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第10章 神造者とカミツクリ
第268話 そしてテセルの決めた事は
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テセルの追求を受けても全く動じること無く答える副支部長の態度が何を意味するかは、オレの目にも明白である。
「当支部には現在、支部長が気に病まれるほどの問題はありません。繰り返しますが一面的な話を鵜呑みにされるのは危険です」
「と言うのが君の『前提』かね?」
「いいえ。紛れも無き事実ですよ」
交渉の余地など無いとばかりに副支部長は断言する。
「それに去年までの資料はどうあれ、今年からはまた順調な発展が見込めますから」
「どうしてそんなことが言えるのだ?」
「もちろん今年からテセル支部長がご就任なされたからです」
これは支部長を持ち上げているのか、それとも『今年も問題が発生したら、それはお前の責任だ』と威嚇しているのか、副支部長の真意をオレが考えあぐねていると、更にワストリは言葉を紡ぐ。
「あなたはまだまだお若いのです。これから時間はいくらでもあります。急ぐ必要は何もありますまい。ここは全て我らにお任せを」
この言葉にテセルはカチンときたらしく、表情が険しいものとなる。
恐らくワストリからは子供扱いされたと思ったのだろう。だけどそれでカッとなるのは、やっぱり子供だと思うけどな。
「年齢と職責は関係無いだろう。私はバッド・ディール支部長の任を与えられた以上、帝国と臣民のために、それを全うするのは当然だ。若輩故に未熟であることは認めるが、それは役目を果たさない理由にはならない」
「ご立派なお覚悟です。支部長がその気高い信念に基づき、早く首都に戻れる事を私も切に願っておりますよ。つきましては中央の神造者学会で高く評価されるであろう論文の執筆にでも専念して下さい」
なるほど。そういうことか。
ワストリの言葉は表向き若い支部長をいたわっているように聞こえるかもしれない。
だがその意味することは、こっちにだって即座に伝わった。
副支部長はここで遠回しに『中央での出世レース前の腰掛けで来ているに過ぎないエリートは、こちらのやる事に口を出すな』と言ったのである。
まあ元の世界でもエリート組と叩き上げの間にいろいろと確執があることは、ドラマなどでよく見てきたけど、こうあからさまに目の当たりにするといい気分はしない。
推測だが先代以前の支部長も、同じようにワストリにお飾りとされてきたのだろう。
たしかに神造者の道をただ裕福な生活と栄誉の為に選んだ人間であれば、そちらの方がよほど楽なのは間違いない。
日々の業務を副支部長以下に任せきりにして、その上で地域の有力者が自分に対し愛想良く頭を下げ続け、貴族同様の快適な生活を送る。
それに魅力を感じない人間などいないはずだ。
「さて。『本題』に入りますが、支部長の今後のご予定はこの通り準備させていただいておりますので、お目通し下さい」
ワストリは書類を机の上に置くと、テセルの返答も聞かず背を向ける。
「明日もよろしくお願いします」
それだけを言ってワストリは支部長室を出ていった。
随分と慇懃無礼で挑発的な態度だな。これがワストリの本性なのか。
それともまだ何か隠していることがあるのだろうか。
もっとワストリがオレをスパイと疑っているなら、こっちがテセルの傍らにいるときには敢えて別の仮面をかぶっていても何の不思議も無いんだよな。
う~ん。ここまでくるとややこしすぎて考えるのは無駄な気がしてくるな。
そしてオレが頭を悩ませている一方でテセルの方はと言えば。
「ふふふ。いいだろう。そっちがその気なら、こっちにも覚悟があるぞ」
不気味な笑みを浮かべつつ、ワストリの去っていったドアを凝視していた。
どうやらコケにされたと思ったらしい。
こっちがこれまで律儀に付き合い過ぎて、ちょっと甘やかしてしまったかな、などと後悔の気持ちも出てくるな。
「副支部長。この僕がデスクワークだけが取り柄の、頭でっかちなエリート官僚だと思っていたら大間違いだぞ」
この言葉にオレの脳裏を不吉な予感がよぎる。
思い返せばオレたちの出会いは、テセルがわざわざ危険な夜道をほっつき歩いていて、追剝ぎ連中と絡んだのがきっかけだったな。
そうすると。まさか?!
「あのう……テセル。一つ質問いいですか?」
「いったいなんだ? あまりに愚問だと、相手にしないぞ」
相変わらず一言多いが、ここは仕方ない。
「副支部長の意図はどうあれ、あなたはどうするつもりなのですか?」
「確かに全部副支部長に任せていれば、楽でいいだろうよ……」
テセルは静かに口を開き始めた。
「だけど僕は自らの意志で、実力主義の神造者の世界に今の地位を得たんだ。このまま引き下がるような、軟弱な覚悟で人生を捧げたのではないぞ!」
「やっぱりそうなるのですか」
何かいろいろと苦労させられそうな予感がするが、それでも書類の山を前にしてあれこれ苦闘したり、この神造者支部で息の詰まるやり取りをさせられるのに比べると大分マシな気がしてしまうな。
「副支部長が最初からそのつもりだというなら、こっちもこっちで支部長として好きにやらせてもらうぞ!」
そう叫ぶとテセルはまなじりを決して、支部長の椅子から立ち上がった。
「当支部には現在、支部長が気に病まれるほどの問題はありません。繰り返しますが一面的な話を鵜呑みにされるのは危険です」
「と言うのが君の『前提』かね?」
「いいえ。紛れも無き事実ですよ」
交渉の余地など無いとばかりに副支部長は断言する。
「それに去年までの資料はどうあれ、今年からはまた順調な発展が見込めますから」
「どうしてそんなことが言えるのだ?」
「もちろん今年からテセル支部長がご就任なされたからです」
これは支部長を持ち上げているのか、それとも『今年も問題が発生したら、それはお前の責任だ』と威嚇しているのか、副支部長の真意をオレが考えあぐねていると、更にワストリは言葉を紡ぐ。
「あなたはまだまだお若いのです。これから時間はいくらでもあります。急ぐ必要は何もありますまい。ここは全て我らにお任せを」
この言葉にテセルはカチンときたらしく、表情が険しいものとなる。
恐らくワストリからは子供扱いされたと思ったのだろう。だけどそれでカッとなるのは、やっぱり子供だと思うけどな。
「年齢と職責は関係無いだろう。私はバッド・ディール支部長の任を与えられた以上、帝国と臣民のために、それを全うするのは当然だ。若輩故に未熟であることは認めるが、それは役目を果たさない理由にはならない」
「ご立派なお覚悟です。支部長がその気高い信念に基づき、早く首都に戻れる事を私も切に願っておりますよ。つきましては中央の神造者学会で高く評価されるであろう論文の執筆にでも専念して下さい」
なるほど。そういうことか。
ワストリの言葉は表向き若い支部長をいたわっているように聞こえるかもしれない。
だがその意味することは、こっちにだって即座に伝わった。
副支部長はここで遠回しに『中央での出世レース前の腰掛けで来ているに過ぎないエリートは、こちらのやる事に口を出すな』と言ったのである。
まあ元の世界でもエリート組と叩き上げの間にいろいろと確執があることは、ドラマなどでよく見てきたけど、こうあからさまに目の当たりにするといい気分はしない。
推測だが先代以前の支部長も、同じようにワストリにお飾りとされてきたのだろう。
たしかに神造者の道をただ裕福な生活と栄誉の為に選んだ人間であれば、そちらの方がよほど楽なのは間違いない。
日々の業務を副支部長以下に任せきりにして、その上で地域の有力者が自分に対し愛想良く頭を下げ続け、貴族同様の快適な生活を送る。
それに魅力を感じない人間などいないはずだ。
「さて。『本題』に入りますが、支部長の今後のご予定はこの通り準備させていただいておりますので、お目通し下さい」
ワストリは書類を机の上に置くと、テセルの返答も聞かず背を向ける。
「明日もよろしくお願いします」
それだけを言ってワストリは支部長室を出ていった。
随分と慇懃無礼で挑発的な態度だな。これがワストリの本性なのか。
それともまだ何か隠していることがあるのだろうか。
もっとワストリがオレをスパイと疑っているなら、こっちがテセルの傍らにいるときには敢えて別の仮面をかぶっていても何の不思議も無いんだよな。
う~ん。ここまでくるとややこしすぎて考えるのは無駄な気がしてくるな。
そしてオレが頭を悩ませている一方でテセルの方はと言えば。
「ふふふ。いいだろう。そっちがその気なら、こっちにも覚悟があるぞ」
不気味な笑みを浮かべつつ、ワストリの去っていったドアを凝視していた。
どうやらコケにされたと思ったらしい。
こっちがこれまで律儀に付き合い過ぎて、ちょっと甘やかしてしまったかな、などと後悔の気持ちも出てくるな。
「副支部長。この僕がデスクワークだけが取り柄の、頭でっかちなエリート官僚だと思っていたら大間違いだぞ」
この言葉にオレの脳裏を不吉な予感がよぎる。
思い返せばオレたちの出会いは、テセルがわざわざ危険な夜道をほっつき歩いていて、追剝ぎ連中と絡んだのがきっかけだったな。
そうすると。まさか?!
「あのう……テセル。一つ質問いいですか?」
「いったいなんだ? あまりに愚問だと、相手にしないぞ」
相変わらず一言多いが、ここは仕方ない。
「副支部長の意図はどうあれ、あなたはどうするつもりなのですか?」
「確かに全部副支部長に任せていれば、楽でいいだろうよ……」
テセルは静かに口を開き始めた。
「だけど僕は自らの意志で、実力主義の神造者の世界に今の地位を得たんだ。このまま引き下がるような、軟弱な覚悟で人生を捧げたのではないぞ!」
「やっぱりそうなるのですか」
何かいろいろと苦労させられそうな予感がするが、それでも書類の山を前にしてあれこれ苦闘したり、この神造者支部で息の詰まるやり取りをさせられるのに比べると大分マシな気がしてしまうな。
「副支部長が最初からそのつもりだというなら、こっちもこっちで支部長として好きにやらせてもらうぞ!」
そう叫ぶとテセルはまなじりを決して、支部長の椅子から立ち上がった。
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