異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第10章 神造者とカミツクリ

第262話 ワストリの疑念と、更なる疑問と

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 恐らくはオレをスパイか何かと疑っているらしいワストリの視線を受けて、こちらはいたたまれない気分になる。

「あの……支部長の指示を受けて仕事の最中ですので――」
「それは分かっている。当然というべきかテセル支部長からも君の行動については邪魔をしないよう、釘を刺されているとも」
「他の人達がこちらに話しかけないのも同じ理由ですか?」

 実のところこの神造者支部でも殆どの人間 ―― ちなみに神造者は大半が男性だが、規則上のものではなく、伝統的な男性観の影響のようだ ―― はオレの事をチラ見したり、時には好色そうな視線を向けてきたりもするが、こっちが近づくと背を向けて見て見ぬふりをする。
 要するに『テセルの部下』の殆どからは、こっちはあからさまに避けられているのだ。

「いや。常識があれば『支部長の愛人』に手出しする事の無謀さ、愚かしさは理解出来るというだけのことだ」

 うう。覚悟はしていたつもりだけど、まるで違うのにそう決めつけられている事を突きつけられるとやっぱりこたえるな。
 他の有力者の場合は、こっちにコナをかけてくるのもいたけど、テセルの命令一つでどんな酷い目に遭わされるか分かったものではないこの神造者支部ではオレに近づく人間がいないのは当然か。
 それは仕方ないと割り切るとして、オレは腹芸は苦手なので、ここは単刀直入に本音をぶつける事にしよう。

「わたしをお疑いのようですが、それならハッキリと副支部長が何を懸念されているのかお教え下さい」
「少なくとも若い神造者支部長に、部外者で同年代、何よりも並外れた容姿の異性が同行していたら、いろいろと心配するのは副支部長として当然では無いかね?」

 むう。それは確かに文句のつけようのない正論だな。
 オレが第三者として見ていたら、間違いなくワストリの方が正しいと思うだろう。

「もちろん支部長がお選びになった以上、明白な嫌疑がなければ副支部長たる私でもどうする事もできん。だが常に君を見ていることは忘れるな」
「それはこちらがイロールの信徒だと明かした事も理由に含まれているのですか? いったい何が問題なのでしょうか」

 この問いに対して、ワストリはこちらを値踏みするかのように、じっと見つめてくる。オレの真意を測っているかのようだ。

「この街には君の女神の寺院も無く、周囲でも崇拝しているものはほとんどいない。それにも関わらずわざわざやってきていながら、聖女としての勤めを果たして救貧活動をするわけでもなく、支持者を増やそうとするでもなく、寺院を開くために喜捨や許可を求めるわけでもない。違うかね?」

 まあそれはその通りだ。何しろオレはそもそもイロールの信徒ではないし、ましてや聖女教会からは追われる身なのだから。
 しかしそれを決して口に出来ないのは何とも苦しいな。

「その上で自らの容姿を武器にして、新任の神造者支部長に深く取り入っている。そんな相手の意図に疑問を持たぬ方がおかしくはないか」

 ぬう。やっぱここも正論だ。
 しかしオレがイロールの信徒だと口にした時のワストリはほんの一瞬だが明らかに動揺を見せていた。
 あれは今、主張しているような合理的な ―― ただし実態とは明らかに異なる ―― 推測に基づくものではなく『恐れていた何か』を突きつけられたかのように見えたのだ。
 だけどそれを指摘しても、答えてくれるとは思えない。

「まあいい。どうせ今、何を言おうと真意を答える事は無いだろうからな。ただし繰り返すが私は常に見ている事を忘れるな」

 ワストリは改めてオレに対して釘を刺すと、背を向けて去って行った。
 本気でオレを疑っているらしいのだが、少しばかり違和感があるのも確かだ。
 そしてワストリが去った後、周囲を見回すとこっちを注視し、様子をうかがっていたらしい他の神造者達が慌てて視線を逸らしていた。


 支部長室に戻ると、テセルは相変わらず書類に取り組んでいた。

「書類は指示通り片付けてまいりました」
「ああそう。ご苦労さん。それじゃあ僕も疲れたから少し休もうか」

 ここでテセルはひとまず息をついて、背筋を伸ばす。
 それはいかに超人的な能力を有していても、疲労とは無縁ではいられない事を今の行動は示していた。
 さしもの『怪物』も人の身だと知り、少しはオレも親しみを感じたところで、おずおずと問いかける。

「それで……調べた結果はどうなんですか?」
「まずどう考えても無関係な陳情がうなるほどあってうんざりだ。例えばバッド・ディールは街の神なのに、周辺の農地だの川だの山だのについてどうにかしろと訴えるとか、的外れな崇拝行為を要求するのが多すぎる」
「言っている事は分かりますけど、一般人にとっては一々区別つけていられないから、この『地区の守護神』として話を持ち込むのはやむを得ないのでは……」
「なるほど。お前のような無知な者には、同類の気持ちがよく分かるのだな。おい? 褒めているのになぜ額に青筋を立てるんだ?」
「さあ……なぜでしょうね。書類の角に誰かの頭をぶつけてやりたいと思っているからかもしれませんよ」
「おいおい。そう怒るんじゃない」
「だからテセルはいつもいつも一言多いんですよ」

 まったくテセルとワストリのどっちがまともなのか、いろいろと無駄に考えさせられる状況だよ。
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