異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第10章 神造者とカミツクリ

第261話 テセルと仕事ぶりと

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 それから数日の間、テセルは地元有力者との挨拶にいろいろとかり出され、面白くもない日々を表向き平穏に過ごしていた。
 もちろんオレもその場にかり出されていたので、しょっちゅうセクハラ同然の扱いをされる羽目となっていた。自分で言うのもなんだが、そういう扱いにはかなり耐性がついてきた気がするぞ。
 だがそれは決して、カリアの訴えに対し何もしなかったというわけではない。

「こ、これは……」

 オレは支部長室にうずたかく積み上げられた、書類の束を見て絶句する。
 ぱっと見る限り、大部分は徴税資料だが、それ以外にも人口や産物など各種の統計資料、そして何よりこのバッド・ディール市が帝国領に組み入れられてから行われた、神話修正に関するものが含まれているらしい。
 そして書類を見あげつつテセルは誇らしげに胸を張る。

「なあに僕が直接出向いて資料の提出を迫ったのさ。支部長権限で下級官僚共が『記憶にない』と言い張る資料を持ち出させる事など造作もないからな」
「だけど……これだけの資料をどうするのですか?」
「決まっている。僕が全て調べるんだ」
「はあ?!」

 自信にあふれたテセルの言葉にオレは少々呆気に取られる。
 オレもこの世界における一般人の基準で見れば高等な教育を受けてきた自負はあるが、それでもこれだけの資料にただ目を通すだけで十日は軽くかかるだろう。
 ましてやその内容を調査して報告するとなれば、何ヶ月どころか下手をすれば何年もかかるかもしれない。
 元の世界のようにコンピュータを使えば、どれだけ膨大な資料でも簡単に検索して必要な知識が取り出せるわけではないのだ。
 それをテセルひとりで調べる、となればただのやっつけ仕事にしかならないのではなかろうか。

「本気なんですか?」
「心配するな。別に僕一人でやるわけじゃない」
「ああ……そうなの……」

 考えて見れば当然である。テセルは支部長なのだから、支部の職員を幾らでもアゴで使える立場なのだ。
 だがテセルが次に発した言葉はオレの安堵を木っ端微塵に粉砕した。

「お前も手伝うに決まっているだろ」
「はい?」

 オレは間抜けにもポカンと口をあけつつ、マジマジとテセルの顔を見つめる。

「どうした? 僕にそんなにほれぼれしなくてもいいんだぞ?」

 誰がするか!
 内心の叫びはひとまず置いて、改めてテセルに問いかける。

「こちらが手伝うのですか?」
「当たり前だ。お前は僕の秘書もかねているのだからな。これぐらい手伝って当然だろう」
「支部の人は使わないのですか?」
「カリアの話からすれば、あいつらが隠している事があるかもしれないのだぞ。だったら僕が直接調べないでどうするんだ」

 オレににらみ付けられつつ、テセルは背を向けて資料を積んだ席に腰掛ける。

「文句があるならいつでも辞めていいんだぞ。僕の代わりはいないけど、お前の代わりは幾らでもいるんだからな」
「ああそうですか。だったら名残惜しいですけどテセルとはここでお別れですね」

 オレがあっさりと別れを告げて支部長室を出ようとすると、テセルはその表情を変える。

「おい! ちょっと待て! それではお前がアンブラール神にまた迫られたらどうするつもりだ!」

 こう言ってくるのは分かっていたので、こちらも用意していた返答を行う。

「この国を出るまで、代わりの『婚約者』になってくれる人を金で雇いますよ」
「少しばかり金を積んだところで、そんな危ない事を引き受ける男がそうそういるものか」
「それはテセルが心配することじゃありませんよ」
「だったら残ったダイヤはいいのか?」

 テセルは意地悪そうな笑みを浮かべるが、オレは全く動じない。

「それは一度は命がけで助けてくれたテセルに餞別としてあげますよ。それどころかもらった一個もカリアさんにあげようと思っているぐらいです」

 もともとオレは金にも宝石にも興味ないのだ。ダイヤの原石も捨てるのは勿体ないと思って持っていたけど、加工して有効活用されるなら別にいいと思っている。

「では失礼します」

 オレが改めて支部長室のドアに手をかけると、テセルは諦めたように頭を下げる。

「分かった。僕の負けだ。頼むから手伝って欲しい」
「まあいいでしょう。なら協力しましょう」

 オレには賢者系の魔法はあるから、この手の調査もさほど難しくは無いはず。
 テセルが頭を下げたのを見て、こちらも書類の束に手を伸ばした。

 ほどなく資料に埋め尽くされた部屋は戦場と化した。

「そっちの七三番の資料を取ってくれ。ああそれとこの資料はもう見たから、倉庫に片付けとけよ」

 そういってテセルは眼前の書類から顔を上げようともせず、傍らにおいた一抱えもありそうな書類の束を指さす。

「この束を……ですか?」
「グダグダ言っている暇があったら、手足を動かせ! 口を動かすのはせめて『無能な働き者』になってからにしろ!」
「うぐ……分かりました」

 頭を一度ぐらい下げたからと言って、テセルの態度がいきなり変わるはずも無く、やっぱり傲慢なところは相変わらずだ。
 そしてカビ臭い資料の山に埋もれながら、テセルは矢継ぎ早に指示を出しつつ、次から次へと書類に目を通していく。
 傍目にはただ無造作にページをめくっているだけにすら見えるが、実際には全ての情報を以前に自分が目にしたものと比較して、内容を精査しているらしい。
 推測なのはオレにも仕事の中身を追うことなどとても出来ないからだ。
 確かにオレは賢者系の魔法で一度見た資料を記憶したり、必要な資料の場所を即座に探り出す事は出来るが、しょせん自分自身の頭がよくなるわけではないから、とてもテセルのような真似は出来ない。
 そしてオレは言われた資料を片付けに倉庫に向かう道すがら、支部の人間の働きぶりに目の当たりにする。
 見た限りでは元の世界のお役所と大して違いがあるわけではない。
 支部の神造者達も決してサボっているわけでもなければ、無能者でも無いはずだが、つい先ほど見せられたテセルの働きぶりと比較すれば、まさに雲泥の差であった。
 少なくともあの自称『エリート神造者』がデカイ口を叩くだけの能力と『仕事への熱意』は有している事を思い知らされつつ、オレは支部長室へと戻ろうとするとそこで立ちはだかる影があった。
 それは例によって、能面のような表情を見せるワストリ副支部長だった。
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