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第9章 『思想の神』と『英雄』編
第220話 「神を説得」した結果は
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ウルハンガはしばしの後、改めて口を開く。
「君がいいたいのはこちらも君の国のように、誰もが神のごとき能力を持たないと、僕の思想が広く受け入れられる事はないというのかい?」
「ダメだとは言いませんよ。しかし今はあなたの思想はあくまでも『種』であって、本当に芽吹くのはずっと先になるという事です。だからいま無理をしても、多大な犠牲を出すだけに終わってしまうかもしれないのですから」
実際、元の世界でも『物事は相対的に考えるべき』とする思想はずっと昔から存在したけど、世界の主流になったのはせいぜい数十年の事だというからな。
それは二十世紀に起きた通信や移動手段、あと一般人の得られる情報能力の凄い進歩によってようやく思想に現実がついてきてくれた、というところなんだろう。
つまり殆どの一般人にとって最新の情報は口コミで、移動手段も徒歩かせいぜい馬車に過ぎないこっちの世界では、今のところとても無理としか言いようが無い。
「僕は最初に生まれた時から、今まで千年待ったんだよ。それでもまだ僕は受け入れられないというのかい?」
「ええ……たぶん。まだまだこの世界にあなたの存在は早すぎるんです。千年待ってくれたのなら、もう千年待ってくれませんかね?」
自分で言っておいてこれは無茶な要求だとは思う。
人間は当然だが神様でも千年は短くないだろう。
こっちの世界の千年前だと、一神教である聖セルム教はまだまだマイナーな存在であり、治癒の女神イロールはようやく女神になったかどうかという時代だ。
街や泉など地域の神様程度の存在だと、しょっちゅう滅びたり、神でなくなってしまったりしているぐらいなのだ。
実際に神様に御利益のあるこっちの世界でも、千年あったら神様が忘れられて消え失せるには十分過ぎる時間のはずだ。。
「そうか……千年待ったぐらいではまだダメなのか」
え? 何かあっさりと受け入れているように聞こえるのだけど。
「まあ仕方が無いね。今は世界の主流になるのは諦めよう」
「なんです?! そんなに簡単に諦めていいんですか?」
オレはちょっとどころで無く驚いたよ。
ウルハンガは思想の神なのだから、自分の唱える思想を広める事こそが第一であって、そのための犠牲だとか、周囲の人間の苦悩だとかは全く別の話じゃなかったのか?
だからこそ千年前には、ガーランドと決裂して最後まで戦ったはずだ。
だがそんなオレの眼前でウルハンガはさばさばと言い切る。
「物事には常に順序や時期というものが大事だからね。時期を外していれば、うまくいかないのは当たり前じゃないか。君の故郷ではそういう考えはなかったのかい?」
「それは当たり前ですけど、ウルハンガはそれで納得しているのですか」
「だって僕の目的は自分の思想を広めることだよ。時期がまだというなら、待つのが一番有効な手だという事になるね。もしも君に言っているような事が、こっちでも起きるのなら僕はそれを待てるよ。こう見えても僕は不死の神だからさ。もっともその中で僕は厄介者だけどさ」
なるほど。言われてみればその通りなんだけど、過去の話を聞けば釈然としない。
もちろんただウルハンガとその思想を敵視・蔑視して、滅ぼそうと攻撃してくる相手の言うことを聞かないのは分かる。
だけど味方だったガーランドの説得も聞き入れなかったから、ガーランドはウルハンガを裏切って敵に回ったはず。
いくら千年前のウルハンガと全く同じ存在じゃないからと言って、こんなに簡単に引くのならガーランドだってあんなに悩みながら不毛な戦いをしなくても済んだのでは ―― いや。改めて考えてみるとそういう事ではないな、
ガーランドがウルハンガ ―― 彼にとっては女神ラーショナラ ―― の説得に失敗したのは、愛する女神の人格が消える事を案じて、ただその思想を広めるのを止めようとしたからなのだろう。
オレがさっき唱えたように、今の世界では最終的には受け難いから、引くべきだという切り口で説得しようとしたのなら、聞いてくれたかもしれなかったのか。
もちろんガーランドが愚かというわけじゃない。彼にとって最重要だったのは、最愛の女神の事だったので、それが消えるかも知れないという事で意識が一杯になったのだろう。
そしてオレはウルハンガが唱えるのに近い思想が、当たり前になっていた世界から来たのだから、こっちでは何が足りないのかも見当がつくが、ガーランドの場合はそこまで考えが及ばなくても仕方ない。
もっとも千年前では、どっちにしてもウルハンガの思想が完全に人々に受け入れられて、その結果として神の人格が消えてしまう事は無かったはずだ。
たぶんウルハンガを『裏切りもの』と呼んだ側が見ていたように、当時でもその教えの悪い面が強く出て、悪事を肯定するものと曲解したり、目的にために手段を選ばない人間が大勢いて、結局は挫折したのではないかと思う。
つまりどっちにしてもガーランドの戦いは不毛なだけだったのだろう。
元の世界でも多大な犠牲だけもたらして、全く不毛な結果に終わる戦いは、その原因が宗教でも民族でも国家でも思想でも沢山あった。そしてその多くは二一世紀の感覚だと、何でそんな行き違いで戦争しているのと思わざるを得ないものだったけど、こっちでもそれは同じだと言うことなんだろうな。
どこかホッとしたような、残念なようなちょっと複雑な気分だよ。
少なくともウルハンガが現時点で、この世界に自分の思想を広める事を諦めてくれたのは、こっちとしてはホッとしたところだ。
そして一方のウルハンガはさすがに残念そうには見える。
「それでは僕は改めて引き下がるしかないのか。何とも名残惜しい気分だよ」
ここでオレはずっと前からの疑問を一つ尋ねる事とした。
「ひとつ聞いていいですか? 千年前のあなたとガーランドの戦いはどうなったんです?」
「それについては僕も完全に覚えているわけではないけど、ガーランドは長く戦いすぎて年老い、戦いを続けられなくなっていたよ」
この話が本当ならあの幻影を残してから、数十年、いやこの世界では魔法で寿命が延びる例も結構あるらしいから、下手をすれば数百年にわたり戦いを続けたのか。
一神教徒の中にはガーランドはウルハンガと裏で手を組んで、大陸を破壊するために戦乱を巻き起こしていた、などと唱える学派もあるらしいが、確かに事情を知らないとそんな風に見えてしまうのかもしれないな。
「そしてガーランドは朽ちつつあった身体を魔法で強化して、どんどん人間から離れていったんだよ」
「え? まさか……」
それではまるでサイボーグだけど、一神教徒の魔法が自らの能力強化に重点を置いていたから、ひょっとするとそれと似た形で自分の身を魔法で常時強化するような事をしていたのかもしれないな。
まあ千年前に現代とは隔絶した凄い古代技術があった、と言うのはファンタジーではお約束だけど、この世界では魔法でも何でもそんな都合のいいものは無かったはずだ。
もちろんこっちでは『人間が神になる』事がさして珍しくないのだから、それに近い形で自分の身を変えていくのが可能なのかもしれない。
かなり興味をそそられる話だけど、今はそれは後回しにせざるを得ない。
「最後の頃のガーランドはハッキリ言って人間では無かったと思うよ。もちろん神でも無かったけどね」
この話が本当だとしたら、ガーランドはウルハンガとの戦いの中で、裏切りを繰り返した末にとうとう人間そのものまで裏切ってしまったと言えるのか。
聖女教会のモラーニは『ガーランドもウルハンガのどちらも堕落した存在になりはてていた』と言っていたが、それもまた一面の真実をついていたと言えるかもしれない。
オレが以前に出会ったガーランド ―― 正確にはガーランドの記憶や知識を魔法で残した存在 ―― はウルハンガと敵対したばかりのものだったようだけど、もっと後になったらまるで別人に成り果てているのだろう。
そしてそれを見た人間が『自分の知っているガーランドはこれ』だと記録を残し、更にどいつもコイツも都合よく歪曲と誇張をするので、結局はどの勢力から見てもガーランドはまるで理解出来ない、ワケの分からない存在と化してしまったのだな。
これではウルハンガの主張する思想が一般的になり、ガーランドの行為を勢力とは無関係に網羅し、調べる事でもしない限り、ガーランドが本当に何をしたのかは誰にも分からないに違いない。
ガーランドが命がけで、愛するものを裏切り、人間を辞めてまで否定しようとしたウルハンガの思想でないと、本当に彼が何をしたのか評価しようがないとはこれもまた皮肉というだけでは片付けられない話だな。
「まあいいさ。それよりも僕はまた眠りにつくよ。次に目を覚ますときは、君が言うような世界になっている事を祈るとするよ」
「いったい何に祈るんですか」
どうでもいいような話かもしれないけど、ついついツッコミを入れてしまうのもオレの性分みたいなものだな。
「さあね……アルタシャに対して祈るのでいいかな? 君は言って見れば『我が女神』みたいなものだから」
そう言ってウルハンガは茶目っ気のある笑顔を浮かべる。
「そんな事を言っても何も出ませんよ」
「そうなのかい? この僕と一緒に『不変の世界』に行くと言ってくれるのではないかと、少しは期待していたのだけど」
「あいにくだけど、こっちはそんなところに興味ないんです」
「実に残念だよ」
オレがキッパリと拒否すると、ウルハンガはその肩をすくめる。
「あと『これ』はどうするのですか?」
オレはここで改めて先ほどからずっと輝きを放っている『光の巨人』を指さす。
「それは僕が去れば、これも消えるさ。前にも言ったように僕は影のような存在だったから、その影をこちらの世界に投影しただけなのさ」
しばしばあるパターンだと、本体が消えてもこの手の『影』が残って暴走したりするものだけど、その心配は無いらしいの一安心だ。
「だけどこの僕に対し、何も変わらないところを、あと千年は漂い続ける退屈な世界に行けと言っておいて、自分の方は嫌なのかい?」
「ハッキリ言えばその通りです」
何しろ神の世界に行くなんて、オレの方は真っ平だからね。
そんなわけでここは何としても全力でお断りするしかない。
「それに別に千年とは限りませんよ。もちろんもっと早く、あなたが受け入れられるならそれに越した事は無いですよ」
「逆を言えば千年経ってもまだダメだという事だってありうるのだろう?」
こっちの世界でウルハンガの思想が受け入れられるには、あと何百年、場合によっては千年かそこらかかるかもしれないが、もっと早くそれが達成されるかもしれない。
残念だが予知能力の類いはオレにもウルハンガにも無いので、それは決して答えの出ない話だ。
「君がいいたいのはこちらも君の国のように、誰もが神のごとき能力を持たないと、僕の思想が広く受け入れられる事はないというのかい?」
「ダメだとは言いませんよ。しかし今はあなたの思想はあくまでも『種』であって、本当に芽吹くのはずっと先になるという事です。だからいま無理をしても、多大な犠牲を出すだけに終わってしまうかもしれないのですから」
実際、元の世界でも『物事は相対的に考えるべき』とする思想はずっと昔から存在したけど、世界の主流になったのはせいぜい数十年の事だというからな。
それは二十世紀に起きた通信や移動手段、あと一般人の得られる情報能力の凄い進歩によってようやく思想に現実がついてきてくれた、というところなんだろう。
つまり殆どの一般人にとって最新の情報は口コミで、移動手段も徒歩かせいぜい馬車に過ぎないこっちの世界では、今のところとても無理としか言いようが無い。
「僕は最初に生まれた時から、今まで千年待ったんだよ。それでもまだ僕は受け入れられないというのかい?」
「ええ……たぶん。まだまだこの世界にあなたの存在は早すぎるんです。千年待ってくれたのなら、もう千年待ってくれませんかね?」
自分で言っておいてこれは無茶な要求だとは思う。
人間は当然だが神様でも千年は短くないだろう。
こっちの世界の千年前だと、一神教である聖セルム教はまだまだマイナーな存在であり、治癒の女神イロールはようやく女神になったかどうかという時代だ。
街や泉など地域の神様程度の存在だと、しょっちゅう滅びたり、神でなくなってしまったりしているぐらいなのだ。
実際に神様に御利益のあるこっちの世界でも、千年あったら神様が忘れられて消え失せるには十分過ぎる時間のはずだ。。
「そうか……千年待ったぐらいではまだダメなのか」
え? 何かあっさりと受け入れているように聞こえるのだけど。
「まあ仕方が無いね。今は世界の主流になるのは諦めよう」
「なんです?! そんなに簡単に諦めていいんですか?」
オレはちょっとどころで無く驚いたよ。
ウルハンガは思想の神なのだから、自分の唱える思想を広める事こそが第一であって、そのための犠牲だとか、周囲の人間の苦悩だとかは全く別の話じゃなかったのか?
だからこそ千年前には、ガーランドと決裂して最後まで戦ったはずだ。
だがそんなオレの眼前でウルハンガはさばさばと言い切る。
「物事には常に順序や時期というものが大事だからね。時期を外していれば、うまくいかないのは当たり前じゃないか。君の故郷ではそういう考えはなかったのかい?」
「それは当たり前ですけど、ウルハンガはそれで納得しているのですか」
「だって僕の目的は自分の思想を広めることだよ。時期がまだというなら、待つのが一番有効な手だという事になるね。もしも君に言っているような事が、こっちでも起きるのなら僕はそれを待てるよ。こう見えても僕は不死の神だからさ。もっともその中で僕は厄介者だけどさ」
なるほど。言われてみればその通りなんだけど、過去の話を聞けば釈然としない。
もちろんただウルハンガとその思想を敵視・蔑視して、滅ぼそうと攻撃してくる相手の言うことを聞かないのは分かる。
だけど味方だったガーランドの説得も聞き入れなかったから、ガーランドはウルハンガを裏切って敵に回ったはず。
いくら千年前のウルハンガと全く同じ存在じゃないからと言って、こんなに簡単に引くのならガーランドだってあんなに悩みながら不毛な戦いをしなくても済んだのでは ―― いや。改めて考えてみるとそういう事ではないな、
ガーランドがウルハンガ ―― 彼にとっては女神ラーショナラ ―― の説得に失敗したのは、愛する女神の人格が消える事を案じて、ただその思想を広めるのを止めようとしたからなのだろう。
オレがさっき唱えたように、今の世界では最終的には受け難いから、引くべきだという切り口で説得しようとしたのなら、聞いてくれたかもしれなかったのか。
もちろんガーランドが愚かというわけじゃない。彼にとって最重要だったのは、最愛の女神の事だったので、それが消えるかも知れないという事で意識が一杯になったのだろう。
そしてオレはウルハンガが唱えるのに近い思想が、当たり前になっていた世界から来たのだから、こっちでは何が足りないのかも見当がつくが、ガーランドの場合はそこまで考えが及ばなくても仕方ない。
もっとも千年前では、どっちにしてもウルハンガの思想が完全に人々に受け入れられて、その結果として神の人格が消えてしまう事は無かったはずだ。
たぶんウルハンガを『裏切りもの』と呼んだ側が見ていたように、当時でもその教えの悪い面が強く出て、悪事を肯定するものと曲解したり、目的にために手段を選ばない人間が大勢いて、結局は挫折したのではないかと思う。
つまりどっちにしてもガーランドの戦いは不毛なだけだったのだろう。
元の世界でも多大な犠牲だけもたらして、全く不毛な結果に終わる戦いは、その原因が宗教でも民族でも国家でも思想でも沢山あった。そしてその多くは二一世紀の感覚だと、何でそんな行き違いで戦争しているのと思わざるを得ないものだったけど、こっちでもそれは同じだと言うことなんだろうな。
どこかホッとしたような、残念なようなちょっと複雑な気分だよ。
少なくともウルハンガが現時点で、この世界に自分の思想を広める事を諦めてくれたのは、こっちとしてはホッとしたところだ。
そして一方のウルハンガはさすがに残念そうには見える。
「それでは僕は改めて引き下がるしかないのか。何とも名残惜しい気分だよ」
ここでオレはずっと前からの疑問を一つ尋ねる事とした。
「ひとつ聞いていいですか? 千年前のあなたとガーランドの戦いはどうなったんです?」
「それについては僕も完全に覚えているわけではないけど、ガーランドは長く戦いすぎて年老い、戦いを続けられなくなっていたよ」
この話が本当ならあの幻影を残してから、数十年、いやこの世界では魔法で寿命が延びる例も結構あるらしいから、下手をすれば数百年にわたり戦いを続けたのか。
一神教徒の中にはガーランドはウルハンガと裏で手を組んで、大陸を破壊するために戦乱を巻き起こしていた、などと唱える学派もあるらしいが、確かに事情を知らないとそんな風に見えてしまうのかもしれないな。
「そしてガーランドは朽ちつつあった身体を魔法で強化して、どんどん人間から離れていったんだよ」
「え? まさか……」
それではまるでサイボーグだけど、一神教徒の魔法が自らの能力強化に重点を置いていたから、ひょっとするとそれと似た形で自分の身を魔法で常時強化するような事をしていたのかもしれないな。
まあ千年前に現代とは隔絶した凄い古代技術があった、と言うのはファンタジーではお約束だけど、この世界では魔法でも何でもそんな都合のいいものは無かったはずだ。
もちろんこっちでは『人間が神になる』事がさして珍しくないのだから、それに近い形で自分の身を変えていくのが可能なのかもしれない。
かなり興味をそそられる話だけど、今はそれは後回しにせざるを得ない。
「最後の頃のガーランドはハッキリ言って人間では無かったと思うよ。もちろん神でも無かったけどね」
この話が本当だとしたら、ガーランドはウルハンガとの戦いの中で、裏切りを繰り返した末にとうとう人間そのものまで裏切ってしまったと言えるのか。
聖女教会のモラーニは『ガーランドもウルハンガのどちらも堕落した存在になりはてていた』と言っていたが、それもまた一面の真実をついていたと言えるかもしれない。
オレが以前に出会ったガーランド ―― 正確にはガーランドの記憶や知識を魔法で残した存在 ―― はウルハンガと敵対したばかりのものだったようだけど、もっと後になったらまるで別人に成り果てているのだろう。
そしてそれを見た人間が『自分の知っているガーランドはこれ』だと記録を残し、更にどいつもコイツも都合よく歪曲と誇張をするので、結局はどの勢力から見てもガーランドはまるで理解出来ない、ワケの分からない存在と化してしまったのだな。
これではウルハンガの主張する思想が一般的になり、ガーランドの行為を勢力とは無関係に網羅し、調べる事でもしない限り、ガーランドが本当に何をしたのかは誰にも分からないに違いない。
ガーランドが命がけで、愛するものを裏切り、人間を辞めてまで否定しようとしたウルハンガの思想でないと、本当に彼が何をしたのか評価しようがないとはこれもまた皮肉というだけでは片付けられない話だな。
「まあいいさ。それよりも僕はまた眠りにつくよ。次に目を覚ますときは、君が言うような世界になっている事を祈るとするよ」
「いったい何に祈るんですか」
どうでもいいような話かもしれないけど、ついついツッコミを入れてしまうのもオレの性分みたいなものだな。
「さあね……アルタシャに対して祈るのでいいかな? 君は言って見れば『我が女神』みたいなものだから」
そう言ってウルハンガは茶目っ気のある笑顔を浮かべる。
「そんな事を言っても何も出ませんよ」
「そうなのかい? この僕と一緒に『不変の世界』に行くと言ってくれるのではないかと、少しは期待していたのだけど」
「あいにくだけど、こっちはそんなところに興味ないんです」
「実に残念だよ」
オレがキッパリと拒否すると、ウルハンガはその肩をすくめる。
「あと『これ』はどうするのですか?」
オレはここで改めて先ほどからずっと輝きを放っている『光の巨人』を指さす。
「それは僕が去れば、これも消えるさ。前にも言ったように僕は影のような存在だったから、その影をこちらの世界に投影しただけなのさ」
しばしばあるパターンだと、本体が消えてもこの手の『影』が残って暴走したりするものだけど、その心配は無いらしいの一安心だ。
「だけどこの僕に対し、何も変わらないところを、あと千年は漂い続ける退屈な世界に行けと言っておいて、自分の方は嫌なのかい?」
「ハッキリ言えばその通りです」
何しろ神の世界に行くなんて、オレの方は真っ平だからね。
そんなわけでここは何としても全力でお断りするしかない。
「それに別に千年とは限りませんよ。もちろんもっと早く、あなたが受け入れられるならそれに越した事は無いですよ」
「逆を言えば千年経ってもまだダメだという事だってありうるのだろう?」
こっちの世界でウルハンガの思想が受け入れられるには、あと何百年、場合によっては千年かそこらかかるかもしれないが、もっと早くそれが達成されるかもしれない。
残念だが予知能力の類いはオレにもウルハンガにも無いので、それは決して答えの出ない話だ。
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