな。
まあオレの場合は、今ですら周囲どころか大陸中で本人の実像とかけ離れた評価をされまくっているせいで、もう遠い将来にどんな事を言われようと全く気にもならない自信はあるけどな。
「何者かが悪行を企んではいるのだろうけど、この僕が連中と戦って、それを食い止めるだけだよ」
「エウスブスさんが、ひとりでですか?」
そりゃまあエウスブスがオレの助けになることを期待はしたけど、いくら何でも無茶が過ぎませんか?
相手はウルハンガを『自分達の悪行を正当化する邪神』と信仰しているカルト教団なんですよね。
「いや。僕は一人では無いよ」
「ひょっとしてこちらを数に入れていませんか?」
もちろんオレはこの幼女の身でも人並み以上の事が出来るつもりだけど、あまり頼られるわけにもいかないのだ。
「まさか。君のような女の子を入れるはずが無いよ」
エウスブスはいつものごとくさわやかそのものの笑顔を見せる。
「僕の味方は我が同胞達だよ。彼らは死せる後も我が神の御許から、変わらずこの僕を見つめていて、いざという時は助けになってくれるはずだ」
うう。それって完全に『狂信者』の発想だな。
そんな事をさらっと何の気負いも無く、笑顔で言い切れるのだからやっぱりヤバい人だという認識を新たにせざるを得ない。
「それではタラスター島へ連れて行ってくれる人を探すとしようじゃないか。もちろん君も一緒だけど、僕がいるから心配ないよ」
この人の頬笑みはウルハンガとはまた違った怖さがあるよ。
しかし随分と簡単に言い切っているけど、ここの漁師さんがそうそう簡単に見知らぬ相手に船を貸してくれるだろうか?
幾ら金を出すとは言え、結構不吉な話のあるところですよね?
だがこのオレの予想はまたしても裏切られる事となる。
「なんだ。あんた達もかい? 最近、そういう奴らが多いなあ」
エウスブスに声をかけられた漁師は『いつもの事』と言わんばかりに応じている。
なんだ? オレ達に以外にもタラスター島を目指している連中がいるのか?
いや。ウルハンガが復活したという噂が広まっているとしたら、その生まれた場所と呼ばれる『伝説の島』を探す奴が出てきても何の不思議も無い。
もちろんその動機だって、ウルハンガの味方と敵はもちろん、学術的な興味や知的好奇心から、さらには単純な宝探し目当ての人間など多岐にわたるはず。
何しろ元の世界でも、何代にもわたって徳川埋蔵金を探し続けている人たちだっていたんだ。こっちの世界でもその手の文字通り『一山当てたい人間』は大勢いて当然だろう。
推測だけど『そこには莫大な宝が眠っている』『偉大なアーティファクトが隠されている』とかいう、無責任な伝説だってあちこちにあるに違いない。
もちろん千年前の伝説を本気で追い求めている人間などそう多いはずが無いが、いったん何かで火がつけば、我も我もと人が押し寄せるのは全く珍しい事では無い。
これはウルハンガの敵・味方だけでなく、それとは別のいろいろな『邪魔者』をどうにかせねばならないみたいだな。
現時点での唯一の味方 ―― 眼前のエウスブス ―― もいろいろと危険性を抱えているわけで、気がつくと周囲が地雷原になっているのはオレにとってはいつもの事とは言えど、決して慣れる事の無い状況だ。
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