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第10章 神造者とカミツクリ
第242話 神造者支部を前にして
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神造者支部としてテセルがさし示したのは中央広場の中でもひときわ高い白亜の高楼だ。
その横にはまた別のかなり大きな石造りピラミッド状の建物がある。
そっちの方は規模だけで言えば、たぶん神造者支部よりも大きいだろうが、高さは低いので見下ろされる形になっているな。
「隣の大きな建物は何なんですか?」
「あっちはこのバッドディール市の神の寺院をかねた市議会の建物だ」
市の神の寺院を見下ろすように神造者支部が建設されているのは、両者の力関係を暗に示しているのだろうか。
だが街の神がすぐ近くにいるとなると、こっちはちょっと身を固めてしまう。
何しろちょっと前にアンブラール神に襲われかけた身だからな。この国の神様はどんな風にしゃしゃり出てくるか分かったもんじゃない。
だがテセルはオレの緊張を察したらしく、優しげに声をかけてくる。
「なあに心配するな。アンブラール神のような大神ならばともかく、街の神程度ならこの僕がいれば手出しはさせんよ」
あんまり当てにならないけど、ここはテセルを頼りにするしか無いな。優しげなのは下心が丸出しだけど、今は許してやろう。
「このように街の中央に円形の広場をもうけ、そこから放射状にそれぞれのエリアを定めるのが神造者のやり方だ」
「つまり帝国の街なら中央広場にさえいけば、だいたいどこに何があるのか見当がつくということなんですか?」
「そういうことだな。だから都市計画においても我が帝国が世界でもっとも優れていると言っても過言ではないぞ」
どうせ『世界の都市計画』なんぞ知りもしない癖に ―― などとツッコミを入れたところで不毛な言い争いにしかならないのは分かっている。
少しはテセルの態度も軟化してきているようだから、ここはオレの方も我慢してやろう。
「ところで神造者支部の隣が市議会という事からすると、支部長のテセルは市議会にも席があるんですか?」
「……相変わらずお前は何も知らんのだな」
どうやら優しげに見えたのは、いつものようにただの錯覚だったようだ。
「それはすみませんね。こっちが何も知らないのが悪いんですから」
「そんなことは言っていない。そもそも無知は悪ではなく、無知を自覚できないのが悪いのだ。自分が無知な田舎者だと理解しているだけでもお前は立派だ……いでぇ!」
「いちいち一言多いと思いませんかね」
オレはちょっとばかり怒りを込めてテセルの太ももをひねり上げていた。《筋力増強》の魔法をかけていないだけありがたいと思ってもらいたいものだ。
「まったく冗談が通じないんだから困ったものだ。そんなにカリカリしていると、若くしてはげるぞ」
本来は男の筈なのに、ほんのちょっと前に大神に襲われて、チェメチョメされかけたこっちがそんなに落ち着いていられるわけないだろうが。
「わたしがそうなった場合、その責任はテセルにあると思いませんか?」
この言葉にテセルは少々困った顔をする。
「う~ん。女性が裸を見たから責任をとれ、と男に迫る話はいまさら珍しくも何ともないが、ハゲたから責任をとれというのはなかなか希少なサンプルだな……もっとも希少なだけで価値は無いが」
「はあ?」
「まあハゲ頭も裸の一部だから、言って見れば別のバージョンなのかな」
「だから何でいつもいつも話を変な方向にもっていくのですか!」
市議会にテセルの席があるかどうかという話だったはずなのに、話題がズレるにもほどがあるだろう。
「分かった。分かった。これからちゃんと説明するから落ち着け」
最初からそうすればいいものを、このセクハラ野郎はつくづく一言多い。
「神造者はあくまでも神や精霊、神話を操作するのが役目だ。だから市政に深く関わりはするが市議会に席などおかない」
やっぱり神造者は立場的にはあくまでも『官僚』であって『政治家』ではないのか。
もっとも市政の実権は握っていそうだけどな。
「ついでに言えば街の神の大司祭は市長を兼ねているが、もちろん神造者はそのような地位にはつかない。あくまでも街の神や眷族の精霊を操作して、この町や周辺地域の発展を手助けするのが役目だ。もちろんこの街の神も、多数の精霊の中からもっとも適切なものを神造者が選び出し、定義したのだからな」
ここでオレには引っかかるところが幾つかあった。
「それで街の神は廃虚側の住民に認められているのですか?」
「愚かしい事だが連中は認めてない。それどころか、この後に及んでまだこちらに逆らい続けているぐらいだ」
「だったら神造者が連中の崇拝する強盗の神はどうにかしないんですか」
「もちろん本気になればどうにでもなるが、すでに信徒もいない『廃神』ならいざ知らず少なくとも信徒のいる神を操作するには、それなりの手間とコストがかかるからな。大した脅威でもないのなら放置するだろう」
まあ相手が自然発生的に生まれた信仰だとすると、一つ潰しても状況が変わらなければ後から同じようなものが出てきて、ただのモグラ叩きになるだけだろうからな。
重大な問題が無いのなら、現状維持を選択するしかないということか。
まあ何にしても詳しい話は、神造者支部に入ってからだろう ―― などと考えているとやっぱりいつものごとく余計な事が待っていたのだが。
その横にはまた別のかなり大きな石造りピラミッド状の建物がある。
そっちの方は規模だけで言えば、たぶん神造者支部よりも大きいだろうが、高さは低いので見下ろされる形になっているな。
「隣の大きな建物は何なんですか?」
「あっちはこのバッドディール市の神の寺院をかねた市議会の建物だ」
市の神の寺院を見下ろすように神造者支部が建設されているのは、両者の力関係を暗に示しているのだろうか。
だが街の神がすぐ近くにいるとなると、こっちはちょっと身を固めてしまう。
何しろちょっと前にアンブラール神に襲われかけた身だからな。この国の神様はどんな風にしゃしゃり出てくるか分かったもんじゃない。
だがテセルはオレの緊張を察したらしく、優しげに声をかけてくる。
「なあに心配するな。アンブラール神のような大神ならばともかく、街の神程度ならこの僕がいれば手出しはさせんよ」
あんまり当てにならないけど、ここはテセルを頼りにするしか無いな。優しげなのは下心が丸出しだけど、今は許してやろう。
「このように街の中央に円形の広場をもうけ、そこから放射状にそれぞれのエリアを定めるのが神造者のやり方だ」
「つまり帝国の街なら中央広場にさえいけば、だいたいどこに何があるのか見当がつくということなんですか?」
「そういうことだな。だから都市計画においても我が帝国が世界でもっとも優れていると言っても過言ではないぞ」
どうせ『世界の都市計画』なんぞ知りもしない癖に ―― などとツッコミを入れたところで不毛な言い争いにしかならないのは分かっている。
少しはテセルの態度も軟化してきているようだから、ここはオレの方も我慢してやろう。
「ところで神造者支部の隣が市議会という事からすると、支部長のテセルは市議会にも席があるんですか?」
「……相変わらずお前は何も知らんのだな」
どうやら優しげに見えたのは、いつものようにただの錯覚だったようだ。
「それはすみませんね。こっちが何も知らないのが悪いんですから」
「そんなことは言っていない。そもそも無知は悪ではなく、無知を自覚できないのが悪いのだ。自分が無知な田舎者だと理解しているだけでもお前は立派だ……いでぇ!」
「いちいち一言多いと思いませんかね」
オレはちょっとばかり怒りを込めてテセルの太ももをひねり上げていた。《筋力増強》の魔法をかけていないだけありがたいと思ってもらいたいものだ。
「まったく冗談が通じないんだから困ったものだ。そんなにカリカリしていると、若くしてはげるぞ」
本来は男の筈なのに、ほんのちょっと前に大神に襲われて、チェメチョメされかけたこっちがそんなに落ち着いていられるわけないだろうが。
「わたしがそうなった場合、その責任はテセルにあると思いませんか?」
この言葉にテセルは少々困った顔をする。
「う~ん。女性が裸を見たから責任をとれ、と男に迫る話はいまさら珍しくも何ともないが、ハゲたから責任をとれというのはなかなか希少なサンプルだな……もっとも希少なだけで価値は無いが」
「はあ?」
「まあハゲ頭も裸の一部だから、言って見れば別のバージョンなのかな」
「だから何でいつもいつも話を変な方向にもっていくのですか!」
市議会にテセルの席があるかどうかという話だったはずなのに、話題がズレるにもほどがあるだろう。
「分かった。分かった。これからちゃんと説明するから落ち着け」
最初からそうすればいいものを、このセクハラ野郎はつくづく一言多い。
「神造者はあくまでも神や精霊、神話を操作するのが役目だ。だから市政に深く関わりはするが市議会に席などおかない」
やっぱり神造者は立場的にはあくまでも『官僚』であって『政治家』ではないのか。
もっとも市政の実権は握っていそうだけどな。
「ついでに言えば街の神の大司祭は市長を兼ねているが、もちろん神造者はそのような地位にはつかない。あくまでも街の神や眷族の精霊を操作して、この町や周辺地域の発展を手助けするのが役目だ。もちろんこの街の神も、多数の精霊の中からもっとも適切なものを神造者が選び出し、定義したのだからな」
ここでオレには引っかかるところが幾つかあった。
「それで街の神は廃虚側の住民に認められているのですか?」
「愚かしい事だが連中は認めてない。それどころか、この後に及んでまだこちらに逆らい続けているぐらいだ」
「だったら神造者が連中の崇拝する強盗の神はどうにかしないんですか」
「もちろん本気になればどうにでもなるが、すでに信徒もいない『廃神』ならいざ知らず少なくとも信徒のいる神を操作するには、それなりの手間とコストがかかるからな。大した脅威でもないのなら放置するだろう」
まあ相手が自然発生的に生まれた信仰だとすると、一つ潰しても状況が変わらなければ後から同じようなものが出てきて、ただのモグラ叩きになるだけだろうからな。
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