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第9章 『思想の神』と『英雄』編
第218話 ウルハンガとの再会、そして真の目的
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エウスブスと別れてからしばらくの間、オレはここに集まっていた他の連中を避けつつ魔力で強化した移動力で目指す『ウルハンガの光』の元へと駆けていた。
もちろんエウスブスの事は心配だが、どうにか無事であることを祈るしか無いのは本当に心苦しい。
しかしいつまでも悩んでいたところで何の意味も無い。ここで立ち止まって何もしないという選択肢だけはオレには無いのだ。
もっともエウスブスは『オレの使命を果たせ』と言っていたけど、あいにくオレは誰かに命じられて行動しているわけじゃない。
あくまでもオレの意志で行動しているんだよ ―― その点はこの件が片付いたらとっくりと説教してやりたいところだ。だからエウスブスには何とか生き抜いて欲しいと切に願うけど、オレ自身他人に偉そうに説教出来るような安泰でもないのだけどな。
ただし幸運にも隠れて移動しているオレを今のところ、見つけて追いかけてくる相手はいないようだ。
ここに集まったいろいろな勢力は、肉眼だけでなく魔法でもいろいろな手段で周囲を警戒はしていただろうけど、さすがに今のオレのように五歳児程度の相手が忍び込んでくるとは想定していなかったのだろう。
まさか魔法実験の失敗の結果であるこの幼女の身に感謝する時が来るとは、まったく世の中は分からないものだな。
そんなわけで戦いを避けつつ、光を発している元にたどりついたとき、すでに日は暮れ、かろうじて薄暮が残っている程度だった。
周囲を見回すと思っていた通りと言うべきか、これと言っためぼしいものは何もなく、ただのちょっとした丘に過ぎないようだ。
まあウルハンガをかたどった大きな神像だとか、寺院の遺跡だとか、そんなあからさまに重要そうなものがあったら、真っ先にここに来た連中が抑えていてオレなんか近づく事も出来なかっただろうけどな。
そしてそこでオレの目に一瞬だがまばゆい光が差し込み、視界が奪われる。
だがその白一色の視界のなかに、まるで光の中から湧いて出てくるかのように一つの人影が姿を見せた。
もうここまで来ると相手が何者なのかは考えるまでもない。
そこに現れたのはまばゆいばかりの光輝を放ちつつ、高貴に満ちた容貌の精悍な二十歳ぐらいの若い男性だった。
薄い金髪は後光を浴びて、その頭頂部は『天使の輪』のごとく輝き、その容貌は最高のギリシャ彫刻ですらかすませるほどの調和と美を醸し出していた。
ただ普通だったら圧倒されていたかもしれないけど、こうなることをどことなくオレも予想していたからか、さほど驚きはしなかったな。
「やあ。よく来てくれたね。待っていたよ」
「あなたは……ウルハンガなんですか?」
これはどちらかと言えば、質問と言うよりは確認だった。
「ああそうだよ。君にはだいぶ変わったように見えるだろうけど、ウルハンガだ。だけどそれでも一目で分かってくれると思っていたよ。嬉しいね」
そう言って大人になったウルハンガは、見た者を誰であっても安堵させるに足る柔らかい微笑みと、その後光で周囲を照らしつつオレに向けて手をさしのべる。
その姿は元の世界の世界的宗教でよく描かれている宗教画の定番を彷彿とさせるような、まばゆく威厳があり、それでいて親しみを感じさせるようなものだった。
「最初に来るのは君だろうと、なんとなく思っていたよ」
「なんとなく? 随分と頼りない言い方ですね」
これだけ外見が立派に変わっていても、内面はそれほど変わらないのだろうか。
オレのこのツッコミに対して、ウルハンガは静かに笑みを浮かべる。
「言われて見ればその通りだね。ただ断っておくけど、この僕には予知能力はないから、先の事は分からないのさ」
まあ神様でも未来の事は分からないのは当たり前だけど、そこでオレはついつい別の事にツッコミを入れてしまう。
「身体がそんなに大きくなった割にはまだ『僕』なんですか?」
ここでオレは大分前 ―― などと言ってもまだ三ヶ月かそこらだけど ―― に出会ったマニリア帝国の皇帝ウァリウスもそういえば一人称が『僕』だったな、などと思い出す。
「それは君がそう思っているからだよ。僕は言って見れば、相手の心を写す鏡みたいなところもあるものだから、君が僕の存在をそう受け止めているのさ」
「なるほど。それはいいでしょう」
見るものによってウルハンガの姿がまるで違うのはそういう理由なのか。
もっとも邪神として忌み嫌っている相手でも醜い姿になるわけではないらしいから、そこはかなり都合よく出来る能力なんだろうけど。
まあオレにとって今さらウルハンガの外見だの、言葉使いだのはどうでもいい。
「あなたはこの周囲で戦いが繰り広げられているのを分かっているのでしょう? だったらすぐにでも止めて下さい」
「最初に僕に頼むのはそれなのかい? 大丈夫だよ。もう戦いは終わっているから」
「え? どういうことですか?」
「ここからよく見たまえ」
そういえばさっきから大人になったウルハンガを注視していたせいか、周囲の事は全く見えていなかったな。
ウルハンガの言葉に従い、周囲を見回すとそこには夕闇の中に輝く半透明の大きな人影が立ち上がっていた。
そして周囲で争っていた連中は誰もが、その姿を目の当たりにして呆然と心を奪われたように見つめている事がなんとなくオレにも分かった。
「さあ君の頼み通り、ここでの戦いを終わらせたよ。これで少しはこちらの事も分かってくれたかな?」
自らをかたどった半透明の光の巨像 ―― もしくは虚像 ―― を前にしてウルハンガは誇らしげだ。
周囲に集まっていた連中、特につい先ほどまで戦っていた敵同士ですら、まるで魂を奪われたかのように『光の巨人』とでも言うべき姿となったウルハンガを見つめている。
こっちの世界でも光の魔法で光を放つ事は可能だが、もちろんそれが出来るのはごく一部の裕福な人間だけだから、元の世界のように街の光でかき消されることはない。
おそらくこの姿はこのフェルスター湖の湖岸のほとんどから見えているだろう。
ただ見る限りではウルハンガの光は淡いもので、たぶん日中だったら陽光にかき消されてほとんど見えなかったに違いない。
そして深夜だったら、ほとんどの人間は明かりもなく寝ているだろうから、目撃者は多くはなかったはずだ。
日が沈み薄暮の残るだけとなったこの時間帯を、わざわざ選んでウルハンガはその存在を示したのだろう。
ここで傍らに立っているウルハンガの本体はオレに問いかけてくる。
「これはどうかな? 僕は『光の眷属』と言っても太陽神では無いからね、この時間を敢えて選ばざるを得なかったのだよ」
まるでオレの心を読んだかのように、ウルハンガは少しばかり自慢げに説明をしている。
「これで心を奪われた人々を信徒にしようというわけですか?」
この世界の神様は人間の意志を自由にすることは出来ないが、自らの権能を示して崇拝を獲得する事は可能だ。
だからここでウルハンガは自らを巨大な光の巨人に変える事で、人々の目と心に自らの存在を焼き付け、信徒を増やそうとしているのだろう。
だがオレの問いかけを聞いたウルハンガは少しばかり落胆した様子を見せる。
「君はあんまり驚いていないようだね」
「だってこれはあなたが光で創った幻影でしょう? ウルハンガ自身がここにいるのに、驚くような事などありませんよ」
オレにすれば、単なる『光の巨人』というだけでは全く驚きはしないよ。
ただ光を放つ人の姿になったぐらいのことではむしろ拍子抜けだ。
空をマッハで飛んでスペ○ウム光線を放てとは言わないけど、その巨体にふさわしいパワーを振るえるのか、と言えばたぶんウルハンガにそんな力はない。
これはあくまでも光でウルハンガが自身の姿をかたどった巨大な幻影に過ぎないのだ。
もちろんそんな事をオレが考えていられるのは、元の世界でこれよりもっとすごい『光に包まれた街』をいつも見てきたからだろう。
この世界の住民にとっては度肝を抜くどころか生涯忘れられない、圧倒されるもの凄い光景に違いないが、オレにとっては子供の頃から眺めていた光景をちょっとひねっただけのものに過ぎないんだよ。
「そんなに簡単に言い切られてしまったら傷つくなあ。神だって別に心を持たないわけでは無いのだよ」
「とりあえず戦いを終わらせてくれた事には感謝します。しかしそれはあくまでもこの場をどうにかしたというだけでしょう?」
「それは当たり前だよ。君も分かっているとおり、こちらには力尽くで人間を黙らせ従わせる力は無いからね。あくまでも人々を導き、我が教えを広める。それが我が神意であり、また神命だということは知っているだろう」
「それでその教えを広める事で、最終的には何が成し遂げられるのですか?」
この問いかけに対してウルハンガは改めて誇らしげに宣言する。
「決まっているよ。この世界のあらゆるものを解放出来るのさ」
「あらゆるものを解放……ですか?」
「そうだよ神から人を、そして人から神を! あらゆるものが解放されて自由に暮らす事が出来るのだ。素晴らしい理想の世界へと近づけるのだよ」
大人になったウルハンガは確信に満ちた笑みを浮かべ、オレに振り向く。
そしてそれを見てオレは今さらながらに直感した。
ウルハンガは自分が神々の世界で厄介者扱いされていたと言っていた。それは恐らく真実なのだろう。
ウルハンガの教えは神の信徒でありつつも、その教義に従う必要がなくなるものだ。
元の世界で言えば『毎日、聖典の教義を読み、その中身を称える敬虔な信徒が、毎日教義とは全く相容れない学術研究にいそしむ』事が何の矛盾も無いように。
それはある意味で『神から人々が解放されている』とも言えるし、それ故に一部の勢力はウルハンガを脅威視して、猛烈に敵視しているのだろう。
しかしそれでもウルハンガを神々が総出で滅ぼしたりしないのには、やっぱり相応の理由があるのだ。
今までオレはイロールのような神々にも出会ってきたが、彼らは決して信徒と一枚岩では無く、信徒の行動を神が知らない事もあれば、逆に神の意志を信徒が理解していない事もしょっちゅうだった。
恐らく神の中には、そんな信徒達との ―― 永遠に続く ―― 不完全な関わりにウンザリしているものもいるのではないか。
そこまでいかなくとも心の片隅にそのような意識を有していたとしても不思議では無い。
この世界の神様はその心理において人間と大して違わないからな。
だからウルハンガは厄介者扱いされつつも、神様達が総出で滅ぼすような事もされないのだろう。
もちろんエウスブスの事は心配だが、どうにか無事であることを祈るしか無いのは本当に心苦しい。
しかしいつまでも悩んでいたところで何の意味も無い。ここで立ち止まって何もしないという選択肢だけはオレには無いのだ。
もっともエウスブスは『オレの使命を果たせ』と言っていたけど、あいにくオレは誰かに命じられて行動しているわけじゃない。
あくまでもオレの意志で行動しているんだよ ―― その点はこの件が片付いたらとっくりと説教してやりたいところだ。だからエウスブスには何とか生き抜いて欲しいと切に願うけど、オレ自身他人に偉そうに説教出来るような安泰でもないのだけどな。
ただし幸運にも隠れて移動しているオレを今のところ、見つけて追いかけてくる相手はいないようだ。
ここに集まったいろいろな勢力は、肉眼だけでなく魔法でもいろいろな手段で周囲を警戒はしていただろうけど、さすがに今のオレのように五歳児程度の相手が忍び込んでくるとは想定していなかったのだろう。
まさか魔法実験の失敗の結果であるこの幼女の身に感謝する時が来るとは、まったく世の中は分からないものだな。
そんなわけで戦いを避けつつ、光を発している元にたどりついたとき、すでに日は暮れ、かろうじて薄暮が残っている程度だった。
周囲を見回すと思っていた通りと言うべきか、これと言っためぼしいものは何もなく、ただのちょっとした丘に過ぎないようだ。
まあウルハンガをかたどった大きな神像だとか、寺院の遺跡だとか、そんなあからさまに重要そうなものがあったら、真っ先にここに来た連中が抑えていてオレなんか近づく事も出来なかっただろうけどな。
そしてそこでオレの目に一瞬だがまばゆい光が差し込み、視界が奪われる。
だがその白一色の視界のなかに、まるで光の中から湧いて出てくるかのように一つの人影が姿を見せた。
もうここまで来ると相手が何者なのかは考えるまでもない。
そこに現れたのはまばゆいばかりの光輝を放ちつつ、高貴に満ちた容貌の精悍な二十歳ぐらいの若い男性だった。
薄い金髪は後光を浴びて、その頭頂部は『天使の輪』のごとく輝き、その容貌は最高のギリシャ彫刻ですらかすませるほどの調和と美を醸し出していた。
ただ普通だったら圧倒されていたかもしれないけど、こうなることをどことなくオレも予想していたからか、さほど驚きはしなかったな。
「やあ。よく来てくれたね。待っていたよ」
「あなたは……ウルハンガなんですか?」
これはどちらかと言えば、質問と言うよりは確認だった。
「ああそうだよ。君にはだいぶ変わったように見えるだろうけど、ウルハンガだ。だけどそれでも一目で分かってくれると思っていたよ。嬉しいね」
そう言って大人になったウルハンガは、見た者を誰であっても安堵させるに足る柔らかい微笑みと、その後光で周囲を照らしつつオレに向けて手をさしのべる。
その姿は元の世界の世界的宗教でよく描かれている宗教画の定番を彷彿とさせるような、まばゆく威厳があり、それでいて親しみを感じさせるようなものだった。
「最初に来るのは君だろうと、なんとなく思っていたよ」
「なんとなく? 随分と頼りない言い方ですね」
これだけ外見が立派に変わっていても、内面はそれほど変わらないのだろうか。
オレのこのツッコミに対して、ウルハンガは静かに笑みを浮かべる。
「言われて見ればその通りだね。ただ断っておくけど、この僕には予知能力はないから、先の事は分からないのさ」
まあ神様でも未来の事は分からないのは当たり前だけど、そこでオレはついつい別の事にツッコミを入れてしまう。
「身体がそんなに大きくなった割にはまだ『僕』なんですか?」
ここでオレは大分前 ―― などと言ってもまだ三ヶ月かそこらだけど ―― に出会ったマニリア帝国の皇帝ウァリウスもそういえば一人称が『僕』だったな、などと思い出す。
「それは君がそう思っているからだよ。僕は言って見れば、相手の心を写す鏡みたいなところもあるものだから、君が僕の存在をそう受け止めているのさ」
「なるほど。それはいいでしょう」
見るものによってウルハンガの姿がまるで違うのはそういう理由なのか。
もっとも邪神として忌み嫌っている相手でも醜い姿になるわけではないらしいから、そこはかなり都合よく出来る能力なんだろうけど。
まあオレにとって今さらウルハンガの外見だの、言葉使いだのはどうでもいい。
「あなたはこの周囲で戦いが繰り広げられているのを分かっているのでしょう? だったらすぐにでも止めて下さい」
「最初に僕に頼むのはそれなのかい? 大丈夫だよ。もう戦いは終わっているから」
「え? どういうことですか?」
「ここからよく見たまえ」
そういえばさっきから大人になったウルハンガを注視していたせいか、周囲の事は全く見えていなかったな。
ウルハンガの言葉に従い、周囲を見回すとそこには夕闇の中に輝く半透明の大きな人影が立ち上がっていた。
そして周囲で争っていた連中は誰もが、その姿を目の当たりにして呆然と心を奪われたように見つめている事がなんとなくオレにも分かった。
「さあ君の頼み通り、ここでの戦いを終わらせたよ。これで少しはこちらの事も分かってくれたかな?」
自らをかたどった半透明の光の巨像 ―― もしくは虚像 ―― を前にしてウルハンガは誇らしげだ。
周囲に集まっていた連中、特につい先ほどまで戦っていた敵同士ですら、まるで魂を奪われたかのように『光の巨人』とでも言うべき姿となったウルハンガを見つめている。
こっちの世界でも光の魔法で光を放つ事は可能だが、もちろんそれが出来るのはごく一部の裕福な人間だけだから、元の世界のように街の光でかき消されることはない。
おそらくこの姿はこのフェルスター湖の湖岸のほとんどから見えているだろう。
ただ見る限りではウルハンガの光は淡いもので、たぶん日中だったら陽光にかき消されてほとんど見えなかったに違いない。
そして深夜だったら、ほとんどの人間は明かりもなく寝ているだろうから、目撃者は多くはなかったはずだ。
日が沈み薄暮の残るだけとなったこの時間帯を、わざわざ選んでウルハンガはその存在を示したのだろう。
ここで傍らに立っているウルハンガの本体はオレに問いかけてくる。
「これはどうかな? 僕は『光の眷属』と言っても太陽神では無いからね、この時間を敢えて選ばざるを得なかったのだよ」
まるでオレの心を読んだかのように、ウルハンガは少しばかり自慢げに説明をしている。
「これで心を奪われた人々を信徒にしようというわけですか?」
この世界の神様は人間の意志を自由にすることは出来ないが、自らの権能を示して崇拝を獲得する事は可能だ。
だからここでウルハンガは自らを巨大な光の巨人に変える事で、人々の目と心に自らの存在を焼き付け、信徒を増やそうとしているのだろう。
だがオレの問いかけを聞いたウルハンガは少しばかり落胆した様子を見せる。
「君はあんまり驚いていないようだね」
「だってこれはあなたが光で創った幻影でしょう? ウルハンガ自身がここにいるのに、驚くような事などありませんよ」
オレにすれば、単なる『光の巨人』というだけでは全く驚きはしないよ。
ただ光を放つ人の姿になったぐらいのことではむしろ拍子抜けだ。
空をマッハで飛んでスペ○ウム光線を放てとは言わないけど、その巨体にふさわしいパワーを振るえるのか、と言えばたぶんウルハンガにそんな力はない。
これはあくまでも光でウルハンガが自身の姿をかたどった巨大な幻影に過ぎないのだ。
もちろんそんな事をオレが考えていられるのは、元の世界でこれよりもっとすごい『光に包まれた街』をいつも見てきたからだろう。
この世界の住民にとっては度肝を抜くどころか生涯忘れられない、圧倒されるもの凄い光景に違いないが、オレにとっては子供の頃から眺めていた光景をちょっとひねっただけのものに過ぎないんだよ。
「そんなに簡単に言い切られてしまったら傷つくなあ。神だって別に心を持たないわけでは無いのだよ」
「とりあえず戦いを終わらせてくれた事には感謝します。しかしそれはあくまでもこの場をどうにかしたというだけでしょう?」
「それは当たり前だよ。君も分かっているとおり、こちらには力尽くで人間を黙らせ従わせる力は無いからね。あくまでも人々を導き、我が教えを広める。それが我が神意であり、また神命だということは知っているだろう」
「それでその教えを広める事で、最終的には何が成し遂げられるのですか?」
この問いかけに対してウルハンガは改めて誇らしげに宣言する。
「決まっているよ。この世界のあらゆるものを解放出来るのさ」
「あらゆるものを解放……ですか?」
「そうだよ神から人を、そして人から神を! あらゆるものが解放されて自由に暮らす事が出来るのだ。素晴らしい理想の世界へと近づけるのだよ」
大人になったウルハンガは確信に満ちた笑みを浮かべ、オレに振り向く。
そしてそれを見てオレは今さらながらに直感した。
ウルハンガは自分が神々の世界で厄介者扱いされていたと言っていた。それは恐らく真実なのだろう。
ウルハンガの教えは神の信徒でありつつも、その教義に従う必要がなくなるものだ。
元の世界で言えば『毎日、聖典の教義を読み、その中身を称える敬虔な信徒が、毎日教義とは全く相容れない学術研究にいそしむ』事が何の矛盾も無いように。
それはある意味で『神から人々が解放されている』とも言えるし、それ故に一部の勢力はウルハンガを脅威視して、猛烈に敵視しているのだろう。
しかしそれでもウルハンガを神々が総出で滅ぼしたりしないのには、やっぱり相応の理由があるのだ。
今までオレはイロールのような神々にも出会ってきたが、彼らは決して信徒と一枚岩では無く、信徒の行動を神が知らない事もあれば、逆に神の意志を信徒が理解していない事もしょっちゅうだった。
恐らく神の中には、そんな信徒達との ―― 永遠に続く ―― 不完全な関わりにウンザリしているものもいるのではないか。
そこまでいかなくとも心の片隅にそのような意識を有していたとしても不思議では無い。
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